私の好きの壁とドア

木魔 遥拓

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三十二話『大所帯な打ち上げ』

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 文化祭が終わった翌日。月曜日も振替で休みになるのだからと、打ち上げ兼お泊まりをすることになった。
 時間はお昼過ぎ。場所は七津さんの家。メンバーは私、夢国さん、七津さん、雪菜先輩、命先輩、礼ちゃん。それと、知り合って二日目のはずの志穂ちゃんも来ることになっている。大所帯すぎるので、三回ほど七津さんに確認したがーー
「平気平気~。親戚集まるのと大体同じだから~」
 ーーと、軽く返されてしまった。
 私は最寄りの駅で、初めての四人を待っている。私も二回目だけれど。
 七津さんの家は確かに広かったけれど、全員泊まれるのかな? ほとんど部屋の確認はしてないから肯定も否定もできない。もしカトリさんがあまり良い顔してなかったら、帰らせてもらおう。迷惑はかけたくないし。
「琉歌ー!! へーい!」
 駅前でスマホを確認していると、昨日も聞いたような台詞を叫びながら、駅から飛び出してきた志穂ちゃんに抱きつかれた。大きめのリュックサックを背負っていて、箱が何かが入っているようで硬い動きをしていた。
「おはよう、志穂ちゃん。あれ? こんにちは?」
「バリお昼過ぎだけど、お寝坊しかけたからどっちでもモーマンタイ」
 お寝坊しかけたことはよろしくないなぁ。時間通りだから問題ないと言えばないけれど。北風冷たかったから、志穂ちゃんが暖かい。
 志穂ちゃんも寒いようでコートを羽織っているため、直接の体温はほとんど感じ取れない。熱の伝わり方からして、外ポッケはもちろん、内ポッケにもホッカイロを仕込んでいるのだろう。
「ご到着~。いや~、乗り換えミスっところだった~」
「礼ちゃんいなかったら、命だけ迷子確定だったでしょ」
 志穂ちゃんが一方的に私に身を寄せて暖めてくれていると、残りの三人も到着した。命先輩が来る途中でやらかしかけたようで、雪菜先輩に怒られている。命先輩は礼ちゃんに助けてもらおうとしたが、見事にスルーされている。
 実の姉でも庇えない時は庇えないか。
「こっちです、先輩ー!」
 周りに人がいなかったので、大きな声で三人を呼ぶ。本当は手を振りたいのだが、志穂ちゃんがくっついている関係上、腕が動かせない。ただ、どちらにしろある程度目立つので気づいてもらえそうだ。
「あ、楓亜里沙カエアリ、じゃなくて。志穂琉歌シホリュカコンビ~。寒い中でもあったかそうだね~」
 命先輩の頭の中では、外見的な特徴よりも抱きついているという事実が先に処理されているらしい。訂正を加えて挨拶をすると、自分も寒いからと礼ちゃんにくっついた。雪菜先輩は両の手をコートのポケットにしまっている。
 命先輩たちがこちらに来ると、志穂ちゃんは小都垣姉妹にくっついた。三人団子状態で、礼ちゃんが一番暖かいポジションに置かれている。本人は恥ずかしさで赤くなっている。
「みんな集まりましたし、行きましょうか」
 歩き始めようとすると、小都垣姉妹にくっついていた志穂ちゃんが、私の左腕にくっついた。布越しに触れるカイロが暖かい。私と志穂ちゃん、小都垣姉妹、雪菜先輩の並びで七津さんの家に向かう。駅から出てきて、命先輩にお説教をした後から雪菜先輩が全然話していない。心配になって振り返ると、雪菜先輩と目が合った。しかし、すぐに逸らされてしまった。
 仲間はずれみたいで、嫌な思いさせちゃったかな。
 あとで理由を聞いて謝ろうと思っていると、七津さんの家に到着した。やはり、大きくて周りの家から少し浮いている。
 二回目だけれど、まだちょっと慣れないなぁ。夢国さんにはもう普通に感じたりするのかな。
「でっか。ガチお嬢様かよ、亜里沙。じゃなくて、楓の家か。頭バグんだけど」
「あはは。一日会っただけの印象だとそうだよね」
 半年付き合いがある私も一瞬間違えそうになるけれど。
 七津家初めて組は、志穂ちゃん以外言葉を失っていた。心なしか、礼ちゃんの目はキラキラしている気がする。
「は~い。今出るわね~」
 インターホンを押すと、カトリさんが応答した。少しドタドタと足音が聞こえたあと、ドアがガチャリと開いた。エプロン姿のカトリさんと、前回同様ウルフィがお出迎えしてくれた。
「やば、超美人。胸でっか」
 いつもリアクションと言葉遣いが独特かつオーバーな志穂ちゃんだけれど。時々、中におじさんが入ってるんじゃないかと思うことがある。男の子の趣味にも一定以上の理解があったりするから、正直違和感ないけれど。
 礼ちゃんも目がすごいキラキラしてる。夢国さんの歌った洋楽にも反応していたし、外国に憧れがあるのかな。
「こんにちは。楓の母のカトリです。寒かったでしょ、みんな上がって上がって」
 穏やかなフワフワとした雰囲気のカトリさんに手招きされて、家の中にお邪魔する。ウルフィは私のことを覚えていてくれのか、尻尾をブンブンと振って頭をスリスリとしてきた。
「久しぶり、ウルフィ。今日はお友達がたくさんきてるから、仲良くしてね?」
 そう言って頭を撫でてあげると、一人一人匂いを嗅いで検問を始めた。普通にみんなが触れる中、礼ちゃんだけが少しおっかなびっくりになっていた。それを見かねた命先輩がそっと手を添える。
「怖くないよ~」
 改めて優しく撫でてあげると、ウルフィも満足げに笑った。
 ウルフィの検問を済ませてリビングに入ると、夢国さんがゴールデンレトリーバーのローべと愛介に挟まれてまた眠っていた。麦丸と愛介がプリントされたパーカーを着ている七津さんは唇に手を当てて、起こさないようにとサインを出している。
「料理の邪魔をしないように、二人の相手を頼んだら寝ちゃったんだ~」
 気持ちよさそうに寝ている一人と二匹を、キャットタワーの上から麦丸は監視するように見下ろしている。
「あ、こちら。よろしかったら」
「あらあら、いいの~? ……まあ、ここのどら焼き大好きなの。あとでみんなで食べましょう~。お茶も用意するわね~」
 志穂ちゃんのリュックの中身は菓子折りだったようだ。カトリさんは大人な対応をしたのかと思ったが、嬉しそうにステップまで踏んでいた。こうしてみると、七津さんのお母さんという気がする。
「菓子折りなんて持ってきてたの?」
「姉貴が持ってけって。……渡すものは渡したし~」
 そう言うと志穂ちゃんは、スマホを構えて寝ている夢国さんをいろんな角度から撮影した。七津さんと命先輩もバッチリ写真を撮り、意外にも礼ちゃんまで参加していた。
 友達の寝顔をパパラッチみたいに激写する。なんだろう、このよくわからない光景。
 雪菜先輩は呆然とその様子を眺めている。
「あの、雪菜先輩? 駅で会った時から、その。元気がないような気がするんですけれど。大丈夫ですか?」
「え? ああ、その、えっと。緊張してるからかな」
「緊張、ですか?」
「うん。後輩の家にお邪魔するの、初めてだからさ」
 今日の先輩はどっちなんだろう。志穂ちゃんもカトリさんもいるから、生徒会長として振る舞うのかな。せっかくの休日だから無理はしないで欲しいのだけれど。
「ほら、人のプライベート勝手に撮らないの」
 雪菜先輩の注意に、不服そうにそうにスマホを収める七津さんと命先輩と志穂ちゃん。礼ちゃんは、恥ずかしそうにスマホをしまうと縮こまってしまった。それに気がついたウルフィはそっと寄り添ってくれた。優しいワンちゃんだ。
「ふぁ~……。みなさん、きてましたの? 申し訳ありません、ローべと愛介に挟まれるとつい」
 雪菜先輩の注意で目が覚めた夢国さんは、目を擦りながら体を起こした。よく見ると、ウルフィとローベがプリントされた、七津さんとお揃いのパーカーを着ていた。
「可愛いね、そのパーカー」
「はい。楓さんとのお揃いで、お気に入りですの……」
 まだ意識がハッキリとしていない夢国さんは、普段は口にしてくれないようなことをサラっと口にした。七津さんは余程嬉しいようで、満面の笑みで頬擦りしている。
「あ、楓。洗面所どこ? 私ら、失礼にも手を洗い忘れてるぜ」
「案内するよ~。ローベ、愛介。あーちゃんのこと起こしてあげてね~」
 七津さんに案内されて、ゾロゾロ洗面所をお借りする。夢国さんの寝顔激写がバレるのは、もう少し後になりそうだ。
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