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第2章:星の少年と炎の少女
第39話 寡黙な男
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リストリットはニアと共にノヴァたちの居室を訪れた。
時刻はまだ、昼を回り昼食が終わったばかりだ。
王宮は突然の異教徒取り締まりで大騒ぎだったが、ようやく落ち着きを取り戻していた。
ノヴァとアイリーンはソファに腰かけ、ゆっくりと紅茶を楽しんでいる。
そのノヴァの背後に、テスティアとブルームスベイルゲイルが控え、佇んでいた。
リストリットは忌々しそうな視線をブルームスベイルゲイルに向けつつ、ノヴァたちの向かいに腰を下ろす。
紅茶の給仕が終わると侍女たちは人払いされ、ようやくリストリットが告げる。
「なぁノヴァ、そのブルなんちゃらは信用できるのか?」
アイリーンが勢いよく告げる。
「リストリットさん?! どんどん言える名前が短くなってるわよ?!
――ブルームスベイルゲイル、そこまで覚えるのが難しい名前ではないでしょう?」
リストリットがむすっとした顔で黙り込んだ。
――殿下は人の名前を覚えるのが苦手ではないはずなのに、不思議ね。
ニアは内心で小首を傾げていた。
ブルームスベイルゲイルが告げる。
『言いにくいのであれば、我が名は“ブルームス・ゲイル”と呼ぶが良い。
人間社会に居る時の偽名だ』
リストリットが呆れた顔で答える。
「あんたら神は、名前に頓着ってものがないのか?!
テスティア女皇といい、なんでそう安直なんだ?!」
ノヴァが笑いながら告げる。
『新しき神々は、名前に無頓着とも言えるし、頓着してないとも言える。
偽名を用いる時、元の名前に極力近い名前を使おうとするのだ。
なぜそうなのかは、俺にも分からん。
そのような性質を入力した覚えはないのだがな』
リストリットが頭を掻きながら尋ねる。
「じゃあもう一度聞くぞ? ブルームスは信用できるのか?
そいつが異教を放置していたから、多数の犠牲者が出た。兄上もその一人だ。
俺はそれを、許すことができる気がしない」
ノヴァの視線がブルームスを捕らえる。
ブルームスは動じる様子もなく、ただまっすぐに前を向いて控えて居た。
それを確認したノヴァが薄く微笑み、リストリットに振り向いて答える。
『“仔細は不問に付す”と俺はこいつに伝えた。俺はこいつを信用する。それだけだ。
おそらく、新しき神々をどうしても止めたかったんだろうよ。
こいつ一人では、新しき神々が作り出す人間管理社会を防ぐことはできん』
『御意』
ブルームスが一言だけ答えた――それで合っている、ということだろう。
どうやら口数の少ない神らしい。
その意図を掴むのは苦労しそうだった。
正しく理解できるのは、ノヴァだけかもしれない。
ニアは前から思っていた疑問を、二人の神に投げかける。
「ねぇ、前から疑問だったんだけど、いいかしら?
どうしてテスティアさんもブルームスさんも先史文明の言語で話すの?
貴女たちは現代の言語も話せるでしょう?』
テスティアが頷いて答える。
『確かに私たちは現代の言語も自在に操れます。
その上で、ノヴァ様が口になさる言語に合わせているだけです』
その答えにニアが呆れた。
「どんだけ主が好きなのかしら……。
しかもテスティアさんだけじゃなく、『反抗的』と言っていたブルームスさんまで?
ちょっと理解できないわね」
アイリーンがブルームスに振り向いて尋ねる。
『ねぇブルームスさん。あなたは星幽界でどうやってノヴァを探していたの?』
ブルームスは黙って前を向いたままだった。
ノヴァが苦笑を浮かべ、背後のブルームスに告げる。
『ブルームスベイルゲイル、答えてやれ。
アイリーンは我が伴侶だ。俺には反抗的でも構わんが、アイリーンに逆らうことは許さん。
アイリーンの言葉は、俺の言葉も同然と思え』
『御意――我が友、不死鳥が星幽界におります。彼に追跡を頼んでおります』
アイリーンが目を見張って驚いていた。
『不死鳥?! 貴方、不死鳥と友達なの?!
なるほど、不死鳥なら死後、魂が冥界ではなく星幽界に移動する。
そこで物質界に戻らずにノヴァを探索させてるのね』
ニアが疑問に思ってアイリーンに尋ねる。
「ねぇ、不死鳥って死んでも蘇るんじゃなかったの?」
アイリーンが頷いて答える。
『星幽界で魔力を蓄えると、物質界に戻ってくるのよ。そういう術式が魂に施されているの。
だから魔力を蓄えないように加減してるんじゃないかしら。
――でも不死鳥でも無理なら、テディにも難しいのかしら』
少し肩を落としたアイリーンに、ノヴァが優しく告げる。
『その不死鳥は俺の気配を知らん。
俺の気配を知るテディなら、不死鳥よりは見つける可能性があるだろう』
アイリーンの表情が綻んだのを見て、ノヴァが安心したようにその頭を撫でた。
ブルームスはノヴァたちの様子を気にする様子もなく、ただ前を向いて居る。
ニアが疑問に思って尋ねる。
「テスティアさんは事情を聞きたがったのに、ブルームスさんは何も聞かないのね。
アイリーンちゃんが伴侶と言われても、何の疑問も感じないの?」
ノヴァがフッと笑みをこぼして告げる。
『こいつは昔からそういう存在だ。必要があれば答え、必要があれば問う。
だがそうでなければ何も言わぬし聞かぬ。
反抗する理由すら言わぬから、周囲からは反抗心溢れる神に見える。
俺も反抗の理由を問うことはめったにせぬからな』
「それって、ある意味テスティアさんよりも忠誠心が高いんじゃないかしら……」
テスティアが勢いよく声を上げる。
『いいえ! 新しき神々で最も忠誠心が高いのはこの私、テスティアルトゲイルです!』
ニアがブルームスに視線を走らせる――彼は何も言わず、ただ前を見ていた。
――なるほど、そういう二人なのね。
おそらくノヴァへの執着心が強いのがテスティアだ。依存心と言ってもいい。
全てを知ろうとし、理解したがる。
主の一番に拘り、常に傍に侍りたがる。
だが純粋な忠誠心ならブルームスの方が高い。
主が言うがまま、その通りに受け取り、信じる。
だが主に必要と思えば、逆らってでも行動に移す。
そして理由も主に不要なら告げないのだ。
主に取って意味がないので、テスティアと順位を張り合うこともしない。
なるだけ傍に控えるが、傍に居られなくても気にはしない。
名実ともに一番であろうとし、主に執着するテスティア。
主に報いることができれば、それ以外には頓着しないブルームス。
二人はそういう関係なのだろう。
――これを言葉にすると、またテスティアさんに噛みつかれそうだな。
ニアは黙って、思っていたことを胸の内に沈めた。
ノヴァが楽しそうに含み笑いをこぼした。
『ククク……ニアよ、いい読みだ。
おおよそそれで合っている』
リストリットはまだ思いつめた顔で、ティーカップを見つめていた。
「それでも兄上が犠牲になったのは、もう取り返しがつかない事実だ。
やはり俺には、ブルームスを許すことができる気がしない」
ニアが思わずリストリットの肩に手を置いて告げる。
「殿下……」
ノヴァに忠実で優秀な家臣、それは間違いない。
だがブルームスの判断と行動の結果、ウェルト第一王子が犠牲になった。
直接誘惑したのも、危害を加えたのも異教の神だった。
筋違い――それがわかっていても、怒りの矛先を心が求めてしまうのだろう。
ノヴァの表情が曇り、リストリットに静かに告げる。
『リストリットよ、ブルームスベイルゲイルの罪は俺の罪も同然だ。恨むなら俺を恨め。
お前の兄を救ってやれなかったのも俺だ。
もっと早くウェルトの苦悩に手を差し伸べてやれば、救えたかもしれんのだ』
寂しく自嘲の笑みを浮かべながら、ノヴァは紅茶を口に運んだ。
リストリットが悔しそうにそんなノヴァを見つめている。
――救えなかったのは殿下も一緒。こんなことを言われたら、殿下は自分も許せなくなる。
自分の責任を他人に擦り付けて恨み言を言うなど、彼の矜持が許さないだろう。
リストリットがため息をついて告げる。
「……お前、それは卑怯だろう。
そう言われて、恨み節を続けられるわけがないだろうが」
『ならば気持ちを切り替えることだ。
この国を背負える者は、お前しかおらん。
ビディコンスはもう国王の役目を果たすに値しない。
この国を守りたければ、お前が気を確かに持て』
時刻はまだ、昼を回り昼食が終わったばかりだ。
王宮は突然の異教徒取り締まりで大騒ぎだったが、ようやく落ち着きを取り戻していた。
ノヴァとアイリーンはソファに腰かけ、ゆっくりと紅茶を楽しんでいる。
そのノヴァの背後に、テスティアとブルームスベイルゲイルが控え、佇んでいた。
リストリットは忌々しそうな視線をブルームスベイルゲイルに向けつつ、ノヴァたちの向かいに腰を下ろす。
紅茶の給仕が終わると侍女たちは人払いされ、ようやくリストリットが告げる。
「なぁノヴァ、そのブルなんちゃらは信用できるのか?」
アイリーンが勢いよく告げる。
「リストリットさん?! どんどん言える名前が短くなってるわよ?!
――ブルームスベイルゲイル、そこまで覚えるのが難しい名前ではないでしょう?」
リストリットがむすっとした顔で黙り込んだ。
――殿下は人の名前を覚えるのが苦手ではないはずなのに、不思議ね。
ニアは内心で小首を傾げていた。
ブルームスベイルゲイルが告げる。
『言いにくいのであれば、我が名は“ブルームス・ゲイル”と呼ぶが良い。
人間社会に居る時の偽名だ』
リストリットが呆れた顔で答える。
「あんたら神は、名前に頓着ってものがないのか?!
テスティア女皇といい、なんでそう安直なんだ?!」
ノヴァが笑いながら告げる。
『新しき神々は、名前に無頓着とも言えるし、頓着してないとも言える。
偽名を用いる時、元の名前に極力近い名前を使おうとするのだ。
なぜそうなのかは、俺にも分からん。
そのような性質を入力した覚えはないのだがな』
リストリットが頭を掻きながら尋ねる。
「じゃあもう一度聞くぞ? ブルームスは信用できるのか?
そいつが異教を放置していたから、多数の犠牲者が出た。兄上もその一人だ。
俺はそれを、許すことができる気がしない」
ノヴァの視線がブルームスを捕らえる。
ブルームスは動じる様子もなく、ただまっすぐに前を向いて控えて居た。
それを確認したノヴァが薄く微笑み、リストリットに振り向いて答える。
『“仔細は不問に付す”と俺はこいつに伝えた。俺はこいつを信用する。それだけだ。
おそらく、新しき神々をどうしても止めたかったんだろうよ。
こいつ一人では、新しき神々が作り出す人間管理社会を防ぐことはできん』
『御意』
ブルームスが一言だけ答えた――それで合っている、ということだろう。
どうやら口数の少ない神らしい。
その意図を掴むのは苦労しそうだった。
正しく理解できるのは、ノヴァだけかもしれない。
ニアは前から思っていた疑問を、二人の神に投げかける。
「ねぇ、前から疑問だったんだけど、いいかしら?
どうしてテスティアさんもブルームスさんも先史文明の言語で話すの?
貴女たちは現代の言語も話せるでしょう?』
テスティアが頷いて答える。
『確かに私たちは現代の言語も自在に操れます。
その上で、ノヴァ様が口になさる言語に合わせているだけです』
その答えにニアが呆れた。
「どんだけ主が好きなのかしら……。
しかもテスティアさんだけじゃなく、『反抗的』と言っていたブルームスさんまで?
ちょっと理解できないわね」
アイリーンがブルームスに振り向いて尋ねる。
『ねぇブルームスさん。あなたは星幽界でどうやってノヴァを探していたの?』
ブルームスは黙って前を向いたままだった。
ノヴァが苦笑を浮かべ、背後のブルームスに告げる。
『ブルームスベイルゲイル、答えてやれ。
アイリーンは我が伴侶だ。俺には反抗的でも構わんが、アイリーンに逆らうことは許さん。
アイリーンの言葉は、俺の言葉も同然と思え』
『御意――我が友、不死鳥が星幽界におります。彼に追跡を頼んでおります』
アイリーンが目を見張って驚いていた。
『不死鳥?! 貴方、不死鳥と友達なの?!
なるほど、不死鳥なら死後、魂が冥界ではなく星幽界に移動する。
そこで物質界に戻らずにノヴァを探索させてるのね』
ニアが疑問に思ってアイリーンに尋ねる。
「ねぇ、不死鳥って死んでも蘇るんじゃなかったの?」
アイリーンが頷いて答える。
『星幽界で魔力を蓄えると、物質界に戻ってくるのよ。そういう術式が魂に施されているの。
だから魔力を蓄えないように加減してるんじゃないかしら。
――でも不死鳥でも無理なら、テディにも難しいのかしら』
少し肩を落としたアイリーンに、ノヴァが優しく告げる。
『その不死鳥は俺の気配を知らん。
俺の気配を知るテディなら、不死鳥よりは見つける可能性があるだろう』
アイリーンの表情が綻んだのを見て、ノヴァが安心したようにその頭を撫でた。
ブルームスはノヴァたちの様子を気にする様子もなく、ただ前を向いて居る。
ニアが疑問に思って尋ねる。
「テスティアさんは事情を聞きたがったのに、ブルームスさんは何も聞かないのね。
アイリーンちゃんが伴侶と言われても、何の疑問も感じないの?」
ノヴァがフッと笑みをこぼして告げる。
『こいつは昔からそういう存在だ。必要があれば答え、必要があれば問う。
だがそうでなければ何も言わぬし聞かぬ。
反抗する理由すら言わぬから、周囲からは反抗心溢れる神に見える。
俺も反抗の理由を問うことはめったにせぬからな』
「それって、ある意味テスティアさんよりも忠誠心が高いんじゃないかしら……」
テスティアが勢いよく声を上げる。
『いいえ! 新しき神々で最も忠誠心が高いのはこの私、テスティアルトゲイルです!』
ニアがブルームスに視線を走らせる――彼は何も言わず、ただ前を見ていた。
――なるほど、そういう二人なのね。
おそらくノヴァへの執着心が強いのがテスティアだ。依存心と言ってもいい。
全てを知ろうとし、理解したがる。
主の一番に拘り、常に傍に侍りたがる。
だが純粋な忠誠心ならブルームスの方が高い。
主が言うがまま、その通りに受け取り、信じる。
だが主に必要と思えば、逆らってでも行動に移す。
そして理由も主に不要なら告げないのだ。
主に取って意味がないので、テスティアと順位を張り合うこともしない。
なるだけ傍に控えるが、傍に居られなくても気にはしない。
名実ともに一番であろうとし、主に執着するテスティア。
主に報いることができれば、それ以外には頓着しないブルームス。
二人はそういう関係なのだろう。
――これを言葉にすると、またテスティアさんに噛みつかれそうだな。
ニアは黙って、思っていたことを胸の内に沈めた。
ノヴァが楽しそうに含み笑いをこぼした。
『ククク……ニアよ、いい読みだ。
おおよそそれで合っている』
リストリットはまだ思いつめた顔で、ティーカップを見つめていた。
「それでも兄上が犠牲になったのは、もう取り返しがつかない事実だ。
やはり俺には、ブルームスを許すことができる気がしない」
ニアが思わずリストリットの肩に手を置いて告げる。
「殿下……」
ノヴァに忠実で優秀な家臣、それは間違いない。
だがブルームスの判断と行動の結果、ウェルト第一王子が犠牲になった。
直接誘惑したのも、危害を加えたのも異教の神だった。
筋違い――それがわかっていても、怒りの矛先を心が求めてしまうのだろう。
ノヴァの表情が曇り、リストリットに静かに告げる。
『リストリットよ、ブルームスベイルゲイルの罪は俺の罪も同然だ。恨むなら俺を恨め。
お前の兄を救ってやれなかったのも俺だ。
もっと早くウェルトの苦悩に手を差し伸べてやれば、救えたかもしれんのだ』
寂しく自嘲の笑みを浮かべながら、ノヴァは紅茶を口に運んだ。
リストリットが悔しそうにそんなノヴァを見つめている。
――救えなかったのは殿下も一緒。こんなことを言われたら、殿下は自分も許せなくなる。
自分の責任を他人に擦り付けて恨み言を言うなど、彼の矜持が許さないだろう。
リストリットがため息をついて告げる。
「……お前、それは卑怯だろう。
そう言われて、恨み節を続けられるわけがないだろうが」
『ならば気持ちを切り替えることだ。
この国を背負える者は、お前しかおらん。
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この国を守りたければ、お前が気を確かに持て』
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