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つづきの話
01(ウルマニ2原作前編) side 正宏
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耳が熱い。朝起きた時から夢見心地でここまで来た。
駅の改札を出ると、雪にぃちゃんが待っていてくれた。片手を上げて、俺を手招きしてくれる。
「雪にぃちゃんっ」
俺は駆け足で雪にぃちゃんの傍まで行き、雪にぃちゃんの前に立った。
心臓が喚いて、落ち着かない。目の前の雪にぃちゃんがあんまりキレイで、可愛くて、雪にぃちゃんを見つめたまま固まってしまった。
「?…まーくん、行こっか?」
俺の顔を下から覗き込んで、俺の腕を雪にぃちゃんが軽く引っ張る。
「あ、うん、うんっ。」
慌てて頷いて、雪にぃちゃんについて行く。
今日は。
初めて、雪にぃちゃんが一人暮らししているアパートに行かせてもらう。
「……」
雪にぃちゃんの横顔を見ていたくて、俺は隣に並んで歩いた。
肌が白くて、真っ黒なサラサラの髪。くりくりした大きな瞳と、リップや口紅をつけているわけでもないのに、紅くて、思わず触ってみたくなるような柔らかそうな唇。
身長は俺の鼻の先くらい。つむじが見える。肩幅が狭いので小柄に見える。
声さえ聞かなければ女の人に見えるかもしれない。
この人は、昔同じ町営住宅でまるで兄弟のように育った、俺の4歳年上の幼馴染み。
今は俺の恋人。
…とは言っても、付き合いはじめたのは先週の金曜日。ほんの一週間前。
小さい頃はずっと一緒にいて、二人で魚釣りに行ったり、隣町の旧鉱山のズリ場(屑石捨て場)に黄銅鉱や孔雀石、水晶とかのキラキラした綺麗な石を採集に行ったり、……ワクワクするような楽しい思い出は、皆そのまま雪にぃちゃんとの思い出。俺は小さな子供の頃から、この人に恋をしていた。
うんと小さい頃は、ただ無邪気に好きでいられて、ずっと傍に居られるんだと思っていたけど、自分が恋をしている事に気付いた時は、男の雪にぃちゃんに恋をするということが、他人に知られてはいけない事なんだと理解出来る歳になっていた。
自分の思いを伝えられないうちに、雪にぃちゃんは高校進学のために他県に出てしまい、俺のうちは家を買って引っ越してしまい…、何年も会っていなかった。
再会したのが先週の木曜日。その翌日の金曜日には恋人同士になった。
付き合いはじめてから会うのは、今日が三回目。
足元がふわふわする。今隣に居られることに現実感が無くて、もしかして自分に都合の良い夢でも見ているんじゃないかと不安になる。
「雪にぃちゃん…っ」
「なぁに?」
返事をしてもらったことに安心して、息を吐いた。
「俺、嬉しい。おとといは親父たちも居たからちょっとしか会えなかったけど、今日は…」
一昨日、俺の家に雪にぃちゃんが夕食を食べに来てくれたときは、親父も母さんも懐かしがって喜んでいた。
もちろん、俺と雪にぃちゃんがもうただの幼馴染みじゃなくなってしまった事は知らない。
俺が中学に上がってから生まれた年の離れた妹の可奈子と弟の大地は初めて会う雪にぃちゃんになついて…というか、まとわりついて離れなくて大変だった。
雪にぃちゃんが帰ろうとすると二人で大泣きして、…なんだか、小さい頃の自分を見るみたいで恥ずかしかった。
「ちゃんとご両親に言ってきた?僕のうちに泊まること。」
もちろん!と俺はブンブン音がしそうなくらい深く頷いた。
可奈子が自分も連れて行けとグズッたけど、冗談じゃない。せっかくの二人の時間を三歳児に邪魔されてたまるか。
プッと雪にぃちゃんが吹き出す。
「うれしいの?」
「うんっ。ゲーム持って来たから、一緒にやろ。」
「この前言ってたやつ?」
「うんっ。」
雪にぃちゃんの手が、隣を歩く俺の頭を撫でた。
「かわいいな。まーくんは。」
今はもう雪にぃちゃんより背の高くなった俺を、いまだに『かわいい』と言ってくれる。
フツウは男に対して言う誉め言葉じゃないとはわかっているけれど、この人に言われるのは、嬉しい。
…かなり、照れるけど。
「でも……まーくん、ゲームするヒマ、無いかも知れないよ?」
どうして?と雪にぃちゃんを見ると、雪にぃちゃんは楽しそうにニコニコしていた。
まだ新しい5階建てのアパートの3階に、雪にぃちゃんの部屋はあった。
エレベーターが無いので、全部階段で登ってきた。
ここに入居するとき、洗濯機やベッドを運び込むのが大変だったと雪にぃちゃんは苦笑していた。
高校時代の友達に手伝わせて、自分で引っ越ししたと聞いて、俺は感心するばかりだった。
階段の幅は1メートルあるかないか。
「ベッド、縦にして運んだの?」
訊くと、雪にぃちゃんが笑いだした。
「まさか。組み立て式だから、パーツ運んでから組み上げたんだよ。」
あ、そうか。
なるほど…。
「適当に座って。ノド渇いたでしょ。牛乳と麦茶どっちがいい?」
1DKの小さな部屋。玄関を入ってすぐにダイニングキッチン。
きれいに片付いている…と言うよりは、あんまり物が無くてさっぱりしている。
小さな丸いガラスのテーブルと、シンプルな黒のワッフル地のリクライニング式の座椅子が2脚あって、ドキッとした。
何で2脚あるの?
座らずにじっとそのイスを見ていると、雪にぃちゃんが、
「新品だからキレイだよー?何で座んないの、まーくんの為に買ったのに。」
「あ、そっか…」
「そう。牛乳と麦茶、どっち?」
「麦茶…。」
他の誰かの為のイスなのかと思った。
雪にぃちゃんは今大学一年生。
顔は女性的だけれどちょっといないくらい美形だし、物腰が柔らかくて性格も温厚で人当たりがよくて、でも自分の意志を貫く行動力とブレない精神的強さを持っている。
考え方も行動もいつも無駄が無くて惚れ惚れするほど。
子供の頃からフルコンタクトの空手をやっていて黒帯を持っている。ぱっと見はわからないけれど服の下の体は全身無駄なく筋肉がついている。
同じ小学校に通っていたので知っている。
学年は違ったけど、その際立った容姿と優秀さで、雪にぃちゃんは有名だったから。
…すごくモテる。子供の頃から。
男でも女でも、雪にぃちゃんと仲良くなりたがる人は多くて、弟のように可愛がってもらっている俺を利用して雪にぃちゃんに取り入ろうとする人間も多かった。
……。今だってきっと。大学にも綺麗な女性(ひと)がたくさんいるだろうし、雪にぃちゃんに恋をしているのは俺だけじゃないと思う。
自分の手を見た。表、裏と交互に。……。男の手だ。
肉がついてなくて細いけど骨ばっているし、ゴツゴツしてて、何よりデカい。
背だって180センチ近くある。雪にぃちゃんより10センチは高い身長。
足も手も俺の方が大きい。
雪にぃちゃんが高校に行って会えなくなるまでは、俺の方が頭1つ分小さかった。いつも雪にぃちゃんを見上げていた俺が、今は立って横に並ぶと雪にぃちゃんのつむじが見える。
…本当に、俺でいいの?
訊いてみたかったけど、口をその形に動かしただけで終わった。
もしダメって言われたら、立ち直れない 。
「はい。麦茶。…?どうかしたの?さっきまであんなに嬉しそうだったのに。」
雪にぃちゃんは急に沈んだ俺に、心配そうに声をかけてくれた。
ダメだ俺。いるかどうかもわかんない誰かに嫉妬して、この優しい人にこんな顔させて。
俺は、独占欲が強いんだと思う。
雪にぃちゃんが中学生の頃付き合っていた彼女にも嫉妬して、雪にぃちゃんを泣いて困らせたことがある。あの頃俺はまだ小学生だったけど、当時から雪にぃちゃんに恋をしていたから。
「わっ」
驚いて、雪にぃちゃんを見た。
「一人暮らしの男の部屋にのこのこついて来たんだから、覚悟は当然出来てるよね?」
ぼーっと考えている間に、俺は仰向けに寝かされ、両手首をフローリングの床の上に押さえ付けられていた。
覚悟?何の…?
俺の上に馬乗りになった雪にぃちゃんはニコニコしていて、俺はどうしてこうなってるのかよく分からなかった。
ぐっと、股間を太股で押し上げられ、やっとわかった。
「ゆ、ゆっ雪にぃちゃん、まだ朝。朝っ。」
「うんそうだね。」
にっこり笑う顔は優しいのに、押さえ付けられた手はびくともしない。
どうしよう……。
本気なのかな。
「俺、男だよ…?」
すぐに、雪にぃちゃんは呆れたような顔をして、
「そんなの、まーくんが2歳の頃から知ってる。」
「でも…」
「でもって何?一週間待ったよ。初めて抱いた日から今日まで。本当は、毎日でも抱きたかった。…でも我慢した。やろうと思えば出来たけど、我慢したんだよ。どうしてだと思う?」
分からなくて、俺は雪にぃちゃんの目から視線を外した。
「まーくんの体が辛いだろうと思ったから。」
……恋人同士になった日、雪にぃちゃんは俺を…
「ほとんど無理矢理だったし、手加減出来なかったし、反省したんだよ。」
最初にキスしたのは俺の方だったけど、その後、雪にぃちゃんは普段の彼からは想像も出来ないような激しさで、俺を抱いた。
俺はあの時、まだそこまで…セックスまでは望んでいなくて、抵抗したら椅子に縛られて……。必死で逃げようとしたけど、力じゃ雪にぃちゃんに敵わなかった。
雪にぃちゃんは、俺のことを、まだうんと小さな子供の頃から抱きたいと思っていたと言った。俺が成長して大きくなるのを待っていたんだと……。
俺はどうしたらいいんだろう。
雪にぃちゃんと抱き合うことは嫌じゃないし、この人を好きな気持ちだけは誰にも負けない。
でも…。
抱かれたい、なんて思ったことは無い。
「まーくん……」
耳と、頬にキスされ、舐められた。…ぞくぞくする。
「……」
ぎゅうっとつむっていた目をゆっくり開けると、雪にぃちゃんと目が合った。
ドキッとした。真剣なカオ…。
「今日は逃げないでね。」
…見透かされてしまったんだろうか。どうにかしてこの状況から逃れたいと思ったこと。
……どうしてこうなるのかな。
俺はもっと、昔みたいにいっぱいいろんな話したり、一緒に遊んだり、ゲームしたり、どこかに出掛けたり…、そういうたわいもないことがしたいのに。
抱き締め合ってキスするだけで、十分幸せなのに。
「…わかんない…っ!!」
言ってから後悔した。もっと小さな声で言えばいいのに、これじゃ、まるで拒絶してるみたいだ。
「…ふぅん。」
雪にぃちゃんの表情が、こわばった。
「じゃあ、わかるようにしてあげる。」
…あ。やだ。
「待って、待って、違っ違うよ、俺っ…」
雪にぃちゃんを押し退けて起き上がろうとしたけど、雪にぃちゃんは俺の右手を掴んでいた手で俺の胸を押さえて、それだけで俺を床に張り付かせてしまった。
「僕を、好きでしょう?」
「好きだけど…っ」
恋人になりたいと思ったのは俺もだけど…。
「放さないから。逃がさないからね。嫌がってもダメだよ。慣れるまで無理矢理でも抱くから。どんなに僕が…。どんなに我慢してきたかまーくんは知らないだろうけど、今までに何年待ったと思ってるの?もう待たない。」
「こんなのヤ、ヤダっ」
掴まれた手首が痛い。押さえ付けられた胸も苦しい。
雪にぃちゃんの方が力が強いことなんて、初めての時に十分思い知った。
「痛いよ、手、放して。好きだからここに来たし、俺だって雪にぃちゃんがしたいことわかってるけど、こ、心の準備が…っ」
「まーくんだって、勃ってるのに?」
「やっ……っ」
また太股でぐいぐいと股間を押し上げられる。
腰に溜る、鈍い快感。
目をつむった。体に力が入る。心臓が飛び出しそうに早く脈を打つ。
「大好きだよ、まーくん。怯えないで。優しくするから。」
優しくなった声に、恐る恐る目を開ける。さっきまでの余裕の無い表情は消え、雪にぃちゃんは柔らかく、ちょっと困ったみたいに微笑んでいる。
「…ごめんね。本当はわかってるんだ。まーくんはただ僕の側に居たいから今ここに居るんだよね?僕とただ昔みたいに遊びたいだけなんだよね?」
俺はコクコクと頷いた。
「やっぱり…。体はこんなに大きくなったのに、まだまだ子供なんだから……。」
軽く溜め息を吐いて、雪にぃちゃんは俺を上から抱き締めた。
「だっこは好きでしょ?」
いたずらっぽく笑う雪にぃちゃんに、緊張が解けた。
「うん…。」
優しく抱き締めてくれて、頭を撫でてくれる。
気持ちいい…。
心地良さに目を閉じると、柔らかくて温かいものが唇に触れる。
雪にぃちゃんの唇。
でもすぐに離れてしまう。俺は物足りなくて、雪にぃちゃんの後頭部に手をまわして、もう一度引き寄せた。
「キスも好きなの?」
「うん…。」
うっとりと返事をして、自分から軽く接吻けた。何度も。
雪にぃちゃんがクスクス笑い出す。
「ほんとに、まーくんは、何もわかってないんだから…」
困ったな、と呟いて、でも笑ってる雪にぃちゃんに俺は安心して、雪にぃちゃんの頭を撫でたり、ほっぺたに音をたててキスしたり、ぎゅうぎゅう抱き締めたりした。
胸の奥からじんわり温かくなってきた。
なんだか嬉しくてじっとしていられない。
雪にぃちゃんは優しくて、いつもちゃんと俺を分かってくれる。
好き、好きと小さな声で繰り返し言っていたら、また頭を撫でられた。雪にぃちゃんの手が俺の頬を両手で包むようにして、またキスをしてくれた。
「あ……」
今度は、口の中に舌が入ってきた。ゆるく口中を舐められ、上顎の内側をくすぐるように舐められる。
背筋がぞわぞわして、頭の中が白くなってきた。
「これも、気持ちいい?」
「…うん…」
「そう。良かった。…可愛いな…。もっとして欲しい?」
「うん…」
返事をすると、またキスしてくれた。さっきよりも、深い。
唇を舌でくすぐられ、甘噛みされる。歯根が痒くなるような鈍くて、でも重い快感。…ムズムズする。体の芯が熱くなって、僅かに身をよじった。雪にぃちゃんの舌は柔らかくなったり固くなったりしながら、俺の口の中をヌルヌルと舐める。
ちゅうっと舌を吸われて、頭の中がジンジンしてきた。
「ん、んーっ。…ん…」
キスをしながら、俺の体をあちこち撫でてくれる雪にぃちゃんの指が気持ち良くて、びくびくと体が撥ねる。
ふふっと笑う声が聞こえたけど、俺はキスの感触に夢中だった。
「まーくん、ベッドに行こうか?」
「うん」
俺は何も考えずに、コクンと頷いた。
「う、…あっっ、ヤダ、もう…っ」
「『もう』なぁに?」
「やめて…、舐めないで…っ」
「恥ずかしいの?」
恥ずかしい。恥ずかしいよ。
尻肉をぐいと掴まれ、割り広げられた。
「おねが…い、やっヤダ~~っっ」
「中、肉色。充血してきたのかな、さっきより赤くなってる。ココに入るんだよ?僕の…」
雪にぃちゃんの吐息がまたそこにかかって、俺は唇をぎゅっと噛んだ。
ぬるぬるした舌が、俺の尻を這い回る。
「ひあっ!!」
何か、中に入ってきた。柔らかいような硬いような、濡れたものが出たり入ったりする。
雪にぃちゃんの、舌。気付いてすぐ、
「ダメっ!汚いよ、病気になるよっ?!」
慌てて叫んだけど、止めてくれない。強烈な快感が、そこから全身を走る。
頭がぼぅっとしてきた。
「あゃ、ゃんん、やっ、あ、あ~~っ」
俺は何かに縋りたくて、枕を抱えこんだ。
寝室のセミダブルのベッドに移動してきてから、うつ伏せに寝るように言われて、それからずっと後ろだけいじられて、舐められてる。
恥ずかしくてたまらない。でも与えられる刺激があんまりにも強い快感なので、抵抗する意志がくじけてしまった。
…知らなかった。そんなところが、こんなに…感じてしまうなんて。
「ひゃあぁっ!ひっ!うぅ~っ!」
にゅるっ、にゅるっと俺の肛門を濡れた舌が出入りする感触。全身がムズ痒くなるような強烈な快感に腰がガクガクしてきて、腿の付け根が痛くなった。
あ、ウソ。
「ヤダぁッもぅ、やめて…っ」
押し寄せる強すぎる快感に逆らえずに、俺は…。
あははっと、雪にぃちゃんが声を上げて笑った。
「おしりだけで射精(だ)しちゃったの?硬くなってないのに、白いのがだらだら出てきたよ…?」
カーッと、頬が熱くなるのを感じた。堪えていた涙が込み上げる。
「イヤ、イヤって言…っダメって、なんか…も、言ったのに…っ」
「僕が悪いの?どうして?気持ちいいことしかしてないでしょ?」
笑いながらそう言われて、ますます辛くなった。逃げ帰りたい。好きな人にこんなみっともない所を見られるのが、辛くてたまらなかった。
頭がくらくらしていたけど、俺はベッドから降りようと思ってシーツに手をついて力を込めた。
少し肩が上がったところで、背中から強い力で押さえ付けられる。
「どこ行くの?逃げちゃダメ。今度は僕の番だよ。」
「…っ、……ひんっ…」
ぼろぼろ涙が出て、自分の顔を両手で覆った。止まらない涙を手の甲で何度も拭う。頭の中が混乱してきて、どうしたらいいのかわからなくなってきた。膝を折って体を丸めた。
雪にぃちゃんがクスクス笑う。俺の背中を撫でながら、
「次に何されるか、わかってる?」
唾液でびしょびしょの肛門を指の腹でぬるぬると撫でられて、体が撥ねてしまう。舌で舐められる程ではないけれど、それに似た感触でまた感じてきて、怖くなった。
「イヤだ~~っ。もう、帰るっ!」
がばっと起き上がって、ベッドを降りた。足がフラついて、膝ががくがくする。脱がされた下着と黒のカーゴパンツを取ろうと手を伸ばした。
「ぅわっ!?」
左腕を掴まれたと思ったら、体がまたベッドの上に引き戻されていた。あんまり強く
引っ張られたので、腕の付け根が痛い。
「どうして逃げるの?恥ずかしい気持ちくらいで僕のことイヤになるの?…まーくんのこと、感じさせたくて一生懸命なだけなのに…。」
じっと俺の目を見て、雪にぃちゃんが言う。悲しそうな表情を見て、胸がズキッと痛んだ。
「勘違いしないで。恥ずかしがらせたくて、いじわるしたくてしてるんじゃないよ。気持ちよくなって欲しいから、感じて欲しいから…。好きじゃなきゃこんなこと、できないよ。……わからない?」
俺はふるふると首を振った。
あんなところ、舐めれるなんて…
「わ、わかる…。ごめんなさい…。」
「もう逃げないって約束してくれる?」
「……うん。」
今一つ自信が無くて小さな声になった。それでも自分に確認するみたいに頷いて顔を上げると、雪にぃちゃんが微笑んだのが見えた。
ほっとした。
雪にぃちゃんが笑っていてくれないと、嬉しそうにしていてくれないと、俺は不安でたまらなくなる。
この人の悲しむところなんて絶対に見たくないと思う。
自分が辛いより、悲しいより、雪にぃちゃんの苦しむところを見たくない。
「僕を、好きでしょう?」
確かめるようにそう訊かれて、ほわ、と胸の奥が温かくなった。
俺の、俺からの愛情を、求めてくれている。
それがわかって、気分が落ち着いた。
「うん。大好き。」
「…怖い?」
「え?」
「正直に言っていいよ。最後までするの、どうしても怖いなら我慢する。」
「……。」
俺は答えられなくて下を向いた。
怖いけど。
怖いけど、でもそれは言いたくない。
「……。」
黙ってしまった俺に、雪にぃちゃんが溜め息を吐く。
「まーくん、手出して。両手。」
固い声色に胸の中がザワザワする。
「あ…」
雪にぃちゃんの機嫌を損ねたことに気付いたけど、どうしたらいいかわからない。頭の中がぐちゃぐちゃに混乱してきた。
子供の頃から、俺はいつもこうだ。
雪にぃちゃんを悲しませることをしてしまったり、機嫌を損ねたりすると、手足が冷たくなってきて混乱して何も考えられなくなって、パニックになってしまう。
身動きできず固まってしまった俺の両手首を雪にぃちゃんが自分の方へ引き寄せた。着ていた黒の長袖のTシャツを脱いで、一つに重ねた俺の両手に上から被せた。余った身頃の部分で包むようにして、両袖をぐるぐるまいて、真ん中で固く拘った。
指の先まで布の中で、固く包まれて、動かせない。
えっ?何で?
呆然と自分の手を眺めた。
「これで『逃げられない理由』が、できたでしょう?」
言われた言葉の意味がわからなくて、雪にぃちゃんを見た。
「言い方変えようか?」
優しい静かな声。だけど、
「僕を言い訳にすればいいよ。僕が縛ったから逃げられない。無理矢理恥ずかしいことされたから、泣いたんだって。」
ものすごく怒っているのだとわかった。
「…どうしてちゃんと、思ってること言わないの。そんなに怯えて、震えてるくせに黙っちゃったのはどうして?僕がどんな『酷いこと』すると思ってるの?」
あ…。
……違う。
間違えた。
怒っているんじゃなくて、傷付けたんだ。
嫌われたくなくて、怖いって言えなかった。でもそれは雪にぃちゃんの為にした判断じゃなくて、俺のため。この人に嫌われるのがイヤで、俺がちゃんと向き合わずに逃げただけ。
悲しそうに目を伏せた雪にぃちゃんに、とにかく謝りたいと思った。
「…ごめんなさい。違う。酷いことなんて思ってない。こ、怖かったんだ。俺…、こんななのに、もうこんなにでかくなっちゃったのに、女のコでもないのに、…雪にぃちゃんが、俺に『したい』ことって…。」
想いをちゃんと伝えたくて言葉を選んでる間に、やっと気付いた。
怖かったのは、行為そのものというよりも…。
俺は男で、こんな体だし、初めは気付かなくても、どこかおかしい所があるかもしれない。
もしそれで嫌われてしまったら…。怯えてしまったのは、自信が無いから。
雪にぃちゃんの、せいじゃない。
逃げることしか考えてなかった、俺が間違ってるんだ。
「…ゆ、雪にぃ、ちゃんっ」
縛られた両手を、雪にぃちゃんに差し出した。
「ごめんなさい…。覚悟決めたから。も、逃げないからっ。」
ぺこっと頭を下げた。
「あげるっ。い、いらないって言われても、あげる。何してもいいから…っ!!」
言ったあと、その姿勢のまま動かなかった。
何分か経って、もう取り返しがつかなかったのかと不安になってきた頃、雪にぃちゃんがプッと吹き出した。
「やっぱり可愛いな。まーくんは。…も、本当、可愛いすぎてメチャクチャにしちゃいそう。」
嬉しそうに弾んだ声を聞いて、どっと力が抜ける。
「いつまでそのままでいるのかなって、もうちょっと見ていたかったけど、あんまりイジメちゃ可哀想だから。…もういいよ。おいで。」
抱き寄せられて、雪にぃちゃんの肩に額をつけた。ふと下を見て、首から上がカァッと熱くなる。
そうだ俺、タンクトップ一丁だったんだ…。
恥ずかしいのと、自分のマヌケぶりが痛いのと…。
うなだれる俺をくっくっと喉で笑って、雪にぃちゃんは俺の頭を撫でてくれた。
END→『雪也編』に続きます。
駅の改札を出ると、雪にぃちゃんが待っていてくれた。片手を上げて、俺を手招きしてくれる。
「雪にぃちゃんっ」
俺は駆け足で雪にぃちゃんの傍まで行き、雪にぃちゃんの前に立った。
心臓が喚いて、落ち着かない。目の前の雪にぃちゃんがあんまりキレイで、可愛くて、雪にぃちゃんを見つめたまま固まってしまった。
「?…まーくん、行こっか?」
俺の顔を下から覗き込んで、俺の腕を雪にぃちゃんが軽く引っ張る。
「あ、うん、うんっ。」
慌てて頷いて、雪にぃちゃんについて行く。
今日は。
初めて、雪にぃちゃんが一人暮らししているアパートに行かせてもらう。
「……」
雪にぃちゃんの横顔を見ていたくて、俺は隣に並んで歩いた。
肌が白くて、真っ黒なサラサラの髪。くりくりした大きな瞳と、リップや口紅をつけているわけでもないのに、紅くて、思わず触ってみたくなるような柔らかそうな唇。
身長は俺の鼻の先くらい。つむじが見える。肩幅が狭いので小柄に見える。
声さえ聞かなければ女の人に見えるかもしれない。
この人は、昔同じ町営住宅でまるで兄弟のように育った、俺の4歳年上の幼馴染み。
今は俺の恋人。
…とは言っても、付き合いはじめたのは先週の金曜日。ほんの一週間前。
小さい頃はずっと一緒にいて、二人で魚釣りに行ったり、隣町の旧鉱山のズリ場(屑石捨て場)に黄銅鉱や孔雀石、水晶とかのキラキラした綺麗な石を採集に行ったり、……ワクワクするような楽しい思い出は、皆そのまま雪にぃちゃんとの思い出。俺は小さな子供の頃から、この人に恋をしていた。
うんと小さい頃は、ただ無邪気に好きでいられて、ずっと傍に居られるんだと思っていたけど、自分が恋をしている事に気付いた時は、男の雪にぃちゃんに恋をするということが、他人に知られてはいけない事なんだと理解出来る歳になっていた。
自分の思いを伝えられないうちに、雪にぃちゃんは高校進学のために他県に出てしまい、俺のうちは家を買って引っ越してしまい…、何年も会っていなかった。
再会したのが先週の木曜日。その翌日の金曜日には恋人同士になった。
付き合いはじめてから会うのは、今日が三回目。
足元がふわふわする。今隣に居られることに現実感が無くて、もしかして自分に都合の良い夢でも見ているんじゃないかと不安になる。
「雪にぃちゃん…っ」
「なぁに?」
返事をしてもらったことに安心して、息を吐いた。
「俺、嬉しい。おとといは親父たちも居たからちょっとしか会えなかったけど、今日は…」
一昨日、俺の家に雪にぃちゃんが夕食を食べに来てくれたときは、親父も母さんも懐かしがって喜んでいた。
もちろん、俺と雪にぃちゃんがもうただの幼馴染みじゃなくなってしまった事は知らない。
俺が中学に上がってから生まれた年の離れた妹の可奈子と弟の大地は初めて会う雪にぃちゃんになついて…というか、まとわりついて離れなくて大変だった。
雪にぃちゃんが帰ろうとすると二人で大泣きして、…なんだか、小さい頃の自分を見るみたいで恥ずかしかった。
「ちゃんとご両親に言ってきた?僕のうちに泊まること。」
もちろん!と俺はブンブン音がしそうなくらい深く頷いた。
可奈子が自分も連れて行けとグズッたけど、冗談じゃない。せっかくの二人の時間を三歳児に邪魔されてたまるか。
プッと雪にぃちゃんが吹き出す。
「うれしいの?」
「うんっ。ゲーム持って来たから、一緒にやろ。」
「この前言ってたやつ?」
「うんっ。」
雪にぃちゃんの手が、隣を歩く俺の頭を撫でた。
「かわいいな。まーくんは。」
今はもう雪にぃちゃんより背の高くなった俺を、いまだに『かわいい』と言ってくれる。
フツウは男に対して言う誉め言葉じゃないとはわかっているけれど、この人に言われるのは、嬉しい。
…かなり、照れるけど。
「でも……まーくん、ゲームするヒマ、無いかも知れないよ?」
どうして?と雪にぃちゃんを見ると、雪にぃちゃんは楽しそうにニコニコしていた。
まだ新しい5階建てのアパートの3階に、雪にぃちゃんの部屋はあった。
エレベーターが無いので、全部階段で登ってきた。
ここに入居するとき、洗濯機やベッドを運び込むのが大変だったと雪にぃちゃんは苦笑していた。
高校時代の友達に手伝わせて、自分で引っ越ししたと聞いて、俺は感心するばかりだった。
階段の幅は1メートルあるかないか。
「ベッド、縦にして運んだの?」
訊くと、雪にぃちゃんが笑いだした。
「まさか。組み立て式だから、パーツ運んでから組み上げたんだよ。」
あ、そうか。
なるほど…。
「適当に座って。ノド渇いたでしょ。牛乳と麦茶どっちがいい?」
1DKの小さな部屋。玄関を入ってすぐにダイニングキッチン。
きれいに片付いている…と言うよりは、あんまり物が無くてさっぱりしている。
小さな丸いガラスのテーブルと、シンプルな黒のワッフル地のリクライニング式の座椅子が2脚あって、ドキッとした。
何で2脚あるの?
座らずにじっとそのイスを見ていると、雪にぃちゃんが、
「新品だからキレイだよー?何で座んないの、まーくんの為に買ったのに。」
「あ、そっか…」
「そう。牛乳と麦茶、どっち?」
「麦茶…。」
他の誰かの為のイスなのかと思った。
雪にぃちゃんは今大学一年生。
顔は女性的だけれどちょっといないくらい美形だし、物腰が柔らかくて性格も温厚で人当たりがよくて、でも自分の意志を貫く行動力とブレない精神的強さを持っている。
考え方も行動もいつも無駄が無くて惚れ惚れするほど。
子供の頃からフルコンタクトの空手をやっていて黒帯を持っている。ぱっと見はわからないけれど服の下の体は全身無駄なく筋肉がついている。
同じ小学校に通っていたので知っている。
学年は違ったけど、その際立った容姿と優秀さで、雪にぃちゃんは有名だったから。
…すごくモテる。子供の頃から。
男でも女でも、雪にぃちゃんと仲良くなりたがる人は多くて、弟のように可愛がってもらっている俺を利用して雪にぃちゃんに取り入ろうとする人間も多かった。
……。今だってきっと。大学にも綺麗な女性(ひと)がたくさんいるだろうし、雪にぃちゃんに恋をしているのは俺だけじゃないと思う。
自分の手を見た。表、裏と交互に。……。男の手だ。
肉がついてなくて細いけど骨ばっているし、ゴツゴツしてて、何よりデカい。
背だって180センチ近くある。雪にぃちゃんより10センチは高い身長。
足も手も俺の方が大きい。
雪にぃちゃんが高校に行って会えなくなるまでは、俺の方が頭1つ分小さかった。いつも雪にぃちゃんを見上げていた俺が、今は立って横に並ぶと雪にぃちゃんのつむじが見える。
…本当に、俺でいいの?
訊いてみたかったけど、口をその形に動かしただけで終わった。
もしダメって言われたら、立ち直れない 。
「はい。麦茶。…?どうかしたの?さっきまであんなに嬉しそうだったのに。」
雪にぃちゃんは急に沈んだ俺に、心配そうに声をかけてくれた。
ダメだ俺。いるかどうかもわかんない誰かに嫉妬して、この優しい人にこんな顔させて。
俺は、独占欲が強いんだと思う。
雪にぃちゃんが中学生の頃付き合っていた彼女にも嫉妬して、雪にぃちゃんを泣いて困らせたことがある。あの頃俺はまだ小学生だったけど、当時から雪にぃちゃんに恋をしていたから。
「わっ」
驚いて、雪にぃちゃんを見た。
「一人暮らしの男の部屋にのこのこついて来たんだから、覚悟は当然出来てるよね?」
ぼーっと考えている間に、俺は仰向けに寝かされ、両手首をフローリングの床の上に押さえ付けられていた。
覚悟?何の…?
俺の上に馬乗りになった雪にぃちゃんはニコニコしていて、俺はどうしてこうなってるのかよく分からなかった。
ぐっと、股間を太股で押し上げられ、やっとわかった。
「ゆ、ゆっ雪にぃちゃん、まだ朝。朝っ。」
「うんそうだね。」
にっこり笑う顔は優しいのに、押さえ付けられた手はびくともしない。
どうしよう……。
本気なのかな。
「俺、男だよ…?」
すぐに、雪にぃちゃんは呆れたような顔をして、
「そんなの、まーくんが2歳の頃から知ってる。」
「でも…」
「でもって何?一週間待ったよ。初めて抱いた日から今日まで。本当は、毎日でも抱きたかった。…でも我慢した。やろうと思えば出来たけど、我慢したんだよ。どうしてだと思う?」
分からなくて、俺は雪にぃちゃんの目から視線を外した。
「まーくんの体が辛いだろうと思ったから。」
……恋人同士になった日、雪にぃちゃんは俺を…
「ほとんど無理矢理だったし、手加減出来なかったし、反省したんだよ。」
最初にキスしたのは俺の方だったけど、その後、雪にぃちゃんは普段の彼からは想像も出来ないような激しさで、俺を抱いた。
俺はあの時、まだそこまで…セックスまでは望んでいなくて、抵抗したら椅子に縛られて……。必死で逃げようとしたけど、力じゃ雪にぃちゃんに敵わなかった。
雪にぃちゃんは、俺のことを、まだうんと小さな子供の頃から抱きたいと思っていたと言った。俺が成長して大きくなるのを待っていたんだと……。
俺はどうしたらいいんだろう。
雪にぃちゃんと抱き合うことは嫌じゃないし、この人を好きな気持ちだけは誰にも負けない。
でも…。
抱かれたい、なんて思ったことは無い。
「まーくん……」
耳と、頬にキスされ、舐められた。…ぞくぞくする。
「……」
ぎゅうっとつむっていた目をゆっくり開けると、雪にぃちゃんと目が合った。
ドキッとした。真剣なカオ…。
「今日は逃げないでね。」
…見透かされてしまったんだろうか。どうにかしてこの状況から逃れたいと思ったこと。
……どうしてこうなるのかな。
俺はもっと、昔みたいにいっぱいいろんな話したり、一緒に遊んだり、ゲームしたり、どこかに出掛けたり…、そういうたわいもないことがしたいのに。
抱き締め合ってキスするだけで、十分幸せなのに。
「…わかんない…っ!!」
言ってから後悔した。もっと小さな声で言えばいいのに、これじゃ、まるで拒絶してるみたいだ。
「…ふぅん。」
雪にぃちゃんの表情が、こわばった。
「じゃあ、わかるようにしてあげる。」
…あ。やだ。
「待って、待って、違っ違うよ、俺っ…」
雪にぃちゃんを押し退けて起き上がろうとしたけど、雪にぃちゃんは俺の右手を掴んでいた手で俺の胸を押さえて、それだけで俺を床に張り付かせてしまった。
「僕を、好きでしょう?」
「好きだけど…っ」
恋人になりたいと思ったのは俺もだけど…。
「放さないから。逃がさないからね。嫌がってもダメだよ。慣れるまで無理矢理でも抱くから。どんなに僕が…。どんなに我慢してきたかまーくんは知らないだろうけど、今までに何年待ったと思ってるの?もう待たない。」
「こんなのヤ、ヤダっ」
掴まれた手首が痛い。押さえ付けられた胸も苦しい。
雪にぃちゃんの方が力が強いことなんて、初めての時に十分思い知った。
「痛いよ、手、放して。好きだからここに来たし、俺だって雪にぃちゃんがしたいことわかってるけど、こ、心の準備が…っ」
「まーくんだって、勃ってるのに?」
「やっ……っ」
また太股でぐいぐいと股間を押し上げられる。
腰に溜る、鈍い快感。
目をつむった。体に力が入る。心臓が飛び出しそうに早く脈を打つ。
「大好きだよ、まーくん。怯えないで。優しくするから。」
優しくなった声に、恐る恐る目を開ける。さっきまでの余裕の無い表情は消え、雪にぃちゃんは柔らかく、ちょっと困ったみたいに微笑んでいる。
「…ごめんね。本当はわかってるんだ。まーくんはただ僕の側に居たいから今ここに居るんだよね?僕とただ昔みたいに遊びたいだけなんだよね?」
俺はコクコクと頷いた。
「やっぱり…。体はこんなに大きくなったのに、まだまだ子供なんだから……。」
軽く溜め息を吐いて、雪にぃちゃんは俺を上から抱き締めた。
「だっこは好きでしょ?」
いたずらっぽく笑う雪にぃちゃんに、緊張が解けた。
「うん…。」
優しく抱き締めてくれて、頭を撫でてくれる。
気持ちいい…。
心地良さに目を閉じると、柔らかくて温かいものが唇に触れる。
雪にぃちゃんの唇。
でもすぐに離れてしまう。俺は物足りなくて、雪にぃちゃんの後頭部に手をまわして、もう一度引き寄せた。
「キスも好きなの?」
「うん…。」
うっとりと返事をして、自分から軽く接吻けた。何度も。
雪にぃちゃんがクスクス笑い出す。
「ほんとに、まーくんは、何もわかってないんだから…」
困ったな、と呟いて、でも笑ってる雪にぃちゃんに俺は安心して、雪にぃちゃんの頭を撫でたり、ほっぺたに音をたててキスしたり、ぎゅうぎゅう抱き締めたりした。
胸の奥からじんわり温かくなってきた。
なんだか嬉しくてじっとしていられない。
雪にぃちゃんは優しくて、いつもちゃんと俺を分かってくれる。
好き、好きと小さな声で繰り返し言っていたら、また頭を撫でられた。雪にぃちゃんの手が俺の頬を両手で包むようにして、またキスをしてくれた。
「あ……」
今度は、口の中に舌が入ってきた。ゆるく口中を舐められ、上顎の内側をくすぐるように舐められる。
背筋がぞわぞわして、頭の中が白くなってきた。
「これも、気持ちいい?」
「…うん…」
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「うん…」
返事をすると、またキスしてくれた。さっきよりも、深い。
唇を舌でくすぐられ、甘噛みされる。歯根が痒くなるような鈍くて、でも重い快感。…ムズムズする。体の芯が熱くなって、僅かに身をよじった。雪にぃちゃんの舌は柔らかくなったり固くなったりしながら、俺の口の中をヌルヌルと舐める。
ちゅうっと舌を吸われて、頭の中がジンジンしてきた。
「ん、んーっ。…ん…」
キスをしながら、俺の体をあちこち撫でてくれる雪にぃちゃんの指が気持ち良くて、びくびくと体が撥ねる。
ふふっと笑う声が聞こえたけど、俺はキスの感触に夢中だった。
「まーくん、ベッドに行こうか?」
「うん」
俺は何も考えずに、コクンと頷いた。
「う、…あっっ、ヤダ、もう…っ」
「『もう』なぁに?」
「やめて…、舐めないで…っ」
「恥ずかしいの?」
恥ずかしい。恥ずかしいよ。
尻肉をぐいと掴まれ、割り広げられた。
「おねが…い、やっヤダ~~っっ」
「中、肉色。充血してきたのかな、さっきより赤くなってる。ココに入るんだよ?僕の…」
雪にぃちゃんの吐息がまたそこにかかって、俺は唇をぎゅっと噛んだ。
ぬるぬるした舌が、俺の尻を這い回る。
「ひあっ!!」
何か、中に入ってきた。柔らかいような硬いような、濡れたものが出たり入ったりする。
雪にぃちゃんの、舌。気付いてすぐ、
「ダメっ!汚いよ、病気になるよっ?!」
慌てて叫んだけど、止めてくれない。強烈な快感が、そこから全身を走る。
頭がぼぅっとしてきた。
「あゃ、ゃんん、やっ、あ、あ~~っ」
俺は何かに縋りたくて、枕を抱えこんだ。
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…知らなかった。そんなところが、こんなに…感じてしまうなんて。
「ひゃあぁっ!ひっ!うぅ~っ!」
にゅるっ、にゅるっと俺の肛門を濡れた舌が出入りする感触。全身がムズ痒くなるような強烈な快感に腰がガクガクしてきて、腿の付け根が痛くなった。
あ、ウソ。
「ヤダぁッもぅ、やめて…っ」
押し寄せる強すぎる快感に逆らえずに、俺は…。
あははっと、雪にぃちゃんが声を上げて笑った。
「おしりだけで射精(だ)しちゃったの?硬くなってないのに、白いのがだらだら出てきたよ…?」
カーッと、頬が熱くなるのを感じた。堪えていた涙が込み上げる。
「イヤ、イヤって言…っダメって、なんか…も、言ったのに…っ」
「僕が悪いの?どうして?気持ちいいことしかしてないでしょ?」
笑いながらそう言われて、ますます辛くなった。逃げ帰りたい。好きな人にこんなみっともない所を見られるのが、辛くてたまらなかった。
頭がくらくらしていたけど、俺はベッドから降りようと思ってシーツに手をついて力を込めた。
少し肩が上がったところで、背中から強い力で押さえ付けられる。
「どこ行くの?逃げちゃダメ。今度は僕の番だよ。」
「…っ、……ひんっ…」
ぼろぼろ涙が出て、自分の顔を両手で覆った。止まらない涙を手の甲で何度も拭う。頭の中が混乱してきて、どうしたらいいのかわからなくなってきた。膝を折って体を丸めた。
雪にぃちゃんがクスクス笑う。俺の背中を撫でながら、
「次に何されるか、わかってる?」
唾液でびしょびしょの肛門を指の腹でぬるぬると撫でられて、体が撥ねてしまう。舌で舐められる程ではないけれど、それに似た感触でまた感じてきて、怖くなった。
「イヤだ~~っ。もう、帰るっ!」
がばっと起き上がって、ベッドを降りた。足がフラついて、膝ががくがくする。脱がされた下着と黒のカーゴパンツを取ろうと手を伸ばした。
「ぅわっ!?」
左腕を掴まれたと思ったら、体がまたベッドの上に引き戻されていた。あんまり強く
引っ張られたので、腕の付け根が痛い。
「どうして逃げるの?恥ずかしい気持ちくらいで僕のことイヤになるの?…まーくんのこと、感じさせたくて一生懸命なだけなのに…。」
じっと俺の目を見て、雪にぃちゃんが言う。悲しそうな表情を見て、胸がズキッと痛んだ。
「勘違いしないで。恥ずかしがらせたくて、いじわるしたくてしてるんじゃないよ。気持ちよくなって欲しいから、感じて欲しいから…。好きじゃなきゃこんなこと、できないよ。……わからない?」
俺はふるふると首を振った。
あんなところ、舐めれるなんて…
「わ、わかる…。ごめんなさい…。」
「もう逃げないって約束してくれる?」
「……うん。」
今一つ自信が無くて小さな声になった。それでも自分に確認するみたいに頷いて顔を上げると、雪にぃちゃんが微笑んだのが見えた。
ほっとした。
雪にぃちゃんが笑っていてくれないと、嬉しそうにしていてくれないと、俺は不安でたまらなくなる。
この人の悲しむところなんて絶対に見たくないと思う。
自分が辛いより、悲しいより、雪にぃちゃんの苦しむところを見たくない。
「僕を、好きでしょう?」
確かめるようにそう訊かれて、ほわ、と胸の奥が温かくなった。
俺の、俺からの愛情を、求めてくれている。
それがわかって、気分が落ち着いた。
「うん。大好き。」
「…怖い?」
「え?」
「正直に言っていいよ。最後までするの、どうしても怖いなら我慢する。」
「……。」
俺は答えられなくて下を向いた。
怖いけど。
怖いけど、でもそれは言いたくない。
「……。」
黙ってしまった俺に、雪にぃちゃんが溜め息を吐く。
「まーくん、手出して。両手。」
固い声色に胸の中がザワザワする。
「あ…」
雪にぃちゃんの機嫌を損ねたことに気付いたけど、どうしたらいいかわからない。頭の中がぐちゃぐちゃに混乱してきた。
子供の頃から、俺はいつもこうだ。
雪にぃちゃんを悲しませることをしてしまったり、機嫌を損ねたりすると、手足が冷たくなってきて混乱して何も考えられなくなって、パニックになってしまう。
身動きできず固まってしまった俺の両手首を雪にぃちゃんが自分の方へ引き寄せた。着ていた黒の長袖のTシャツを脱いで、一つに重ねた俺の両手に上から被せた。余った身頃の部分で包むようにして、両袖をぐるぐるまいて、真ん中で固く拘った。
指の先まで布の中で、固く包まれて、動かせない。
えっ?何で?
呆然と自分の手を眺めた。
「これで『逃げられない理由』が、できたでしょう?」
言われた言葉の意味がわからなくて、雪にぃちゃんを見た。
「言い方変えようか?」
優しい静かな声。だけど、
「僕を言い訳にすればいいよ。僕が縛ったから逃げられない。無理矢理恥ずかしいことされたから、泣いたんだって。」
ものすごく怒っているのだとわかった。
「…どうしてちゃんと、思ってること言わないの。そんなに怯えて、震えてるくせに黙っちゃったのはどうして?僕がどんな『酷いこと』すると思ってるの?」
あ…。
……違う。
間違えた。
怒っているんじゃなくて、傷付けたんだ。
嫌われたくなくて、怖いって言えなかった。でもそれは雪にぃちゃんの為にした判断じゃなくて、俺のため。この人に嫌われるのがイヤで、俺がちゃんと向き合わずに逃げただけ。
悲しそうに目を伏せた雪にぃちゃんに、とにかく謝りたいと思った。
「…ごめんなさい。違う。酷いことなんて思ってない。こ、怖かったんだ。俺…、こんななのに、もうこんなにでかくなっちゃったのに、女のコでもないのに、…雪にぃちゃんが、俺に『したい』ことって…。」
想いをちゃんと伝えたくて言葉を選んでる間に、やっと気付いた。
怖かったのは、行為そのものというよりも…。
俺は男で、こんな体だし、初めは気付かなくても、どこかおかしい所があるかもしれない。
もしそれで嫌われてしまったら…。怯えてしまったのは、自信が無いから。
雪にぃちゃんの、せいじゃない。
逃げることしか考えてなかった、俺が間違ってるんだ。
「…ゆ、雪にぃ、ちゃんっ」
縛られた両手を、雪にぃちゃんに差し出した。
「ごめんなさい…。覚悟決めたから。も、逃げないからっ。」
ぺこっと頭を下げた。
「あげるっ。い、いらないって言われても、あげる。何してもいいから…っ!!」
言ったあと、その姿勢のまま動かなかった。
何分か経って、もう取り返しがつかなかったのかと不安になってきた頃、雪にぃちゃんがプッと吹き出した。
「やっぱり可愛いな。まーくんは。…も、本当、可愛いすぎてメチャクチャにしちゃいそう。」
嬉しそうに弾んだ声を聞いて、どっと力が抜ける。
「いつまでそのままでいるのかなって、もうちょっと見ていたかったけど、あんまりイジメちゃ可哀想だから。…もういいよ。おいで。」
抱き寄せられて、雪にぃちゃんの肩に額をつけた。ふと下を見て、首から上がカァッと熱くなる。
そうだ俺、タンクトップ一丁だったんだ…。
恥ずかしいのと、自分のマヌケぶりが痛いのと…。
うなだれる俺をくっくっと喉で笑って、雪にぃちゃんは俺の頭を撫でてくれた。
END→『雪也編』に続きます。
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