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第2章:星の少年と炎の少女
第41話 神頼み
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リストリットが机に肘を置いたまま頭を抱えた。
「――くそっ! だがお前たちが力を振るえば、必ず兵士や陛下に怪しまれる!
それはどうする気だ?!」
ノヴァが笑みを作って答える。
『まだ俺たちが古代遺物であることを隠したいのか?
試しに学校にアイリーンを通わせてみたが、同年代の子供とすら共に過ごせなかった。
人間だった時から異質な子供だ。今さら古代遺物だと露呈しようと、大した問題ではない』
「だとしても! 隠せる間は隠し通す!
お前たちを兵器にするのは、俺の矜持が許さないと言っただろう?!」
ノヴァがため息交じりに答える。
『……頑固な男だな。仕方のない奴だ。
ならば穏便な手を打てるだけ打て。
テスティアと共に軍事同盟を結んだことを周辺各国に知らせるが良い。
それでも国境を超えてくる国は出る。それに対して、お前はどうする?』
「……エウルゲークとエグザムが用意する兵力の情報はあるのか?」
『残念だが、直近の細かい情報までは分からん。
ミドロアルと同等かそれ以上、と見ておくべきだろう。
こちらが用意できる兵力はどの程度だ?』
「エウルゲーク方面が五千、エグザム方面が三千といったところだ。
我が国は総兵力一万、もう余力はない」
ノヴァが顎に手を当てて目を伏せた。
『……厳しいな。アルトゲイル三千はいずれか一方にしか加勢できまい。
ならば守り切れるのは一か所のみになるだろう。
残り二国は王都まで辿り着くと思え。
ここが襲われれば、俺たちが打って出ざるを得まい。
だが、お前が俺たちを隠し通し、穏便に済ませたいというなら、後はその場その場で対応するしかあるまいよ。
その結果この国の領土が荒らされるが、それはお前が選択した結果だと心得よ。
奴らは進軍経路にある町を略奪し、民を殺すだろう。
それを未然に防ぐ手を提示してやったのに、その差し出した手を払いのけたのはお前だ。
それを忘れるなよ?』
リストリットが顔を上げ、ノヴァの目を見つめた。
その眼差しに迷いはない。
「国民に恨まれようと、嬢ちゃんのような運命を背負わされた『守るべき少女』を、自国の戦争に巻き込むべきじゃない。
民を守れないのは俺の力不足。
恨まれるのも、死ぬのも、俺の責任として受け止める。
――すべて覚悟の上だ。
人の矜持を捨てるくらいなら、この国と運命を共にする。
その俺のわがままに国民を巻き込むのだとしても、その責任を背負って俺は死ぬ」
ノヴァは大きくため息をついた。
――この期に及んでまだ綺麗ごとをすてられんか。不器用な男だな。
ノヴァが不敵な笑みでリストリットに告げる。
『やはり、為政者としては失格だな。だがお前はその在り方を忘れるな。
己を見失ったビディコンスのようにはなるな。
お前は、お前で在り続けろ』
アイリーンもまた、リストリットに微笑んでいた。
『私も、そういうリストリットさんが好きよ。いつまでも変わらないで居てね』
リストリットが見守る中、ノヴァとアイリーンは執務室を後にした。
****
居室に向かい歩いているアイリーンがノヴァに尋ねる。
『ねぇノヴァ、本当に手を出さずに見守るの?』
『俺とアイリーンが手を出せば、あいつは“矜持を傷つけられた”と怒るだろう。
ならばどういしようもなくなるまで、俺たちは手を出すべきではない』
アイリーンが小首を傾げて尋ねる。
『でもそれでは、この国が攻め込まれてしまうのでしょう? 国民が可哀想よ?』
ノヴァが不敵な笑みで答える。
『“俺たち”が手を出さねば良い。
話を聞いていた限り、アルトゲイルが力を貸せばミドロアル王国には対応が可能だろう。
だがエウルゲークとエグザムは、荷が重いようだ』
『ではどうするの? 私たち以外が手を出すの?』
ノヴァが頷いて答える。
『そうだ。その二国が“すぐに軍事行動を起こせない状況”を作り出そう』
アイリーンが再び小首を傾げた。
『それはどういうこと?』
『テスティアとブルームスに、それぞれの国を襲撃させる。
首都が突然、天変地異に巻き込まれれば、出兵どころではなくなるだろう。
今用意している開戦の為の物資や人員を、民の救済に回すことになろう』
アイリーンが微笑んで答える。
『あら、それなら確かに“私たち”は手を出してないわね。
でもそれで、リストリットさんが納得するかしら?』
『黙っておればわかりはしない。
テスティアたちが“神として”力を振るえば、人間がそれを認識することなどできん。
――あんな不器用な男は、神が助けてやるとしよう』
****
リストリットは即座にビディコンスへ進言し、テスティア女皇と共に速やかに軍事同盟の布告を走らせた。
同時に国内の軍備を整え、いつ侵攻されても良いように備えた。
それでもミドロアル王国は兵力を国境付近に展開し、いつでも国境を超えられる状態を維持していた。
エウルゲーク王国、エグザム帝国も部隊の展開を急いだ。
――アルトゲイル皇国がウェルバット王国と軍事同盟を結んだとは、本気で思っていなかったのだ。
アルトゲイル皇国に何一つメリットがない同盟である。
ウェルバットの国王ビディコンスとアルトゲイル皇国のテスティア女皇、連盟での通知書。
だがそれは、なりふり構わなくなったビディコンスが偽書をまき散らしたと判断された。
この状況が一週間後に激変する。
ウェルバット王国にアルトゲイル皇国軍の兵士三千が到着し、ウェルバット王国軍の兵士二千と共にミドロアル王国軍五千と対峙した。
アルトゲイル皇国軍の軍旗を見たミドロアル王国軍は侵攻を諦め、兵を引き上げた。
****
リストリットは執務室で報告書を読み、安堵のため息をついた。
「ミドロアル王国軍が撤退したそうだ。
やれやれ、これで問題が一つ片付いたな。
――あとは、エウルゲークとエグザムか。
これはアルトゲイルからの追加兵力が到着するのを待つしかないな。
隣国の進軍開始とアルトゲイルからの援軍到着、どちらが早いかだが、分の悪い賭けになる」
リストリットは二国が連名の軍事同盟布告を無視する公算が高いと踏んでいた。
テスティア女皇の署名入りだが、『偽書と断じるだろう』と読み切っていた。
おそらく隣国がウェルバット王国領内まで進軍し、王都まで攻め入る頃にようやくアルトゲイルからの援軍が到着する。
王都は瀬戸際で守られるだろうが、進軍経路の被害は免れない。
天候が味方すれば、この結果は覆るかもしれない。神頼みだ。
傍に控えるニアが、リストリットに告げる。
「殿下、本当によろしかったのですか?
ノヴァくんに助力を頼めば、もっと確実に早く手を打てました。
戦闘が発生しなかったとはいえ、部隊を展開するだけでも我が国は消耗します。
アルトゲイル皇国軍三千の糧食はなんとか準備が間に合いましたが、市場では食料品が値上がりを起こして民衆から不満が出ています。
これから追加の兵力まで駐屯するようになれば、さらに物価が高騰しますよ」
リストリットは頭を抱えて悩んでいた。
アルトゲイル皇国軍の一個師団――およそ一万人が新たにこの国で生活するのだ。
戦闘の為の糧食に限らず、兵士たちが日々生活していく為に必要な設備や消耗品の用意。
一万人分の需要が発生するのだ。
ウェルバット王国の供給能力では、そこまで急激な需要の変化に対応する力はない。
生産調整が終わるまで、数か月から一年はかかる。
その間、生活必需品が品薄になり、物価が高騰する。
物価が落ち着くまで、数年を要するだろう。
アルトゲイル皇国から駐屯中の物資全てを持ち込むわけにもいかない。
物価の高騰は避けられない問題なのだ。
「そーなんだよなー。だから戦争が嫌いなんだよ。
最初に迷惑を被るのが民衆なんだ。
だが嬢ちゃんたちを兵器にするぐらいなら、俺はこの選択で間違ってなかったと、そう思う」
リストリットの眼差しに後悔の色はない。
これは己の力不足。ならば己が責任を取り、政策を打って挽回していくしかない。
ニアが微笑んでリストリットを見守る中、王宮の文官が執務室にやってきて告げる。
「殿下、速報です――こちらを」
文官から渡された報告書を受け取り、リストリットが目を見張った。
「……エウルゲークとエグザムで、竜巻?」
それを聞いたニアも、驚きで目を見開いていた。
「――くそっ! だがお前たちが力を振るえば、必ず兵士や陛下に怪しまれる!
それはどうする気だ?!」
ノヴァが笑みを作って答える。
『まだ俺たちが古代遺物であることを隠したいのか?
試しに学校にアイリーンを通わせてみたが、同年代の子供とすら共に過ごせなかった。
人間だった時から異質な子供だ。今さら古代遺物だと露呈しようと、大した問題ではない』
「だとしても! 隠せる間は隠し通す!
お前たちを兵器にするのは、俺の矜持が許さないと言っただろう?!」
ノヴァがため息交じりに答える。
『……頑固な男だな。仕方のない奴だ。
ならば穏便な手を打てるだけ打て。
テスティアと共に軍事同盟を結んだことを周辺各国に知らせるが良い。
それでも国境を超えてくる国は出る。それに対して、お前はどうする?』
「……エウルゲークとエグザムが用意する兵力の情報はあるのか?」
『残念だが、直近の細かい情報までは分からん。
ミドロアルと同等かそれ以上、と見ておくべきだろう。
こちらが用意できる兵力はどの程度だ?』
「エウルゲーク方面が五千、エグザム方面が三千といったところだ。
我が国は総兵力一万、もう余力はない」
ノヴァが顎に手を当てて目を伏せた。
『……厳しいな。アルトゲイル三千はいずれか一方にしか加勢できまい。
ならば守り切れるのは一か所のみになるだろう。
残り二国は王都まで辿り着くと思え。
ここが襲われれば、俺たちが打って出ざるを得まい。
だが、お前が俺たちを隠し通し、穏便に済ませたいというなら、後はその場その場で対応するしかあるまいよ。
その結果この国の領土が荒らされるが、それはお前が選択した結果だと心得よ。
奴らは進軍経路にある町を略奪し、民を殺すだろう。
それを未然に防ぐ手を提示してやったのに、その差し出した手を払いのけたのはお前だ。
それを忘れるなよ?』
リストリットが顔を上げ、ノヴァの目を見つめた。
その眼差しに迷いはない。
「国民に恨まれようと、嬢ちゃんのような運命を背負わされた『守るべき少女』を、自国の戦争に巻き込むべきじゃない。
民を守れないのは俺の力不足。
恨まれるのも、死ぬのも、俺の責任として受け止める。
――すべて覚悟の上だ。
人の矜持を捨てるくらいなら、この国と運命を共にする。
その俺のわがままに国民を巻き込むのだとしても、その責任を背負って俺は死ぬ」
ノヴァは大きくため息をついた。
――この期に及んでまだ綺麗ごとをすてられんか。不器用な男だな。
ノヴァが不敵な笑みでリストリットに告げる。
『やはり、為政者としては失格だな。だがお前はその在り方を忘れるな。
己を見失ったビディコンスのようにはなるな。
お前は、お前で在り続けろ』
アイリーンもまた、リストリットに微笑んでいた。
『私も、そういうリストリットさんが好きよ。いつまでも変わらないで居てね』
リストリットが見守る中、ノヴァとアイリーンは執務室を後にした。
****
居室に向かい歩いているアイリーンがノヴァに尋ねる。
『ねぇノヴァ、本当に手を出さずに見守るの?』
『俺とアイリーンが手を出せば、あいつは“矜持を傷つけられた”と怒るだろう。
ならばどういしようもなくなるまで、俺たちは手を出すべきではない』
アイリーンが小首を傾げて尋ねる。
『でもそれでは、この国が攻め込まれてしまうのでしょう? 国民が可哀想よ?』
ノヴァが不敵な笑みで答える。
『“俺たち”が手を出さねば良い。
話を聞いていた限り、アルトゲイルが力を貸せばミドロアル王国には対応が可能だろう。
だがエウルゲークとエグザムは、荷が重いようだ』
『ではどうするの? 私たち以外が手を出すの?』
ノヴァが頷いて答える。
『そうだ。その二国が“すぐに軍事行動を起こせない状況”を作り出そう』
アイリーンが再び小首を傾げた。
『それはどういうこと?』
『テスティアとブルームスに、それぞれの国を襲撃させる。
首都が突然、天変地異に巻き込まれれば、出兵どころではなくなるだろう。
今用意している開戦の為の物資や人員を、民の救済に回すことになろう』
アイリーンが微笑んで答える。
『あら、それなら確かに“私たち”は手を出してないわね。
でもそれで、リストリットさんが納得するかしら?』
『黙っておればわかりはしない。
テスティアたちが“神として”力を振るえば、人間がそれを認識することなどできん。
――あんな不器用な男は、神が助けてやるとしよう』
****
リストリットは即座にビディコンスへ進言し、テスティア女皇と共に速やかに軍事同盟の布告を走らせた。
同時に国内の軍備を整え、いつ侵攻されても良いように備えた。
それでもミドロアル王国は兵力を国境付近に展開し、いつでも国境を超えられる状態を維持していた。
エウルゲーク王国、エグザム帝国も部隊の展開を急いだ。
――アルトゲイル皇国がウェルバット王国と軍事同盟を結んだとは、本気で思っていなかったのだ。
アルトゲイル皇国に何一つメリットがない同盟である。
ウェルバットの国王ビディコンスとアルトゲイル皇国のテスティア女皇、連盟での通知書。
だがそれは、なりふり構わなくなったビディコンスが偽書をまき散らしたと判断された。
この状況が一週間後に激変する。
ウェルバット王国にアルトゲイル皇国軍の兵士三千が到着し、ウェルバット王国軍の兵士二千と共にミドロアル王国軍五千と対峙した。
アルトゲイル皇国軍の軍旗を見たミドロアル王国軍は侵攻を諦め、兵を引き上げた。
****
リストリットは執務室で報告書を読み、安堵のため息をついた。
「ミドロアル王国軍が撤退したそうだ。
やれやれ、これで問題が一つ片付いたな。
――あとは、エウルゲークとエグザムか。
これはアルトゲイルからの追加兵力が到着するのを待つしかないな。
隣国の進軍開始とアルトゲイルからの援軍到着、どちらが早いかだが、分の悪い賭けになる」
リストリットは二国が連名の軍事同盟布告を無視する公算が高いと踏んでいた。
テスティア女皇の署名入りだが、『偽書と断じるだろう』と読み切っていた。
おそらく隣国がウェルバット王国領内まで進軍し、王都まで攻め入る頃にようやくアルトゲイルからの援軍が到着する。
王都は瀬戸際で守られるだろうが、進軍経路の被害は免れない。
天候が味方すれば、この結果は覆るかもしれない。神頼みだ。
傍に控えるニアが、リストリットに告げる。
「殿下、本当によろしかったのですか?
ノヴァくんに助力を頼めば、もっと確実に早く手を打てました。
戦闘が発生しなかったとはいえ、部隊を展開するだけでも我が国は消耗します。
アルトゲイル皇国軍三千の糧食はなんとか準備が間に合いましたが、市場では食料品が値上がりを起こして民衆から不満が出ています。
これから追加の兵力まで駐屯するようになれば、さらに物価が高騰しますよ」
リストリットは頭を抱えて悩んでいた。
アルトゲイル皇国軍の一個師団――およそ一万人が新たにこの国で生活するのだ。
戦闘の為の糧食に限らず、兵士たちが日々生活していく為に必要な設備や消耗品の用意。
一万人分の需要が発生するのだ。
ウェルバット王国の供給能力では、そこまで急激な需要の変化に対応する力はない。
生産調整が終わるまで、数か月から一年はかかる。
その間、生活必需品が品薄になり、物価が高騰する。
物価が落ち着くまで、数年を要するだろう。
アルトゲイル皇国から駐屯中の物資全てを持ち込むわけにもいかない。
物価の高騰は避けられない問題なのだ。
「そーなんだよなー。だから戦争が嫌いなんだよ。
最初に迷惑を被るのが民衆なんだ。
だが嬢ちゃんたちを兵器にするぐらいなら、俺はこの選択で間違ってなかったと、そう思う」
リストリットの眼差しに後悔の色はない。
これは己の力不足。ならば己が責任を取り、政策を打って挽回していくしかない。
ニアが微笑んでリストリットを見守る中、王宮の文官が執務室にやってきて告げる。
「殿下、速報です――こちらを」
文官から渡された報告書を受け取り、リストリットが目を見張った。
「……エウルゲークとエグザムで、竜巻?」
それを聞いたニアも、驚きで目を見開いていた。
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