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毒の手紙
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祭りも終わり、邸も街も落ち着きを取り戻しつつある。
しかし、若い男女達の中には恋人が出来てウキウキとしている者もいる。
ティファニーも着いた初日に晩餐を寝過ごすという失態を演じてしまったが、翌日にラファエルと共に挨拶に行った前ブロンテ伯爵は
「疲れていたのだろう、気にするに及ばず」
と淡々と告げて、特にお咎めもなく初対面を果たしたのだった。
新しい環境にも徐々に慣れつつあるが、部屋にはソックスとウィングとウィードが部屋に出入りする。ブロンテ伯爵家ではみんなが仲良しの為か、すぐに広間にみんな集まる。
とても常に誰かがいる。
ひっそりとしたバクスター邸で一人で過ごすことに慣れていたティファニーにはなんともいえない疲労が溜まる毎日でもあった。
しかし平穏な日々をある日その平穏は突如打ち破られた。
朝食はみんなダイニングルームで摂るために、時間のずれはあるものの顔を合わすことも多い。
「ティファニー様、お手紙が届いております」
ソールがティファニーの前に手紙の束を置いた。
「ありがとう」
カップを置いて手紙に手を伸ばす。
一通目はエーリアル、それからクロエ、それから…。
その宛名を見てティファニーは固まった。
「あ…」
それはロレイン・カートライトからの手紙だったのだ。
「ティファニー、それ誰から?」
隣にいたラファエルがティファニーに静かに聞いてきた。
「…ロレイン、カートライト…侯爵夫人」
「それ、俺に渡して」
当たり前のようにラファエルは言ってきた。
緑の眼差しが、厳しい光を放っている。その高圧的な言い様に何故だかもやっとした気持ちが生まれる。
「私が読んでからでいいでしょう?」
別に、先に見せる事なんてどうでもいいといえば良いのに、なのにむくむくと反抗的な態度をしてしまう。
「駄目だ。渡すんだ」
珍しく厳しい声で告げる。
「これは私宛なの」
「差出人が問題だ」
ティファニーはラファエルのその言葉に、少し息が詰まる。
「そんなの…横暴よ、読んでから渡すわ」
「もう一度言う。渡すんだ」
絶対に意思は曲げないとその眼差しが語っている。
「ロレインと、関わるなと前にも言った」
ラファエルの言葉にティファニーは立ち上がって、その手紙をラファエルの胸元に押し付けた
「…だいっきらい…」
返すことばが見つからず、つい子供じみた言葉が出てしまった。
みんなが見てるけど、どうでも良かった。
ただこの場から逃げる。その衝動に突き動かされてティファニーは自分の部屋へと一気に走って行った。
いろんなモヤモヤが押し寄せて、怒りなのか哀しいのか何なのか、訳のわからない感情が渦巻いてその勢いのままベッドに飛び込む。
(なによ!夫だから?あんな風に命令するなんて…。私はラファエルの所有物なの?)
苛立ちは収まらず、ティファニーはしばらく部屋はおろかベッドからも出ようとしなかった。
しばらくして、部屋にラファエルが入ってきた。
「入っていいなんて言ってない」
「ティファニー、ここに手紙を置いておく」
「じゃあ出ていって」
「ロレインの手紙は…彼女の不安定な心そのものだ…。まるでティファニーを呪うかのようだ。読むか読まないかは任せる。でも…後でその手紙は俺が預かるよ」
ラファエルはそう言う
「どうして?それは私宛なのに」
「ティファニー普通の相手なら、そしてなんでもない内容ならこんなことを言わない。現に他の手紙にはこんなことを言わないだろう?」
「内容…?」
「ロレインは…前にも言ったと思うけれど、このブロンテ家とは対極の位置にあるカートライト家の夫人だ…。どんな些細な事でもティファニーの行動いかんでこちらの弱味も、そして相手の弱味も…。それがもしかするとこの国の政治に関わる事もあるんだ」
そんな事を言われても、手紙がなんだというのだ
「…今は…何も…聞きたくないのラファエル。一人にして」
「そんなに、怒ること?」
怒ることでもなかった、筈なのに…。
まるで売り言葉に買い言葉だ…
「違う…。そうじゃない」
「とにかく…ロレインに返事は書くんじゃない、いいな?」
ラファエルもティファニーの態度に苛立ちを覚えたのか、いい放つと足音も荒く部屋を出ていった。
ティファニーはそろそろと体を起こして、ラファエルが置いていった手紙に手を伸ばした。
とても最低な気分だ…。何で、あんな風な態度をとってしまったのだろう…
ロレインの、女性らしい文字…。
《レディ ティファニー
この前は、私はどうかしていました。貴女にあんな事を、水をかけるなんて本当にどうかしていました。
でも、貴女なら私のことをわかってくれるでしょう?
私とジョルダンが出会ったのは、私が17歳で彼が18歳の3年前の舞踏会。ウェルズ侯爵邸での舞踏会でした…当時私は結婚前だとはいえ、カートライトと婚約した直後の事でした》
そこまで読んでティファニーは、ぶるりと震えた。
ロレインは一体何を考えて…この手紙を、書いたと言うのか…。こんなカートライト家の弱味の証拠になるような…
《ティファニー、私も貴女も早くに母を亡くしそして継母に育てられ、そして私は16歳でデビューするとカートライト侯爵に見初められました。私は一回り以上も年の離れたカートライトなんて嫌だったけれど逆らえない…。わかってくれるでしょう?ティファニー貴女なら…》
《私はジョルダンとはじめて出会ったその時に、恋に落ちてしまった…。そして彼もまたそうだった…、私たちはただ舞踏会出会えばほんの少し言葉を二言三言交わす。すれ違う時に時々目を合わせる…ただそれだけ…。
いけないと、思いつつ私はジョルダンに手紙を出してしまった…。結婚する前にジョルダンと二人で会いたくて、会いたくて…
それから、私たちはカートライトの目を盗んでひっそりと本当にひっそりと愛を交わしたの
それはとても素敵な日々だった。
ジョルダンが貴女を見つめる瞳が、あまりにも優しくて私は嫉妬して、つい別れの手紙を送ってしまった…それが、彼を失ってしまうなんて…。そんな事…失いたくなかったのに…
耐えられない…彼がいなくて…カートライトと過ごす人生なんて、耐えられない…
ティファニー。わかって、私は貴女がジョルダンを幸せにしてくれるならと思った…けれど、貴女が婚約したのはラファエルだった…その、訳のわからない苛立ち!!憎しみ!!
どうしてジョルダンじゃなかったの?
いいえ…貴女がジョルダンと婚約していたなら嫉妬してもっと苦しんだかも知れない。
私の心は、荒れ狂う海のよう、荒々しくまるで怒りの波が押し寄せてどうしようもない!
この喪失感を誰かに伝えるなら貴女しかいない。だって、貴女は私。私は貴女、もう一人の自分よ
貴女が、16歳の時に婚約間近だったとそう聞いた時になんて似ているのかと思ったわ
考えてみて…もしも、貴女がそのままその男性と結婚していたら?
きっと私と同じように苦しんだでしょう?
想像して…。貴女が愛するラファエルではなくて、デーヴィド・エーヴリーと結婚した生活を。
きっと貴女は家族に愛された記憶なんてないはず、私もそう。
だからきっと貴女はその家に馴染めないわ、だってそうでしょう?私をこんなに苦しめたのだもの…私が、苦しんでいるとわかるでしょう?》
次第に乱れていく文字がまるでロレインの心情を表しているようで…ティファニーはその手紙を折り畳んで封筒に入れた。
その指先が震えている事に気がついた。
これは…ロレインの、見当違いの復讐に近い…。
こんな風に恋は人を狂わせる…。
呪いのように一つ一つの文章が、ティファニーに襲いかかる。
ティファニーはたまらなくなり、その手紙を握りしめて廊下に出た。
隣の部屋を開けてもラファエルは自室にはいなかった…。
階段を駆け降りて、ティファニーはガーデンに出て走った…。
ワンワンと犬の声がして、テラスからガーデンに降りる短い階段に座りウィングとウィードを撫でているラファエルを見つけた。
ティファニーはそっとラファエルに近づくと、ラファエルはティファニーを見ないままにウィングを撫で続けている。
ティファニーに気づいていないはずはない。その背中にティファニーは膝をついて額を当てた。
「ごめんなさい…」
この、一言しか浮かばなかった。
ラファエルはいつもティファニーを守ろうとしていた。
なのに、つまらない苛立ちをぶつけてしまった。
「大嫌いなんて、嘘だから…色々…。たくさん環境が変わりすぎて、うまく言えないけど毎日慣れることに必死で…だけどラファエルは楽しそうで…私は毎日必死で…なのに、あんな風に頭ごなしに言われて…別にロレインの手紙なんてどうでも良かったはずなのに…イライラしてしまって…ごめんなさい」
「それ、読んだ…?」
「うん…」
呪われた気分だ…
「気にするだろうから、渡すかどうか躊躇った。…けど、隠せば余計に気になると思って渡した…。正直、焼き捨てたい…」
「…任せる…」
「次、また来たら…ティファニーにはもう渡さない…」
「うん…もう、読みたくない」
ティファニーは背中からラファエルの手にそれを押し付けた。
「ロレインには近づくな…」
もう一度、念を押すようにラファエルは言った。
「わかった…」
ティファニーはそっとその背から離れた。
「ティファニー、俺は…」
「こっちを見てはダメ。グチャグチャだから…」
きっとひどい顔をしている…。
そのまま、来た道を駆け戻る。
ロレインの言う通り…。ティファニーには彼女の事がわかる気がする…。
あの時、メグがランスロットにティファニーの事を話さなければ…。キースとレオノーラがティファニーを預かろうとしなければ…。
デビュー前にラファエルと知り合うことはなかった。
知り合っていなければ、ティファニーはあんな風に髪を切ってまで結婚したくないと思えた?
あの時はティファニーはまだ自分の気持ちに気付いていなかった。けれど無自覚でもラファエルという存在があったからこそ、嫌だと思った…。
そして、あの忘れられない夜がある…。
そのいくつかの人との繋がりが、ティファニーを今この場に居させている。
ロレインの言うように…ロレインはもう一人のティファニー。
もし、あの時、の選択次第では、ティファニーの人生はロレインと同じだった…。
ジョルダンがもし、結婚をはねのけたティファニーに興味を示さなかったなら、ロレインとジョルダンは今も想いを交わしあい、もしかすると逃避行か…何らかの行動をとっていただろうか?
ティファニーとジョルダンが知り合わなければ…ロレインは…こんな風に苦しまなかったのだろうか…。
今はただ…そんな想いが巡り巡り、答えもなく思考を休ませない。想像なのに…苦しく…ロレインの思惑にはまってしまった…。
しかし、若い男女達の中には恋人が出来てウキウキとしている者もいる。
ティファニーも着いた初日に晩餐を寝過ごすという失態を演じてしまったが、翌日にラファエルと共に挨拶に行った前ブロンテ伯爵は
「疲れていたのだろう、気にするに及ばず」
と淡々と告げて、特にお咎めもなく初対面を果たしたのだった。
新しい環境にも徐々に慣れつつあるが、部屋にはソックスとウィングとウィードが部屋に出入りする。ブロンテ伯爵家ではみんなが仲良しの為か、すぐに広間にみんな集まる。
とても常に誰かがいる。
ひっそりとしたバクスター邸で一人で過ごすことに慣れていたティファニーにはなんともいえない疲労が溜まる毎日でもあった。
しかし平穏な日々をある日その平穏は突如打ち破られた。
朝食はみんなダイニングルームで摂るために、時間のずれはあるものの顔を合わすことも多い。
「ティファニー様、お手紙が届いております」
ソールがティファニーの前に手紙の束を置いた。
「ありがとう」
カップを置いて手紙に手を伸ばす。
一通目はエーリアル、それからクロエ、それから…。
その宛名を見てティファニーは固まった。
「あ…」
それはロレイン・カートライトからの手紙だったのだ。
「ティファニー、それ誰から?」
隣にいたラファエルがティファニーに静かに聞いてきた。
「…ロレイン、カートライト…侯爵夫人」
「それ、俺に渡して」
当たり前のようにラファエルは言ってきた。
緑の眼差しが、厳しい光を放っている。その高圧的な言い様に何故だかもやっとした気持ちが生まれる。
「私が読んでからでいいでしょう?」
別に、先に見せる事なんてどうでもいいといえば良いのに、なのにむくむくと反抗的な態度をしてしまう。
「駄目だ。渡すんだ」
珍しく厳しい声で告げる。
「これは私宛なの」
「差出人が問題だ」
ティファニーはラファエルのその言葉に、少し息が詰まる。
「そんなの…横暴よ、読んでから渡すわ」
「もう一度言う。渡すんだ」
絶対に意思は曲げないとその眼差しが語っている。
「ロレインと、関わるなと前にも言った」
ラファエルの言葉にティファニーは立ち上がって、その手紙をラファエルの胸元に押し付けた
「…だいっきらい…」
返すことばが見つからず、つい子供じみた言葉が出てしまった。
みんなが見てるけど、どうでも良かった。
ただこの場から逃げる。その衝動に突き動かされてティファニーは自分の部屋へと一気に走って行った。
いろんなモヤモヤが押し寄せて、怒りなのか哀しいのか何なのか、訳のわからない感情が渦巻いてその勢いのままベッドに飛び込む。
(なによ!夫だから?あんな風に命令するなんて…。私はラファエルの所有物なの?)
苛立ちは収まらず、ティファニーはしばらく部屋はおろかベッドからも出ようとしなかった。
しばらくして、部屋にラファエルが入ってきた。
「入っていいなんて言ってない」
「ティファニー、ここに手紙を置いておく」
「じゃあ出ていって」
「ロレインの手紙は…彼女の不安定な心そのものだ…。まるでティファニーを呪うかのようだ。読むか読まないかは任せる。でも…後でその手紙は俺が預かるよ」
ラファエルはそう言う
「どうして?それは私宛なのに」
「ティファニー普通の相手なら、そしてなんでもない内容ならこんなことを言わない。現に他の手紙にはこんなことを言わないだろう?」
「内容…?」
「ロレインは…前にも言ったと思うけれど、このブロンテ家とは対極の位置にあるカートライト家の夫人だ…。どんな些細な事でもティファニーの行動いかんでこちらの弱味も、そして相手の弱味も…。それがもしかするとこの国の政治に関わる事もあるんだ」
そんな事を言われても、手紙がなんだというのだ
「…今は…何も…聞きたくないのラファエル。一人にして」
「そんなに、怒ること?」
怒ることでもなかった、筈なのに…。
まるで売り言葉に買い言葉だ…
「違う…。そうじゃない」
「とにかく…ロレインに返事は書くんじゃない、いいな?」
ラファエルもティファニーの態度に苛立ちを覚えたのか、いい放つと足音も荒く部屋を出ていった。
ティファニーはそろそろと体を起こして、ラファエルが置いていった手紙に手を伸ばした。
とても最低な気分だ…。何で、あんな風な態度をとってしまったのだろう…
ロレインの、女性らしい文字…。
《レディ ティファニー
この前は、私はどうかしていました。貴女にあんな事を、水をかけるなんて本当にどうかしていました。
でも、貴女なら私のことをわかってくれるでしょう?
私とジョルダンが出会ったのは、私が17歳で彼が18歳の3年前の舞踏会。ウェルズ侯爵邸での舞踏会でした…当時私は結婚前だとはいえ、カートライトと婚約した直後の事でした》
そこまで読んでティファニーは、ぶるりと震えた。
ロレインは一体何を考えて…この手紙を、書いたと言うのか…。こんなカートライト家の弱味の証拠になるような…
《ティファニー、私も貴女も早くに母を亡くしそして継母に育てられ、そして私は16歳でデビューするとカートライト侯爵に見初められました。私は一回り以上も年の離れたカートライトなんて嫌だったけれど逆らえない…。わかってくれるでしょう?ティファニー貴女なら…》
《私はジョルダンとはじめて出会ったその時に、恋に落ちてしまった…。そして彼もまたそうだった…、私たちはただ舞踏会出会えばほんの少し言葉を二言三言交わす。すれ違う時に時々目を合わせる…ただそれだけ…。
いけないと、思いつつ私はジョルダンに手紙を出してしまった…。結婚する前にジョルダンと二人で会いたくて、会いたくて…
それから、私たちはカートライトの目を盗んでひっそりと本当にひっそりと愛を交わしたの
それはとても素敵な日々だった。
ジョルダンが貴女を見つめる瞳が、あまりにも優しくて私は嫉妬して、つい別れの手紙を送ってしまった…それが、彼を失ってしまうなんて…。そんな事…失いたくなかったのに…
耐えられない…彼がいなくて…カートライトと過ごす人生なんて、耐えられない…
ティファニー。わかって、私は貴女がジョルダンを幸せにしてくれるならと思った…けれど、貴女が婚約したのはラファエルだった…その、訳のわからない苛立ち!!憎しみ!!
どうしてジョルダンじゃなかったの?
いいえ…貴女がジョルダンと婚約していたなら嫉妬してもっと苦しんだかも知れない。
私の心は、荒れ狂う海のよう、荒々しくまるで怒りの波が押し寄せてどうしようもない!
この喪失感を誰かに伝えるなら貴女しかいない。だって、貴女は私。私は貴女、もう一人の自分よ
貴女が、16歳の時に婚約間近だったとそう聞いた時になんて似ているのかと思ったわ
考えてみて…もしも、貴女がそのままその男性と結婚していたら?
きっと私と同じように苦しんだでしょう?
想像して…。貴女が愛するラファエルではなくて、デーヴィド・エーヴリーと結婚した生活を。
きっと貴女は家族に愛された記憶なんてないはず、私もそう。
だからきっと貴女はその家に馴染めないわ、だってそうでしょう?私をこんなに苦しめたのだもの…私が、苦しんでいるとわかるでしょう?》
次第に乱れていく文字がまるでロレインの心情を表しているようで…ティファニーはその手紙を折り畳んで封筒に入れた。
その指先が震えている事に気がついた。
これは…ロレインの、見当違いの復讐に近い…。
こんな風に恋は人を狂わせる…。
呪いのように一つ一つの文章が、ティファニーに襲いかかる。
ティファニーはたまらなくなり、その手紙を握りしめて廊下に出た。
隣の部屋を開けてもラファエルは自室にはいなかった…。
階段を駆け降りて、ティファニーはガーデンに出て走った…。
ワンワンと犬の声がして、テラスからガーデンに降りる短い階段に座りウィングとウィードを撫でているラファエルを見つけた。
ティファニーはそっとラファエルに近づくと、ラファエルはティファニーを見ないままにウィングを撫で続けている。
ティファニーに気づいていないはずはない。その背中にティファニーは膝をついて額を当てた。
「ごめんなさい…」
この、一言しか浮かばなかった。
ラファエルはいつもティファニーを守ろうとしていた。
なのに、つまらない苛立ちをぶつけてしまった。
「大嫌いなんて、嘘だから…色々…。たくさん環境が変わりすぎて、うまく言えないけど毎日慣れることに必死で…だけどラファエルは楽しそうで…私は毎日必死で…なのに、あんな風に頭ごなしに言われて…別にロレインの手紙なんてどうでも良かったはずなのに…イライラしてしまって…ごめんなさい」
「それ、読んだ…?」
「うん…」
呪われた気分だ…
「気にするだろうから、渡すかどうか躊躇った。…けど、隠せば余計に気になると思って渡した…。正直、焼き捨てたい…」
「…任せる…」
「次、また来たら…ティファニーにはもう渡さない…」
「うん…もう、読みたくない」
ティファニーは背中からラファエルの手にそれを押し付けた。
「ロレインには近づくな…」
もう一度、念を押すようにラファエルは言った。
「わかった…」
ティファニーはそっとその背から離れた。
「ティファニー、俺は…」
「こっちを見てはダメ。グチャグチャだから…」
きっとひどい顔をしている…。
そのまま、来た道を駆け戻る。
ロレインの言う通り…。ティファニーには彼女の事がわかる気がする…。
あの時、メグがランスロットにティファニーの事を話さなければ…。キースとレオノーラがティファニーを預かろうとしなければ…。
デビュー前にラファエルと知り合うことはなかった。
知り合っていなければ、ティファニーはあんな風に髪を切ってまで結婚したくないと思えた?
あの時はティファニーはまだ自分の気持ちに気付いていなかった。けれど無自覚でもラファエルという存在があったからこそ、嫌だと思った…。
そして、あの忘れられない夜がある…。
そのいくつかの人との繋がりが、ティファニーを今この場に居させている。
ロレインの言うように…ロレインはもう一人のティファニー。
もし、あの時、の選択次第では、ティファニーの人生はロレインと同じだった…。
ジョルダンがもし、結婚をはねのけたティファニーに興味を示さなかったなら、ロレインとジョルダンは今も想いを交わしあい、もしかすると逃避行か…何らかの行動をとっていただろうか?
ティファニーとジョルダンが知り合わなければ…ロレインは…こんな風に苦しまなかったのだろうか…。
今はただ…そんな想いが巡り巡り、答えもなく思考を休ませない。想像なのに…苦しく…ロレインの思惑にはまってしまった…。
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