王妃の階段

桜 詩

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風を感じて馬を駆る

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マリアンナの手配したドレスメーカーは、まだ20歳くらいの女性でミリアといった。ミリアの作るドレスはとても素晴らしくて、フェリシアもすぐに気に入り早速注文をしたのだ。
マリアンナの依頼とあってか、ミリアも急ぎで作るといい張り切って帰っていった。

そしていよいよ、エリアルドから乗馬の招待を受けたその日、王宮から迎えの馬車が来てフェリシアは、イエローの乗馬服で出掛けた。
この日は、まだ肌寒いものの天気にも恵まれて乗馬日和。はじめてのコースには心が浮き立つ感じさえある。

馬車着き場でフェリシアを迎えたエリアルドは手を差し出して、降りるのをサポートする。
エリアルド自身もチョコレート色のコートとベージュのズボンとブーツ姿できっちりと乗馬服で登場していた。
「おはようフェリシア。乗馬服もとても良く似合うね」

「殿下も良くお似合いです」
馬車着き場からガーデン沿いにある回廊を歩き、王宮の裏手がわに向かう。その先には立派な乗馬用の厩舎が見えて、黒毛の馬と、青毛に白のたてがみと尻尾が美しい馬だった。
「綺麗な馬…」

「気に入った?」
「もちろんです」

フェリシアは馬を撫でた。艶やか磨かれた毛並みがとても手に心地よい。

「早速行こうか?フェリシア」
「もちろん、走らせたくてうずうずします」

脚のせ台に乗り横乗りの鞍に座る。
「さすが軽々だね」

女性にしては背の高いフェリシアはスカートでも台があればさほど苦労なく乗る事ができる。
「その様子じゃ手加減はいらないかな?」
「お手柔らかにお願いします」

舞踏会と違い、このような場ならフェリシアとしても少しは気が楽である。

遠乗りの乗馬コースに馬首をめぐらせ、エリアルドの後ろを追うように並足で歩かせると、近衛騎士が4人ついてくる。
さすが見た目の近衛と噂されるだけありみな、整った顔立ちをしている。エリアルドとフェリシアが並んで走らせると、彼らは距離を離して着いてきていた。

緑の道の中に白っぽい茶色の道が延びてワクワクとさせられる。
道なりに進み、坂を上がりると、木漏れ日の美しい森の中の道へ入り、拓けた先にはきらきら光る湖面が眩しい。
そして湖の側で降りて馬を休ませる。 馬が水を飲み草を食んでしているのを木の幹にもたれ掛かりながら並んで立っていた。

「まだまだ行けるんだろう?」
エリアルドは冗談めかしていうと、フェリシアは笑った。
「いえ、こんなものです」
「横乗りなら?」

とエリアルドが言ってきた。
ドレスを着て乗馬をするなら、もちろん横のりしかない。それ以外…つまりは男のように乗るなら…。フェリシアはもっと上手く出来る。しかしそれは、レディらしからぬ振る舞いだ。

「誰かからフェリシア・ブロンテは大変なお転婆だとでもお聞きになりました?」
「まぁ、ね。しかし、手に追えない大変な暴れ馬ではないだろう?」
「暴れ馬だなんて失礼だわ」
そうフェリシアが言うとエリアルドは明るく声を上げて笑った。

(こんな風にも笑うんだ…)

「うん、君のお陰でいい感じで休息が出来た」
「お忙しいのですね、殿下」

「私がこうしていつも遊んでると思っていた?」
「いいえ、父は殿下は英邁な王になると申しておりました」
「ラファエルが…そうか」
「そうでなければ…。今回の事は無かったのではないでしょうか…」
「そのように、評される事は…嬉しくもあり…重たくもある」
その言葉にはっとした。

フェリシアがここのところ、重苦しく感じている気持ち。それはこのエリアルドの気持ちと近いのではないか…もっと重く大きい力なのだろう。
彼はずっとその立場に立っているのだから。

「君を、その重たい席に立たせようとしてる、私を恨む?それとも利用する?」
「いいえ…。私はそのどちらも望まない、今の私は…この国の平和を守る一石になるつもりです。それは…いつか王になる貴方を、少しでも支えたい…そう思っています」

「……心強いよ、フェリシア」

この人の隣に…私はいつか正式に立つ。そんな日が本当にやって来るのだろうか…。
「さぁ、帰りは競争して帰る?」
「加減はどうしますか?」
「しないよ、君がじゃじゃ馬か、そうでないか試してみたくなったから」
「殿下は意外と意地が悪いのね」

笑いながら馬に近づき、そして鞍に乗ると、
「先に走らせていいよ。道はわかるね?」
「では遠慮なく」

負けず嫌いの部分が出て、フェリシアは本気で馬を走らせたが、やはり負けてしまう。
「はぁ…はぁ…やっぱり、負けた…」
久しぶりとあって息が切れてしまう。
「いや、私も大人げなく本気で勝負してしまったよ。今日は楽しめた」
「わたくしも楽しかったです。殿下」
近くに近衛騎士たちがいるので言葉を改める。
「今度…王宮での舞踏会が決まったよ」
唐突なその言葉に戸惑いつつもフェリシアは返事をした。
「はい」

「新政派の、案だ」
「それは…」
つまりは……フェリシアの敵たちだ。

「私が、お忍びで君に会いに行ったのが気にくわなかったみたいだね」
エリアルドは表情に何も浮かべずに淡々と告げた。
「それで…」
「うん。若い未婚の令嬢を集めて他の娘たちも見てほしいと」
エリアルドは苦笑した。

「だから…気を付けるんだ。なにか仕掛けてくるかも知れない」
「わかりました…」
どくんと心臓が音を大きく立てた。
これは……それぞれの家の威信をかけた戦いで、勝つことを求められている。何かあるかもと、分かっていても逃げることは選択肢に用意されてはいない。

「……表だっては動けない時もある」
それは……、表だってフェリシアを助けられない、という苦悩が滲んでいた。

「はい、わかりました」
その言葉に出来るだけ力を込めてうなずいて見せると、

「そこでお茶でもしていこう」
「はい」

後はお茶とサンドイッチを軽く食べながら、エリアルドと過ごすとまた馬車で送られて帰宅する。
少しずつ、近づけたそんな気がして、以前よりも拒絶したい気持ちは薄れていた。けれど…あのキスは…どう捉えるべきか…。
やはり、仲を見せつけるそんなキスだったのか、と。

ふとそんな事を思案してしまう。
それは……何故なんだろう………。
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