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第三章 謀略と初陣
指揮官からの依頼
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王都を出発してから2日後ーーー
予定通り、目的の都市であるデラベスに到着した。ここまでの道中は特に問題なく、魔物に遭遇することも、同行者とトラブルになるようなこともなかった。ガブスさんは年齢的に親子ほどの差があるのだが、一応勇者候補生である僕に気を遣ってか、気安い感じで話しかけてくれて、退屈しないようにと車内の雰囲気を盛り上げてくれようとしていた。
ファルメリアさんは、食事の用意や着替えの準備などを甲斐甲斐しく世話してくれるが、その表情は常に能面のようで、時折冷たい視線が突き刺さってくるのを感じる。魔族である以上、この場にいるのは戦争で捕虜になったという理由があり得るだろうが、それもあってか、彼女の表情は常にこの世の全てを恨んでいるようだった。
また、彼女の後ろ姿を見た時、魔族特有の翼が無いことに気が付いたのだが、ガブスさんの話では、どうやら翼を欠損しているようで、飛ぶことも出来ないのだという。
更に彼女の首に装着されているのは奴隷の首輪といもので、魔力の制御を乱し、魔法の行使も身体強化も出来なくするだけでなく、色々な身体的制約を付加するものらしい。その動力源は装着者自身の魔力ということで、首輪を着けている限り反旗を翻すことは不可能ということだ。また、首輪の装着や脱着は教会しか行えないようで、その具体的な技術は謎に包まれていると説明された。
そして移動中は休憩も含め、王女殿下がこちらに顔を出すことはなかった。何か用がある時は基本的に近衛騎士様経由での伝言が来るだけで、いったい何が目的でどんな思惑があってこうして同行しているのかは、未だ分からないままだった。
「ようこそいらっしゃった、新たな勇者候補殿。私はこの駐屯地の指揮官を任されているレグナーだ」
「始めまして、ライデルと言います。この度、ダルム王国の勇者候補の一人として認定を受け、この都市の問題に対処するよう国王陛下から勅命を受けました。仮面につきましては、騒動を避けるためとご理解ください」
「えぇ、お聞きしております」
都市デラベルに到着した僕らは、その足でこの都市の衛兵隊の駐屯地へと向かった。王女殿下は「調べることがある」ということで別行動となり、駐屯地には僕とガブスさん、ファルメリアさんの3人で向かった。顔を隠す必要があるため、ここからは陛下に頂いた仮面を装着している。顔の全面を覆う構造なのだが、意外と通気性は良く、呼吸も普通にでき、視界が制限されることもなかった。
僕達がいつ頃到着するというのは事前に連絡されていたようで、すぐに応接室へと通され、レグナーさんと名乗った駐屯地の指揮官が自ら出迎えてくれた。
僕を始め、ガブスさんも簡単な挨拶を終えると、僕だけ応接用のソファーに座るよう促され、ガブスさんとファルメリアさんは僕の背後へと移動し、待機の姿勢をとった。こちらの準備が整ったのを見て、レグナーさんは口を開いた。
「お恥ずかしい話ですが、我々衛兵隊だけでは対処しきれない事態となってしまい、こうして勇者候補殿のお力を貸していただく事になりました」
「困った時はお互い様ですので、お気になさらず。それで、現状はどのような状態なのでしょうか?」
恐縮した受け答えをするレグナーさんに、僕はこの都市の現状について聞くことにした。そもそも魔物が溢れかえっていて、手の付けられないような状態だと思っていたのだが、ここまでの道中で魔物の姿は見られなかった。街道沿いについては衛兵隊の方達が頑張っているのかも知れないが、それにしては静か過ぎたし、近くに魔物の気配も感じられなかったので疑問だったのだ。
「そうですね、被害に苦しむ住民が居る以上、ここでのんびりと話すのも憚れますので、早速本題に入りましょう」
そう前置きすると、レグナーさんはテーブルにこの都市近辺の地図を広げ、ある場所を指さした。
「この森は、デラベスから15キロ程南西に向かった場所なのですが、およそ1月前、巡回の衛兵からワイバーンの目撃証言があったのです」
「ワイバーンですか!?」
その言葉に、僕は驚きを隠せなかった。ワイバーンといえば翼竜の一種で、体系的にドラゴンの亜種ではないかと言われているような存在だ。単体では難度6の魔物だが、恐ろしいのはその習性で、基本的にワイバーンは群れを作る。その規模は小さいものでも30匹は下らないといい、多ければ100匹を超える群れで生活しているらしい。それだけの規模に群れが拡大してしまうと、衛兵隊の総力を上げた対応が必要となってくると聞いたことがある。一つの都市に駐在する衛兵隊の規模だけでは、対応できないのも無理はない。
ただそうなってくると、今回の事態に僕一人が来たところでどうにもならない気もするのだが、レグナーさんの様子を見る限り、僕が派遣されたことに落胆や焦燥は見られない。それほどまでに勇者候補の力を信頼しているのかと考えてみるが、今までの神殿騎士様や王子殿下、王都に来てからの周りの人達の態度を思い出す限り、それも違う気がする。
一瞬、王女殿下が僕の雷魔法の能力を漏らしたのかもと考えたが、国王陛下がこの都市の救援要請に対して僕の派遣を決めたのは、謁見より前のはずだ。となると、謁見の場で王女殿下に能力を看破されている以上、時系列的に殿下が情報を漏らしたというのも考え難い。
考えがまとまらない僕を置いて、レグナーさんの話は続く。
「そうです。ワイバーンの数はおよそ50匹前後だと推定されており、その脅威に晒された他の魔物が混乱して、自身の縄張りから離れた場所へと移動し、食料調達に困ったのでしょう・・・近くの村の住民を襲うという悪循環に陥っているのです。そこで、勇者候補である貴殿には、元凶たるワイバーンの討伐をお願いしたい」
「おぉ!さすが勇者候補のライデル殿!初任務がワイバーンの討伐とは、腕が鳴りますな!」
レグナーさんの依頼に、背後で見守っていたガブスさんが感嘆の声をあげるが、そんな彼のことを怪訝な表情で見つめてしまう。
「えっ?ガブスさんは大丈夫なのですか?50匹ものワイバーンが生息する場所へ向かうということは、相応に危険だということで、下手をすれば死ぬ可能性もあるのですよ?」
「・・・何を仰っているのですか?今回の陛下の勅命は、あくまでライデル殿個人に向けられたもの。私は道中の案内をするのが仕事で、そこから先はライデル殿の領分ですぜ?」
「えっ?」
一瞬、ガブスさんの言葉が理解できなかった僕は疑問の声を上げると、そのまま視線を正面に座るレグナーさんの方へと向けた。
「ええ。陛下からもそのように聞き及んでいます。このワイバーン討伐任務は、勇者候補であるライデル殿が単独で行うと。それでこそ、女神に見出されし勇者候補だと」
「・・・・・・」
理解不能な状況に、僕は考えるのを放棄して呆然とした。事前に聞いていた話では、勇者候補生はある程度は国や教会からの支援があるという事だったはずだが、これでは孤立無援にも等しい。支援はあくまで道案内と身の回りの世話の手配だ、と言われてしまえばそれまでなのだが、あまりな状況にどう反応して良いのかさえ分からなかった。
しばらく僕が呆然としていると、レグナーさんの視線の質が少し変わり、僕を見下すようなものに変化した気がした。
「さて、勇者候補殿。話は以上だ。ワイバーンの詳しい位置を記した地図は、後ほど一週間分の食料と共に支給しよう。ちなみにその場所は、この都市から馬車で1日程の距離だ。身の回りの世話役として、その魔族を連れて行くと良い。こいつは御者も出来るらしいからな」
まくし立てるようなその言葉に、僕はただ頷くことしか出来なかった。ここで勇者候補といえど、どう考えても単独で対処するような事案では無いのではないかという疑問を口にしても、「同じ勇者候補である第2王子殿下ならやってのけるでしょう」とか、「国王陛下の勅命に逆らうのか?」と言われてしまえばそれまでだからだ。例えその話が嘘だったとしても、確かめる事は不可能だ。
「・・・分かりました。最善を尽くします」
「うむ。頑張ってくれ。出発は明朝だ。今日はゆっくりとこの都市で骨休めし、明日以降の英気を養ってくれ、勇者候補殿」
意味ありげな表情を浮かべて伝えてくるレグナーさんに、僕は一礼すると部屋をあとにしたのだった。
予定通り、目的の都市であるデラベスに到着した。ここまでの道中は特に問題なく、魔物に遭遇することも、同行者とトラブルになるようなこともなかった。ガブスさんは年齢的に親子ほどの差があるのだが、一応勇者候補生である僕に気を遣ってか、気安い感じで話しかけてくれて、退屈しないようにと車内の雰囲気を盛り上げてくれようとしていた。
ファルメリアさんは、食事の用意や着替えの準備などを甲斐甲斐しく世話してくれるが、その表情は常に能面のようで、時折冷たい視線が突き刺さってくるのを感じる。魔族である以上、この場にいるのは戦争で捕虜になったという理由があり得るだろうが、それもあってか、彼女の表情は常にこの世の全てを恨んでいるようだった。
また、彼女の後ろ姿を見た時、魔族特有の翼が無いことに気が付いたのだが、ガブスさんの話では、どうやら翼を欠損しているようで、飛ぶことも出来ないのだという。
更に彼女の首に装着されているのは奴隷の首輪といもので、魔力の制御を乱し、魔法の行使も身体強化も出来なくするだけでなく、色々な身体的制約を付加するものらしい。その動力源は装着者自身の魔力ということで、首輪を着けている限り反旗を翻すことは不可能ということだ。また、首輪の装着や脱着は教会しか行えないようで、その具体的な技術は謎に包まれていると説明された。
そして移動中は休憩も含め、王女殿下がこちらに顔を出すことはなかった。何か用がある時は基本的に近衛騎士様経由での伝言が来るだけで、いったい何が目的でどんな思惑があってこうして同行しているのかは、未だ分からないままだった。
「ようこそいらっしゃった、新たな勇者候補殿。私はこの駐屯地の指揮官を任されているレグナーだ」
「始めまして、ライデルと言います。この度、ダルム王国の勇者候補の一人として認定を受け、この都市の問題に対処するよう国王陛下から勅命を受けました。仮面につきましては、騒動を避けるためとご理解ください」
「えぇ、お聞きしております」
都市デラベルに到着した僕らは、その足でこの都市の衛兵隊の駐屯地へと向かった。王女殿下は「調べることがある」ということで別行動となり、駐屯地には僕とガブスさん、ファルメリアさんの3人で向かった。顔を隠す必要があるため、ここからは陛下に頂いた仮面を装着している。顔の全面を覆う構造なのだが、意外と通気性は良く、呼吸も普通にでき、視界が制限されることもなかった。
僕達がいつ頃到着するというのは事前に連絡されていたようで、すぐに応接室へと通され、レグナーさんと名乗った駐屯地の指揮官が自ら出迎えてくれた。
僕を始め、ガブスさんも簡単な挨拶を終えると、僕だけ応接用のソファーに座るよう促され、ガブスさんとファルメリアさんは僕の背後へと移動し、待機の姿勢をとった。こちらの準備が整ったのを見て、レグナーさんは口を開いた。
「お恥ずかしい話ですが、我々衛兵隊だけでは対処しきれない事態となってしまい、こうして勇者候補殿のお力を貸していただく事になりました」
「困った時はお互い様ですので、お気になさらず。それで、現状はどのような状態なのでしょうか?」
恐縮した受け答えをするレグナーさんに、僕はこの都市の現状について聞くことにした。そもそも魔物が溢れかえっていて、手の付けられないような状態だと思っていたのだが、ここまでの道中で魔物の姿は見られなかった。街道沿いについては衛兵隊の方達が頑張っているのかも知れないが、それにしては静か過ぎたし、近くに魔物の気配も感じられなかったので疑問だったのだ。
「そうですね、被害に苦しむ住民が居る以上、ここでのんびりと話すのも憚れますので、早速本題に入りましょう」
そう前置きすると、レグナーさんはテーブルにこの都市近辺の地図を広げ、ある場所を指さした。
「この森は、デラベスから15キロ程南西に向かった場所なのですが、およそ1月前、巡回の衛兵からワイバーンの目撃証言があったのです」
「ワイバーンですか!?」
その言葉に、僕は驚きを隠せなかった。ワイバーンといえば翼竜の一種で、体系的にドラゴンの亜種ではないかと言われているような存在だ。単体では難度6の魔物だが、恐ろしいのはその習性で、基本的にワイバーンは群れを作る。その規模は小さいものでも30匹は下らないといい、多ければ100匹を超える群れで生活しているらしい。それだけの規模に群れが拡大してしまうと、衛兵隊の総力を上げた対応が必要となってくると聞いたことがある。一つの都市に駐在する衛兵隊の規模だけでは、対応できないのも無理はない。
ただそうなってくると、今回の事態に僕一人が来たところでどうにもならない気もするのだが、レグナーさんの様子を見る限り、僕が派遣されたことに落胆や焦燥は見られない。それほどまでに勇者候補の力を信頼しているのかと考えてみるが、今までの神殿騎士様や王子殿下、王都に来てからの周りの人達の態度を思い出す限り、それも違う気がする。
一瞬、王女殿下が僕の雷魔法の能力を漏らしたのかもと考えたが、国王陛下がこの都市の救援要請に対して僕の派遣を決めたのは、謁見より前のはずだ。となると、謁見の場で王女殿下に能力を看破されている以上、時系列的に殿下が情報を漏らしたというのも考え難い。
考えがまとまらない僕を置いて、レグナーさんの話は続く。
「そうです。ワイバーンの数はおよそ50匹前後だと推定されており、その脅威に晒された他の魔物が混乱して、自身の縄張りから離れた場所へと移動し、食料調達に困ったのでしょう・・・近くの村の住民を襲うという悪循環に陥っているのです。そこで、勇者候補である貴殿には、元凶たるワイバーンの討伐をお願いしたい」
「おぉ!さすが勇者候補のライデル殿!初任務がワイバーンの討伐とは、腕が鳴りますな!」
レグナーさんの依頼に、背後で見守っていたガブスさんが感嘆の声をあげるが、そんな彼のことを怪訝な表情で見つめてしまう。
「えっ?ガブスさんは大丈夫なのですか?50匹ものワイバーンが生息する場所へ向かうということは、相応に危険だということで、下手をすれば死ぬ可能性もあるのですよ?」
「・・・何を仰っているのですか?今回の陛下の勅命は、あくまでライデル殿個人に向けられたもの。私は道中の案内をするのが仕事で、そこから先はライデル殿の領分ですぜ?」
「えっ?」
一瞬、ガブスさんの言葉が理解できなかった僕は疑問の声を上げると、そのまま視線を正面に座るレグナーさんの方へと向けた。
「ええ。陛下からもそのように聞き及んでいます。このワイバーン討伐任務は、勇者候補であるライデル殿が単独で行うと。それでこそ、女神に見出されし勇者候補だと」
「・・・・・・」
理解不能な状況に、僕は考えるのを放棄して呆然とした。事前に聞いていた話では、勇者候補生はある程度は国や教会からの支援があるという事だったはずだが、これでは孤立無援にも等しい。支援はあくまで道案内と身の回りの世話の手配だ、と言われてしまえばそれまでなのだが、あまりな状況にどう反応して良いのかさえ分からなかった。
しばらく僕が呆然としていると、レグナーさんの視線の質が少し変わり、僕を見下すようなものに変化した気がした。
「さて、勇者候補殿。話は以上だ。ワイバーンの詳しい位置を記した地図は、後ほど一週間分の食料と共に支給しよう。ちなみにその場所は、この都市から馬車で1日程の距離だ。身の回りの世話役として、その魔族を連れて行くと良い。こいつは御者も出来るらしいからな」
まくし立てるようなその言葉に、僕はただ頷くことしか出来なかった。ここで勇者候補といえど、どう考えても単独で対処するような事案では無いのではないかという疑問を口にしても、「同じ勇者候補である第2王子殿下ならやってのけるでしょう」とか、「国王陛下の勅命に逆らうのか?」と言われてしまえばそれまでだからだ。例えその話が嘘だったとしても、確かめる事は不可能だ。
「・・・分かりました。最善を尽くします」
「うむ。頑張ってくれ。出発は明朝だ。今日はゆっくりとこの都市で骨休めし、明日以降の英気を養ってくれ、勇者候補殿」
意味ありげな表情を浮かべて伝えてくるレグナーさんに、僕は一礼すると部屋をあとにしたのだった。
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