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黒蓮

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第八章 戦争 編

戦争介入 11

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side ティア・ロキシード

 私はあの時、何を言おうとしていたのだろう?

  突然やって来て、言いたい事を言うシルヴィアの態度や言葉に、私が今まで心の中で押さえ込んでいた欲求が顔を覗かせてしまった。それは、『自由』。自由に人生を歩み、自由に人を好きになり、自分の意思で将来の伴侶を選ぶこと。でも・・・

(それは願ってはいけないこと。宰相の娘であり、侯爵家の娘として覚悟は出来てる。そう、覚悟は・・・)

 そう自分に言い聞かせることで、浮わついてしまった自分の心を静める。ふっと浮かんでしまった彼との将来に目を閉じ、自分の与えられた役割を再認識しようとする。

(私は第2王子と婚約しなければならない。そうすることで、お父様もロキシード家も安泰になる)

 現状では正妻になるのかどうかも定かではないが、今回の一連の混乱を無事にお父様の手腕でもって収めたなら、その椅子は限りなく現実的になるだろう。ただ、第2王子の話はよく耳に入ってくる。傍若無人が服を着て歩いているような子だと。

 そんな人と一緒になって女性として幸せになれるかと言えば、答えは「いいえ」だろう。そう考えてしまったがために、昨日見たシルヴィアの笑顔と彼の優しく私に微笑み掛ける笑顔が脳裏にちらついてしまう。


 そんな考えを振り払うかのように、私は眼前で繰り広げられている会談に意識を集中し直した。


「ですから、王国としても事情を考慮いただきたいと・・・」

「それは王国内で起こっていること。公国としては関係ございません」

「しかし、せめて半年、いや、5ヶ月は頂きたい!」

「我が国にその時間を待つメリットがないのは、そちらも承知の上でしょう?」

 私の目の前では、お父様と公国の宰相が舌戦を繰り広げている。公国の豪奢な会議室で、大きなテーブルを挟みながらお互いの主張をぶつけている。こちらの出席者は宰相であるお父様と私、それに護衛と思っていた『調しらべ』というお店から雇った2人の女性が、まるでお父様の秘書のような働きをしている。対して、公国は宰相が中心となって会談の話し合いをしているが、女王陛下とそのご主人、軍務卿もこの会談に出席している。 

 先ほどからぼんやりと聞いている限りでは、なかなかこちらの主張を飲んでくれるような雰囲気は公国に無かった。それもそのはずで、公国は500年前の王国が公国へ行った仕打ちや、数年前に起こった魔の森を生息地としているオーガの上位種の素材における貿易協定違反などについての、王国に対する恨み辛みが今回の宣戦布告にあると告げてくる。

 それに対してお父様は、500年前の事については王国にそのような歴史はなく、そもそも当時の状況を示すような書物も報告書も無いため、公国の言い分をそのまま鵜呑みにすることは出来ないと真っ向から対立していた。また、貿易協定違反については、その当時の現場担当官が独断で起こしたことで、既にその者の処罰も済み、相応の謝罪も公国にはしていると弁明していた。

 互いに主張は平行線で、戦争の開戦は2ヶ月後からなかなか動かせないでいた。そして、いよいよ業を煮やしたのか、お父様が公国の改革派閥に対する援助について非難を始めた。

 しかし、その事に対する証拠を突きつけても、公国の態度は変わることがなかった。他国に対する工作活動など、多かれ少なかれどの国でもやっていること。その事を殊更国際社会に訴えたとしても、どの国も脛に傷を持っており、公国をどうこう言うことは出来ないと言うようなことを、直接的な言葉を使わずに主張してくる。

 そんな事は無い。公国には不利益が必ず生じると言い募るお父様だが、その若干の表情の変化から、想定通りいっていないことが窺えた。更に公国は、捕らえていたマーガレット王女の扱いについて、捕虜に対する国際条約違反だとして、逆に王国を糾弾してきた。


 そんな均衡状態の中、黙っていた公国の女王陛下が重い口を開いた。

「皆さん、このままでは埒が明きませんね。王国としては開戦時期を遅らせたいと言われても、当然公国としてそれに同意するいわれはありません。しかし、これでは話が平行線のままですので、王国がいくつか条件を飲んでいただけるなら、こちらとしても考える余地が出てきます」

「・・・それはどのような条件でしょうか?」

厳しい顔をしたお父様が、息を飲んで次に続く女王陛下の言葉を待った。

「そう難しい条件ではありませんよ。第一に、戦闘における非戦闘員の死者並びに負傷者が出ないような配慮をしていただくこと」

「それは当然のこと、こちらも否はございません」

「第二に、戦勝条件なのですが、戦闘に参加している兵の損耗率が30%を越えた場合には、その時点で勝敗を決するということです」

「妥当な線引きと王国も考えます。問題ありません」

「では第三に、開戦場所の指定は公国がするということ」

「そ、それは・・・」

 お父様が渋っているのは、本来開戦の場所は宣戦布告された側が指定する慣例があるからだ。ほとんどの場合国境付近なのだが、どちら側の国境付近なのかが問題だ。戦争ともなれば高位階の強力な魔法が飛び交うことになる。

 その結果、魔法によって国土は荒れ、街道などに甚大な被害が出ることが多い。戦争に勝利したとしても、その後の修繕費や修繕までに相当の日数が必要となってしまう。その為、宣戦布告をした国の領土側を開戦場所に指定することが大半だった。

「開戦場所は国境から王国側に1㎞ほど入った荒野地帯ではいかがですか?」

「・・・その条件を飲んだとして、どの程度の期間をいただけるのですか?」

「プラス一月で、3ヶ月後です」

「・・・それでは割りに合いません。せめてプラス2ヶ月の4か月後ではいかがでしょう?」

 お父様の言葉に、女王陛下は少し考える素振りを見せながら、妖しげな笑みを浮かべながら急に違う話題を切り出してきた。

「そういば最近の事なのですが、我が公国にどこからか亡命者が参りました」

「・・・・・・」

「妾としてもその能力の高さから、是非にと言うことで亡命を認めたものです。いやこの状況で戦力が増えるのは本当にありがたい話ですね」

「・・・それは、羨ましい話ですな」

「ええ本当に。それで、最後の条件を了解いただければ、4か月後の開戦でも公国は構わないと判断しましょう」

「最後の条件ですか?」

「条件と言っても、もしもの話ですが・・・我が公国が戦勝した場合、魔の森の割譲もしくは、その場所の資源採集権を認めていただければ結構です」

「・・・それはまた、大きく出ましたな」

お父様は不快感を隠すことなく女王陛下を鋭い視線で射抜いていた。

「そうでもありませんよ?もしもと言う前提ですし、そもそも、あの場所の資源については貴国との条約で貿易協定が結ばれていたはずですから」

「・・・・・・」

「いかがですか?」

「少し検討する時間を頂きたい」

「いいでしょう。では明後日、再度会談の場を設けましょう。それで構いませんか?」

「感謝いたします」


 そうして一回目の会談が終わったのだった。私はただ隣で聞いていただけだったのだが、聞いた限りでは女王陛下の出した条件はそんなに厳しいものではなかった気がした。その為、公国の真意はどこにあるのかお父様に確認した。


 お父様曰く、公国もおそらくダリア・タンジーという存在を測りかねているのではないかということだった。本来なら公国はこちらの言い分を全て突っぱねることも出来たが、ダリア・タンジーという異分子が公国に紛れ込んだことによって、その処遇を決める時間が必要になったのだろうと。

ただ、そうだからといって開戦時期を延期してしまうと、こちらの言いなりになった印象を国民に与えてしまうため、いくつかの条件を飲ますことが出来たので譲歩してやった、と言い分がたつようにした可能性があるとの事だった。

 そうであれば、条件を飲んでも良さそうに聞こえるが、ことはそう単純ではないのだという。先の会談でお父様は迂闊にも最後の条件に「大きく出たな」と発言してしまった事が問題だったらしい。この発言で、ダリア・タンジーという存在が、王国を揺さぶる外交カードになりうると公国に確信を与えてしまったということだ。

 いまいち理解できない私にお父様は噛み砕いて教えてくれた。本来彼の事を特に脅威にも感じていなければ、最後の条件も一笑に付して条件を飲めば良かったのを、彼の存在が王国を敗北に追い込む可能性が脳裏に浮かんだ結果、あの発言になったと公国に捉えられたはずだと。何故なら、戦争は負けるつもりでするものではない。負ける可能性が高ければ戦争を回避するように交渉するからだ。

 その結果、王国が負ける可能性を認めるような発言は、それだけ彼を脅威に感じている証拠で、今回の戦争で仮に勝ったとしても、彼の存在を後ろ楯に戦勝における賠償要求もそれほど無理難題を押し付けることが出来なくなるのだという。

「くそっ!まったく厄介な存在だ!」

苛立ちを隠そうともせず、お父様はそう吐き捨てた。そんなお父様に私は少し聞いてみた。

「それほど彼を脅威に感じているなら、取り込んだ方が良いのでは?」

「それはもはや叶わぬことだ。王国では彼を罪人指定している。それを覆すことは失態を認めることと同義だ」

「だったら、私を使ってもダメなの?」

私が彼と婚約すればまるく収まるのでは、そう考えての発言だった。なによりそうなれば、あの第2王子と婚約をしないで済むのがありがたかった。

「ティア、国を想ってくれての発言であるとは思うが、それはできん。あんな者と一緒になってもお前は幸せにはなれん。最低でも王子の側室の地位は約束されているのだ、そうなればお前の将来は安泰で、幸せな人生を送れるはずだ」

その言葉に、私はチラリと黒い感情が心の中に現れる。

(安泰なのはお父様で、幸せになるのもお父様の人生なのでは?)

表面的には私のことを想っての発言だが、そんな裏の意図を考えてしまう。ただ、それをさすがに言葉に出すことは出来なかった。

(私の願いは・・・)

 今はまだ明確な形になっていない私の願望をぼんやり意識しながら、閉じ込めていたはずの感情が溢れ出ていることに気づいても、それほど悪い気はしなかった。

 それはきっとあの時、みんなと会って言葉を交わしたからなのかもしれない。

(私だって、幸せになりたいよ・・・)
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