絶対に諦めないし逃さない、君の白星を奪うまで

きどじゆん

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#4 夏風と不穏な着信

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 嗚呼、ようやくここまでたどり着いた。
 そんな万感の思いを抱きながら、瑞希は教室の窓を開け放った。そこから風が流れ込み、教室にこもった夏の熱気を廊下側へと押しやった。

 瑞希は海外で多感な時期を過ごした。日本を離れ三年、落ち着く間もなく様々な国を家族と共に渡ってきた。そこで得られた経験は、きっと日本で過ごし続けるよりもずっと自分を大きくさせた。人生にとって大きなプラスになっているはずだ。
 しかし、瑞希の心は三年前から止まったままになっている部分があった。それは十二歳の頃の、彼女の一部だった。

 小学校の卒業式の前にナナオから聞いた言葉。あれは彼なりに元気づけるつもりで言った言葉だったのだろうと瑞希は理解していた。おそらく彼は返事を期待していなかっただろう、とも。
 いや、たとえそうであったとしてもだ、と瑞希は心の裡でかぶりを振った。
 あの言葉が無ければ、熱意を欠いた瑞希は宙ぶらりんなままで退屈な日々を過ごすことになっていただろう。日本とは勝手が違いすぎている海外生活、それでも昔から変わらず課される自分の責務、それらの重さに音を上げて、倒れてしまっていたかもしれない。
 また勝負しよう、という再戦の約束。
 それが瑞希の心を支えてくれていたのだから。

 窓から入り込む風はずっと流れているわけではなかった。
 止まったり、動いたりする。それにつられて少々厚めに作られたカーテンはふわふわ、ゆらゆらと揺れる。瑞希のサマージャケットの裾も揺れた。その様子はカーテンよりも大人しかった。
 それらはすべて静かに行われていて、二人の間には沈黙が居座っていた。

 窓際で風を感じる、いや感じられるまで待つように佇む瑞希に向かって、ナナオは言った。
「もうクラスの場所はわかったろ」
 その言葉には、さっさと帰りたいという意思がにじみ出ていた。実際にナナオは早く帰りたかった。彼にはやらねばならないこともやりたいこともたくさんあったから、時間を無駄にしたくなかったのだ。
「久しぶりの再会だっていうのに冷たいな、ナナオは。日本の土を踏んで間もない帰国子女のために少しでも時間を割いてやるつもりはないのかい?」
「悪いけど、今日はもう予定が入っているんだ」
「そこになんとかして私の用事をねじ込むことはできないのかな?」
 無いよ、と言ってナナオは首を振った。

 そこまで言うなら引き下がろう、という言葉を聞いたナナオは、別れの言葉と一緒に手のひらを振ると、歩いていってしまった。
 その姿を見送る瑞希のもとに、携帯電話への通話着信があった。通話のマークを押して、瑞希は話しだした。
「はい、もしもし。時間どおりですね……ええ、調査開始お願いします。もうすぐ対象の少年が現れるころだと思います」
 瑞希が窓際から校庭を見下ろすと、ナナオが足早に校門の方へと向かっていく姿が見えた。
「請求書の送り先と宛名、調査結果の報告の仕方に関しては以前お伝えしたものから変わりませんので」
 それではよろしくお願いします、と言って瑞希は通話を切った。
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