BloodyHeart

真代 衣織

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不協和音

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 主治医は親身になってくれる善良な医師だった。充分な話しを聞けた。まだ勤務中である主治医は病院に戻って行った。
「何か、すげーやるせないッスね。親父は何してんだよっ……」
 犯罪に走るには十分だと旭は感想を抱いた。
「殴り掛からずにはいられない、グズって事だろ」
 率直に答え、羽月は煙草の煙を吐く。
 二人はファミレスの外にある喫煙スペースで一服している。
 だから俺、こっちなんだ。
 声に出す必要もない。旭は分かった。
「誰かが寄り添ってくれていれば、違ったのかな……」
 既に遅いが、そう思わずにはいられない。悔やんでならない境遇だった。
 旭は無念に紫煙を吐く。
「そう上手くいかねぇよ。クズは周りを巻き込むんだ。一人いれば不協和音が轟く」
 想像に容易い境遇が羽月にはあった。
「それは……よく分かりますよ」
 旭にも心当たりがある。
「防衛費より、先に医療に金使えよっ。直ぐ目の前にある命の危機だ!」
 吐き出す様に批判した旭は髪を搔き乱す。
「俺は政治家を減らせばいいと思うぜ。不況になれば、始めにやるのは人件費削減だしよ。百人減らせば、一ヶ月に三億ぐれぇ浮く。そうすりゃ臓器が回って来る迄、人工心臓で持たせられる」
「名案ッスね」
 口を開けて呆然と聞いていた旭は後押しする。
「そういや合コン、伊吹と那智は行けないとして……誰呼ぶんだ?」
 羽月が話題を変える。
「えっと、にいやと、後は空軍の技術部隊に声掛けます。——あぁ、彼女欲しい」
 旭は話題に乗る。切実に言葉を漏らす。
「なら盛り上げるより、聞く側に徹した方がいいな」
「何でッスか?」
「おもしれぇ話ししてくる奴より、くだらねぇ話しすら聞いてくれる奴のが好かれるからだよ」
「あぁ、納得ッス」
 よし、そうしよっと——。
 和んだ空気に亀裂が入る。
 羽月のスマートフォンが鳴った。
「芹沢からだ」
 羽月は電話に出る。
 旭は難しい顔をする。
「相良、明日の夕方空いてるか?」
 何故か芹沢の声は穏やかだ。
「あぁ、空いてますよ」
 羽月も穏やかに発するが、表情には警戒心が散らつく。
「相談があるんだ。吉原の高級ソープに来て欲しい。次いでにプレミアム嬢あててやるからさ。遊んでいけよ」
「あぁ。そいつは楽しみだ」
 答える羽月の眼がギラついた。
「——じゃぁ、明日な」
 店の名前と時刻を伝え、芹沢は電話を切った。
「芹沢組が絡んでいたんですか? 外国マフィアじゃなくて⁉︎」
 動揺に目を見開き、旭は問い質す。
「あぁ、みてぇだな。どうやら俺達は勘違いしていたらしい」
 どうりでサツの動きが遅い訳だ。
 今の電話で、羽月は全容を読み取った。
「勘違いって、なんスか?」
「汚ねぇ裏取引にサツは買われた。俺なら買えねぇよ」
「でも、どうするんスか? サツは承知済みッスよっ」
「三田司令官なら買取不可だ。いい機会がきたんだよ」
 飼ってやるよ。外道共——。
 対峙する宿敵を前に、羽月は物騒な笑みを浮かべている。



注意事項・作品の舞台は国際秩序の乱れた未来です。
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