仕事でクビになった私と幼馴染の彼

かりえばし

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生首と結婚したい死神

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「これと結婚したいなんてお前は正気なのか?」

私のことを指さして、白髪混じりの男性が頬をひくつかせている。
この人はホオズキの父親で、死神庁の中ではそれなりにお偉い立場にある御仁だった。

ホオズキは父親を睨みつけた。

「俺はユウと結婚するために15年も待ったんだ。死んで人間界との縁が切れたおかげで、幽玄界の一員になった。死神と結婚できる存在になったんだから、別にいいだろ」

ユウというのは私のこと。
ホオズキに名前を呼ばれるまで、自分でも忘れていた名前だ。

「ホオズキ、お前はワシの後継者だ。生首女との結婚を許せるわけがない」

生首女というのも私のこと。
元は人間で五体満足だったけれど、働いていた職場の社長に首を切り落とされて死んだ。

首から下の体がどうなったのか、私は知らない。
覚えていたのは首を切られ時にめちゃくちゃ痛かったことくらいだ。

ホオズキは私が生首でも構わないから結婚してほしいとプロポーズしてくれた。

彼とセカンドライフを楽しむ気満々だった私に、断る理由はなかった。

だからルンルン気分で、お義父様に婚約の報告をしに来ていた。
だけど雲行きが怪しい。

「お義父様、どうして私とホオズキの結婚に反対なさるんですか?」

私が理由を尋ねると、お義父様は大きなため息をついた。

「あなたは生首じゃないか。どうやって夫婦の契りを交わすつもりなんだ?」

その言葉に私はハッとした。
ホオズキも考え込んでしまった。

私はホオズキのことが好きだ。
愛している。
だから愛し合いたいという気持ちもあった。

でも私には首から下の体がない。
移動する時はころころ転がるか、ホオズキに抱えてもらうかしている。

「ユウさんは知らないだろうが、死神は血のつながった子どもに力の一部を譲り渡すことで生きながらえることができるんだ。代々子孫に力を引き継がせていかないと、身体の中に蓄積されたエネルギーが暴発して肉体を木っ端微塵にしてしまうんだよ」

死神は、年齢とともに力が強くなっていくらしい。
満タンのコップに水を注ぎ続けると溢れてしまうように、力が蓄積され続けるとやがて身体から溢れてしまう。

溢れるだけならまだ良かったのに、最終的には身体の内側から力が爆発してしまう。

身体の爆発から逃れる唯一の方法が、子どもに力の一部を譲ることなのだとか。

「ホオズキが木っ端微塵になるのはイヤ…」
「…俺は別にかまわない」

ホオズキは私の頬を愛おしそう撫でながら、複雑な顔をした。

「なんでそんな顔するの?」
「でもユウと愛し合えないのはつらい。俺のすべてをお前の中に注ぎ込んでみたい」
「私も…ホオズキのもので貫かれたい」

私とホオズキが見つめあっていると、お父様がわざとらしく咳払いをした。

「親の前で変な雰囲気を出すな。とにかく、子を宿せない相手との結婚は認められない。どうしてもそばにおきたいのならとめはしないが、子を産んでくれる妻をそばにおけ」

他の女を正妻にして、私のことはペットか愛人として扱えということだ。
ホオズキと他の女が結ばれる姿を見せつけられるのは癪だが、それでホオズキの命が助かるなら私は我慢できるだろう。

今だって、そばにいられるだけで幸せだ。

だけどホオズキはお義父様の提案を鼻で笑った。

「ユウ以外の女を抱くくらいなら木っ端微塵になって肉片になったほうがマシだ。ないなら奪えばいい。ユウにぴったりの体を、俺が見つけてきてやるよ」

私の首から下はもうない。
奪ってくるというのが意味不明だ。
しかし、お義父様はホオズキの言葉の意味を理解しているようだ。

「なるほど。それなら良い身体が出来上がるかもしれん」

「ホオズキ、わかるように説明して。奪うってなんなの?」

ホオズキは、にいっと笑った。

「ユウに合いそうな身体のパーツを集めるんだ。死神が刈り取るのは魂だけじゃない。身体の機能を奪うこともある」

「身体の機能…手や足を動けなくするってこと?」
「ありとあらゆる身体の機能を奪う。死神の黒手帳には、定められた人間の寿命や、手足の寿命なんかも記されてるんだ」

「私の首から下の体を取り戻すことができるの?」

「足りないパーツを集めて、ユウの体にする。そうすれば、俺たちは愛し合うこともできるようになる」

ホオズキはとても悪どい顔をした。
私はそんな彼をみて、ドキンと心臓が跳ね上がったような気がした。

(心臓もないのに変ね…気のせいかしら?)

こうして私とホオズキは、結婚を認めてもらうため…否、肉体的にも愛し合うために身体狩りをはじめることになったのだった。
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