ふたりきりの閉鎖倶楽部

きどじゆん

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プロローグ

#1

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 寝て起きたら回復する。
 昔は当たり前だったのに、今となっては爽やかに朝を迎えられることがめっきり減った。
 夜更かしが私の当たり前になって、もう二年以上が過ぎた。

 ほぼお昼に目が覚める。ベッドにうつ伏せのままスマホからSNSであいさつ。そのまま惰性に流されてついでにエゴサしてしまい、気分の晴れないままで二度寝。
 目が覚めると、もう外は暗くなっている。

 洗面所に向かい、顔についているであろうアレコレを水で洗い流す。今は気力をふりしぼってこれだけしかできない。小さい頃から習慣にしていた起床後の歯磨き習慣はとっくに抜け落ちている。
 部屋も片付ける暇がない。ゴミは溜め込んでいなくても、室内の見えない所には澱みが蓄積している気がしてならない。ベッドの上には私が這い出したときのままの毛布がくしゃくしゃのまま放置されている。
 洗濯物だけは気合でなんとかする。全自動洗濯機に、昨日の撮影から帰ってきてすぐ脱ぎ散らかした衣服と下着を放り込んで、ざっくり計量した洗剤を投入し、スイッチを押す。

 聞きとがめるところなんてない、いつもの電子音。

 そこまでやって、私はふと思い出した。
 ーー今日は久しぶりの休日だ。
 予定は丸一日空けているんだった。すっかり忘れていた。
 休日にやりたいことはいろいろあったのに、もう夕方の五時をまわっている。

 ドラッグストアで買うものリスト。歯磨き粉、シャンプー、乾燥する季節のための保湿クリーム。それに、のど飴も買い足しておかないと次はいつまとめて買いに行けるか分からない。
 次の配信の準備もしておかないと。作り終わったサムネに手を加えられるところがないか見直しも必要だ。
 マネージャーへの返事は後回しにしたまま。休日にまとめてやればいいと放置しているからこれは自分が悪い。

 なんとはなしにスマホをいじる。
 私のつぶやきに同期からのリアクションがあった。
 今すぐ電話したい。そんでもって、愚痴を吐き出して弱みを見せて、呆れた顔の彼女に甘やかしてほしい。
 だけど、この時間はいつも彼女が配信している時間だ。私が邪魔するわけにはいかない。
 あの子は優しいから、いつでも連絡していいよ、と言ってくれる。
 だけど、それが『プライベートならば』という条件付きであると私は考えている。

 ブンブンと髪を振り回す。思考が悪い方へ悪い方へと偏っていくのが気持ちわるい。
 取りあえず部屋から出よう。動いていれば調子が戻ってくるはずだから。
 やる気がなくても動け、そうすればやる気が湧いてくる。
 今までの私は、そうやってきた。

 おサイフとスマホをポケットに入れて、帽子を被り、自宅のあるマンションから出る。
 見上げると、案の定もう夕暮れは終わっていて、空には夜の帳が下りていた。
 足元はあまり見えないけど、近場の買い物程度なら危険はないだろう。
 地上二階のマンション出入口から、スーパーまでは階段を降りてすぐたどり着く。
 私はいつもと変わりなく、何気なく階段を降り始めた。

 異変は階段の踊り場で起きた。
 突然視界が暗転し、光が消えた。
 階段の手すりの硬質な手触りと冷たさがある。靴底を介して、階段の滑り止めの形がわかる。
 でもそれらはじっとしている間に遠ざかっていって、私は前のめりになってーーーー
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