神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版

みつまめ つぼみ

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第2章:星の少年と炎の少女

第37話 邪教の神(2)

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 テスティアが周囲を見回し、鋭く声を上げる。

『ノヴァ様、周囲からこの建物に人間が集まってきています』

 ノヴァが振り向き、後方のリストリットに鋭く告げる。

『――リストリット! 兵を建物の外に展開しろ!
 おそらくまだ人間だが、油断はするな!』

 リストリットがうなずき、ニアと共に部隊を率いて廃教会を守るように布陣した。

 テスティアが言う通り、貧民街の住民がうつろな目をしながら集まってきている。

 廃教会を取り囲むように、徐々に包囲の輪を狭めてきていた。

 リストリットが声を張り上げる。

「異教徒だ! 可能な限り捕縛しろ!
 抵抗が激しければ切り捨てて構わん!」

 自ら長剣ロング・ソードを振り上げ、手近な民衆から気絶させていく。

 ニアも相手を無力化する魔法を駆使し、そのサポートに徹した。




****

 ノヴァはテスティアと共に、赤い魔法陣をにらみ付けていた。

 だがまだ古き神は姿を現さない。

 ノヴァが冷笑を浮かべて告げる。

『どうあっても姿を見せないか――では、無理やり引きずり出してやるとしよう』

 ノヴァが魔法術式を展開し、地の魔法陣を次々と書き換えていく。

 次第に辺りには濃厚な魔力が漂い始めた。

 アイリーンはその様子を眺めながら告げる。

『召喚の魔法陣を利用して、相手に苦しみを送りつけているのかしら。
 世界の狭間はざまに隠れている神の周囲をゆがめていく術式ね。
 我慢していれば世界の歪みごとねじ切られる。
 これなら隠れていることができずに、こちらに出てくるしかなくなるわ』

 アイリーンの父親ヴォルディモートの魔導知識を使っているとはいえ、ノヴァが書き換えている術式の大部分が神の知識の応用だ。

 先史文明の魔導士が即座に解読できる水準ではない。

 ノヴァは魔法陣を凝視ぎょうししながら、感心してアイリーンに告げる。

『ほぅ、さすがは“稀代の天才魔導士”。よく解読できたな』

『私はむしろ、お父様の魔導知識でこんなことができる方が不思議よ?』

 ノヴァが口のを持ちあげて答える。

『神の記憶の断片を利用した、ちょっとした応用だ。
 奴の魔導知識でも、複雑に組み合わせれば、ある程度のことはできる』

 いよいよ人間には息をするのも苦しくなるほど、濃密で高圧な魔力が空気に満ちていった。

 ――そしてついに、魔法陣の中央から『何か』が姿を現した。

 それは形容しがたい、黒い異形の存在。

 見ている者に生理的嫌悪感を覚えさせる存在だった。

 ノヴァは目の前の存在を分析魔法術式で解析していく。

『ふむ、これは面白い。
 なるほど、封印結界のほころびに“力だけ”を送り込んで抜けたか。
 人格は宿していないようだ。人格が抜け出せるほどのほころびではないらしい』

 アイリーンがノヴァにたずねる。

『それはどういう意味? 本体ではないということ?』

有体ありていに言えばそうだ。神の権能を分離させ送り込んでいる。
 指定された命令を実行するだけの“機構”だな。
 ――命令は“俺を滅ぼすこと”か。
 それで“俺と同じ存在”ともいえる新しき神々が狙われたのか?』

 冷静に古き神を解析しているノヴァに、異形の存在から魔力の嵐が叩きつけられた。

 だがそれは全てテスティアが防ぎ切り、ノヴァとアイリーンにはそよ風一つ届かない。

 ノヴァが満足して不敵な笑みでテスティアに告げる。

『さすが“我が鎧”だ』

『そのための我が存在です』

『しかし、こいつをどうしてくれようか。
 アイリーンの父親ヴォルディモートの魔導知識で解体できる相手ではなさそうだ。
 享楽の神デルグ・エストとは、相性が良くも悪くもない。
 こうなると純粋な力比べとなるな』

『私も守りの力に特化しています。
 これだけの神を滅ぼしきる力はありません』

 ノヴァが対処法を考えている間にも、異形の存在からは攻撃が続いている。

 その全てははテスティアが防ぎ切ってみせていた。

 相手の攻撃は通用させないが、こちらも打つ手がない――膠着こうちゃく状態だ。

 ノヴァが小さく息をついた。

『……らちが明かんな』

 ノヴァがあきれていると、隠し部屋にリストリットとニアが戻って声をあげる。

「外の異教徒は全て捕縛――こいつが兄上の仇か!」

 魔法陣中央に居る異形の存在を見た瞬間、激高したリストリットが止める間もなく駆け出した。

 長剣ロング・ソードを振りかぶり切りかかったリストリットを、異形の存在が巻き起こす魔力の暴風が吹き飛ばす。

 リストリットは教会の壁に叩きつけられ、床にくずおれた。

 ニアがあわてて駆け寄り声を上げる。

「殿下!」

 すぐにリストリットが立ち上がり、ニアに答える。

「――問題ない! だが、俺が手を出せる相手じゃなさそうだな」

 そのまま悔しそうに唇を血が出るほど噛み締めていた。

 ノヴァがリストリットの無事を確認し、改めて異形の存在をにらみ付ける。

『やはり、一筋縄ではいかぬか。
 ――ならば、俺が中から奴の核を破壊しよう』

 ノヴァの言葉に、テスティアが弾ける様に反応した。

『ノヴァ様、危険すぎます! そのようなことならば私が――』

『お前の権能では無理だ。それは自分が一番理解しているだろう?
 逆に吸収されるのが落ちだろうよ』

『その危険は今のノヴァ様も変わらないではありませんか!』

 ノヴァが不敵な笑みで答える。

『なに、古き神を相手にした経験など、俺にしかあるまい。
 あのような人格すら持たぬ力の塊ごとき、俺が何とかしてやる。
 だがウェルトの魂を捕縛している魔法術式を維持する余力はない。
 テスティア、お前が引きつげ』

 リストリットが眉をひそめてノヴァに尋ねる。

「なぁノヴァ、なぜ兄上の魂を未だに捕縛しているんだ?」

 ノヴァが獰猛どうもうな笑みを浮かべて答える。

『これから滅する相手にお前の兄ウェルトの魂を渡すなど、業腹ごうはらというものだ。違うか?
 あれを滅すれば、少なくともお前の兄ウェルトの魂は、取り込まれることなく消滅することができる』

「お前、たったそれだけの為に、そんな消耗の大きい術式を維持してくれてたのか?
 そんな余裕、お前にはないだろうに……」

 再び魔力充填薬チャージを飲み干したノヴァを、リストリットは茫然ぼうぜんと見つめていた。

 アイリーンが柔らかい笑顔で、戸惑うリストリットに告げる。

『ノヴァは優しいもの。お兄さんの魂を救えなかったことに、腹を立てるのよ。
 この上、ただの力として“あんなもの”に取り込まれるなんて、魂が迎える最後として許せないのよ』

 テスティアが落ち着いた声で告げる。

『……御心みこころ、承知いたしました。捕縛術式の主導権を引き受けます』

 ノヴァの手元にあった光の玉が、テスティアの手元に移動した。

 ノヴァが満足そうに微笑ほほえんだ。

『それでよい。お前はアイリーンを守っていろ』

 そう言い残し、ノヴァは異形の存在に向けて駆け出した。

 テスティアは命じられた通り、アイリーンのそばに付いていた。

 だがその位置から可能な限り、ノヴァに向けられる魔力荒らしを防ぎ続けている。

 異形の存在に近づくにつれ、ノヴァは魔力荒らしに身を晒し始めた。

 テスティアでもアイリーンのそばからでは、もう守り切れないのだ。

 ノヴァは防御魔法結界を多重並列展開しつつ、少しずつ距離を詰めていく。

 だが異形の存在まであと数歩という所で、ノヴァの足が止まった。

 ――やはり、アイリーンの父親ヴォルディモートの魔導知識だけでは中に入り切れぬか。

 魔力荒らしに耐えきれず、防御魔法結界にほころびが生じ始める。

 このまま足を止めていれば、もなくノヴァも魔力荒らしに吹き飛ばされるだろう。

 ――突如として、異形の存在がの向かって津波のように体を変化させ襲い掛かった。

『ノヴァ! 逃げて!』

 アイリーンが悲痛な声を響かせていた。
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