王妃の階段

桜 詩

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王子のデート (E)

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「王太子殿下は、若く麗しい美少女に心を奪われておいでだが、他にも心ばえも素晴らしい令嬢はたくさんいるのですよ?ここは急いでお決めにならずとも、もっとよくご覧になって決められるべきでは?」
そう発言したのは、ナサニエル・カートライト侯爵だった。ナサニエルは暗褐色の髪に、琥珀色の瞳の、野心溢れる男だ。
娘のアイリーンは、フェリシアと同じ16歳のデビュタント。その存在があるが所以に……フェリシアとの婚約を急がなくてはならず……。
「ナサニエル卿の言うとおりですよ」
同意するのは、カートライトに意思を同じくする新政派の面々だ。

やはり出てきたか……という感は否めない。

ちらりと父王を見れば、どうするのかを窺っているようだ。

「なるほど……私が他のご令嬢方を見てないと?」
確かにこれまでは公正にしてきたつもりだが、フェリシアに関しては何もかも特別な事をしている自覚はある。

「では……こうしよう。私とギルセルドが舞踏会を主催しよう、ナサニエル達の言う、素晴らしいご令嬢と一時を過ごさせてもらえるだろうか?」

ナサニエルは……前回の花嫁選びを予想していたのかもしれないが、それに先手をうった形になる。
「それは……華やかで宜しいかと」
宰相のベルナルド・ウェルズ侯爵がにこやかに頷いて、有無を言わせずに決定事項となる。

何をどうしようと……、エリアルドの心は決まっていると言うのになんと煩わしい事だろう。

舞踏会の開催は決定し、そしてそこにはナサニエルの横槍が入るだろう。エリアルドは、笑みを浮かべたまま心中で気を引き締めた。

***

 フェリシアとの乗馬の日は、まだ肌寒いものの天気にも恵まれて乗馬日和だった。

迎えに出した馬車を馬車着き場で待ち、フェリシアが降りるのをエスコートすると、目に鮮やかなイエローの乗馬服に身を包んだその姿は可憐でかつ凛々しい。
エリアルド自身もチョコレート色のコートとベージュのズボンとブーツ姿できっちりと乗馬服を着こなしていた。

「おはようフェリシア。乗馬服もとても良く似合うね」

「殿下も良くお似合いです」
馬車着き場からガーデン沿いにある回廊を歩き、王宮の裏手がわに向かうとそこには、乗馬用の厩舎がありエリアルドの黒毛の馬と、青毛に白の鬣たてがみと尻尾が美しい馬がフェリシアの馬だった。
「綺麗な馬…」
その口ぶりに、フェリシアが馬を嫌がってない事にエリアルドは笑みを深くした。

「気に入った?」
「もちろんです」

フェリシアは馬を撫でると艶やかに磨かれた毛並みが、つやつやと光の波をうたせて、それは美しい一対だった。

「早速行こうか?フェリシア」
「もちろん、走らせたくてうずうずします」
その言葉には16歳らしいあどけなさがあり、誘って良かったとそう思った。

「さすが軽々だね」
女性にしては背の高いフェリシアはスカートでも台があればさほど苦労することなく、すんなりと見事に騎乗して見せた。
なるほど……武門のブロンテ家の総領姫らしいな、と感嘆する。

「その様子じゃ手加減はいらないかな?」
「お手柔らかにお願いします」

舞踏会とは違い、緊張のないその様子にこちらが本来の姿か……と感じさせて、ますます惹かれてゆくのをかんじてしまう。

遠乗りの乗馬コースに馬首を向ければ、手綱捌きも板についた感じでフェリシアは後ろから着いてくる。

緑の道の中に白っぽい茶色の道が延びていてその道なりに進み、坂を上がりると、木漏れ日の美しい森の中の道へ入り、拓けた先には湖がある。そこで馬を降りて休ませながら、 水を飲み草を食んでしているのを木の幹にもたれ掛かりながら並んで立っていた。

「まだまだ行けるんだろう?」
エリアルドは冗談めかしていうと、フェリシアは笑った。
「いえ、こんなものです」
「横乗りなら?」

ドレスを着て乗馬をするなら、もちろん横のりしかない。それ以外…つまりは男のように乗るなら…?と問いかけてみたのだ。体を動かすのはどうやら得意そうだ。

「誰かからフェリシア・ブロンテは大変なお転婆だとでもお聞きになりました?」
お転婆とは聞いてはいないが、少し意地悪な事をいってしまう。

「まぁ、ね。しかし、手に追えない大変な暴れ馬ではないだろう?」
「暴れ馬だなんて失礼だわ」
そう可愛いらしく抗議するフェリシアに、エリアルドは明るく声を上げて笑った。

もっと……色んな顔を見せてほしい……

そんな風にどんどん興味が沸いてくる。

「うん、君のお陰でいい感じで休息が出来た」
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

「お忙しいのですね、殿下」

「私がこうしていつも遊んでると思っていた?」
「いいえ、父は殿下は英邁な王になると申しておりました」

「ラファエルが…そうか」
「そうでなければ…。今回の事は無かったのではないでしょうか…」
無かったかも知れない、そう言われると、苦笑してしまう。
期待される事は光栄で……しかし、重圧でもある。
その自分の隣に……この若いフェリシアを立たせようとしている。

「そのように、評される事は…嬉しくもあり…重たくもある。君を、その重たい席に立たせようとしてる、私を恨む?それとも利用する?」

「いいえ…。私はそのどちらも望まない、今の私は…この国の平和を守る一石になるつもりです。それは…いつか王になる貴方を、少しでも支えたい…そう思っています」

はっきりと強い意思を紡ぐフェリシアは、眩しくそして……
「……心強いよ、フェリシア」

エリアルドはそう言って……目を細めて見つめた。
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