変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

文字の大きさ
61 / 92
留学編

猛獣 4

しおりを挟む
「セェェイ!!」
『ドッカーン!!』
「「「っ!!?」」」

 浴室の床に倒れ、両手足を押さえつけられたままお腹の上にのし掛かられてしまい、ジタバタもがこうとも完全に動きを封じられてしまった僕は、恐怖と絶望から、半ば諦めの境地でこれからされることに歯を喰い縛っていた。
しかし、突如誰かの掛け声と共に、唯一の出入り口である扉が吹っ飛んでいった。その衝撃音に、この場の誰もがその音の発生源の方へ視線を向けた。そこには、拳を振り抜いた姿勢で残心している、私服姿のジェシカ様が居た。

「貴様ら・・・ジール殿に何をしている!!!」
「「「ヒッ!!」」」

僕の置かれている状況を確認すると、今まで見たこともない憤怒の表情を浮かべたジェシカ様から、温かいはずの浴室が底冷えするような寒さを感じる冷気が伝わってきた。おそらくこれは殺気なのだろうが、これほど濃密なものは僕も経験したことが無いものだ。
僕を押さえつけている3人の女性も同様なのだろう、ジェシカ様の気迫に呑まれたようで、短い悲鳴を上げて、身体が萎縮しているようだった。

「あなた達、すぐにそこから退いて名前と序列を名乗りなさい!」

ジェシカ様に続き、キャンベル様が姿を見せると、同様に怒りの形相で3人の女性に対して声を荒げていた。

「キャ、キャンベル殿下・・・これは、そのーーー」
「いいから先ずはそこを退きなさい!!」

僕のお腹に乗っている女性が、焦りの表情を浮かべながら何事か言い訳をしようとしたようだったが、その言葉を制して更に声を荒げていた。激怒した表情を浮かべるキャンベル様に、3人は先程までの勢いを完全に失い、項垂れるように僕から離れた。

「ジールさん!大丈夫なのです?」

すると、すぐにルピス様が駆け寄って来て、バスタオルを僕に掛けながら、心配した眼差しで問いかけてきた。

「あ・・・」

「大丈夫です」と言おうとしたのだが、あまりにも衝撃的なことが起こったせいか、僕の口は上手く動いてくれずに、意味の無い声が漏れるだけだった。

「ジール、落ち着いて。ゆっくりと呼吸するのよ」

続けてレイラ様も僕の側に駆け寄って来て、手を握りながら焦ったような表情を浮かべていた。レイラ様の手の温もりを感じると、自分の手が尋常ではないほど冷たくなっている事に気づかされた。

「はっ・・はっ・・はっ・・」

レイラ様が呼吸について指摘したことで、自分の呼吸が浅く早くなっている事に気づくと同時に、猛烈な息苦しさが襲ってきた。何とか深呼吸しようとするのだが、何故か呼吸が上手く出来なくなっていた。

「待ってジルジル!深呼吸はダメ!」

そう言って焦りの表情を浮かべながら、パピル様も僕の元へと駆け寄ってきた。ただ、この息苦しさから逃れるには、たくさんの息を吸いたいのに、それがダメだという理由が分からなかった。

「はっ・はっ・はっ・」

しっかり息を吸おうとしても吸いきれず、短く浅い呼吸を繰り返すだけになってしまい、段々意識も朦朧とし始めてきた。そんな僕の様子を、真剣な表情でパピル様が見つめていた。

「・・・過呼吸ね。ちょっと強引だけど、これ以上はジルジルの意識が無くなっちゃいそうだし、医療行為の緊急処置だから、勘弁してね!」

僕の今の状態を理解したのだろう、パピル様は申し訳なさそうな表情を浮かべると、そのまま顔を近づけ、僕の唇を自分の唇で塞いできた。

「っ!?」

驚きと共に口呼吸が出来なくなってしまった僕は、息苦しさからパピル様を手で押し退けようとしたのだが、パピル様に簡単にあしらわれてしまった。

「ぷはっ!」

少しすると唇が離され、僕が酸素を求めて大きく呼吸すると、次の瞬間にはまたパピル様に唇を塞がれてしまった。


 そうして何度か同じ事を繰り返していると、次第に呼吸が落ち着いていき、先程までの息苦しさが嘘のように消えて、普通に呼吸が出来るようになっていた。

「もう大丈夫だよ~」

僕の呼吸が落ち着いたのが分かったのだろう、パピル様は唇を離すと、舌舐めずりをして悪戯っぽい笑みを浮かべていた。その表情から、最後に僕の口の中に舌を入れてきたのは、必要の無い行為だったのではないかと思ってしまう。それでも、僕の症状を治してくれたのは事実だったので、感謝の言葉を伝えようとした。

「あ、ありがとうございます、パピルでーーー」
「パピル殿下?ちょっとお話があります」

僕の言葉を遮るように、レイラ様が鋭い視線をパピル様に向けていた。

「え~?パピルには無いんだけどな~。むしろジルジルを治療したことに感謝して欲しいくらいなんだけど~?」
「ジールの症状を的確に診断し、応急処置をしたのは評価します。しかし、キスである必要があったのかは疑問がありますわ!」

何やら言い争いを始めてしまったパピル様とレイラ様に対して、どうすれば分からない僕は、とりあえず上半身を起こして現状を確認しようとした。

「ジールさん、急に起きて大丈夫なのです?」

傍らでずっと僕の様子を見守ってくれたのだろうルピス様が、僕の上半身を支えるようにして体調を確認してきた。

「ルピス殿下・・・ありがとうございます。もう大丈夫です」
「無理はしないで下さい。あんなに苦しそうにしていたのです。でも、キスが治療に効果があるなんて知らなかったです。その・・・ボクも治療した方が良いですか?」
「えっ?えっと、その・・・」

頬を染めながら僕の返答を待っているルピス様に、僕は困惑してしまう。既に症状は収まっているので必要ないと思うのだが、僕の体調を気遣ってくれるルピス様の思いを無下にするのもどうかと思う。ただ、その治療方法はキスなので、それをお願いするのには抵抗もある。

「「ルピス殿下?」」

そんな状況に、パピル様とレイラ様が低い声を発しながら、ジト目をルピス様に向けていた。そんな2人に気圧されたのか、ルピス様は苦笑いを浮かべて誤魔化してしるようだった。


「あなた達、自分が何をしようとしたのか理解した上で、今回の事に及んだという認識でいいのかしら?」
「そ、それは・・・」

 落ち着いて周囲の様子を確認すると、浴場の床に正座させられて項垂れている3人が、キャンベル様から叱責を受けているようだった。キャンベル様の隣には、憤怒の表情で腕を組み、仁王立ちして3人に睨みを効かせているジェシカ様の姿があった。

「この駐屯地の司令官からも、事前に警告していたはずですよね?彼に手を出すことは、ともすれば国際問題になりかねない要因を孕んでいるため、絶対に手を出すなと」
「「「・・・・・・」」」

キャンベル様の詰問に、3人は無言のままバツの悪そうな顔をしていた。その反応から、キャンベル様の言う話は知っていたような雰囲気だった。ただ、国際問題と言う大袈裟な話になっているという事を、当事者の僕自身知らなかったが、もしかしたらそういった周知もあって、今まで女性しか居ないクルセイダー達の中でも、平和な生活が成り立っていたのかもしれないと思い至った。

「はぁ・・・あなた達の処分については、後日、査問会を開いて決定されるでしょう。それまでは自室で謹慎するように!司令官には私の方から報告しておきます!」
「・・・失礼します」
「すみませんでしたッス」
「申し訳ありませんでした」

キャンベル様が今後についての事を伝えて、この場から去るように告げると、3人はゆっくりと立ち上がり、小さな謝罪の言葉を残して浴場から出ていった。その一瞬、長髪の女性が僕の方へ視線を向けてきたのだが、その目からは、獰猛な害獣のような雰囲気が漂ってきていて、僕は少しだけ身を震わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...