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第二章 勇者候補と英雄候補
もう一人の勇者候補
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王都に到着したのは、僕が村を出てから僅か2日後のことだった。以前村長から、王都へは馬車で2週間は掛かるという話を聞いていたのだが、たった2日で来れたという事に驚愕した。
これほど早く王都に着いたのは、僕が乗ってきた魔導車が理由だ。1時間で約50キロもの距離を休み無く移動できるということで、こんな物があれば馬車なんて必要ないと思うくらいだ。ただ、この魔導車という乗り物はかなりの高級品らしく、所有しているのは王族や教会、または資産の豊かな上位貴族や大商人くらいのものらしい。
そんな高級な乗り物に僕が乗れたのは、単に勇者候補生だからという理由からで、本来なら僕の様な平民が乗れるようなものではないと、神殿騎士様からも忠告を受けていた。
更に2日間の移動中の時間も無駄にしないようにと、村から出たことの無い僕に世間の常識や目上の方への礼儀を覚えるよう指示され、1冊の分厚い本が渡された。移動中はそれをずっと読み耽っていたのだが、村での常識と世間一般の常識のズレが、これほどあるのかと驚愕したほどだった。
「・・・凄い・・・」
初めて見る王都は、巨大な円形の外壁に囲まれており、門から中に入ると、村で見る景色とはまるで違った様相を呈していた。どこを見ても人がひしめき合い、様々な形や色をした建物が所狭しと並んでいるのだ。遠くを見ても、この王都がどこまで続いているのか全く分からない程の広さに、僕は魔導車に乗りながら圧倒されていた。
しばらく進むと、またしても壁が見えてきたが、どうやらこれは城壁のようだ。20メートル程の高さの白亜の壁に驚きつつも城門を超えると、そこには今までの王都の景色からは全く別の街並みになっており、なんと大きな湖があった。その近くには、まるで湖の水の色を反射したような水色の壁をした巨大な城が聳え建っている。
そして湖の対岸には、城よりは一回り小さいが、巨大な白亜の大神殿が建てられていた。話によると、この神殿が豊穣の女神、アバンダンティア様を信仰する教会の総本山となっているとのことだ。何故ダルム王国に教会の総本山が置かれているのは分からないし、王城の敷地内に建てられている理由も分からないが、幼い頃から信仰してきた女神様のことを間近で感じられるような気がして、僕は魔導車の中から祈りを捧げた。
魔導車の向かった先は、僕が祈りを捧げていた大神殿だった。到着するや数人の神殿騎士様に中に通されると、礼拝堂に案内された。礼拝堂の奥の壇上には、女神様の大きな石像が飾られており、その前に一人の神父様が僕の方を見ながら、柔らかな笑みを浮かべている。
その神父様は、外見的に初老といった年齢のように見え、優しそうな顔立ちに、耳に掛かるほどの長さの金髪をしている男性だ。恰幅の良いその身体には、教会特有の純白のカソックを身に纏い、金糸の十字架が刺繍されていて、とても高級感が漂っている。また、服と同じようなデザインが施されたストラを首から掛けている。
「ようこそ来られた、我らの崇拝する女神、アバンダンティア様に見初められし勇者候補殿。私は教会にて大神官の位を賜っているフェルドラーと申します」
「は、始めまして!ぼ、僕、いえ、私はライデルと言います!よろしくお願いします!」
壇上の下まで歩み寄ると、大神官様が柔和な笑みを浮かべて自己紹介をされた。大神官と言えば、教会でも最高位の人物だ。そんな人物が僕に丁寧な言葉で挨拶を行ってきたことに驚きながらも、姿勢を正し、言葉を噛みながらも挨拶を返した。
「ふふふ。そう緊張されずとも良いのですよ。君は女神様に力を見い出され、この国、いえ、この大陸に住まう全ての人族の希望となるかもしれないのですからね」
「は、はぁ・・・」
笑みを絶やさない大神官様の様子に、僕はただただ恐縮するばかりで、何を言われているのか頭が理解できていない状態だった。そんな僕の様子に、大神官様は気遣うように言葉を続けてくれる。
「君は住んでいた村から出たことは無いと聞いていますから、王都の雰囲気に圧倒されているのでしょう。ゆっくり休みなさいと言いたいところですが、私も忙しい身。手早く洗礼を済ませてしまいましょう」
「お、お気遣いありがとうございます」
「ただ、その前に・・・」
お礼を告げると、大神官様は満足げな表情を浮かべていた。そして僕から顔を逸し、壇上の袖口の方に視線を向けると、誰かを呼び寄せるように手招きをしていた。疑問に思い、大神官様の視線の先を見ると、袖口から長身の青年が大神官様の方へと歩み寄っていくところだった。
(・・・誰だろう?)
突然現れた人物に、僕は内心首を傾げる。服装のデザインは神殿騎士様の制服と似ているが、純白を基調とした布地に、金色の差し色が入っている点は大きく違う。その青年は、艶のある水色の短めの髪を靡かせ、容姿がかなり整っている。その堂々とした振る舞いは、どこかの大貴族か王族と言われても納得する程だ。どことなくだが、僕を迎えに来てくれた神殿騎士様と面影が似ており、血縁関係があるのではと思うほどだ。
「紹介しよう。ダルム王国が推薦する、もう一人の勇者候補殿だ」
その青年が大神官様の隣まで歩み寄り、僕の方を向いて値踏みするような視線を注いでくると、大神官様が青年について教えてくれた。
「・・・・・・」
挨拶をしようと口を開きかけたが、王都に来るまでの道中に読んだ本の内容を思い出す。礼儀として、目上の者の許可がなければ、下の者は話してはいけないというものだ。
「・・・ふむ、最低限の礼節は弁えているようだな。発言を許可する。挨拶したまえ」
どうやら僕の対応は間違っていなかったようで、少しだけ満足した表情を浮かべる青年から許可を貰った。
「は、始めまして。僕・・私はフーリュ村から来ましたライデルと申します」
「フーリュ村・・・聞かない村だな。余程の辺境地なのだろう。そんな村から王都にまで来て大変だろうが、心配しなくても良い。どうせすぐに村に戻ることになるのだからね」
「えっ?」
青年の言葉に、僕は懐疑的な声を発してしまうが、それに構わず彼は話を続けた。
「何故なら、一国が推薦できる勇者候補は一人だけ。つまり、このダルム王国の第2王子たる私、セルシュ・リーガルト・ダルムの他には居ないということさ!!」
両腕を広げながら大仰な仕草で名乗る彼は、なんとこの国の王子様だという。
「お、王子殿下様であらせられたのですかっ!?こ、これは失礼しました!!」
僕は慌てて片膝を着き、臣下の礼をとる。本で読んだ内容では、王族に対しては常に臣下の礼をとり、許可なく目を合わせてもいけないと書いてあったからだ。更にその本の注意書きには、下手をすれば不敬罪で首が飛ぶともあった。
「よい。辺境からということもあり、私や王族の顔を知らないのも無理はない。ちなみに、君の後ろにいるそいつは私の弟、つまりは第3王子だ」
「ええぇぇ!!」
王子殿下は片手で僕を制す様にすると、驚愕の事実を告げてきた。恐る恐る後ろを振り返ると、若干不機嫌そうな表情を浮かべる第3王子殿下がそこにはいた。瞬間、これまでの振る舞いを思い起こすと、とても本に記載されているような王族に対する言動をしていなかったと絶望するが、そんな僕に対して第2王子殿下が笑みを浮かべながら口を開いた。
「安心したまえ。我らは王族といえど、今の肩書きは教会所属になっている。王族に対する様な礼節を君がしなかったといえども、すぐに不敬罪となるわけではない。とはいえ、最低限の態度は取るべきだろうがな」
「は、はい。ありがとうございます」
王都から遠く離れた村で生活してきた僕にとっては、王族なんて雲の上の人達だ。そんな人がこれほど寛大な言葉を掛けてくれたことで、僕はどこか安心したのだった。
(第2王子殿下は勇者を目指しているようだし、平民の僕に対しても気さくに話してくれている。それなら、事情を説明して村に帰る許可をもらえないかな・・・)
素直に「勇者になるつもりはありません」と言ってしまうと、「女神様の神託に背くつもりか」と、余計な衝突を生んでしまいそうな気がしたので、平穏に勇者を辞退することができないかと、伝え方に頭を悩ませるのだった。
これほど早く王都に着いたのは、僕が乗ってきた魔導車が理由だ。1時間で約50キロもの距離を休み無く移動できるということで、こんな物があれば馬車なんて必要ないと思うくらいだ。ただ、この魔導車という乗り物はかなりの高級品らしく、所有しているのは王族や教会、または資産の豊かな上位貴族や大商人くらいのものらしい。
そんな高級な乗り物に僕が乗れたのは、単に勇者候補生だからという理由からで、本来なら僕の様な平民が乗れるようなものではないと、神殿騎士様からも忠告を受けていた。
更に2日間の移動中の時間も無駄にしないようにと、村から出たことの無い僕に世間の常識や目上の方への礼儀を覚えるよう指示され、1冊の分厚い本が渡された。移動中はそれをずっと読み耽っていたのだが、村での常識と世間一般の常識のズレが、これほどあるのかと驚愕したほどだった。
「・・・凄い・・・」
初めて見る王都は、巨大な円形の外壁に囲まれており、門から中に入ると、村で見る景色とはまるで違った様相を呈していた。どこを見ても人がひしめき合い、様々な形や色をした建物が所狭しと並んでいるのだ。遠くを見ても、この王都がどこまで続いているのか全く分からない程の広さに、僕は魔導車に乗りながら圧倒されていた。
しばらく進むと、またしても壁が見えてきたが、どうやらこれは城壁のようだ。20メートル程の高さの白亜の壁に驚きつつも城門を超えると、そこには今までの王都の景色からは全く別の街並みになっており、なんと大きな湖があった。その近くには、まるで湖の水の色を反射したような水色の壁をした巨大な城が聳え建っている。
そして湖の対岸には、城よりは一回り小さいが、巨大な白亜の大神殿が建てられていた。話によると、この神殿が豊穣の女神、アバンダンティア様を信仰する教会の総本山となっているとのことだ。何故ダルム王国に教会の総本山が置かれているのは分からないし、王城の敷地内に建てられている理由も分からないが、幼い頃から信仰してきた女神様のことを間近で感じられるような気がして、僕は魔導車の中から祈りを捧げた。
魔導車の向かった先は、僕が祈りを捧げていた大神殿だった。到着するや数人の神殿騎士様に中に通されると、礼拝堂に案内された。礼拝堂の奥の壇上には、女神様の大きな石像が飾られており、その前に一人の神父様が僕の方を見ながら、柔らかな笑みを浮かべている。
その神父様は、外見的に初老といった年齢のように見え、優しそうな顔立ちに、耳に掛かるほどの長さの金髪をしている男性だ。恰幅の良いその身体には、教会特有の純白のカソックを身に纏い、金糸の十字架が刺繍されていて、とても高級感が漂っている。また、服と同じようなデザインが施されたストラを首から掛けている。
「ようこそ来られた、我らの崇拝する女神、アバンダンティア様に見初められし勇者候補殿。私は教会にて大神官の位を賜っているフェルドラーと申します」
「は、始めまして!ぼ、僕、いえ、私はライデルと言います!よろしくお願いします!」
壇上の下まで歩み寄ると、大神官様が柔和な笑みを浮かべて自己紹介をされた。大神官と言えば、教会でも最高位の人物だ。そんな人物が僕に丁寧な言葉で挨拶を行ってきたことに驚きながらも、姿勢を正し、言葉を噛みながらも挨拶を返した。
「ふふふ。そう緊張されずとも良いのですよ。君は女神様に力を見い出され、この国、いえ、この大陸に住まう全ての人族の希望となるかもしれないのですからね」
「は、はぁ・・・」
笑みを絶やさない大神官様の様子に、僕はただただ恐縮するばかりで、何を言われているのか頭が理解できていない状態だった。そんな僕の様子に、大神官様は気遣うように言葉を続けてくれる。
「君は住んでいた村から出たことは無いと聞いていますから、王都の雰囲気に圧倒されているのでしょう。ゆっくり休みなさいと言いたいところですが、私も忙しい身。手早く洗礼を済ませてしまいましょう」
「お、お気遣いありがとうございます」
「ただ、その前に・・・」
お礼を告げると、大神官様は満足げな表情を浮かべていた。そして僕から顔を逸し、壇上の袖口の方に視線を向けると、誰かを呼び寄せるように手招きをしていた。疑問に思い、大神官様の視線の先を見ると、袖口から長身の青年が大神官様の方へと歩み寄っていくところだった。
(・・・誰だろう?)
突然現れた人物に、僕は内心首を傾げる。服装のデザインは神殿騎士様の制服と似ているが、純白を基調とした布地に、金色の差し色が入っている点は大きく違う。その青年は、艶のある水色の短めの髪を靡かせ、容姿がかなり整っている。その堂々とした振る舞いは、どこかの大貴族か王族と言われても納得する程だ。どことなくだが、僕を迎えに来てくれた神殿騎士様と面影が似ており、血縁関係があるのではと思うほどだ。
「紹介しよう。ダルム王国が推薦する、もう一人の勇者候補殿だ」
その青年が大神官様の隣まで歩み寄り、僕の方を向いて値踏みするような視線を注いでくると、大神官様が青年について教えてくれた。
「・・・・・・」
挨拶をしようと口を開きかけたが、王都に来るまでの道中に読んだ本の内容を思い出す。礼儀として、目上の者の許可がなければ、下の者は話してはいけないというものだ。
「・・・ふむ、最低限の礼節は弁えているようだな。発言を許可する。挨拶したまえ」
どうやら僕の対応は間違っていなかったようで、少しだけ満足した表情を浮かべる青年から許可を貰った。
「は、始めまして。僕・・私はフーリュ村から来ましたライデルと申します」
「フーリュ村・・・聞かない村だな。余程の辺境地なのだろう。そんな村から王都にまで来て大変だろうが、心配しなくても良い。どうせすぐに村に戻ることになるのだからね」
「えっ?」
青年の言葉に、僕は懐疑的な声を発してしまうが、それに構わず彼は話を続けた。
「何故なら、一国が推薦できる勇者候補は一人だけ。つまり、このダルム王国の第2王子たる私、セルシュ・リーガルト・ダルムの他には居ないということさ!!」
両腕を広げながら大仰な仕草で名乗る彼は、なんとこの国の王子様だという。
「お、王子殿下様であらせられたのですかっ!?こ、これは失礼しました!!」
僕は慌てて片膝を着き、臣下の礼をとる。本で読んだ内容では、王族に対しては常に臣下の礼をとり、許可なく目を合わせてもいけないと書いてあったからだ。更にその本の注意書きには、下手をすれば不敬罪で首が飛ぶともあった。
「よい。辺境からということもあり、私や王族の顔を知らないのも無理はない。ちなみに、君の後ろにいるそいつは私の弟、つまりは第3王子だ」
「ええぇぇ!!」
王子殿下は片手で僕を制す様にすると、驚愕の事実を告げてきた。恐る恐る後ろを振り返ると、若干不機嫌そうな表情を浮かべる第3王子殿下がそこにはいた。瞬間、これまでの振る舞いを思い起こすと、とても本に記載されているような王族に対する言動をしていなかったと絶望するが、そんな僕に対して第2王子殿下が笑みを浮かべながら口を開いた。
「安心したまえ。我らは王族といえど、今の肩書きは教会所属になっている。王族に対する様な礼節を君がしなかったといえども、すぐに不敬罪となるわけではない。とはいえ、最低限の態度は取るべきだろうがな」
「は、はい。ありがとうございます」
王都から遠く離れた村で生活してきた僕にとっては、王族なんて雲の上の人達だ。そんな人がこれほど寛大な言葉を掛けてくれたことで、僕はどこか安心したのだった。
(第2王子殿下は勇者を目指しているようだし、平民の僕に対しても気さくに話してくれている。それなら、事情を説明して村に帰る許可をもらえないかな・・・)
素直に「勇者になるつもりはありません」と言ってしまうと、「女神様の神託に背くつもりか」と、余計な衝突を生んでしまいそうな気がしたので、平穏に勇者を辞退することができないかと、伝え方に頭を悩ませるのだった。
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