魔王なペットの転生ライフ

花歌

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現実逃避とマイエンジェル

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 数分前。


 朝倉 優馬 あさくら ゆうまは恐怖していた。
 目の前の10にも満たない幼い子供にだ。
 
 だがそれも仕方のない事かもしれない。
 何せいきなり見ず知らずの者にハサミで右腿を刺されたのだ。
 例え子供であっても恐怖でしかない。

 今もジンジンと血が滲み出ており、カバンに入れていた手拭いで応急処置をしたが、痛みと恐怖で理解が追い付かない。

 刺した子供は咄嗟に優馬が突き飛ばしており、数メートル先で倒れこんでいる。が、あまりゆっくりもしていられないだろう。こうしている間にも起き上がろうとしているのだ。

(――なんなんだよ)
 処理しきれない現象に「何故自分が!?」「どうしてこんな目に!?」「こんな所に来なければ」と自身の選択の間違いを探すように今日一日を思い返さずにはいられなかった。

(そもそもあの時――)





 朝の時間密度は高く、夏休みを迎え、真面目に部活に励む少年少女にとっては、休み前とたいして変わりはしないだろう。

 ピピッ、ピピッ、と鳴る目覚まし。幾度かの攻防を行い寝床で粘り、起きてからは朝のニュースを聞きながら朝食をかきこむ。
 食後は部活の準備を行い、何とか作った安らぎの時間で愛すべき愛猫と愛犬を愛でる。
 中学で剣道部に入部している優馬のいつもの日常だ。


(うん、やはりウチの子達は可愛すぎる)


 朝の慌ただしい時間であっても、安らぎの時間だけは必ず確保しなければならない時間だろう。

 
「にゃぁー」

 ウッドデッキに腰を掛け愛犬のブラッシングをしていると、愛猫が優馬の背中に体をすり寄せてくる。
 横でちょこんと、撫でられ待ちをしている愛猫の首元を撫でてやれば、気持ちよさそうに喉をグルグル。もっと撫でてほしいと言わんばかりに頭を上げ、撫でやすい様にしてくるしまつ。

(ウチの子達は天使なのか!?)


 などと時間を忘れ、夢中になって撫でまわしていたのが今朝のこと。
 いつもの様に母に見送られ、優馬は家を後にしていた。

 
 夏休みの部活は、夏休みが始まってからの2週間と、終わる前の2週間の計4週間。
 今は前半の2週目の月曜日。慣れ始めてきたものの、土日休みを挟んだことにより、若干の慣れも振出しに戻った気分だ。

 稽古を終えた後には水分補給をしながら同じ3年の部活仲間2人と無駄話をしていだが、起床から部活を終えるまで特に問題は無かったように思う。
 
 では何が不味かったのか? そもそも今日部活に行かなければとも思いはするが、優馬は無駄話の内容まで事細かに思い出す。
(2人と話した内容からが不味かったんじゃないか?)
 と思ったからだ。

 幼少からの友である眼鏡君。彼がまず優馬に脈略もなく話を振ってきた内容だ。
 聞けば同じクラスの学友が、昨日から家に帰っていないという話だった。

「これは……、事件の匂いがしますね」

 などともう1人の友である爽やかパーマくんが言った事も悪かったに違いない。
 これから事件が起こると言っているようなものではないか。

 そして何より学校を出た後、校門前まで普段迎えに来ることのない愛猫が迎えに来た事を疑問に思うべきだった。何を疑えばいいかは分からないが、とにかく疑うべきだった。
 何せ霧に迷い込む羽目になったのは、抱えていた愛猫が原因なのだから。

 急に霧が濃くなり周囲を覆った際。愛猫が腕の中から飛び降り霧の奥へと消えていったのだ。
 更に愛猫に追いついてみれば、その愛猫に喰われかける始末だ。
 いや、愛猫は偽物だったわけなのだが。

 もしも今日部活に行かなかったなら、学友が変な話題を振ってこなかったのなら。愛猫が、霧が、様々な「もしも」が頭を巡り、再び目の前の幼い子供へと戻る。


(大体10歳位の子供に、ハサミで襲われるってどんな悪夢なんだよ!)


 小さな子供だからと、何の警戒もしていなかったと嘆く優馬。
 助けを呼ぼうと周りを見渡すも、子供以外の人影は動く気配はない。
 ならば周りの人影も信用出来ない。


(どうしようどうしようどうしようどうしよう……)


「もしも」を考えたところで意味もなく、焦りだけが先に立つ。
 当たり前だが時が待ってくれるわけもない。吹き飛ばされ倒れ込んだ男の子が立ち上がり再度ハサミを握り迫ってくる。
 目の前の幼い子供に恐怖し、


「っ――」
 息をのむ。


 目前に血しぶきが飛ぶ。血しぶきに思わず目を逸らし――。
 血しぶきが自分の物ではないことに気付く。

「ふむ……。
 自身のペットと見分けられないとは何とも嘆かわしい事か」

 迫る子供の腕を噛みちぎり、守るように立ちふさがる愛猫「ソラ」がそこにいた。


 ソラの先には襲ってきた幼い子供。幼い子供の右腕を見れば一部の肉がちぎれ、骨が見えている。グロ注意な状態だ。
 にもかかわらず、グルグルと焦点の合っていない目を優馬達に向けながら何の反応も見せない幼い子供を前に、ソラはクククと喉を鳴らす。

 優馬からしてみれば、正直意味が分からない。


「我も目覚めるのが遅かったのだから文句も言えぬか」

 更にソラはカッカッカと声をあげ笑い出す始末だ。


(本当に何なんだよこの状況は――!?)
「って、猫がしゃべった!?」

 思わず叫んでしまい、自分の言葉に驚き口を塞ぐ優馬。

(いやいやいやいや、ありえないだろ? 何でしゃべれるの?)

「カッカッカ、何を驚いているのだ? 獣なのだから喋る者がいても不思議でなかろう?」
「不思議でしかないから!」


 さも当然のように首をかしげるソラ。優馬からしてみれば思わず突っ込みを入れてしまうのも仕方のないことだろう。

(それとも何か? 俺がおかしいのか?
 あまりの摩訶不思議体験に俺がおかしくなったのか? 恐怖と痛みで幻聴が聞こえ――!?)
 絶賛混乱中の最中、更に自身の違和感にも気が付く。


「痛みが無い!?」



 手拭いをほどき、血で汚れた腿をこする。刺されたはずの箇所を確認して、更に混乱する。傷口もなくなっているのだ。


「何を驚いているのだ? 治癒魔法を唱えたのだから痛みも消えるのは至極当然であろう?」


(ほんとにさっきから何を言っているんだよ。治癒魔法? そんなものいつ唱えた? それ以前に猫だぞ!? ――って魔法ってなんだよ!!
 ダメだ、突っ込みどころのオンパレードに頭が追い付かない。
 足の痛みは消えたが、今度は頭が痛くなってきた)


「カッカッカ、そう混乱するでない、そろそろ我の偽物も来てしまうぞ?」


 ソラの言葉に今の状況を思い出す優馬。
(そうだった!)
 と今はとにかく自分の安全を確保しなければならない事を思い出す。何故だか分からないが目の前のソラが、優馬の愛猫のソラであることに間違いはない。

 何故分かるか? 
 それは優馬自身も知りたい事実だった。
 言っていることが意味不明すぎるが、何故だか分かるのだ。分かるのだから仕方がない。
 とりあえず今は自身の身の安全の確保を優先する。

 優馬は再び目の前の危険となる幼い子供へと視線を向ける。
 喋る猫の動揺に注意が避けてしまっていたが、一向に動く気配はない。


(――ん?)

「子供の怪我も治ってる?」


 見るとグロ注意だった傷がいつの間にかに塞がっていた。
 血の跡が残っているため痛々しい印象ではあるが、恐らく優馬と同じで傷痕すら残っていないのだろう。


「それはそうであろう。我も鬼ではない、奴にも治癒魔法を行使した。
 心配するな、奴を支配していた黒くてよく分からないモヤモヤも祓っておいた。
 今はただの子供だ。何れ意識も戻るだろう」


 さも当然のようにソラが説明をする。


「当たり前のように言われても分からないから!
 祓ったって何!? 操られていたってこと?」


 だが正直、説明されたところで理解が追い付かない。


「この霧自体に人を操る魔法……いや、魔法とは異なるが、似た何かが混ざっている。
 我や優馬には無意味であったがな。クックック……」

(笑いながら怖い事を言わないで……って、ん?)

「そうするとさっきの女性もこの子も、周りに見えている人達も、霧のせいでおかしくなってはいるけれど、普通の人には変わりがないってこと?」

 
 霧に入ってからのことを思い返す優馬。
 実を言うと、優馬は子供に襲われる前。ソラの偽物に襲われていた。そして喰われそうになる直前、突如背後から女性に羽交い締めされていたのだ。
 なんとか倒れ込み羽交い締めが緩んだすきに抜け出せることが出来たのだが、恐らく女性も目の前の少年同様操られていたのだろうと結論付ける。


「女性が誰か分からぬが、少なからず目の前の子供は間違いないだろう。だが……」


 言葉を止め、周囲に視線を向けるソラ。
 その視線に嫌な予感を感じる優馬。
 正直確認したくないのだが。

「ふむ、
 ちと面倒になるかもしれんな」
 周りへとソラに合わせて優馬も視線を向ける。


(――ですよね)
 すぐに後悔した。
 いや、優馬も気づかなければもっと後悔することになるのはわかってはいる。
 なにせ周りを囲むように幾つもの影がぞろぞろと蠢いていたのだから。

 周りにいた動く事の無かった人影。それが優馬達に向け歩みを進めている。
 10……いや、20人はいるのではなかろうか?
 今まで見えていた人影以上の人数が優馬達に迫る。
 恐らく、操られている人達は、もれなく先ほどの子供同様グルグルと焦点が合っていないに違いない。

 そして、続けざまの嫌な予感。
 困ったことに、こういう時の嫌な予感というものはやたらと当たるらしい。
「因みに面倒っていうのは……?」
 優馬は目前の状況に唖然としながらも含みのある言葉に、念の為の確認からの再びの後悔。
 

「カッカッカ、魔力切れだ!
 というわけだ、いったん逃げるぞ!!」
「ええええええぇぇぇぇぇ、ってわ!?」


 ソラの答えに思わず絶叫。
 更に、ヒョイと身軽に翔るソラに優馬もそのあとを必死で追いかけようとし、こけたのであった。
 それはもう、見事にこけたのであった。

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