伯爵家の四姉妹

桜 詩

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迷い道

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レオノーラは乗馬用のドレスを身に付けると、ウィンスレット公爵家に向かった。深い緑色のドレス姿のレオノーラは、すらりと背が高く、素晴らしくスタイルの良くてドレス姿であっても凛々しく格好がよかった。

ルナは出掛けずに部屋に引きこもる事にした。
まるで夢だったのじゃないかと、夕べの事を思い出す。目をつぶると鮮明に感触が蘇り、胸がうずいた。
期待してもいいのじゃないのか、とルナは思った。
だってあのキスは、恋人のものではないのか…と。
フェリクスの眼差しを思い出すと、ルナは体がかっと熱くなり気持ちがざわめいた。

フェリクスはルナに求婚するだろうか?
それとも、昨日は酔った上の出来事でたいした意味はないのだろうか?
あれはルナの隠れた願望が、そうさせたのであってフェリクスはそれにこたえてくれただけだったのか…。

いずれにしても、ルナがフェリクスに恋をしているのはもはや明らかだった。

今日の出席予定のスプリングフィールド侯爵家の舞踏会は、家族揃って招待を受けていた。
嫡男のアーヴィンが不祥事を起こして廃嫡され、侯爵の甥のキアランが後継者としてお披露目されることになっていた。
今日はゆっくり休みたくもあったが、18歳のキアランはリリアナがルナに薦める結婚相手の一人であって、欠席は許されなさそうだ。

そして…
「フェリクスと話をしてきたよルナ」
レオノーラが微笑みながらも、苦笑をにじませていた。
「フェリクスはルナとの事を真剣に考えると言っていた」
にっこりと綺麗に微笑んだ
「で、噂が気になるならそれを打ち消す噂を作れとキースが言うのでね…」
二人がいるクローゼットルームで、
ビアンカが俄然張りきって、レオノーラのコルセットをキリキリと締め上げていた。
「はぁ、この拷問器具を着けなきゃいけないとはね…」
珍しいレオノーラの情けない声だった。
「キースの悪ふざけにのるなんて、私もうまく言いくるめられてしまったな…」
レオノーラのドレスにルナはもちろん、ステファニーもルシアンナもキラキラと期待に満ちて仕度を見ていた。

レオノーラは濃紺の艶やかなシンプルだが、体の線が綺麗にでるドレスに、大きめのダイヤの首飾りと耳飾りをつけて、髪を結い上げると、想像以上の美しさだった。
レオノーラは憮然としていたが…

アルマンもリリアナもレオノーラのドレス姿に惚れ惚れとして、やっと娘が帰ってきた!と大変な喜びようだった。

揃ってスプリングフィールド侯爵邸に行くと、レオノーラに視線がバシバシと向かい、老若男女問わず見惚れ、そしてあれは誰かと噂が飛び交った。
「こんばんはブロンテ伯爵、伯爵夫人」
キースが挨拶にきて、レオノーラのエスコートをしにきた。

長身のレオノーラがヒールをはくと、男性と並ぶほどの高さであるが、長身のキースはそれよりも高くルナにはお似合いの二人に見えた。
「約束通り迎えに来た、レディ レオノーラ」
「ちゃんとエスコートしないと承知しない。キース」
憮然というレオノーラにもキースは機嫌よく腕をだし、レオノーラの手をかけさせた。
「ではご令嬢をしばらくお預かりさせて頂きます」
と一礼すると、会場内に入っていった。

「お姉様とキース卿。とってもお似合いだったわお母様」
「ええ、そうね!完璧な1対だったわね」
リリアナもうっとりと二人を見ていたし、リリアナとルナは微笑みあいながら中に入り、スプリングフィールド侯爵と、キアランに挨拶に向かった。

キアランは褐色の髪に琥珀色の瞳をしていて、少したれ目がちで整った顔立ちは好感の持てる雰囲気で、明るくルナに話しかけた。
「今夜は是非私と踊ってください」
熱心に言われて、ルナは微笑んでうなずいた。

キアランは一曲目と、ワルツに名前を書きこみルナは少し戸惑った。リリアナは一押しの青年がルナにダンスを2曲も申し込んだ事で嬉しそうに微笑んでいた。
侯爵もまた、ルナとキアランがお似合いだと褒めあげて、キアランはルナに機嫌よく話続けた。
歳の近いキアランとはあまり緊張せずに接することが出来たルナは、そのまま一曲目を踊るまでキアランの側にいたのだった。

キアランはとてもダンスが上手く、ルナはダンスを共に楽しんでいた。
「ルナと呼んでも?」
「ええ、もちろん」
ルナは微笑んだ。
「どう過ごすのが一番好き?」
「絵を描いたり、ピアノを弾いたり歌ったりかしら?」
「へぇ?今度絵を見せてほしいな」
「がっかりしないといいのだけれど」
ルナ照れながら笑った。

ダンスの合間に見えたフェリクスはアンジェリカ・スプリングフィールドと踊っていた。美しい黒髪のアンジェリカは背が高く、豊満なバストと、細いウェストの色気のある女性だった。
ルナはそれを見て、チクリと胸がうずいた。
今夜はフェリクスはルナの方をちらりとも見ていなかった。
真剣に考えて、やはりルナと距離をおくことにしたのかもしれない。

「ルナはフェリクス卿と言い交わしてるの?」
視線に気づいたのか、キアランがこそっと聞いてきた。ルナは驚いて
「いいえ、単に親切にいつもしていただいているわ」
と答えた。
「では、俺の入る余地はあるわけだ?」
キアランはにやりと笑うと、ルナの耳元で囁いた。
「考えてくれるよね?」
ルナはあまりに近くにキアランの顔があり、どきりとして慌てて身を離した。

衆目はレオノーラとキースの美貌の二人に注がれていて、キアランとルナのやり取りは目立たなかったようでホッとした。この上キアランとの噂なんてごめんこうむりたいものだ。

ルナはキアランとワルツを踊り、晩餐もキアランの隣に座り過ごした。キアランはルナに好意を向けてくれ、それは清々しいほどだった。ルナを楽しませようと話題を次から次にふってくるキアランにルナもまた好感を抱いた。

レオノーラは、キースと踊った後は男性服たちに囲まれてダンスの誘いが押し寄せて大変そうだった。ワルツを無事にキースと踊り晩餐はキースと隣すわっていたし、ルシアンナも今日もまたアルバートに誘ってもらうことに成功したようで、楽しそうに笑っていた。ステファニーはもちろんアンドリューと一緒だった。

この日は結局ルナとフェリクスは踊ることも喋ることもなく、いつの間にかフェリクスの姿さえ見つからなかった。
深夜近くに、舞踏会はお開きとなりルナは残念に思いながらも帰った。
こんなに心を乱されるなんて、ルナはまたなかなか寝付けそうにないと思った。




 
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