金と銀のモザイク~脂ぎったおじさんは断固お断りです!~

みつまめ つぼみ

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 お父様がメルツァー侯爵と何かを話し合っていたようだ。

 偉そうに言葉をかける侯爵に、お父様は唇を噛み締めて頭を下げていた。

 私が近づくと、お父様は顔を上げて私に弱々しく微笑んだ。

「フェリシア、メルツァー侯爵がお帰りだ。お見送りしなさい」

「はい、お父様」

 私はお父様と玄関の外に出て、侯爵が馬車に乗るのを見守った。

 メルツァー侯爵はわざと緩慢な動きで馬車に乗りこみ、私を見つめ告げる。

「ではまた、明日会おう」

 馬車の扉を従僕が閉め、馬車が走り出す。

 ……ようやく解放された。思わず安堵の息が漏れる。

 そのメルツァー侯爵の馬車と入れ違いになるように、別の馬車が我が家の門の前でとまった。

 馬車の御者と話をした衛兵が、お父様に駆け寄って告げる。

「王都から役人が来ております。どうなさいますか」

 お父様が片眉を上げて応える。

「王都から? 何のために?」

「それは直接話したいとの事です」

 お父様が馬車を見ながら告げる。

「よし、通せ」

 敷地に入ってくる馬車は、貴族が乗るものにしては質素な作りだった。

 屋敷の前で止まった馬車から、頭巾シャペロンを被った一人の青年が降りてくる。

 髪の毛は見えないけど、顔が整っていて蒼玉のような青い瞳が綺麗だった。

 青年がにこやかに告げる。

「私はルスト、王都からきた文官です。
 この地方が干ばつで苦しんでると聞いて、視察に参りました」

 お父様の顔が、怪訝なものから晴れやかなものに変わる。

「おお! では陛下は我々をお救い下さると!」

 青年がニコリと微笑んで応える。

「それは視察の報告を見てから、陛下がご判断されます」

 お父様の顔が強張り、頷いて告げる。

「では早速視察をしてほしい。
 農地まで案内しよう。それで現状を確認してもらいたい」

 ルストが頷き、お父様を馬車に乗せて農地へ向かっていった。

 ……今から農地の視察なんてしてたら、日が暮れるんじゃないかしら。大丈夫なの?

 私はため息をついてから、屋敷の中へ戻っていった。




****

 夕食の席、そこにはなぜかルストが同席していた。

 お父様から伝えられる窮状を、ルストは頷きながら聞いていた。

「なるほど、昨年に引き続きの大凶作で、もはや貯えも尽きているのですね」

 お父様が神妙な顔で頷いた。

「昨年はメルツァー侯爵から借金をして、彼の領地から食料を買い付けた。
 領民に配れるだけの、最低限の量だ。
 とても備蓄などしている余裕はなかった」

 ルストは質素な旅装に頭巾シャペロンを被ったまま、お父様の話に耳を傾けつつ、夕食に口をつけていた。

 私は言って良いものか迷った末に、ルストに告げる。

「あなた、屋内で頭巾を取らないのは失礼ではなくて?」

 お父様が慌てて私に声を上げる。

「フェリシア! その程度の無礼は目をつぶりなさい!」

「そういう訳には参りません。ここはルームスバウム伯爵家、貧しても品性を忘れる真似だけは、してはならないと思います」

 いくら彼が窮地に差し込んだ一筋の光とはいえ、守るべきマナーは守ってもらわないと。

 私が続いて視線で抗議すると、ルストは苦笑を浮かべながら頭巾シャペロンを脱いだ。

「すまない、できれば髪を見せたくなかったんだ」

 頭巾シャペロンから出てきた彼の髪は、金と銀がまだらになったような、不思議な頭をしていた。

 私がぽかんと彼の頭を見つめて告げる。

「あなた、その髪の毛を隠したかったの?」

 ルストが私にニコリと微笑んだ。

「みっともないだろう? こんな髪」

 私は首を横に振って応える。

「そんなことないわ。金と銀が混ざり合って、まるで宝石のようよ?
 どちらの色も、とても綺麗」

 ルストが恥ずかしそうに鼻をかいた。

「……そうかい? そう言ってくれたのは、母上ぐらいだったな。
 父上も、あまりこの髪の毛はお好きでないようだ」

「ねぇルスト、あなたは頭巾シャペロンを取ると口調が変わってしまう癖でもあるの? まるで貴族の口ぶりね」

 ルストがフッと笑って肩をすくめた。

「――失敬。解放感から、つい口も緩んでしまったようです。
 私は貴族ではありませんから、伯爵の前でなるだけ失礼のないよう心がけましょう」

 不思議な人だな、この人。

 こんな髪色の人、他にも居るのかな。

「ねぇお父様――お父様? どうされたの?」

 ぼんやりしているお父様に、私は声をかけた。

 お父様はハッとして私に応える。

「――ああ、なんだい? フェリシア」

「どうなさったの? なんだか様子がおかしいですわよ?」

「いや、なんでもない、なんでもないよ。お前は気にしないでおくれ」

 ……? 変なお父様。


 その日の夕食は、ルストが明るく話題を振り、お父様や私が応える時間が過ぎていった。

 まるで詮索されたくないかのように会話を繰り出すルストは、好青年に見えるけど裏があるようにも感じる。

 一体この人、何者なんだろう?
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