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第四章 望まぬ邂逅
魔法剣
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◆
迎撃準備を整えること、6日後の事だった。
斥候に出ていた一人から緊急報告が入り、人族の新しい勇者候補と見られる人物が乗った馬車がこちらに向かって来ていのを発見したというのだ。馬車の速度から、想定される予想接敵時刻は翌日の昼過ぎになるということで、私と叔父様は早速、迎え撃つのに最も適した場所へと移動を開始した。
そして翌日の昼頃、想定した時間通りに戦闘は開始されることとなった。
相手はどうやら勇者候補に加え、4人の同行者がいるとの事だった。先ずはその同行者との分断を図るため、馬車に遠距離から風魔法による強襲を行うことになった。勇者候補の実力を考えれば、それで仕留めることは叶わずとも、馬車から姿を見せるだろうという思惑あってのことだ。
作戦は見事的中したようで、叔父様は私の待ち伏せする場所へと勇者候補を吊り出してくれた。残りの同行者は叔父様と同行していた2人に任せることになっており、私達は勇者候補一人に対して集中することが出来た。
(白い仮面に純白の剣・・・装備を見ただけではライデルか分からない、か。でも何だろう・・・あの雰囲気は・・・)
外見から、ライデルだと判断できる要素はほとんどなかった。というのも、ライデルと出会ってから既に2年が経過している。私もそうだが、彼も身体が成長しているはずだ。身長は伸びているだろうし、筋肉も付いているだろう。顔つきももっと大人っぽくなっているかもしれない。
そう考えると彼と再開した時、すぐに分かるかという不安もあるが、彼のあの雰囲気だけは変わらないだろうと確信している自分がいる。
(そう、魔物を殺すことさえ躊躇っていたあの優しいライデルだもの、殺気なんて持てないよね・・・)
当初の作戦通り、叔父様と2人で挟撃して攻撃を加えている勇者候補からは、全く殺気を感じられなかった。相対していると、勇者候補からは戦いたくないという思いすら伝わってくるようだった。
(もしかして、本当に?・・・でも、もし本当にそうだったら、私はどうすれば・・・)
戦いながらもライデルではない可能性を探しているのに、逆に彼かもしれない可能性の方が高まっていってしまう。しかし、叔父様と連携して事に当たっている以上、躊躇いを見せる訳にはいかない。幸いにして私も仮面を被っていることもあり、叔父様に自分の表情から動揺を悟られることは無いだろうが、それでも剣筋には現れてしまうかもしれない。
だからこそ私は全力で剣を振るった。自分の感情を叔父様に悟られないために。そして、もし本当に相対する勇者候補がライデルだったとしたら・・・
(ライデルなら大丈夫よね?だってあなたは天才で、私の大好きな人なんだから!)
ライデルならという、信頼にも似た感情でもって私は剣を振るう。確証はない。それでも、彼ならばどんな困難も乗り越える力を持っているという確信はある。
(叔父様は間違いなく、この勇者候補を殺しにかかっている。叔父様と協力してるにもかかわらず、未だに有効な攻撃を当てられないのだから、危険視するのは当然ね・・・でも、なんとか拘束して、その正体を確認しないと!)
この勇者候補の剣筋を見ると、確かに叔父様の技術も加わっているが、自身の剣技に取り込んで応用している印象を受ける。この短期間で完全に自分のものにしたというのであれば、まさしく天才だ。
そんな相手に対し、叔父様と連携しているという手前もあるが、手心は加えられない。それでも、私がやらなければならない。情報を吐かせるという建前で、この勇者候補を殺さずに拘束するということを。
(なんとしてでも無力化する!!)
決意と共に、勇者候補から少し距離をとると、ワンド一体型の漆黒の剣に魔力を込める。そして、上級まで修めている水魔法を渦のようにして剣に纏わせた。
(流水剣!)
これまでは、勇者候補の剣が雷魔法を発生させることの出来る魔道具である可能性を想定して斬り結ぶことをせず、あと一歩踏み込むことが出来ないでいたが、この流水剣であれば雷を水に流して、影響を受けないようにすることが出来るはずだ。
昔ライデルがグリフォンと戦った時に、剣に雷魔法を纏わせていたのを見て真似した技術だが、かなり制御が難しい。しかも、この状態を維持しての接近戦は、更に難易度が増してしまう。
(持って5分が良いところだけど、これで戦況は変わる!大人しく拘束されてよ!)
私が距離をとったところで、叔父様が勇者候補に攻勢を仕掛けていた。ただ、彼の剣との接触を避けるための動きをしている為、微妙に踏み込みが浅いのだ。
(ここから一騎討ちの状況に持っていき、そのまま拘束する!)
本来の作戦では、私の魔法剣で勇者候補を追い詰め、隙を見せたところで叔父様が止めを刺すというものだった。それをさせない為、叔父様の介入を防ぐように決着を着けるつもりだ。
「はぁっ!!」
気合一閃、力強く地面を踏み込み、一足飛びに勇者候補との間合いを詰める。相手の表情は仮面で分からないが、なんとなく私の魔法剣を見て驚いているような雰囲気を感じられた。
そのまま水平斬りに剣を振り抜こうとすると、私の剣閃の軌道上に相手が剣を滑り込ませてきた。ここまでは予想通りで、問題はこの後。はたして相手の剣と接触しても、叔父様のように影響を受けないかということだ。
『ジィィィン!!』
金属と水流がぶつかるという聞き慣れない衝突音が辺りに響くが、私の身体には何の影響もなかった。
(水魔法のおかげで影響されなかった?それとも今は発動していないだけ?)
叔父様も最初の数合は撃ち合っていたと言っていた。もしあの剣が魔導具で、任意に雷魔法を纏わせられるのだとすれば気は抜けないが、それを確認するためには攻め続けるしか無い。
(最悪叔父様がフォローしてくれるだろうし、何よりこの勇者候補からは殺意を感じない。これなら・・・)
多少無茶な攻撃を仕掛けたとしても、死ぬことはないだろうと考え、捨て身の攻撃に打って出る。
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
「くっ!」
防御を完全に捨てた連続攻撃で剣を振るう。多少体勢を崩されても、身体強化の効果に物を言わせて、無茶な軌道での攻撃も仕掛ける。体中が悲鳴を上げている感覚はあるが、それを無視して剣を振るい続ける。そうしなければ、この勇者候補から拘束できるだけの隙を作り出すなど不可能だと本能が告げている。
そうして、急に攻撃スタイルを変えた私の猛攻に、勇者候補は対応しきれていないようで、少しずつ優位な状況に追い込んでいっているという実感がある。
(あと少し・・・もう少しで・・・)
叔父様も私の猛攻に手を出しあぐねているようで、長剣を構えたまま静観していた。このまま決着を着けられれば、私の思惑通り、勇者候補を拘束できるはずだ。
このまま行ければ・・・
「はぁぁぁ!!」
「ーーーシッ!」
終わりが見えたと思った瞬間、気が逸ってしまったのだろう、私の袈裟斬りに勇者候補は、剣の柄頭に手を添えるという妙な構えを取り、そのまま私の剣の軌道に合わせるように、逆袈裟斬りに剣を振り上げてきた。
『キィィン!』
「・・・えっ?」
直前まで彼の剣は私の水魔法に阻まれ、刀身に触れることすら出来なかったはずなのに、あろうことか剣に纏っている水魔法を無視するように私の剣の剣先を斬り飛ばされてしまった。
その様子に、一瞬呆然としながら宙を舞う剣先を見つめていると、その隙を突くようにして勇者候補が動いた。
「・・・閃光」
「ーっ!?」
勇者候補の仮面越しに、小さな呟き声が聞こえてきた。そして、次の瞬間にはこの辺り一帯を眩い光が包みこみ、私は思わず目を逸らした。
ただ、驚きべきことはそこではなかった。
(今の声・・・間違いない)
聞き間違えるはずが無い彼の声を聞いて、私は戦う意志を放棄した様に剣を下げたのだった。
迎撃準備を整えること、6日後の事だった。
斥候に出ていた一人から緊急報告が入り、人族の新しい勇者候補と見られる人物が乗った馬車がこちらに向かって来ていのを発見したというのだ。馬車の速度から、想定される予想接敵時刻は翌日の昼過ぎになるということで、私と叔父様は早速、迎え撃つのに最も適した場所へと移動を開始した。
そして翌日の昼頃、想定した時間通りに戦闘は開始されることとなった。
相手はどうやら勇者候補に加え、4人の同行者がいるとの事だった。先ずはその同行者との分断を図るため、馬車に遠距離から風魔法による強襲を行うことになった。勇者候補の実力を考えれば、それで仕留めることは叶わずとも、馬車から姿を見せるだろうという思惑あってのことだ。
作戦は見事的中したようで、叔父様は私の待ち伏せする場所へと勇者候補を吊り出してくれた。残りの同行者は叔父様と同行していた2人に任せることになっており、私達は勇者候補一人に対して集中することが出来た。
(白い仮面に純白の剣・・・装備を見ただけではライデルか分からない、か。でも何だろう・・・あの雰囲気は・・・)
外見から、ライデルだと判断できる要素はほとんどなかった。というのも、ライデルと出会ってから既に2年が経過している。私もそうだが、彼も身体が成長しているはずだ。身長は伸びているだろうし、筋肉も付いているだろう。顔つきももっと大人っぽくなっているかもしれない。
そう考えると彼と再開した時、すぐに分かるかという不安もあるが、彼のあの雰囲気だけは変わらないだろうと確信している自分がいる。
(そう、魔物を殺すことさえ躊躇っていたあの優しいライデルだもの、殺気なんて持てないよね・・・)
当初の作戦通り、叔父様と2人で挟撃して攻撃を加えている勇者候補からは、全く殺気を感じられなかった。相対していると、勇者候補からは戦いたくないという思いすら伝わってくるようだった。
(もしかして、本当に?・・・でも、もし本当にそうだったら、私はどうすれば・・・)
戦いながらもライデルではない可能性を探しているのに、逆に彼かもしれない可能性の方が高まっていってしまう。しかし、叔父様と連携して事に当たっている以上、躊躇いを見せる訳にはいかない。幸いにして私も仮面を被っていることもあり、叔父様に自分の表情から動揺を悟られることは無いだろうが、それでも剣筋には現れてしまうかもしれない。
だからこそ私は全力で剣を振るった。自分の感情を叔父様に悟られないために。そして、もし本当に相対する勇者候補がライデルだったとしたら・・・
(ライデルなら大丈夫よね?だってあなたは天才で、私の大好きな人なんだから!)
ライデルならという、信頼にも似た感情でもって私は剣を振るう。確証はない。それでも、彼ならばどんな困難も乗り越える力を持っているという確信はある。
(叔父様は間違いなく、この勇者候補を殺しにかかっている。叔父様と協力してるにもかかわらず、未だに有効な攻撃を当てられないのだから、危険視するのは当然ね・・・でも、なんとか拘束して、その正体を確認しないと!)
この勇者候補の剣筋を見ると、確かに叔父様の技術も加わっているが、自身の剣技に取り込んで応用している印象を受ける。この短期間で完全に自分のものにしたというのであれば、まさしく天才だ。
そんな相手に対し、叔父様と連携しているという手前もあるが、手心は加えられない。それでも、私がやらなければならない。情報を吐かせるという建前で、この勇者候補を殺さずに拘束するということを。
(なんとしてでも無力化する!!)
決意と共に、勇者候補から少し距離をとると、ワンド一体型の漆黒の剣に魔力を込める。そして、上級まで修めている水魔法を渦のようにして剣に纏わせた。
(流水剣!)
これまでは、勇者候補の剣が雷魔法を発生させることの出来る魔道具である可能性を想定して斬り結ぶことをせず、あと一歩踏み込むことが出来ないでいたが、この流水剣であれば雷を水に流して、影響を受けないようにすることが出来るはずだ。
昔ライデルがグリフォンと戦った時に、剣に雷魔法を纏わせていたのを見て真似した技術だが、かなり制御が難しい。しかも、この状態を維持しての接近戦は、更に難易度が増してしまう。
(持って5分が良いところだけど、これで戦況は変わる!大人しく拘束されてよ!)
私が距離をとったところで、叔父様が勇者候補に攻勢を仕掛けていた。ただ、彼の剣との接触を避けるための動きをしている為、微妙に踏み込みが浅いのだ。
(ここから一騎討ちの状況に持っていき、そのまま拘束する!)
本来の作戦では、私の魔法剣で勇者候補を追い詰め、隙を見せたところで叔父様が止めを刺すというものだった。それをさせない為、叔父様の介入を防ぐように決着を着けるつもりだ。
「はぁっ!!」
気合一閃、力強く地面を踏み込み、一足飛びに勇者候補との間合いを詰める。相手の表情は仮面で分からないが、なんとなく私の魔法剣を見て驚いているような雰囲気を感じられた。
そのまま水平斬りに剣を振り抜こうとすると、私の剣閃の軌道上に相手が剣を滑り込ませてきた。ここまでは予想通りで、問題はこの後。はたして相手の剣と接触しても、叔父様のように影響を受けないかということだ。
『ジィィィン!!』
金属と水流がぶつかるという聞き慣れない衝突音が辺りに響くが、私の身体には何の影響もなかった。
(水魔法のおかげで影響されなかった?それとも今は発動していないだけ?)
叔父様も最初の数合は撃ち合っていたと言っていた。もしあの剣が魔導具で、任意に雷魔法を纏わせられるのだとすれば気は抜けないが、それを確認するためには攻め続けるしか無い。
(最悪叔父様がフォローしてくれるだろうし、何よりこの勇者候補からは殺意を感じない。これなら・・・)
多少無茶な攻撃を仕掛けたとしても、死ぬことはないだろうと考え、捨て身の攻撃に打って出る。
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
「くっ!」
防御を完全に捨てた連続攻撃で剣を振るう。多少体勢を崩されても、身体強化の効果に物を言わせて、無茶な軌道での攻撃も仕掛ける。体中が悲鳴を上げている感覚はあるが、それを無視して剣を振るい続ける。そうしなければ、この勇者候補から拘束できるだけの隙を作り出すなど不可能だと本能が告げている。
そうして、急に攻撃スタイルを変えた私の猛攻に、勇者候補は対応しきれていないようで、少しずつ優位な状況に追い込んでいっているという実感がある。
(あと少し・・・もう少しで・・・)
叔父様も私の猛攻に手を出しあぐねているようで、長剣を構えたまま静観していた。このまま決着を着けられれば、私の思惑通り、勇者候補を拘束できるはずだ。
このまま行ければ・・・
「はぁぁぁ!!」
「ーーーシッ!」
終わりが見えたと思った瞬間、気が逸ってしまったのだろう、私の袈裟斬りに勇者候補は、剣の柄頭に手を添えるという妙な構えを取り、そのまま私の剣の軌道に合わせるように、逆袈裟斬りに剣を振り上げてきた。
『キィィン!』
「・・・えっ?」
直前まで彼の剣は私の水魔法に阻まれ、刀身に触れることすら出来なかったはずなのに、あろうことか剣に纏っている水魔法を無視するように私の剣の剣先を斬り飛ばされてしまった。
その様子に、一瞬呆然としながら宙を舞う剣先を見つめていると、その隙を突くようにして勇者候補が動いた。
「・・・閃光」
「ーっ!?」
勇者候補の仮面越しに、小さな呟き声が聞こえてきた。そして、次の瞬間にはこの辺り一帯を眩い光が包みこみ、私は思わず目を逸らした。
ただ、驚きべきことはそこではなかった。
(今の声・・・間違いない)
聞き間違えるはずが無い彼の声を聞いて、私は戦う意志を放棄した様に剣を下げたのだった。
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