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第5章:両親
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翌朝、開店間もない時間にドアベルが鳴った。
真理が驚いてエントランスを見ると、血相を変えたスーツ姿の男性が立っていた。
「真理! 結婚するというのは本当か!」
「お父さん……」
男性――和夫がつかつかとカウンターに近寄り、両手をテーブルに叩きつけた。
「貴様か! 真理をかっさらおうとしてるのは!」
拓海は微笑みながら直立し、お辞儀をする。
「千石拓海と申します。
この店の店主を務めています」
「オーナーとかいう奴はどこだ!
敦子の説明じゃ、要領を得ん!
会って話をさせろ!」
拓海がスマホを取り出し、画面をタップしていく。
「――あ、オーナー?
今、真理のお父さんが――わかりました」
スマホをしまった拓海が和夫に告げる。
「なるだけ早くこちらに来るそうです。
それまで、店内で時間をつぶしておいてください」
和夫の後ろにいる敦子が、夫を宥めていた。
真理が両親を席に案内し、カウンターにオーダーを告げる。
「ブレンド二つだって」
「了解。真理はご両親のそばにいてあげて」
拓海がコーヒーを淹れ始めるのを見ながら、真理は両親のテーブルに移動した。
****
気まずい沈黙が支配する和夫のテーブルに、拓海がコーヒーを運んでくる。
「ブレンドです、どうぞ。
――真理はマンデリンでいいよね」
うなずく真理が、コーヒーを受け取った。
店外の立て看板を回収した拓海が、自分のコーヒーを持ってテーブルに戻ってくる。
コーヒーをテーブルに置いた拓海が、直立で告げる。
「改めまして、千石拓海です。
本来は僕からご挨拶に伺うべきなんですが。
――お嬢さんを僕に頂きたい。その許可をください」
和夫が感情的な声で応える。
「今にも潰れそうな店の店主になど、娘をやれるか!」
拓海がニコリと微笑んで応える。
「貯金はあります。
技術も持っています。
店が潰れたら、再出発すれば済むだけですよ」
「男なら『店を死んでも守って見せる』とは言えんのか!」
「僕は父の味を受け継げれば、場所に拘る気が無いので。
オーナーの意向で、この店で味を守ってるだけです」
顔をしかめた和夫が、辰巳に告げる。
「真理のどこに惚れた?! 言ってみろ!」
辰巳が微笑みながら応える。
「すべてですね。
ありとあらゆるところで魅了されています。
もう僕には、真理以外考えられません」
真理は真っ赤な顔を両手で覆い隠していた。
二人きりならまだしも、両親に対しても平然と言ってのける拓海。
――これは、かなり恥ずかしいんだけど?!
飄々と応える拓海に、イラついた和夫が告げる。
「遊んでるんじゃないのか?!
真理も遊び相手の一人と思ってないか?!」
「心外ですね。
僕は遊びで女性と付き合ったことなんて、ありませんよ?」
敦子がたまらず和夫を止めにかかる。
「あなた! 少し抑えて!
真理の恋人に、あまり失礼なことはやめてあげて」
鼻息を荒くした和夫が、大きく深呼吸をして告げる。
「……いいだろう。オーナーが来るまでは我慢してやる」
コーヒーを一口飲んだ和夫が、驚いて告げる。
「これは……自家焙煎か。
しかもオリジナルブレンド?
豆の比率はどうなってる」
拓海が椅子に座ってから応える。
「それは父から受け継いだ秘伝なので、お教えできません。
ですが一口で見抜くとは、中々のコーヒー通ですね」
「――フン! 若造が生意気を!
この店の軽食は何がある!」
「朝食を食べてらっしゃらないんですね。
それならナポリタンがお勧めですよ。
もちろん、当店自慢の品です」
「……それでいい。出せ」
「はい、ただいま」
拓海が席を立ち、厨房に向かった。
真理はハラハラしながら、和夫と拓海のやりとりを見守っていた。
「お父さん、そんなに興奮すると血圧上がるわよ?」
「お前の人生の岐路だぞ?!
心配にならんわけがあるか!」
――大事に思ってくれてるんだ。
真理は苦笑を浮かべながら、コーヒーを口にした。
****
和夫が黙ってナポリタンを食べていると、ドアベルが鳴った。
姿を見せた優美が、静かに和夫のテーブルに近づいて行く。
「どれ、儂を呼び出させた男は誰じゃ?」
真理が立ち上がって告げる。
「オーナー、ごめんなさい。御足労をかけて」
「気にするでない――で、それが件の男か」
優美に気付く様子もなく、和夫はナポリタンを食べていた。
敦子は不思議そうに和夫に語りかける。
「あなた、オーナーが来たわよ?」
和夫が顔を上げて辺りを見回した。
「どこだ? どこにオーナーが居る?」
ふぅ、と優美がため息をついた。
「やはり『あやかし』は見えんか。
これは少し面倒じゃのう」
拓海が優美のコーヒーとケーキを用意し、隣の席に置いた。
優美はそこに座り、コーヒーを口にしてからケーキにフォークを入れていく。
きょとんとした和夫が、拓海に尋ねる。
「なんだ? 誰もいない席に料理を置いて、何をしたい?」
拓海が苦笑をしながら告げる。
「まぁ、見ててください。隣のテーブルを」
優美がケーキを食べ進め、コーヒーを飲んでいく。
だんだんと和夫が困惑していった。
「なんだ? なぜコーヒーが減る?
なぜケーキが欠けていく?」
――ああ、オーナーが見えないと、そういう風に見えるのか。
「お父さん、隣の席でオーナーがケーキを食べてるだけよ。
オーナーを見えないお父さんには、勝手に料理が減って見えるだけ」
眉をひそめている和夫を見ながら、優美が告げる。
「ふむ……真理よ、儂の言葉を父親に伝えてやれ。
――疑問があれば応えてやろう。好きに聞くが良い」
真理が言葉を伝えると、和夫が困惑しながら尋ねる。
「なぜこの店を守るんだ。
繁盛していないと聞いたが」
「そんなことか? 『趣味』じゃ。
儂は泰介の味が好きでな。
それを拓海が受け継ぐなら、その間は店を守ってやる」
真理が伝える言葉で、和夫が眉をひそめた。
「趣味で赤字経営の店を維持だと?
どの程度の資産があるんだ?」
優美がため息をついて告げる。
「無粋な男じゃのお。
額など覚えておらんわ。
儂の手にかかれば、富などいくらでも転がり込む。
金に困る事など、ありはせんよ」
真理が言葉を伝え、和夫が悩み始めた。
「……帳簿を見せてもらえないか」
「断る。部外者に見せる物ではあるまい。
おんしもその程度の常識は持っておろうが」
真理がおずおずと告げた言葉で、和夫が黙り込んだ。
拓海が和夫に告げる。
「僕の預金残高で良ければ、お見せできますよ」
「……見せてみろ」
拓海がスマホをタップし、口座の残高を和夫に見せた。
「――馬鹿か貴様! この金額を遊ばせてるのか?!」
拓海が困ったような笑みで応える。
「資産運用とか、興味がないので」
「……俺が今度、教えてやる。
そんな意識で、満足な老後を送れると思うなよ」
拓海がニコリと微笑んでうなずいた。
「ええ、では御指南受けいたします」
二人の様子を横目で見ていた優美がニンマリと微笑んだ。
和夫と敦子が店から去ったあと、真理はカウンター席で潰れていた。
「疲れたわ……お父さんったらテンション高いんだもの」
拓海が新しいコーヒーを真理に出しながら告げる。
「愛する娘が嫁ぐなら、しょうがないんじゃない?」
真理はコーヒーを一口飲んで一息ついた。
優美が真理の背後で微笑んで告げる。
「これで障害は取り除いたな?
あとは式の日取りを決めるだけじゃ。
いつが良いかのう? 待ち遠しいのう」
真理は優美のマイペースさにあきれ、ため息をついた。
真理が驚いてエントランスを見ると、血相を変えたスーツ姿の男性が立っていた。
「真理! 結婚するというのは本当か!」
「お父さん……」
男性――和夫がつかつかとカウンターに近寄り、両手をテーブルに叩きつけた。
「貴様か! 真理をかっさらおうとしてるのは!」
拓海は微笑みながら直立し、お辞儀をする。
「千石拓海と申します。
この店の店主を務めています」
「オーナーとかいう奴はどこだ!
敦子の説明じゃ、要領を得ん!
会って話をさせろ!」
拓海がスマホを取り出し、画面をタップしていく。
「――あ、オーナー?
今、真理のお父さんが――わかりました」
スマホをしまった拓海が和夫に告げる。
「なるだけ早くこちらに来るそうです。
それまで、店内で時間をつぶしておいてください」
和夫の後ろにいる敦子が、夫を宥めていた。
真理が両親を席に案内し、カウンターにオーダーを告げる。
「ブレンド二つだって」
「了解。真理はご両親のそばにいてあげて」
拓海がコーヒーを淹れ始めるのを見ながら、真理は両親のテーブルに移動した。
****
気まずい沈黙が支配する和夫のテーブルに、拓海がコーヒーを運んでくる。
「ブレンドです、どうぞ。
――真理はマンデリンでいいよね」
うなずく真理が、コーヒーを受け取った。
店外の立て看板を回収した拓海が、自分のコーヒーを持ってテーブルに戻ってくる。
コーヒーをテーブルに置いた拓海が、直立で告げる。
「改めまして、千石拓海です。
本来は僕からご挨拶に伺うべきなんですが。
――お嬢さんを僕に頂きたい。その許可をください」
和夫が感情的な声で応える。
「今にも潰れそうな店の店主になど、娘をやれるか!」
拓海がニコリと微笑んで応える。
「貯金はあります。
技術も持っています。
店が潰れたら、再出発すれば済むだけですよ」
「男なら『店を死んでも守って見せる』とは言えんのか!」
「僕は父の味を受け継げれば、場所に拘る気が無いので。
オーナーの意向で、この店で味を守ってるだけです」
顔をしかめた和夫が、辰巳に告げる。
「真理のどこに惚れた?! 言ってみろ!」
辰巳が微笑みながら応える。
「すべてですね。
ありとあらゆるところで魅了されています。
もう僕には、真理以外考えられません」
真理は真っ赤な顔を両手で覆い隠していた。
二人きりならまだしも、両親に対しても平然と言ってのける拓海。
――これは、かなり恥ずかしいんだけど?!
飄々と応える拓海に、イラついた和夫が告げる。
「遊んでるんじゃないのか?!
真理も遊び相手の一人と思ってないか?!」
「心外ですね。
僕は遊びで女性と付き合ったことなんて、ありませんよ?」
敦子がたまらず和夫を止めにかかる。
「あなた! 少し抑えて!
真理の恋人に、あまり失礼なことはやめてあげて」
鼻息を荒くした和夫が、大きく深呼吸をして告げる。
「……いいだろう。オーナーが来るまでは我慢してやる」
コーヒーを一口飲んだ和夫が、驚いて告げる。
「これは……自家焙煎か。
しかもオリジナルブレンド?
豆の比率はどうなってる」
拓海が椅子に座ってから応える。
「それは父から受け継いだ秘伝なので、お教えできません。
ですが一口で見抜くとは、中々のコーヒー通ですね」
「――フン! 若造が生意気を!
この店の軽食は何がある!」
「朝食を食べてらっしゃらないんですね。
それならナポリタンがお勧めですよ。
もちろん、当店自慢の品です」
「……それでいい。出せ」
「はい、ただいま」
拓海が席を立ち、厨房に向かった。
真理はハラハラしながら、和夫と拓海のやりとりを見守っていた。
「お父さん、そんなに興奮すると血圧上がるわよ?」
「お前の人生の岐路だぞ?!
心配にならんわけがあるか!」
――大事に思ってくれてるんだ。
真理は苦笑を浮かべながら、コーヒーを口にした。
****
和夫が黙ってナポリタンを食べていると、ドアベルが鳴った。
姿を見せた優美が、静かに和夫のテーブルに近づいて行く。
「どれ、儂を呼び出させた男は誰じゃ?」
真理が立ち上がって告げる。
「オーナー、ごめんなさい。御足労をかけて」
「気にするでない――で、それが件の男か」
優美に気付く様子もなく、和夫はナポリタンを食べていた。
敦子は不思議そうに和夫に語りかける。
「あなた、オーナーが来たわよ?」
和夫が顔を上げて辺りを見回した。
「どこだ? どこにオーナーが居る?」
ふぅ、と優美がため息をついた。
「やはり『あやかし』は見えんか。
これは少し面倒じゃのう」
拓海が優美のコーヒーとケーキを用意し、隣の席に置いた。
優美はそこに座り、コーヒーを口にしてからケーキにフォークを入れていく。
きょとんとした和夫が、拓海に尋ねる。
「なんだ? 誰もいない席に料理を置いて、何をしたい?」
拓海が苦笑をしながら告げる。
「まぁ、見ててください。隣のテーブルを」
優美がケーキを食べ進め、コーヒーを飲んでいく。
だんだんと和夫が困惑していった。
「なんだ? なぜコーヒーが減る?
なぜケーキが欠けていく?」
――ああ、オーナーが見えないと、そういう風に見えるのか。
「お父さん、隣の席でオーナーがケーキを食べてるだけよ。
オーナーを見えないお父さんには、勝手に料理が減って見えるだけ」
眉をひそめている和夫を見ながら、優美が告げる。
「ふむ……真理よ、儂の言葉を父親に伝えてやれ。
――疑問があれば応えてやろう。好きに聞くが良い」
真理が言葉を伝えると、和夫が困惑しながら尋ねる。
「なぜこの店を守るんだ。
繁盛していないと聞いたが」
「そんなことか? 『趣味』じゃ。
儂は泰介の味が好きでな。
それを拓海が受け継ぐなら、その間は店を守ってやる」
真理が伝える言葉で、和夫が眉をひそめた。
「趣味で赤字経営の店を維持だと?
どの程度の資産があるんだ?」
優美がため息をついて告げる。
「無粋な男じゃのお。
額など覚えておらんわ。
儂の手にかかれば、富などいくらでも転がり込む。
金に困る事など、ありはせんよ」
真理が言葉を伝え、和夫が悩み始めた。
「……帳簿を見せてもらえないか」
「断る。部外者に見せる物ではあるまい。
おんしもその程度の常識は持っておろうが」
真理がおずおずと告げた言葉で、和夫が黙り込んだ。
拓海が和夫に告げる。
「僕の預金残高で良ければ、お見せできますよ」
「……見せてみろ」
拓海がスマホをタップし、口座の残高を和夫に見せた。
「――馬鹿か貴様! この金額を遊ばせてるのか?!」
拓海が困ったような笑みで応える。
「資産運用とか、興味がないので」
「……俺が今度、教えてやる。
そんな意識で、満足な老後を送れると思うなよ」
拓海がニコリと微笑んでうなずいた。
「ええ、では御指南受けいたします」
二人の様子を横目で見ていた優美がニンマリと微笑んだ。
和夫と敦子が店から去ったあと、真理はカウンター席で潰れていた。
「疲れたわ……お父さんったらテンション高いんだもの」
拓海が新しいコーヒーを真理に出しながら告げる。
「愛する娘が嫁ぐなら、しょうがないんじゃない?」
真理はコーヒーを一口飲んで一息ついた。
優美が真理の背後で微笑んで告げる。
「これで障害は取り除いたな?
あとは式の日取りを決めるだけじゃ。
いつが良いかのう? 待ち遠しいのう」
真理は優美のマイペースさにあきれ、ため息をついた。
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