変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

再会 5

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 僕にとって女性とは、本来あまり近づきたくない存在だ。12歳の誕生日を目前に控えたあの日、自分よりも身体が大きく、圧倒的に力のある存在の女性に押し倒されたのは、とてつもない恐怖として僕の心に大きなトラウマを残した。
それからは、母さん以外の女性を見るのが怖くて仕方がなかった。当初は話すどころか、女性を見ると過呼吸になりかけることもあり、母さんが大事をとって、しばらく僕を家から出さなかったほどだ。

しばらくそんな日々が続き、自分の状況を冷静に見つめる事が出来たとき、自らの無力さを悲観したものだった。男性が女性よりも力が劣っている事はしょうがない。アルマエナジーの扱いに長けた女性に、男性がどう足掻いたところで敵わないのが常識なのだから。
でも、立ち向かう前から精神的にも負けてしまっている自分が何だかとても情けなく感じ、そう自覚してからは強さを求めた。その当時は単純に、肉体的な強さが精神にも作用して、トラウマとなっている女性恐怖症を克服することが出来るのではないかという考えからだった。
この世界は女性社会、生きていく上で女性と接しないなどあり得ない。だからこそ女性恐怖症の克服に向けて努力を続けてきた。幸いにして、僕にはアルマエナジーの量だけは桁外れに保有していることが分かり、鍛練を重ねることで男性では不可能とされていたクルセイダーにまでなることが出来た。

そして、12歳のあの時よりも女性恐怖症は段々と薄れてきてはいるのだが、それでも直接的な接触や、女性を強く感じさせられる姿を見ると、恐怖で身体が固まってしまうことがたまにある。また、女性からの何とも言えない熱の籠ったような視線が苦手でならない。相手が僕に対して何を求めての視線なのかは分からないが、本能的に忌避してしまうのだ。
今回の各国の王女殿下達との再会の際に、特にその視線が顕著だったのがルピス殿下とパピル殿下だ。まだパピル殿下については、失礼ながら自分よりも子供のような見た目もあって、それほど恐怖を感じないが、ルピス殿下は女性特有の胸の存在が主張された体型をしており、熱の籠った視線もあって近寄りがたい存在に感じてしまうのだ。

(でも、これから3ヶ月は皆さんの案内役というか、お世話係をするのが仕事なんだ・・・泣き言ばかりは言っていられない!そういう視線にも、女性を感じさせられる姿にも慣れないと、いつまでたっても恐怖症は治らない!!)

王女達の会議を別室で待つ間、僕はこれから始まるであろう試練に向けて、気合いを入れるように頬を叩いた。そんな僕の奇行に、同じ部屋で待っている各国の従者の人達が怪訝な表情を向けていることに、気づく余裕はなかった。


 各国の王女殿下の緊急会議は30分ほどで終わり、部屋から出てきた彼女達はみんな一様に決意を秘めたような表情をしていた。その様子に、これから謁見の間で女王陛下に挨拶をする予定になっているので、外交的に失敗は出来ないと緊張しているのだろうと考えた。
ただ、そこは王族としての教育を積んでいる王女殿下達なのだろう、結局陛下との謁見は終始穏やかな雰囲気でつつがなく終了し、その後執事の方々にこれから3ヶ月間滞在していただくことになる王城に用意された客室へと案内され、夕食の歓迎パーティーまでは休息をとることになった。
僕はと言えば、歓迎パーティーでは王女殿下達のエスコートというか、案内を命じられているということもあり、事前に細々とした事を確認してから着替えをすることになった。それは外交的にも大々的な催しということもあり、きちんとした服装が求められる為、執事の方の協力の元、王女殿下の側に居ても恥ずかしくないように黒の燕尾服を着させてもらった。


 そうして夜のとばりが落ちてきた頃、歓迎パーティーの開始時刻となり、それぞれの部屋に各国の王女殿下を迎えに向かった。

『コン!コン!』
『はい!どちら様でしょうか?』

最初はレイラ様の部屋に赴き、扉をノックすると、中から従者の人と思われる方の警戒するような声が返ってきた。

「ジールです!間もなくご案内の時間となりますので、お迎えに上がりました!ご準備の程はよろしいでしょうか?」

僕がそう確認すると、少しの間の後、扉が開かれた。

「失礼します!」

一礼して部屋に一歩入ると、他国の王族を招く部屋だけあって、絢爛豪華な内装だった。広々とした室内には天蓋付きの巨大ベッドが目を引き、服が何着入るのだろうか試したくなるほどの大きなクローゼット、更には6人掛けの丸テーブルに、簡易キッチンまで設置されていた。

「お迎えありがとうジール。こちらに到着してからバタバタしてしまい、ほとんど再会の挨拶もままなりませんでしたけど、また会えて嬉しいですわ」

レイラ様はテーブルの椅子に腰掛け、僕の方を振り向きながら微笑みを向けて再会を喜んでくれているようだ。パーティー用の着替えは済んでいるようで、龍人族を表す金色の刺繍が美しい水色のドレスを着用していた。肩は大胆に露になっているデザインで、レイラ様のプロポーションを普段以上に引き立てているようだった。

「こちらこそ、またお会いできて嬉しいです。いつぞやは鍛練に付き合っていただき、ありがとうございました」
「ふふふ。わたくしとあなたの仲なのですから、そんな堅苦しい話し方は不要ですよ?」
「い、いえ、さすがに周りの目もありますので、他国の王女殿下に向かって礼を欠いた言葉遣いは・・・」
「まぁ、そうですわよね。でしたら、周りの目の無い2人っきりの時には、もっとフレンドリーに話してくれますか?」

レイラ様は僕の言葉尻を捕らえると、反論を許さないような笑みを浮かべていた。僕は国賓として招かれているレイラ様と2人っきりになるような場面は無いだろうと考え、深くは考えずに頷いたのだった。

「はい。分かりました」


 続いて向かったのは、隣の客室に案内されているルピス様の部屋だ。レイラ様には自室の扉の前に待機してもらっており、僕は足早に他3名の王女殿下達をお迎えに行かねばと、少し焦り気味だった。
先程のレイラ様同様に客室の扉をノックすると、早々に部屋の中に通され、お迎えに来た旨を伝えた。内装はレイラ様の部屋と全く同じで、ルピス様は着替えを終えてテーブルの椅子に腰かけていた。

「お迎えありがとうなのですジールさん。お久しぶりなのです。あの後無事に戻れたのか気になっていたですが、元気そうで何よりなのです!」
「ルピス殿下もお元気そうで。こうして再会できて、嬉しいです」

ルピス様に再会の挨拶をすると、満面の笑みを浮かべて僕の方へと足場やに駆け寄ってくる。ルピス様は獣人族を表すブラウン色の刺繍が施された、ピンク色のドレスを着ている。ふんだんにフリルがあしらわれたドレスは、ルピス様の見た目もあって幼い印象を与えようとしているが、胸の大きな2つの双丘が歩く毎に激しく揺れる様は、僕にとっては恐怖を感じる象徴だ。

「ずっとジールさんに会いたかったのです。あれから色々と活躍は聞いているですが、無理はしてないですか?もし大変なら前に言った通り、ボクがジールさんを幸せにするですよ?」

僕に密着するような距離感で上目遣いに聞いてくるルピス様だが、その大きな胸が押し付けられるような格好になってしまい、萎縮してしまう。もしかして、成長し過ぎてそこの距離感が分かっていないのだろうか。

「だ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」

何とか自分を奮い立たせて返答した僕に、ルピス様は少しだけ残念そうな表情を浮かべて口を開いた。

「そうなのですか。その、他の人の目がある時は仕方ないですが、2人っきりの時にはそんな他人行儀な話し方はしないで欲しいのです」

ついさっき聞いたばかりの言葉に、僕は同じように「分かりました」と答えたのだった。


 続いてはパピル様だ。先程まで同様にノックをすると部屋に通され、着替え終わっているパピル様が僕に笑みを向けながら口を開いた。

「久しぶりだね、ジルジル!会いたかったよ~!」

パピル様は、妖精族を表す緑色の刺繍が入ったオレンジ色のドレスを着ていた。ワンピースタイプのドレスは肩こそ出てはいるが、その幼さを感じさせる体型もあって、女性というよりも、女の子という感じだ。

「お変わり無いようですね。またお会いできて嬉しいです」

僕の返答にパピル様は妖艶な笑みを浮かべると、こちらに走り寄ってきて燕尾服の裾を摘まんできた。

「嬉しいこと言ってくれるね~!じゃあ、このままパピルと2人っきりになれる場所で色々話さない?」

旧交を暖めたいということなのだろうが、さすがに今からパピル様達が主役のパーティーが始まるので、その言葉に頷くことはできない。

「今から皆様の歓迎パーティーですから、また時間があればお話しできると良いですね」
「ふふん!その言葉、忘れないでよ?あと、2人っきりになったら、そんな固い話し方は禁止なんだからね!」

先程から同じような事ばかり言われているが、それをおくびにも出すことなく「分かりました」と頷いておいた。


 最後はジェシカ様だ。ノックして名乗ると扉が開かれたのだが、部屋の中にジェシカ様の姿が見えなかった。

「えっと、ジェシカ殿下はどこでしょうか?」

扉を開けてくれた従者の方に居場所を聞くと、微妙な表情をしながらある方向を指差してくれた。そこには、クローゼットの扉が開かれており、僕からはちょうど死角になっている場所だったが、ジェシカ様の大きな身体では隠れきれていなかった。

「あ、あのジェシカ殿下?そこにいるのですか?」
「ジ、ジール殿・・・すまない、少し待ってくれないか?」
「あの、もしかしてまだ準備が出来ていないのでしょうか?」

ジェシカ様の焦ったような声に、僕は着替えが終わってないのではという考えが浮かんだのだが、それならば部屋に通された理由が分からないので、とりあえず無難な質問をして様子をみた。

「いや、用意は出来ているんだが、気持ちの方の準備というのが・・・」

いつになく気弱なジェシカ様の声に首を傾げるが、他の王女殿下達をあまり待たせるわけにもいかない。

「歓迎パーティーとはいえ、外交の場であることに緊張するのは分かりますが、全体の予定もありますので・・・」
「いや、オレが緊張しているのはそっちの方ではないのだが・・・しかし、オレのせいで予定を狂わすわけにはいかないな・・・」

申し訳ないと思いながらも、少しだけ急かすように伝えると、弱々しい返事と共にクローゼットの扉が動き、ジェシカ様が姿を見せた。

「そ、その・・・変じゃないか?」

ジェシカ様は、深紅の刺繍が施された紫色のドレスを身に付けていた。身体を捻りながら見せてくる服装は、肩を露にして背中を大胆に露出したデザインだった。大きな胸を強調するようなその姿に、顔が引きつりそうになるのを必死に堪えて口を開いた。

「とても良くお似合いですよ。大人っぽい紫色のドレスは、ジェシカ殿下の美貌をより引き立ててくれています」
「ほ、本当か!?ふふ、ふへへ・・・」

僕の言葉に、見たこともないようなだらしない顔をするジェシカ様を見て驚きつつも、いったい何がジェシカ様にあったのだろうと従者の方に視線を向けたのだが、小さなため息と共に首を横に振るだけで、結局何がなんだか分からなかった。
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