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ラブホに行きませんか?
私、伊角 温子は入浴剤メーカーに研究員として勤めている。
嫌いな後輩だった営業部の水川 誠二と、ばったりスーパー銭湯で出会ったことをきっかけに混浴温泉巡りをする仲に。そして次第に惹かれ合い恋人となった。
混浴温泉で裸の付き合いから始まったのに、恋人になってからは中々キスやその先のことを水川がしてくれないことに焦れていた頃もあったけど。しかし今では混浴温泉やお互いの部屋に行ってお風呂一緒に入って、その、ごにょごにょしたりと仲良くやっている。
そんな楽しい日常を過ごすなか、とある頼み事を水川にするかどうかをここ最近考えている。
「……くこ、ん?………温子さんっ?」
「…………えっ?」
声をかけられて我にかえる。
ガヤガヤとした店内の声や物音。
考え事に集中してしまい目の前の水川の話を聞いていなかった。仕事帰りに飲もうと誘ったのは私なのに。
「ごめん、ちょっと意識他にいってた」
「研究のことですか?入浴剤のこととなると僕のことなんていつもそっちのけですもんね」
「うう、ごめんってば」
「何のこと考えてたんですか?」
ビールのツマミをポリポリ食べながら、気軽な感じで聞かれる。こちらとしては、水川に言うか言わないかかなり迷っていること。うう、どうしよう。
俯いてしまった私に、あれ?と何か真剣なことなのかと心配した水川はグラスを置いて目線を合わせてくる。
ええい、頼んでみて嫌そうだったら冗談だからと撤回すれば良い。勇気を出せ、私!
「あのさ……」
水川の耳元に顔を寄せる。他のお客さんには聞こえないように…
「あのさ………ラブホテル、行かない?」
「ゴホッ!ゴホッ!」
大きく咽せた水川に慌てて水を差し出す。
◆◆◆◆
ことの発端は、ネットサーフィンをしていてたまたま読んだ記事だ。
「噂話ではなかった‼︎」
「都市伝説の温泉、実在‼︎」
「記者が体験した幻の天然温泉の真実‼︎」
というなんとも煽り気味の謳い文句だったが、温泉の記事は網羅しておきたい。「続きを読む」をクリックすると、その幻の温泉とやらの詳細が書かれていた。
なんでも、平時はただのお湯だが、いくつか条件をこなせば素晴らしい効能を持つ温泉に変化するという。
あらゆる体の疲労をたちまち取り除く効能や、筋肉の動きが柔らかくなる効能、荒れている肌がすぐに整う効能、はてはどんなに”ご無沙汰”でも男性の力を取り戻す効能だとか様々である。
一番目に飛び込んできた情報は、その幻の温泉の場所がなんとラブホテルで湧いているということ。
これはラブホ側の宣伝なのでは?と訝しむ。
しかしそれでも読み進めていくうちに温泉の効能の仕組みの説明や用語が、温泉についてよく理解している書き方だと気づく。文末のところにあるライターさんの名前を見ると、あっ!と声が出た。
この人知ってる!というか本も持ってる!有名な温泉ライターで私もすごく参考にさせてもらってる!
この人が幻の温泉と称する温泉。
場所が場所だが………気になるっ!
一応、一応そのラブホテルの場所だけでも知っておこうと住所を見る。
「ち、近い………」
職場から数駅隣ではないか。そういえばあの駅の付近は歓楽街でそういうホテルが立ち並ぶ通りがあったかもしれない。
どうしよう、行きたい。温泉入りたい。
「………という訳で僕を誘ったと」
「はい…」
一通りの事情を話す。気恥ずかしくてまともに水川の顔を見れないが、どういう風に受け取っただろうか。
噂話を信じたことを咎めるだろうか、それともラブホテルに誘うことに何か言うだろうか。
「あーあ、温子さんが誘ってくれるなんて一瞬でも舞い上がった僕の純情を返してほしいです」
「うう、ごめんてば。で、その…………だめ?」
あざといと思いながら、水川の手に軽く手を添えてお願いをしてみる。
はぁぁぁと水川が大きくため息をつく。うう、これはNOだと身構える。
すると意外な答えが返ってきた。
「行きます。温子さん行きたいと思ったら止まらないだろうし、まさか一人で行かせるわけにはいきませんよ。変な奴に絡まれることだってあるんですから。だいたい一人で行けるとこでもないでしょう」
「ホント!?ありがとう!!」
「でも!でもですよ」
「え?」
「正直、しない自信が全くありません。というか研究のためだけに行くなんて嫌です。まだ僕らで行ったこともないのに。デート、の一環ということなら一緒に行きますよ」
しない自信がない、と水川は言うが、こちらだって正直に言ってその自信はない。過去のあれやこれやを思い出しても、たいてい雰囲気にのまれて気持ち良くなって我慢が効かないのは私の方だ。
「デートということで、よろしくお願いします」
「はい、もちろん。楽しみだな」
ニヤニヤと笑う水川にそれを指摘すると、仕方ないじゃないですかと返答が来る。
不思議な温泉に入ること。それに加えて水川とのいつもと違う場所でのデートにも心が躍ってしまう。
嫌いな後輩だった営業部の水川 誠二と、ばったりスーパー銭湯で出会ったことをきっかけに混浴温泉巡りをする仲に。そして次第に惹かれ合い恋人となった。
混浴温泉で裸の付き合いから始まったのに、恋人になってからは中々キスやその先のことを水川がしてくれないことに焦れていた頃もあったけど。しかし今では混浴温泉やお互いの部屋に行ってお風呂一緒に入って、その、ごにょごにょしたりと仲良くやっている。
そんな楽しい日常を過ごすなか、とある頼み事を水川にするかどうかをここ最近考えている。
「……くこ、ん?………温子さんっ?」
「…………えっ?」
声をかけられて我にかえる。
ガヤガヤとした店内の声や物音。
考え事に集中してしまい目の前の水川の話を聞いていなかった。仕事帰りに飲もうと誘ったのは私なのに。
「ごめん、ちょっと意識他にいってた」
「研究のことですか?入浴剤のこととなると僕のことなんていつもそっちのけですもんね」
「うう、ごめんってば」
「何のこと考えてたんですか?」
ビールのツマミをポリポリ食べながら、気軽な感じで聞かれる。こちらとしては、水川に言うか言わないかかなり迷っていること。うう、どうしよう。
俯いてしまった私に、あれ?と何か真剣なことなのかと心配した水川はグラスを置いて目線を合わせてくる。
ええい、頼んでみて嫌そうだったら冗談だからと撤回すれば良い。勇気を出せ、私!
「あのさ……」
水川の耳元に顔を寄せる。他のお客さんには聞こえないように…
「あのさ………ラブホテル、行かない?」
「ゴホッ!ゴホッ!」
大きく咽せた水川に慌てて水を差し出す。
◆◆◆◆
ことの発端は、ネットサーフィンをしていてたまたま読んだ記事だ。
「噂話ではなかった‼︎」
「都市伝説の温泉、実在‼︎」
「記者が体験した幻の天然温泉の真実‼︎」
というなんとも煽り気味の謳い文句だったが、温泉の記事は網羅しておきたい。「続きを読む」をクリックすると、その幻の温泉とやらの詳細が書かれていた。
なんでも、平時はただのお湯だが、いくつか条件をこなせば素晴らしい効能を持つ温泉に変化するという。
あらゆる体の疲労をたちまち取り除く効能や、筋肉の動きが柔らかくなる効能、荒れている肌がすぐに整う効能、はてはどんなに”ご無沙汰”でも男性の力を取り戻す効能だとか様々である。
一番目に飛び込んできた情報は、その幻の温泉の場所がなんとラブホテルで湧いているということ。
これはラブホ側の宣伝なのでは?と訝しむ。
しかしそれでも読み進めていくうちに温泉の効能の仕組みの説明や用語が、温泉についてよく理解している書き方だと気づく。文末のところにあるライターさんの名前を見ると、あっ!と声が出た。
この人知ってる!というか本も持ってる!有名な温泉ライターで私もすごく参考にさせてもらってる!
この人が幻の温泉と称する温泉。
場所が場所だが………気になるっ!
一応、一応そのラブホテルの場所だけでも知っておこうと住所を見る。
「ち、近い………」
職場から数駅隣ではないか。そういえばあの駅の付近は歓楽街でそういうホテルが立ち並ぶ通りがあったかもしれない。
どうしよう、行きたい。温泉入りたい。
「………という訳で僕を誘ったと」
「はい…」
一通りの事情を話す。気恥ずかしくてまともに水川の顔を見れないが、どういう風に受け取っただろうか。
噂話を信じたことを咎めるだろうか、それともラブホテルに誘うことに何か言うだろうか。
「あーあ、温子さんが誘ってくれるなんて一瞬でも舞い上がった僕の純情を返してほしいです」
「うう、ごめんてば。で、その…………だめ?」
あざといと思いながら、水川の手に軽く手を添えてお願いをしてみる。
はぁぁぁと水川が大きくため息をつく。うう、これはNOだと身構える。
すると意外な答えが返ってきた。
「行きます。温子さん行きたいと思ったら止まらないだろうし、まさか一人で行かせるわけにはいきませんよ。変な奴に絡まれることだってあるんですから。だいたい一人で行けるとこでもないでしょう」
「ホント!?ありがとう!!」
「でも!でもですよ」
「え?」
「正直、しない自信が全くありません。というか研究のためだけに行くなんて嫌です。まだ僕らで行ったこともないのに。デート、の一環ということなら一緒に行きますよ」
しない自信がない、と水川は言うが、こちらだって正直に言ってその自信はない。過去のあれやこれやを思い出しても、たいてい雰囲気にのまれて気持ち良くなって我慢が効かないのは私の方だ。
「デートということで、よろしくお願いします」
「はい、もちろん。楽しみだな」
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