変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

エピローグ

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 結局、僕が目を覚ましてから皆さんには中々会うことが出来ず、半年もの月日が流れた。
というのも、余程無茶をした影響なのか、僕の身体が元通り動かせるようになるまで、あれから半年近くかかってしまったのだ。しかも、僕の身柄の扱いについては未だ答えが出ていない状況で、正式な沙汰が下るまでは王城からの外出さえも禁じられてしまった。
同じ王城に住んでいるはずのキャンベル様なら、どこかで顔を合わせることもあるだろうと思っていたのだが、自由にならない身体では、基本的に部屋から出ることが難しかった。しかも、部屋から出ようとするには執事さんの介助が必要になる為、自由に王城内を出歩く事もできず、入浴などで僕が王城内を歩く時には不自然なほど廊下には誰もおらず、顔を合わせるのは他の執事さん達だけだった。
それでも、時々皆さんから差し入れだったり、お花だったり、贈り物などが届いていたので、忙しい合間の中でも、僕のことを気にかけていてくれるという実感があったことは嬉しかった。


 そして、ようやく身体が元通り動くようになり、僕の扱いについての方向性も決まったとのことだったのだが、何故か夢幻大地へと場所を移動させられたのは、僕が18歳の誕生日を過ぎた頃だった。


 「あぁ、どうしてこんなことに・・・」

 今、頭を抱える僕の目の前には、5人の王女殿下が互いに睨み合いをしながら舌戦を繰り広げている。僕はそんな皆さんの様子を、ただ黙って見つめているしかない。止めたいとは思っているのだが、どう止めれば良いのか分からないのだ。
そんな皆さんは、クルセイダーの証である純白の制服を身に纏いながら、広大な闘技場で互いに威嚇するように対峙している。制服の基本的なデザインは各国とも共通で、前ボタン式のしっかりした造りをしており、緻密なデザインの刺繍の線が平行に10列並んでいる。
所謂ナポレオンジャケットと言われるその襟には、序列を示す記章を付けており、皆さん最上位の序列である【Ⅰ】を冠している。背中には十字の模様が刻まれ、それぞれの国の色を表示している。人族は黒色、龍人族は金色、人狼族は茶色、妖精族は緑色、魔神族は赤色だ。


「だからわたくし、先程から申しているでしょう!?ジールはわたくしの元に来た方が幸せになれると!」

 鋭い視線を周りに向けながら、凛とした態度で言い募っているのは、龍人族ガーランド王国女王殿下のご息女であるレイラ・ガーランド様だ。
僕と同じ今年18歳になられたレイラ様は、曲がったことが大嫌いで、情熱的な性格をしている。スレンダーなスタイルに白銀のロングヘアーを風に靡かせ、龍人族特有の額に生えている漆黒の角も相まって、まるで一枚の美しい絵画を思わせるほどの雰囲気を放っている。

「し、幸せになれるかどうかはお互いの想いあっての事です。ボクは好いた男性には尽くす女性なので、ジールさんもそういう女性の方が心休まると思いますです!」

レイラ様の主張に対して、今度は同じく18歳になる人狼族、エレメント王国女王陛下のご息女、ルピス・エレメント様が異議を唱えていた。
温厚で大人しく、弱気なところのある方だが、その実、かなり積極的な面もある方だ。人狼族特有の茶色い毛並みのショートカットで、ケモ耳と尻尾がとても可愛らしい。ただ、身長の割に育ち過ぎた胸の大きさを気にしているらしい。

「え~!何それ!?ジルジルはパピルと一緒に楽しく過ごした方が絶対良いもん!はい、もう決定~!!」

更に異論を挟んで自分なりの論理を唱えるのは、僕より2つ年上の20歳になる妖精族リーグラント王国女王陛下のご息女、パピル・リーグラント様だ。
勝手気儘な自由人で、熱しやすく冷めやすい方らしいのだが、僕の事を想い、知り合ってからずっとこの調子で僕を求めてくださる。妖精族の特徴として、額から2本の触角を生やし、腰まで伸びる緑色の髪を三つ編みにしており、幼い容姿と130センチほどの身長をしている可愛らしいお方だ。

「いやいや、待ちなさいよ!そもそも他種族との婚姻は禁止のままでしょうが!ジール君は人族の王女であるキャンベルのものよ!」

こう主張するのは、僕達人族の国であるドーラル王国女王陛下のご息女であるキャンベル・ドーラル様だ。
年齢は一つ下の17歳。人族特有の黒目・黒髪をしており、肩まで伸びる艶やかな黒髪をツインテールにしている。普段僕には強い口調で話しかけてくる事もあるのだが、時折頬を赤く染めながら俯くことがある可愛らしいお方だ。また、胸があまり大きく無いということにコンプレックスを抱えているようで、その胸を隠すように腕組をしている事が多い。

「か~!だから最初っから言ってんだろ!?この決闘で勝ち残った奴がジール殿を好きに出来るんだ!ゴチャゴチャ言ってねぇで、早くやろうぜ?」

イラついた表情を浮かべているのは、6つ年上の24歳になる、魔人族のダイス王国女王陛下のご息女、ジェシカ・ダイス様だ。
直情的で姉御肌な性格をしているジェシカ様は、ベリーショトの赤髪で、魔人族特有の褐色の肌に筋肉質な体格をしており、2メートル近い身長で、瞳は白目と黒目が反転した色彩をしている。言葉遣いは悪いが、見た目と違って女性では珍しく料理好きで、療養中には僕にお弁当を差し入れてくれる優しい方だ。

そんな僕にとっても親交の深い5人の王女殿下達が一触即発の雰囲気の中、僕は大きなため息を吐いていた。

 
 そもそもこんな状況に至った理由は、僕の扱いについて各国で結論が出なかったことに起因しているらしかった。
僕の人智を越えた武力と、奇跡とも称される治癒能力に対して、各国が一歩も引くことなく身柄についての議論が白熱してしまったらしい。最も強烈な主張をしている国は、僕の住むドーラル王国で、僕を各国に貸し出す代わりに夢幻大地の領有権を渡すように主張しているらしい。
さすがにたった一人の人物のための条件としては釣り合わないと異論が噴出したのだが、僕の扱いは訪問した国に一任してもよいという発言に、各国の為政者は考え込んだという。この扱いを一任するという言葉の裏には、要するに他国に訪問中、子を成しても良いという事だったようだ。

可能性の問題として、僕との間に生まれた子供には治癒の能力が遺伝するかもしれないという事が考えられている。もし生まれてきた子供がそんな能力を持っているのであれば、国内の医療事情は一変し、害獣の駆除においても怪我を恐れることなく討伐ができるということにも繋がる。それは為政者にとっても心揺れる提案だったらしいのだが、そこで強硬に反対意見を主張する人達が現れた。それが今僕の前で不穏な空気を纏っている5人の王女殿下達だった。
先のミュータント討伐の功績において、5人共が序列一位へと昇格しており、かなりの発言権を有していたのだが、その5人共が僕が種馬のような扱いになることに反対してくれたのだ。それだけではなく、僕が女性恐怖症であることも切実に訴えてくれたらしい。

しかし、それで何故目の前のような状況になっているかと言えば、会議の席で僕の将来の伴侶に対する想いを説明し、僕の意に反する行いは、将来的に国家に牙を向ける要因にもなりかねないと注意を促して結論を保留にしたまでは良かったのだが、その会議の参加者の誰が言ったか、「シュライザー様のお世継ぎは絶対に必要となります」という言葉に、殿下達の目の色が少し変わったのだという。
曰く、「あの時のキスはプロポーズのようなもので、返事を聞かないとね」と、会議終了後に5人で集まってそんな話になったのだという。しかも段々と、「その返事は出来れば2人きりの状況で聞きたい」というような話になり、そうなると返事を聞く順番を決める必要があった。
そしてそこに、決定的な言葉が投げ込まれた。「もしかして、最初に返事を聞いてきた相手にクラっときちゃうかもね」と。

仲が良かったはずの皆さんの今の様子は、誰が最初に返事を聞くかの順番を賭けた決闘をすることになった結果だと説明を受けた。そして、その様子を最後まで見届けて欲しいと言われ、更に僕が伴侶を誰にしたかによって、各国も今後の方針を決めるのだという。

(自由があるようでないような・・・それに、僕が願う想い人は・・・)

僕の意見は何処へやら、一方的にそんな話になったと言われ、小さくため息を吐きながらも、僕は一歩前に進んだ。既に皆さんは武器を具現化しており、何かの切っ掛けで決闘が始まりそうな雰囲気が見て取れたからだ。もはや決闘というよりも、バトルロワイヤルのような形式になっているが、それでも皆さんが互いに戦い合う姿は見たくなかった。
そして、皆さんが武器を構えて動き出そうとした瞬間、僕は周辺一帯に自らのアルマエナジーを広げ、そのまま皆さんの動きを止めた。

「なっ!?」
「これはっ!?」
「か、身体が!?」
「動かない!?」
「どうして!?」

突然身体が動かなくなったことに驚きの表情を浮かべながら、皆さんは僕の方へと視線を向けてきた。

「すみません。でも、こうしなければ話を聞いてくれないと思いまして」

僕は、意を決して皆さんを真正面から見据えて、自分の考えを話すことにした。身体が自由に動かなかったここ数ヶ月、自分の将来について考える時間だけはたくさんあった。そんな時間の中で僕は、人を愛するとは何かということを考えていた。あの戦闘の最中、僕の為に命を投げ出そうとしていた皆さんの姿を思い返し、人を愛するということの意味を知ったような気がした。
そして、自分の全てを捧げてでも、ずっと側にいたいと願う存在に気が付いた。

「ジール?」
「ジール君?」
「ジールさん?」
「ジルジル?」
「ジール殿?」

5人の視線は、僕のいつになく真剣な様子を疑問に思っているのが見て取れた。そんな中、僕は決意を込めてある人物の前にゆっくりと歩み出した。そんな僕の行動に、皆さん固まったまま目を丸くして驚き、いつしか具現化も解かれていた。
僕は動けないでいるその人物の前まで行き、その手を取りながら跪くと、一度大きく深呼吸をしてから口を開いた。

「あなたの事を愛しています。どうかこの先のあなたの人生において、僕がずっと隣に居ることを許してください」

意を決したプロポーズだった。このまま決闘が始まり、混沌とした状況になる前に、自分の意志をハッキリと伝えておきたかったのだ。

「・・・・・・」

僕の眼差しに、その人は何も言えずに固まってしまっていたが、しばらくすると顔を真っ赤に染めながら、幸せそうな笑みを浮かべ、一言だけ返答してくれた。

「は、はい!」

彼女のその表情を、僕は生涯忘れることはない。これから色々と大変な状況に立ち向かわなければならないだろう。僕の決断が、各国の為政者をどう動かす事になるのか想像も出来ないが、彼女と共になら、どんな困難にでも立ち向かっていけると、そう確信している。

そして、その幸せに溢れた笑顔を決して陰らせないようにしようと、僕は密かに心に誓った。


~~~完~~~

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