新約・精霊眼の少女

みつまめ つぼみ

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第1章:精霊眼の少女

25.学生たちのパーティタイム!(4)

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 ジュリアスが私に戸惑うように告げる。

「どういうことですか、ヒルダ嬢」

 私は深いため息をついた後、みんなに告げる。

「クラウは囮ですわ」

 わざとチェックを甘くして、ルーニア王国の刺客を会場に招き入れてる。

 おそらく、招待状が刺客の手に渡るよう仕向けてるな。

 彼女は私たちに『華やかに取り押さえてみせろ』と言いたいんだ。

 だから噂も彼女が意図的にばらまいて、私たちの耳に入るよう仕向けた。

 みんなの表情が変わっていく。

 私が言いたいことを、即座に理解したんだろう。

 私は言葉を続けていく。

「今日、この会場に高い確率で刺客が紛れ込んでいます」

 クラウが望むのは『華やかな解決』。

 裏で解決してもクラウに失望される。

 衆人環視の中、刺客を私たちが取り押さえる。

 相手はプロの暗殺者だろう。

 学生の私たちには荷が重たい。

 それでも『やってみせろ』と言われてるんだ。

「――だいぶハードなミッションですわね?」

 全員のため息がシンクロした。


 だいたい、そんな計画があるなら教えなさいよ!

 なんで相談してくれないの?!

 どうして『計画に気付くかどうか』まで試されなきゃいけないの?!

 私たち、友達でしょう?!

 私の怒りは、もう限界寸前だった。




****

 私はみんなに指示を飛ばしていく。

 お父様たちは、おそらく保険。

 最悪の事態――クラウがさらわれるのは防げると思う。

 だけど万が一は有り得る。

「ですからルイズ、エマ、リッドはクラウを一人にさせないでください!
 人目がない場所でさらわれる可能性を潰して!」

 ――ルイズたちがうなずいた。

 さらえないと判断すれば、刺客はプランBに移行する。

 クラウの命が狙われることになる。

 狙うタイミングは……おそらく、クラウがステージ上に一人になる時。

「誰か今夜の予定をご存じありませんか!」

 みんなが首を横に振った。

 今夜はフランツ殿下とクラウがセッティングを行った夜会。

 あの二人以外、詳細を知らされてないのか。

 私はこめかみに極太の血管が浮き出たような錯覚を覚えた。

 怒りでどうにかなっちゃいそうだ!

「――あんの性悪女!
 『チャンスはくれてやるから逃すな』って言いたい訳ね!
 よくわかったわ!」

 軽く深呼吸をして気分を落ち着け、言葉を続ける。

「殿下が同伴してる間は、殿下の護衛が務めを果たすはずです。
 おそらく大丈夫だとは思います。
 ですが念のために、ベルト様は二人の周囲で警戒してください!

 ――ベルト様がうなずいた。

 ジュリアスは私と分担して警戒魔術を使う。

 索敵と、いざという時の飛び道具担当だ。

「刺客を仕留める役を、私たちが担います!」

 エマが驚いて声を上げる。

「ジュリアス様はわかるけど、ヒルダも使えるの?!
 索敵魔術は高等魔術なのよ?!
 グランツ在校生は普通使えないわ!」

 私はエマにうなずいた。

 我流だけど、私も索敵魔術を覚えてる。

 今回の条件なら、充分に使えるはずだ。

 私とジュリアス二人でなら、会場全体をカバーできる。

 会場は縦長だから、前後に分かれるべきだ。

 私は前方、この位置で索敵魔術を発動する。

「ジュリアスは後方をお願いします。
 自分の判断で陣取ってください」

 ――私とジュリアスがうなずきあった。

 ベルト様が私に告げる。

「連絡はどうするんですか。
 この人混みで一度別れたら、合流するのは難しい」

 私はうつむいて応える。

「連絡魔術は、とても高度な魔術です」

 ジュリアスも私も、まだそれを修得していない。

 だから刺客が動きを見せるまでは打ち合わせ通りに。

 刺客が動いたら、各自の判断で動くしかない。

「――さぁ、みなさま! 動いてください!」

 私が両手を打ち鳴らすと、各人が持ち場へ散っていった。

 ルイズ、エマ、リッドはクラウからやや離れた位置へ。

 ベルト様は、殿下とクラウを見渡せる位置へ。

 ジュリアスは後方へ向かった。

 私はここで、索敵魔術だ。

 ――疲れるんだよね、この魔術!

 私の索敵魔術は、ぶっちゃけただの魔力制御。

 魔力の網を広く薄く延ばして、魔力に触れた人の情報を得る。

 その人が持つ魔力の強さや身のこなし。

 どういう動きをしているのかを、個人を識別しながら行う。

 要するに、砂時計鍛錬の応用だ。

 これに精霊眼の『魔力を見る力』を合わせれば、侮れない効果を見込める。

 この場に居るのは貴族、相応に魔力が高い人材ばかり。

 その一人一人を把握し、不審な行動をしてる人間を見つけ出す。

 特に刺客ともなれば、≪身体強化≫術式を使う公算が高い。

 その瞬間の魔力の動きを察知できれば、確実に補足できる。

 ――後で絶対、クラウを叱りつけてやる!


 こうして、私たちによる『学生たちの大捕り物』の幕が上がった。




****

 ジュリアスが索敵する会場後方は、敵意が渦巻いていた。

 どれもこれも、ヒルデガルトに対する敵意だ。

 あれだけ見せつけたのだから当然だろう。

 レブナント王国の重鎮が軒並み彼女のバックに居る。

 彼女に手出しは出来なくなったが半面、表に出せない敵意は膨れ上がった。

 ヒルデガルトを守るには最善の手だったが、クラウディアを守るのにこの状況は厳しかった。

 ジュリアスの使う索敵術式は、範囲内の敵意を探るオーソドックスなタイプだ。

 伝統的な術式で、ノウハウが多く存在する。

 その術式で範囲内の敵意を丁寧に仕分け、クラウディアに対する敵意を探り出す。

 ――クソッ! これでもヒルダ嬢にかなり近づいたはずなのに!

 数百人規模の敵意を仕分けるのは、砂時計鍛錬と同等以上の難易度だ。

 毒は吐くが、ジュリアスは根気強く敵意を仕分け、生徒父兄以外を探っていった。

 砂時計鍛錬で鍛えられた集中力は、きちんと生かされていた。




****

 エミリが憂鬱そうに告げる。

「クラウに近づきすぎても離れすぎても駄目。
 地味に面倒な役回りよねー」

 クラウディアのプランは、敵の襲撃を誘発させなければならない。

 こちらが警戒してると悟られる訳にはいかないのだ。

 ルイーゼもため息交じりで告げる。

「たぶん、ステージ上で事が起こるわ。
 一番目立つし、あの子は派手好きだもの。
 それ以外の可能性を潰すのが、私たちの役目ね」

 クラウディアが襲われるとわかっていて見守らなければならない。

 心配でないわけがなかった。

 アストリッドが疑問を口にする。

「そんな派手な演出で、あの子は何をしたいんだい?」

 ルイーゼがそれに応える。

「私たちの実力、正確にはヒルダの実力を知らしめたいのよ。
 ついでにルーニア王国に証拠をつき付けて、外交カードにするんじゃない?」

 一石で二鳥でも三鳥でも、狙えるだけ狙っていく。

 クラウディアはそういう人間だった。

 三人の少女は顔を見合わせ、改めてため息をついた。

 ――彼女たちの友人は、実に性根が悪い。




****

 ノルベルトが会場を見渡してみると、普段より警備兵の数が少なかった。

 ヒルデガルトが言った通り、フランツ王子の周辺だけは従来の護衛が付いている。

 フランツ王子だけは死守するよう、命令が渡っているようだ。

 おそらく、国王も計画を知らされ、承認を出しているはずだ。

 会場に来たのは、ヒルデガルトたちが見事に計画を完遂できるか、それを見に来たのだろう。

 無様をさらすわけにはいかなかった。

 ノルベルトはいつでも飛び出して行けるよう、≪身体強化≫の準備をしていた。

 仲間内で一番の機動性と瞬発力を誇る。

 毎週ヒルデガルトと技比べをしているうちに、彼の実力も飛躍的に向上している。

 ――だがそれでも、ヒルダ嬢に勝てないのは歯がゆいな。

 真摯に研鑽する姿において、ノルベルトは未だ彼女に及んでいない。

 クラウディアとヒルデガルト、同時に危険が迫った時を考える。

 その時ノルベルトは、どちらを守るために動くだろうか。

 守るべきはクラウディアだ。

 だが、守りたいのは――。

 考えてみたが、結論は見えなかった。
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