サヨウナラからはじまる恋

桜 詩

文字の大きさ
4 / 17

謝りにきました

しおりを挟む
ウィンスレット家とアシュフォード家は、近所…と言えなくもなかった。馬車なら少し走る程度。
ただ、高位の貴族の家は敷地が広いため歩くには遠い距離があった。
ジョージアナは、あまり訪れたことのないアシュフォード家の門をくぐり、馬車から降りた。

緊張しつつも、ベルを鳴らすと執事が応対に出てくる。
玄関ホールに通されたジョージアナは、
「ジョージアナ・ウィンスレットです。フレデリック卿にお会いしたくお訪ね致しました」
ジョージアナは名刺のカードを渡した。上品な紙を使ったそのカードはお気に入りのものだった。
「レディ ジョージアナ、生憎フレデリック様は外出中でございます。しばらくお待ちになりますか?お席をご用意させて頂きます」
勢いこんできたのに、留守だなんて…。

待ち伏せみたいにして、どんな顔で待っていればいいの?
ジョージアナは急に居たたまれなくなり、タイミングの悪い自分が嫌になる。
「いいえ、結構ですわ。また次の機会に…」
屋敷内から出ると、ウィンスレット家の御者はアシュフォード家の使用人と話をしている。

使用人同士仲が良いのだろう…。

ジョージアナは、もう帰るから、と楽しそうな所を引き剥がすのも、そして何の成果もなく帰るのも侘しく、ふらりと歩き出した。
少しばかり散歩でもしよう…


ジョージアナは、アシュフォードの敷地をふらりと歩き出した。
タウンハウスの前の庭をでると、ウィンスレット家の方につながる馬車道と、そして、所々に馬車道から逸れる小道があった。
時間を潰そうとジョージアナはその小道の方へ向かい、そして少し奥の方へ歩くと木陰の中に小川がさらさらと流れていた。
心が洗われるかのようなせせらぎに、ジョージアナは何故か泣けてきた。
この辺りは社交場でもなんでもなく、人通りは全くない…。

「…なにをやってるんだろう…本当に情けない…」
ジョージアナは、拭うこともなく涙が頬を伝うままに立ち尽くしていた。

「どうしてこうなるのかしら?どうして何も上手くいかない…」
公爵令嬢という肩書き…それがなかったら?ジョージアナはもっと素直な少女になれていただろうか?
公爵令嬢らしく振る舞えば振る舞うほど。
いつも微笑みを絶やさず、涙を見せず、弱みを見せず、つけ入らせず、貴族らしく振る舞うこと。
母の教えは守ってきたのに…。
誰もがジョージアナを、褒め称えた。美しい公爵令嬢、とても教養のある素晴らしいレディらしいレディだと。
なのにどうして今はこんなに惨めな気持ちなの?

公爵令嬢だということ、レディらしいことがどんな役にたったというのだろう。
みんな幸せそうにしていて、ジョージアナは一人きり。それがすべての答えだとそう思った。

「謝りに来たら留守だなんて…。運にも見放されてるのね…」
ジョージアナは思いきり泣きたい気持ちが押し寄せて、スカートのすそを押さえて、そっと座った。

泣いた事なんて本当に久しぶりだ。
鼻も喉も熱くなって、頬は涙で濡れている。
今は思いきり泣いてしまえ…。
ここには誰もいない。ジョージアナ一人きり…。

背後でカサリと音を立てたのは、ひとしきり泣いて少しばかり気持ちが落ち着いた頃。
慌てて振り向くと、そこには…
銀髪に青い瞳…。驚いた顔のフレデリック…。
「ジョージアナ…?」
「ち、違うの。泣いてなんかないわ、目にゴミが入ったのよ」
慌てて立ち上がり、バッグからハンカチを出して顔を押さえた。
こういう所が可愛いげがないんだわ…きっと…。
「…さっき帰宅したら、ジョージアナが来ていたと聞いて、なのにまだ馬車があったから…探しに来た…」
わざわざ…ジョージアナを探しに来たと?
「どうして?探しにきたの?わたくしの事なんてどうでもいいのでしょう…?」
ああ、また…。
フレデリックは少し困った顔をした。
「気にはなるさ。昨日、君を傷つけたと思ったから…、今日どうして俺を訪ねてきたのかと」
フレデリックの整った顔が自嘲がちに歪む。
「邪魔をしたなら悪かった…」
と横を向いた。

どうしよう…また行ってしまう?
なんて言えっていっていた?

そうだ、あれだ
「ま、待ってフレデリック…!」

フレデリックのフロックコートの袖を掴んだ。
「謝りに、来たの」
勢いで口にした。
たったそれだけの言葉に、全身の力を振り絞った気分で息切れがした。
「…うん…」
フレデリックはそこにちゃんと留まり、ジョージアナを見た。
「これまで本当に、ちゃんと考えて見ていなくて…フレデリックが側にいるのが当たり前みたいに思っていて…本当にごめんなさい…」
「…うん…」
「ちゃんと、今から真剣に考えるから、もう少しだけ待って欲しいの。だから…」
ジョージアナは息を整えた。

「だから…わたくしを嫌いにならないで…」

…これって謝ってる?

「…ジョージアナ…」
フレデリックはジョージアナに完全に体を向けた。
「…ちゃんと可愛く出来るんだ…」
くすっとフレデリックが笑った

「な、なんで笑うのよ。わたくしは必死なのよ…!」
笑われてジョージアナは急に恥ずかしくなる。間違えたのかもしれない。
「昨日の事は俺も謝りたかった。親たちにせっつかれて、ついジョージアナにきつく言ってしまった…悪かったよ」
思わぬ謝罪の返しに、ジョージアナはつんと横を向いた。
「わたくしから去って行って、本当に…!」

…何をいうつもり?ジョージアナ

「本当に?なに?ジョージアナ…」
「なんでもないわ…とりあえず謝ったのだから、これまで通り仲良くしてくれるでしょう?」
ジョージアナはちらりと横目でフレデリックを見上げた。真っ直ぐに見ることはとても出来なかった。

慣れない言葉をいい、そわそわしていると、フレデリックは面白そうにジョージアナを見つめていた。
「…ふぅん?」
フレデリックは笑うと、

身を少し屈めて、ジョージアナの唇にフレデリックの唇を合わせた。

…えっ?…
なにこれ…

柔らかな感触は意外なほどの心地よい物だった。
これは!ライアンとエレナがしていたキスではないか!!

ジョージアナは慌ててフレデリックを押した
「な、何をするのよ!」
「仲直りのキス」
しれっとフレデリックは言った。
「これまで通りかどうかはわからないけれど、ジョージアナがとてつもなくうぶで、不器用だって事がわかったからね?」
「…う、うぶって。不器用って…!」
「キス1つで真っ赤だよ?ジョージアナ」
「……っ!」
ジョージアナは慌てて頬に手を当てた。
「それに…こんなところで一人きりで泣いてるなんて不器用過ぎるだろう?」
フレデリックはぐいっと再び近づくと
「そういうの、可愛いと思うよジョージアナ」
と耳元で囁かれて、再びジョージアナは真っ赤になった。
それをみてフレデリックは肩を震わせて笑った。

とにかく!
仲直りは出来た!
とジョージアナはさっさと歩き出した。
「…も、もう帰るわ!」
「はいはい、わざわざあばら屋にお出ましいただき、有り難き幸せにて、姫をお送りさせて頂きますよ」
フレデリックがジョージアナの手を取って、歩き出した。
フレデリックはニヤニヤ笑ってご機嫌だった…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...