サヨウナラからはじまる恋

桜 詩

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揺れる舞踏会

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その日はグレイ侯爵家の舞踏会。
エレナとチェルシーの助言を受けて、またまたジョージアナの好みじゃない可愛らしいドレス…。
淡い水色に白のレースの飾り。
ライアンとエレナと共に会場に着いたジョージアナは、フレデリックを待っていた。

「こんばんは公爵閣下、公爵夫人」
フレデリックは人好きのする笑みを浮かべて一礼をした。
「フレデリック、今夜も娘を頼んだよ」
ライアンが微笑み、フレデリックがうなずいてジョージアナの手をとったのを見ると、エレナを促して会場の中に入っていった。

「こんばんはジョージアナ…。また会ったね」
フレデリックはうってかわって、ニヤリと笑って見せた。
「ええ、そうねフレデリック。こんばんは」
ジョージアナはいつものジョージアナ。
「こういうときはね『また会えて嬉しいわフレデリック』って言うんだよ?ジョージアナ」

他の令嬢なら、簡単に言えるのだろうけれど長年高飛車な言動をしてきたジョージアナにはかなりの努力がいる。

「…また会えて嬉しいわフレデリック」
口元を引くつかせながらいうジョージアナにフレデリックは満足そうにうなずいた。
「俺も嬉しいな、ジョージアナからそんな言葉が聞けるなんて」
にっこりと微笑んだ。

会場に入るが、今さらジョージアナとフレデリックの組み合わせは珍しくもない。
今の注目は、昨年結婚したキースとレオノーラの美貌の夫婦。
それと、今年の話題をさらったライアンとエレナ…他ならぬジョージアナの父とその妻だ。

ジョージアナを取りまく友人たちに独身や、婚約もまだなのは、確かに減っていた…。そして、婚約がまだでも良い仲になっている相手がいた。
フレデリックの言う通りだ…。ぼんやりとしていたつもりは無いけれど…。なぜに今ごろになって気付かされるとは…
ちらりとフレデリックを、見る。

お互いに、無難な結婚相手…。

明日婚約すると、言ったとしても誰も反対しない。そんな相手。
だけど、ジョージアナはフレデリックに恋はしていない。
誰にも、心を焦がすほどの想いを抱いたことがない。

だから、これまで決断が出来なかったのだ…。
ジョージアナは恋がしたいのだ…物語のような…そんな甘い疼きを体験してみたいのだ…。

グレイ侯爵を継ぐダニエルとマリーのダンスが始まる。
マリーはソフィア王女が結婚してから侍女を辞めたと聞いた。ダニエルも同時に騎士を辞めたそうだ。
嫡男にしては異色の経歴の持ち主だし、伯爵の長女としても異色の経歴のマリーだった。

寡黙な騎士といった雰囲気のダニエルと、朗らかな美女のマリーはお似合いな二人に思える。
ダニエルとマリーには昨年男の子が誕生したと聞いた。ジョージアナの弟のジョエルと同じ歳だから、将来は仲良くなるのかもしれない。

「なに考えてる?」
「えっ?」
「ちゃんと俺の事、考えてるんだろうね?ジー」
ジーはジョージアナの愛称として使われる呼び方の一つだ。
「い、今はジョエルとダニエルとマリーの子供が同じ歳だなって思っていただけよ」
「ふぅーん?ジーはもしかするとここで皆の前でキスでもされないと俺の事を考えられないのかな?」
思わずジョージアナはフレデリックを見上げた。

こんなことを言う人だったのか!

「ダメに決まってるでしょう!」
イヤでも思い出してしまった…仲直りと称されたキス。
…初めてだったのに…。
「さぁ、ジョージアナ…行くよ」
フレデリックがエスコートをして、踊りの輪に入る。

もう慣れたはずのフレデリックとのダンス。
相手にも自分に外見の何が変わった訳でもない。昨日までの自分と今の自分。
変に、どきどきする…かも。
改めて見るフレデリック…その少し厚めの唇が今日の昼に、唇に触れた…。

どうしよう…顔が、見れない…。

そんなジョージアナを見て、フレデリックは微笑みつつもまじまじと観察していた。

フレデリックと踊り終えると、緊張がほどけた…。
フレデリックは、兄やエドワードほどきらびやかな外見ではないけれど、その碎けた口調は次期侯爵にしては親しみやすく、女性にも話しやすいと評判が良い。

けれど…あんなに意地悪な所は知らなかった…! 
「ジョージアナ、ダニエルの所に話にいこうか?」
侯爵夫妻には挨拶をしたが、ダニエルとマリーにはまだだった。

フレデリックと共に向かうと、ライアンとエレナもちょうど挨拶に来ていたようだ。
エレナとマリーはジョージアナが意外に思うほど仲が良さそうに話していた。
エレナは愛人上がりと噂されていて、初対面の貴族の女性には好かれるタイプではない。
「じゃあ今度お茶でも!」
とマリーがエレナに話していた。
ライアンをちらりと見ると、疑問に答えてくれる。
「レディ マリーとエレナは同じ年のデビューなんだそうだ」

同じデビューの友人は特別だ…。ジョージアナにとってのシャーロットのように…
マリーにしても、エレナにしてもたった一年の付き合いだったはずだけれど、やはり会うと懐かしさがあるようだ。
二人ともそのまま社交界にいればさぞかし人気のある令嬢だったことだろう。

翌年にマリーは侍女となったし、エレナは父親と兄を亡くして令嬢としての地位を失い、社交界を去ったのだ。

マリーがエレナとの会話を終えると、ジョージアナに目を向ける。
「こんばんは。フレデリック卿、レディ ジョージアナ。よく来てくださったわ」
マリーがジョージアナに話し掛けた。
「お招きありがとうございますダニエル卿、レディ マリー」
フレデリックが答えて、ジョージアナもお辞儀をした。
ダニエルは無愛想にうなずきを返す。
どうやら社交性に難があるとの評判は本当なようだ。

慣れ親しんだ舞踏会…。その世界に、ときめきを感じなくなったのはいつだろう…。
デビューの年は楽しかったな…。
何もかもがキラキラしていた。

「つまらなそうな顔をしているね、レディ ジョージアナ」
踊り疲れて休んでいたジョージアナに話し掛けたのは、あの、ギルバートだった。
金髪と紫の瞳の美しい顔。落ち着いた知性のある眼差しと、大人の魅力のある男性。
「ギルバート卿…お久しぶりですわ」
ギルバートが舞踏会に来るのは珍しい事だった。

あのときのいたたまれない気持ちが甦る。
「珍しく舞踏会に来られていたのですね」
ギルバートと会うのは、オペラ以来の事だった。
「グレイ侯爵閣下にはあのソフィア王女の件の時に親しくさせて頂いたのでね…」
不思議と落ち着く人だ。
あのときは何となく好きかな、と思っていたが今となってみれば振られた事にそれほどの苦しさもない。

「そうですか、知りませんでしたわ」
ジョージアナは高飛車な感じで言った。
言語に長けた、研究者のギルバートは、グレイ侯爵のアドルファスにセルリナ語を教えたのだろう。
父のライアンとブラッドフィールド公爵のジュリアンがソフィアに付いてセルリナに行き、後から内乱に手を貸すためにアドルファスとアルマン・ブロンテ伯爵が兵士を率いて出陣した。とジョージアナは聞いていた。

「…君はもっと自分に素直になった方がいい…公爵令嬢という人間はどこにもいない。ジョージアナという人間なんだと忘れない事だ。公爵令嬢だというのは君の一部であって、それを全身で被る事はない」
「…えっ?…どういう事なんですか?何の話?」
ギルバートの話はよく理解できない。
「何となく、しんどそうな生き方を、してるなと思ったのでアドバイスをしてみただけだ」
クスッと、笑うとギルバートは立ち去った。

頭のいい人の言うことは突飛過ぎてわからない。何であの流れからあのアドバイスになるの?
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