mistress

桜 詩

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第二章

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春、馬のセリの情報を得たアネリはディヴィに馬車を出してもらうい、会場についた。着くと、たくさんの人が行き交う会場に人の波に流されるように入った。
が…みんなものなれた人達ばかりで、一方のアネリは右も左もわからず、まごついてしまった。普通の買い物の感覚で来てしまったのが間違いであった…。

ブレンダかイーディスやエドナに頼んで詳しい人と来るべきだった…。
また次の開催もあるはずだし、こだわりもあるわけではない。
帰ろうとアネリは思い立つと、出口に向かった。

ドンと男性にぶつかってしまい謝るとその相手に手首を掴まれてしまった。
「どこかでお会いしましたね」
上から声がして、見上げるとアップルガース邸の舞踏会であった男性だった。デーヴィド・エーヴリー、その人物には一度会っただけであったけれど、嫌悪感が残っていた。
「いいえ、人違いでしょう…」
お辞儀をして去ろうとするが、
「お一人か、どうです?一緒に楽しみませんか」
どうにも嫌な気持ちがぬぐいされず、同席もしたくない。
「いいえ、連れがおりますから」
と手首を引き抜こうとするが、デーヴィドは近づいてくる。
困ったわ…。
「彼女は私の連れだが、デーヴィド。何か用事か?あと、すぐにその手を離してくれないか?」
デーヴィドは顔をしかめると、アネリを離した。
「それならそれらしくきっちりエスコートするんだな、キース」
デーヴィドが立ち去って行くのを見届けて、アネリは助けてくれた男性を振り返った。
「ありがとうございました。お陰で助かりました。私はミセス アネリ・メルヴィルと申します、貴方は…」
キース・アークウェインと名乗った彼は、長身で、黒い髪に青い瞳が印象的な美青年がそこにいた。上品な雰囲気で、一目で上位の貴族だと分かる。
「いえ、デーヴィドとお知り合いでしたか?」
「1度舞踏会で」
アネリは答えた。
「でも人違いだと答えました」
キースは笑うと
「なるほど、お邪魔をしたのでなければ良かった」
「とても困っていたので本当に助かりました」
アネリは再度礼を言った。
「それよりお連れの方はどちらに?」
送りましょうということだ。
「実は、一人で来たのです。けれど、誰か付いてきてもらうべきだったと思って帰ろうとしたところだったのです」
正直にアネリが言うとキースは
「もしよろしければ一緒にいかがですか?わざわざ来たのに、このまま帰るなんて勿体ない」
にっこりと微笑まれて、アネリはじゃあと
「お邪魔でないのなら…」
キースは全く気にすることはないと、アネリの腕を肘にかけて、すいすいと歩きだした。

明らかに一番よい席に導かれると、
「すいません、よからぬ男に絡まれた女性を助けてきました。同席して頂いて構いませんね?ミセス アネリ、フェリクス卿とウィンスレット公爵閣下、それからレディ ジョージアナです。」
そこにいたのは、ライアンとフェリクス、それからフェリクスに似た少女だった。
一番驚いたのはアネリとライアン、それにフェリクスの一体誰だろう…
しかし、誰も驚きの顔は浮かべない。
「あら、お気の毒だわ。どうぞこちらへ、席ならたくさんあるから遠慮なさらないで」
ジョージアナがにこやかに言い、席に導いた。
アネリはお辞儀をすると、ライアンがすっと横の椅子を示した。
「勝手が分からずに帰ろうとなさってたんですよ」
キースが微笑んで、そして尋ねてきた。
「今日はどんな馬を?」
「私が乗るように…乗馬用の馬が欲しかったのです」
「今日の馬は見てきたのかな?」
アネリの言葉にライアンが言った。ひさしぶりのその声にアネリは、鼓動が早まった。
「いいえ…まだです」
やっとの事で声を出した。
「では、見に行こう」
ライアンが手を出して、アネリの手を取った。そのまま競りにかけられる馬のいる柵に導いた。
こんなところで、また会ってしまうなんて…
アネリは、予期せぬ再会に驚きもしたし、そして体中が沸騰するかのような感覚に、これまで少しも色褪せない想いが自分にあったのだと自覚した。
ライアンが触れた手から、すぐに隣を歩く逞しい身体から、アネリを酔わすフェロモンが出ているようだ。

もはや、馬なんて見てもどれがどの馬やらわかりそうにない。
隣に立つライアンは、少し頬の辺りが痩せたように見え、男らしさを増して、手入れの行き届いた滑らかな肌に陰影を作っていた。
「あれはどうだろう?なかなか良い馬だ。気性も大人しくて、女性向きに思える」
ライアンが言ったのは、美しい青毛の小柄な馬。関節から足が四本とも白くて、優美だった。
「そうね、そうしようかしら?」
そう言ってふと見ると、こちらを見下ろす青い瞳としっかりと視線が合いどきりとした。
ライアンは笑みをつくると、
「他は見なくて大丈夫か?」
アネリが頷くと、再び席に戻った。
フェリクスとジョージアナはキースとどれにするかの相談の真っ最中だった。
「ねぇ、お父様。予算はいくらまで良いかしら?」
ジョージアナがライアンを振り返り、言った。いかにも高位の令嬢らしい聞き方だ。
「いくらでも。他ならぬジョージアナの親友の結婚祝いだ、気にせずに買うといい」
ライアンがいうと、ジョージアナは嬉しそうにいい、笑うと
「じゃあやはりあれとこれね!」
とフェリクスに言っていた
「綺麗なお嬢様ですね、閣下」
アネリの言葉に
「君も綺麗だ。ミセス アネリ」
と返した。艶めいた眼差しを向けられて、ドキリとさせられる。

司会の男性が出てきて、いよいよセリが始まる。
ライアンが周りの声に負けないようにと、アネリに近づいて話しかけてくるので、アネリはどきどきとさせられ続けた。
「あの馬は次だ…はじめは様子を見て…」
次々と札が上がり、値段が上がっていく。
まだ値段は大丈夫そうだ。
「そろそろあげるといい」
ライアンがアネリにいい、自分の札をあげる。

上がっていく値段にはらはらしつつも、無事に競り落とす事が出来た!
係りの男性が、アネリに落札のカードを渡してきた。
礼を言うと、ジョージアナたちも振り替えっておめでとうと述べてくれた。
「ありがとう、はじめてでハラハラしたけれど楽しかったわ」
微笑んで言うと、ライアンも祝福を述べてくれた。
そのあとは、どんどんと興奮が高まっていく会場を見ていた。

そちらに集中していないと、ライアンにすがり会いたかった!と泣いてしまいそうだった。

ジョージアナとフェリクスも無事に落札出来て喜びを顕にしていた。彼らが購入した最後の方の馬となると、かなりの高額の馬になっていた。
「そうそう、ミセス アネリ。去年の大レースでわたくしの馬が優勝したのよ。今年も勝てるといいのだけれど」
「凄いわ、馬がお好きなのですね」
誇らしげなジョージアナに、アネリは微笑んだ。
「そうね綺麗だと思うもの。わたくしは美しいものが好きよ!だから貴女もとても綺麗で素敵」
ジョージアナはアネリの横に立って腕を絡めると、ジョージアナはアネリよりも背が高いのに気がついた。
「お急ぎじゃないのなら、アイスクリームを食べて帰りましょうよ」
ジョージアナも、父や兄と同じく否を言わせぬ雰囲気がある。
会場の外は馬車を待つ人で混みあっていて、ジョージアナは歩いてすぐだからと言い上品な佇まいの店に入った。

テーブルに座ると、ジョージアナとアネリはアイスクリームを注文して、男性たちはコーヒーを頼んだ。

高揚して、火照った体に冷たいアイスクリームが心地よく喉を通る。
「ミセス アネリは乗馬はお得意なの?」
「得意ではないのですけれど、とりあえず乗れるといった位だと。しばらく乗っていないので、どうでしょうか…」
アネリは苦笑した
「それならうちの乗馬コースで腕ならしをされると良いわ」
ねっとライアンを見るジョージアナ。
「ああ、そうだね。いつでも来られるといい」
とアネリは困惑しながらも、ではお願いしますとだけ言いつつも、まさか行けるわけがないと思った。
けれど、ブレンダなら迷わずに行きなさいと言うに違いないと思った。
当然のようにライアンがサインひとつで支払いを済ませて、店を出ると、馬車を待つ人はかなり減っていた。
「貴女の馬車は?」
「ああ、あそこです」
「送っていこう」
ライアンが言ったが、
「すぐそこまでですから、大丈夫ですわ。今日はありがとうございました。それからご馳走さまでした」
お辞儀をすると、アネリはディヴィの待つ馬車まで向かった。

これはまたブレンダの言うところの、チャンスなのだろうか…。運命のいたずらがアネリとライアンを再び引き合わせた…。
そう思ったのは、アネリだけなのだろうか?
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