BloodyHeart

真代 衣織

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嬉しくは……。

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 土産ショップから出たリリアは、店の側で羽月を見付けた。
 両腕に紙袋を下げ、両手に大きな伊勢海老のぬいぐるみを抱えている。
 小走りで駆け寄り、羽月を前に意気揚々と伊勢海老のぬいぐるみを掲げた。
「っじゃーんっ」
「……?」
「あっ、あれ?」
 リリアの予想に反して、羽月は無反応だ。
「じゃーん! じゃんっ、じゃんっ!」
 気を取直し、もう一度ぬいぐるみ掲げ、身体ごと左右に振る。
 滑稽な動きに、羽月は珍しく心の底から笑った。
「ははっ……。くれるのかっ?」
「はい。好きそうだったんで、今日の御礼です」
 やったぁ! 喜んでくれた。
 そう思い、笑顔でリリアはぬいぐるみを手渡した。
 あの部屋は真っ黒だし、丁度良い差し色になりそう。
 リリアは名案のように思った。
 羽月の住まいは、家具も家電もカーテンさえ、黒一色で統一されている。
「お菓子も、いっぱい買いました。皆で食べれますよ」
 リリアは得意げに紙袋を掲げた。
「ありがとな。この後は、これ食いに行くか?」
「えっ⁉︎ これ食べれるんですか?」
「そうだよな。知らないんだったな」
「とっても固そうですよ……」
 不思議そうに言いながら、リリアはぬいぐるみにチョップを入れる。
「殻を剥いて、中身を食うんだ。すっげー美味いぞ」
 片腕に抱えたぬいぐるみを見ながら、羽月は教える。
「ほぇー」
「言い忘れていたが、今日は何時もより可愛いな。服もメイクもよく似合っている」
 欲しくはないプレゼントだったが、リリアの好意と善意、滑稽な姿に久しぶりに心から笑えた。気を良くし、羽月は褒め言葉を口にした。
 すると、リリアに満面の笑顔が咲く。
「嬉しいっ! ありがとうございます。羽月さんも、私服姿カッコいいですっ!」
「もう、五回は聞いたぞ。それ……」
 呆れ気味だが、羽月は楽しそうだった。
 
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