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#5 彼女の憧れ
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こういう時ーーつまりお金が絡む話の時、裕福な家の娘に生まれてきて良かったと瑞希は思う。逆に言えばこういう時以外で良かったと思うことはあまりなかった。習い事が同年代に比べて多いし、嫌でも大人と接する機会があるし、他にもいろんな要因が重なって自由時間が少ない。
それでも、ナナオの身辺調査を探偵に依頼するときも話が早かったし、料金も自分のポケットマネーが傷まない程度の額になったから、よしとすることにした。
「悪いね、ナナオ」というひとり言を聞き取れる人間は教室には居ない。
瑞希は三年間日本から離れていた。
だから、ナナオについて知らないことが多くなりすぎていた。
再戦の約束は必ず果たす。次こそは勝つ。勝って、勝ち続ける。小さい頃の勝負でついてしまった、すべての黒星をひっくり返すまで。
そのためには、情報が必要だった。情報を欠いたままでナナオに挑んだら、勝てない可能性が出てくる。三年で更新されていった彼の情報を洗い出さなければならない。彼が空白の三年間でやってきたこと、今の彼の実力、その他の彼に関することをあらいざらい。
彼の入学したこの高校には、一流大学への進学を目指す学生たちがぞろぞろと集まってくる。そこに入学している時点で彼の優秀さはわかるが、そのうえ学年トップとなると、もはや優秀を超えた称号が必要になってくる。
その言葉を瑞希は知っていた。自分も海外でそう呼ばれていた。だからこそ、最もその称号にふさわしいものがいて、それが自分ではないことを理解できる。
「そう、君は天才だ。だからこそ挑みがいがあるんだ」
強い憧れだった。
ナナオのようになりたい。ナナオと同じことを私だってやれるはずだ。
小さい頃の瑞希は、教師に言われたとおりにやれば勉強も習い事も人並み以上にできた。そのせいで、もっと上手になりたいという欲望の芽生える機会が無かった。
そんな彼女を変えたのはナナオだった。彼との勝負、そして彼との約束が、瑞希の心に火を灯したのだ。
「君には責任をとってもらうよ」
私の心に火をつけた責任を、という続きの言葉は口に出さず、心にとめておく。
自分の言葉を誰も聞いていないことはわかっていたけど、口に出したせいでこの熱が冷めてしまいそうで、もったいなかった。
「IT関連、ということはそっちの会社か。なら、そこを特定して会社ごと押さえて……いや、ナナオの性格ならただのアルバイトより、エンジニアをやっていそうだな。ふふ、そっち方面で彼と勝負するのもいいかもしれない」
瑞希は遠くの空を見ながら、これからのことを思う。
もう、モヤモヤとしながら過ごす毎日は終わった。父の仕事は落ち着き、今はこの学園の理事長を含め、複数の会社や組織の経営に携わるポジションにある。経営が盤石かは確認しようがないがーーまあ、自分が成人するまで日本に居続けてくれれば問題ない。
こっちだけライバルの情報を持っているのはフェアじゃないから、手に入れた情報と同じぐらい、自分に関することをナナオに教えてあげよう。
「ああ、楽しみだ。早く新学期にならないだろうか。夏休みなんか今すぐ終わってしまえばいいのに」
一番近くにある席に座り、机に頬杖をつく。
自分の何を教えたら彼が喜んでくれるか、驚いてくれるかと、こうやって思案するだけで今日が終わってしまいそうだった。
それでも、ナナオの身辺調査を探偵に依頼するときも話が早かったし、料金も自分のポケットマネーが傷まない程度の額になったから、よしとすることにした。
「悪いね、ナナオ」というひとり言を聞き取れる人間は教室には居ない。
瑞希は三年間日本から離れていた。
だから、ナナオについて知らないことが多くなりすぎていた。
再戦の約束は必ず果たす。次こそは勝つ。勝って、勝ち続ける。小さい頃の勝負でついてしまった、すべての黒星をひっくり返すまで。
そのためには、情報が必要だった。情報を欠いたままでナナオに挑んだら、勝てない可能性が出てくる。三年で更新されていった彼の情報を洗い出さなければならない。彼が空白の三年間でやってきたこと、今の彼の実力、その他の彼に関することをあらいざらい。
彼の入学したこの高校には、一流大学への進学を目指す学生たちがぞろぞろと集まってくる。そこに入学している時点で彼の優秀さはわかるが、そのうえ学年トップとなると、もはや優秀を超えた称号が必要になってくる。
その言葉を瑞希は知っていた。自分も海外でそう呼ばれていた。だからこそ、最もその称号にふさわしいものがいて、それが自分ではないことを理解できる。
「そう、君は天才だ。だからこそ挑みがいがあるんだ」
強い憧れだった。
ナナオのようになりたい。ナナオと同じことを私だってやれるはずだ。
小さい頃の瑞希は、教師に言われたとおりにやれば勉強も習い事も人並み以上にできた。そのせいで、もっと上手になりたいという欲望の芽生える機会が無かった。
そんな彼女を変えたのはナナオだった。彼との勝負、そして彼との約束が、瑞希の心に火を灯したのだ。
「君には責任をとってもらうよ」
私の心に火をつけた責任を、という続きの言葉は口に出さず、心にとめておく。
自分の言葉を誰も聞いていないことはわかっていたけど、口に出したせいでこの熱が冷めてしまいそうで、もったいなかった。
「IT関連、ということはそっちの会社か。なら、そこを特定して会社ごと押さえて……いや、ナナオの性格ならただのアルバイトより、エンジニアをやっていそうだな。ふふ、そっち方面で彼と勝負するのもいいかもしれない」
瑞希は遠くの空を見ながら、これからのことを思う。
もう、モヤモヤとしながら過ごす毎日は終わった。父の仕事は落ち着き、今はこの学園の理事長を含め、複数の会社や組織の経営に携わるポジションにある。経営が盤石かは確認しようがないがーーまあ、自分が成人するまで日本に居続けてくれれば問題ない。
こっちだけライバルの情報を持っているのはフェアじゃないから、手に入れた情報と同じぐらい、自分に関することをナナオに教えてあげよう。
「ああ、楽しみだ。早く新学期にならないだろうか。夏休みなんか今すぐ終わってしまえばいいのに」
一番近くにある席に座り、机に頬杖をつく。
自分の何を教えたら彼が喜んでくれるか、驚いてくれるかと、こうやって思案するだけで今日が終わってしまいそうだった。
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