傭兵ヴァルターと月影の君~俺が領主とか本気かよ?!~

みつまめ つぼみ

文字の大きさ
40 / 55
第2章

40.ジルバーハイン攻略戦

しおりを挟む
 ジルバーハインとの国境、両国の国境守備兵がにらみ合う場所に、俺たちの馬車が到着した。

 キュステンブルク王国の砦に馬車を止め、俺はテッシンに声をかける。

「俺たちで国境守備兵を壊滅させるぞ。いけるよな?」

 テッシンがニヤリと微笑んだ。

『無論!』

 俺たちは頷いて馬車を降りる――その俺の背中に、慌てるようなキューブの声が届く。

「壊滅って、どう見ても千人以上いますよ?!」

 俺は振り返ってキューブに応える。

「そうだな。ざっと見て千二百人ってとこだろ。
 俺とテッシン、六百人ずつで全滅、簡単な算数だ」

「でたらめすぎますよ?! 無理ですって!」

 俺は高らかに笑って見せる。

「ハハハ! 本当に全滅させる訳じゃない。
 ある程度数を減らせば、奴らは勝手に逃げ出していく。
 国境守備兵が最優先する任務、それは異変の報告だ。
 命を懸けて砦を守るのが任務じゃねーんだよ」

 大剣を抜きながら告げる俺に、キューブは言葉もないようだった。

 ま、戦場を知らねー従僕じゃあこれが限界か。

 俺とテッシンは並んで駆け出し、敵兵に真っ直ぐ突っ込んでいった。




****

 キューブは呆然とヴァルターとテッシンの戦いを、馬車から降りて見つめていた――降りたくはなかったが、アヤメが外に出たがったので仕方なく、外に居た。

 弓兵の放つ矢など意にも介さず、受け止め、切り捨て、かわしていく。

 そして大剣を一振りするごとに、敵の歩兵がごっそりと削れて行った。

 そんな化け物が二人も居るのだ。敵兵の士気がくじけるのは早かった。

 またたく間に敵兵の死体が三桁に及び、それでも勢いが止まらないと見ると、ジルバーハインの国境守備隊は慌てて逃げ出し始めた。

 ヴァルターたちは深追いせず、黙って逃げ出す敵兵を見送った。

 アヤメの下に帰ってきたヴァルターを、キューブは化け物を見る思いで見つめていた。

 ――噂以上の化け物じゃないか!

 ひと汗かいたヴァルターとテッシンに、使用人がタオルを渡すと、彼らは一仕事終えたとばかりに汗を拭いていた。

 セイランオウが楽し気な声で告げる。

『良かったのか? かなりの数を逃がしたが』

 通訳を介し、ヴァルターが応える。

「八百ちょっとは逃がしたな。
 だが別に数を減らすのが目的じゃない。
 ここを安全に通過できれば、それでいいのさ」

『ククク……それだけではあるまい? 考えを言うてみよ』

 通訳を介し、ヴァルターがニヤリと微笑んだ。

「わかってんだろ? 俺たちの襲来を敵の本拠地に知らせる。
 俺たちが向こうの本隊に辿り着く頃には、すっかり警戒態勢ができあがってるだろう」

 キューブが慌てて声を上げる。

「何を考えてるんですか?!
 自分から相手の防御を固めさせて、何がしたいんですか!
 非合理的過ぎますよ!」

「あー、逆だよ、逆。効率的に敵を潰すのに、防御を固めて欲しかった。
 あれだけ暴れたら、兵をそろえて固めるだろう。
 俺たちみたいな少人数の部隊なんて、どこから襲ってくるか分からん。
 部隊を展開なんてするより、本陣を亀のように固めてくるはずだ。
 どこから来ても、数で圧殺できるようにな」

 キューブが困惑しながら尋ねる。

「それのどこが、効率的なんですか?!」

「固まってりゃ一網打尽にできる。それだけだが?」

 アヤメの力を唯一知らないキューブは、呆然としながら言葉の意味を考えていた。

 そんなキューブにヴァルターが声をかける。

「ほれ、早く馬車に乗れ。時間が惜しい」

 せっつかれるようにキューブは馬車に押し込まれ、一行が乗り終わると、ヴァルターたちの馬車は悠然とジルバーハインとの国境を超えていった。




****

 国境から三日、俺たちの馬車は小高い丘の上に居た。

 キューブが困惑しながら俺に告げる。

「敵の本隊に向かうんじゃなかったんですか? 寄り道ですか?」

「いーや? ここが目的地だ。
 時間が惜しいから、少し嬢ちゃんに頑張ってもらう」

 俺が馬車から降りると、アヤメとゲッカも馬車から降りて来る。

 見晴らしの良い場所でアヤメに指し示す。

「――嬢ちゃん、あれが敵の本隊だ。見えるか? 今回はかなり距離がある。五キロってとこだ」

 アヤメが目を細めて俺の指の先を見ていた。

『……あれか。少し遠いな。
 じゃがこの程度、月夜見つくよみ様のお力の前には無力と知るが良い。
 あの兵たちを消し飛ばせばよいのか?』

「だから、公用語を話せっつーの。
 ともかくあの兵たちを潰せ。
 およそ三万、思ったよりは固まってないが、全滅させる必要はない。
 八割消し飛ばせば、もう何もできないだろう」

 アヤメがニヤリと微笑んだ。

『よかろう、ではわらわの力、とくと目に焼き付けるが良い!』




****

 ジルバーハイン王国軍、キュステンブルク王国攻略部隊の司令官は、国境の異変を聞きつけて部下に指示を出していた。

 たった二人で国境守備隊を壊滅させたキュステンブルク王国の人間、そんな人材に心当たりがない。

 だが報告を聞く以上、少人数で奇襲をかけてくるのは間違いなかった。

 本陣に切り込まれるより先に数で圧殺できるよう、本陣の周囲を兵たちで囲ませた。

 だがアイゼンハイン王国軍を滅ぼしたという、謎の力の噂がある。

 必要以上に固まり過ぎないよう、少し間隔を空けて部隊の配置を指示していた。

 ――これなら、敵がどんな手を打ってきても対応ができる!

 それが、ジルバーハイン王国軍司令官が最後に思ったことだった。

 ジルバーハイン王国軍のほとんどを光の玉が包み込み、熱い暴風が残った兵たちをなぎ倒していた。

 巨大な光の玉が消えた後、残されたジルバーハインの兵士たちは、何が起きたか理解ができず、地面に倒れ伏しながら言葉を失っていた。




****

 キューブは遠くで大地をえぐり取るかのようなアヤメの暴力に、愕然として言葉を失っていた。

 さっきまでジルバーハイン王国軍が居た場所には、大地に巨大な穴が空いていた。

 まだ生き残りは居るようだが、その数は一割から二割だろう。

 ヴァルターが両手を強く打ち鳴らした。

「よし! 目標達成だ! お疲れさん、嬢ちゃん。
 ――ジルバーハインは無力化した。すぐに北方に行くぞ」

 白く神々しい鎧を着込んだアヤメが、大太刀『白狼はくろう月華げっか』を片手に頷いた。

わらわの≪月影つきかげ≫、存分に味わわせてくれたわ。
 じゃが、これで北方にくのかえ? きみの言葉ゆえ、従いはするが』

 ヴァルターがアヤメの背中を叩いて告げる。

「あれでいいんだよ。残った兵が、南北に異変を知らせに走る。
 それで奴らはこちらに未知の恐怖を感じ、士気を落とす。
 後は北方でも一回か二回、力の差を思い知れば、軍を引くだろ」

 キューブは目の前を通り過ぎる『意思のある破壊兵器』に、怯え震えていた。

 ――こんな奴の暴走を、どう止めればいいって言うんだ!

 歯の根が合わないキューブの肩を、ヴァルターが優しく叩いた。

「そう怯えるな。アヤメは言葉が通じる。そこそこの良識もある。
 お前なら、なんとかやっていけるさ」

 ――できるか、馬鹿!

 反論の言葉を飲み込んで、キューブは黙って頭を下げた。

「……かしこまりました」

 ヴァルターが大きな声で告げる。

「撤収だ! 次はブリッツベルクを目指す! 急げ!」

 ヴァルターたちが乗り込むと、馬車は速やかに転身してキュステンブルク王国との国境を目指して走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

処理中です...