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#3 二人の近況と教室の鍵
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これからはクラスメイトになるのだから二人とも仲良くするように。
緊張した顔の校長に見送られて、瑞希とナナオは校長室をあとにし、学校の廊下を歩いていた。
どこに行くんだ、とナナオが問う。瑞希はこう返事した。
「せっかくだから案内してくれよ、九月から過ごすことになる教室を見ておきたいんだ」
「それなら僕じゃなくても良くないか?」
と言われた瑞希は、小さく笑った。
「何か変なこと言ったかな?」
「いやいや、そう警戒しないでくれよ。つい嬉しくなっただけだから」
訝しむナナオに向けて、瑞希は言った。
「ナナオが自分を指すとき、どの一人称を使うのか。暇だったときに考えるのが私の楽しみだったんだ」
他に楽しみがないわけじゃないよな、とナナオが言うと、また瑞希は笑った。
「そんなわけないじゃないか。いささか女子っぽくはないと認識しているけど、趣味も楽しんでいるよ」
「聞いても大丈夫?」
「もちろん答えるよ、ただし、君も自分の趣味をさらけ出すならね」
しばし間を開けて、ナナオはわかったと言った。
「私の趣味は……まあ、そうだね。言ってしまえば自分磨きというやつになるのかな」
「女子らしくない、とまでは言えないんじゃ?」
「女子としての魅力を高める女磨きと、自己を高める自分磨きは似て非なるものだよ。あっちにいた頃のクラスメイトに尋ねたら、ミズキはそこらの男より頼りがいがある、とまで言われたよ」
声を上げて笑う瑞希と並んで歩きながら、ナナオは沈黙していた。
男らしさや女らしさといった概念について語るには、彼の引き出しは少々底が浅かった。
「それで?」と瑞希は問う。
ナナオは、次は自分の趣味について答える番だと理解した。
「僕のは、IT関連かな」
「……おいおい、ナナオ。私は趣味について聞いているんだ。IT関連? それじゃ自分の職業を答える社会人みたいじゃないか」
「父親の仕事のお手伝いとして色々やらせてもらってるんだ。説明すると長くなるし、やってることが多すぎるから、一言では言い表すのが難しい。ただ、それをやるのは楽しくて、僕から手伝わせてほしいって頼んでいるから、これが趣味なんだと思う」
「ふうん。そういうことなら、趣味にあたるだろうね」
それはちょっと残念かな、という瑞希のつぶやきはナナオには聞こえなかった。
そんなやりとりの後、何でもない世間話をしながら階段を登り、二人はとある教室の前にたどり着いた。それまでの間、瑞希は物珍しさから廊下のあちこちを観察していた。
「ここが僕が今いるクラスだよ」とナナオは紹介した。
「へえ、日本の高校も、海外とそう変わらないんだな」
せっかくだから中に入ろう、と言う瑞希をナナオは止めた。鍵が掛かっているから、と。
「問題ない。あらかじめ教室の鍵だけは借りておいた」
と言って瑞希は教室の鍵を見せた。
それなら君だけで行けば良かったじゃないか、という言葉をナナオは飲み込んだ。おそらく彼女は何かと理由をつけて自分に案内させようとするだろうと、何となく予想できたからだ。
緊張した顔の校長に見送られて、瑞希とナナオは校長室をあとにし、学校の廊下を歩いていた。
どこに行くんだ、とナナオが問う。瑞希はこう返事した。
「せっかくだから案内してくれよ、九月から過ごすことになる教室を見ておきたいんだ」
「それなら僕じゃなくても良くないか?」
と言われた瑞希は、小さく笑った。
「何か変なこと言ったかな?」
「いやいや、そう警戒しないでくれよ。つい嬉しくなっただけだから」
訝しむナナオに向けて、瑞希は言った。
「ナナオが自分を指すとき、どの一人称を使うのか。暇だったときに考えるのが私の楽しみだったんだ」
他に楽しみがないわけじゃないよな、とナナオが言うと、また瑞希は笑った。
「そんなわけないじゃないか。いささか女子っぽくはないと認識しているけど、趣味も楽しんでいるよ」
「聞いても大丈夫?」
「もちろん答えるよ、ただし、君も自分の趣味をさらけ出すならね」
しばし間を開けて、ナナオはわかったと言った。
「私の趣味は……まあ、そうだね。言ってしまえば自分磨きというやつになるのかな」
「女子らしくない、とまでは言えないんじゃ?」
「女子としての魅力を高める女磨きと、自己を高める自分磨きは似て非なるものだよ。あっちにいた頃のクラスメイトに尋ねたら、ミズキはそこらの男より頼りがいがある、とまで言われたよ」
声を上げて笑う瑞希と並んで歩きながら、ナナオは沈黙していた。
男らしさや女らしさといった概念について語るには、彼の引き出しは少々底が浅かった。
「それで?」と瑞希は問う。
ナナオは、次は自分の趣味について答える番だと理解した。
「僕のは、IT関連かな」
「……おいおい、ナナオ。私は趣味について聞いているんだ。IT関連? それじゃ自分の職業を答える社会人みたいじゃないか」
「父親の仕事のお手伝いとして色々やらせてもらってるんだ。説明すると長くなるし、やってることが多すぎるから、一言では言い表すのが難しい。ただ、それをやるのは楽しくて、僕から手伝わせてほしいって頼んでいるから、これが趣味なんだと思う」
「ふうん。そういうことなら、趣味にあたるだろうね」
それはちょっと残念かな、という瑞希のつぶやきはナナオには聞こえなかった。
そんなやりとりの後、何でもない世間話をしながら階段を登り、二人はとある教室の前にたどり着いた。それまでの間、瑞希は物珍しさから廊下のあちこちを観察していた。
「ここが僕が今いるクラスだよ」とナナオは紹介した。
「へえ、日本の高校も、海外とそう変わらないんだな」
せっかくだから中に入ろう、と言う瑞希をナナオは止めた。鍵が掛かっているから、と。
「問題ない。あらかじめ教室の鍵だけは借りておいた」
と言って瑞希は教室の鍵を見せた。
それなら君だけで行けば良かったじゃないか、という言葉をナナオは飲み込んだ。おそらく彼女は何かと理由をつけて自分に案内させようとするだろうと、何となく予想できたからだ。
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