悪役女王に転生したので、悪の限りを尽くします。

月並

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断罪されます。後

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 ミタマは踵を返して、カンナを見た。彼女は満面の笑みをたたえていた。わずかに涙も見える。
「俺の所に刀を持ってきてくれてありがとな、カンナ・シンシュ」
「いいや。それよりお前、本当に額につのの痕、あったんだな」
「うわ見たのか」
 苦虫を嚙み潰したような顔をミタマは浮かべた。それを見てカンナは笑う。何の話か分からず、私はミタマの服を引っ張った。彼はあやすように笑みを向ける。そしてまたカンナとの話に戻った。
「こいつはもらっていくよ」
「この国には住まないのか?」
「ここの国の奴らは、ソバナを殺したいほど憎んでいるだろ」
 カンナはうつむいた。やがて自分を納得させたのか、顔を上げる。視線は私に向いていた。
「すみれ」
 私は頷く。椿つばきの目元に涙が溜まり、その瞳が揺れた。
「お前を置いて死んで、ごめん」
「謝るのは私の方よ、椿。あなたが死んでしまうほど悩んでいたのに、気づいてやれなかった。ごめんなさい」
「そんなの気にしてない」
 椿は私の手を取った。ひどく温かくて、熱いものがこみあげてくる。
「私たち、次に生まれ変わっても、いやその次も、何度だって友達だよ。お前はきっと、最初は拒絶するだろうけど、でも私は諦めないから」
 彼女のしつこさはよく知っている。彼女も、私の冷たさと弱さを知っている。だから多分、椿の言うとおりになるだろう。
「椿、ありがとう」
 手が離れた。名残惜しくて、私はしばらく手を宙に浮かせたままだった。カンナはミタマに向き直る。
「ソバナをよろしく」
「おう」
 ミタマの返事はそれだけだった。それでもカンナは嬉しそうに顔をほころばせた。その目から、一滴涙が落ちる。
 カンナに背を向けて、ミタマは台を下りようとした。
「お、お待ちください白鬼しろおに様! あなた様がおらねば、この国は滅んでしまいます!」
 聖堂の管理人が、頭を低くしたまま悲痛そうな声をあげた。ミタマはそれを一瞥する。
「そんなわけねーだろ。お前たちは俺に言われたからじゃなくて、自分たち自身でこの国を変えると決めて、実行できた。なら他のこともできるさ」
 厳しい顔をしているけれど、その声色は優しい。
「それに俺は白鬼様じゃない。ミタマだ」
 牙を見せて笑うと、ミタマは今度こそ処刑台から下りた。
 彼の足が向かう先へ、人間たちが道を空ける。まるでモーセだ。さしずめ人間の海といったところか。
 彼はその中央を、堂々と歩いて行く。



 城下町の大通りに差し掛かった。人気が全くない。本当に全国民が、私の処刑を見に集まっていたのか。ちょっと呆れた。
 石畳の上を、ミタマがゆっくり歩く。花屋が見えた。
「この辺り、あなたと初めて会ったところね」
「そうだな」
 ミタマも懐かしそうに、ぐるりと見回した。
「ねえ、カンナと喋ってたの、なんだったの? 角の痕がどうとか」
「あー。見たいなら見ていいよ。前髪上げて」
 手を伸ばして、真っ白な前髪をかきあげた。そこには丸い形の、火傷の痕のようなものがあった。
「これが角の痕?」
「うん。渡辺わたなべ椿に話したことがあったんだ。あいつ、よくもまあこんなこと覚えてたな」
「椿といつの間に。というかあなた、やっぱりシロね? いつから前世の記憶があったのよ!」
 頬を膨らませてみせると、ミタマは首を横に振った。
「そんなもん最初からねーよ。これは俺自身の記憶だ。俺が昔体験したことだ」
 一瞬息を止めてしまう。
「あなたとシロは同一人物ってこと?」
「おう」
「えっと、私が死んだ後に、こっちの世界に迷い込んじゃったとか?」
「違う。すみれがいた世界とこの世界は一緒だ。俺だってさすがに異世界にワープとかはできないと思う。したことないし」
 開いた口が塞がらない。めまいまでしてきた。
「何がどうなったらこんな全然違う世界になるのよ!」
「人類が一度滅びかけたらこうなる」
 ケロリとした顔で彼は言う。頭のくらくらがひどくなった。思わず頭を抱える。
「じゃあ、あなたは人類が滅びかけて、それが再興するまで、ずっと生きていたってこと?」
 彼は頷いた。
 その間に、いったいどれだけの時が流れたのだろう。カンパニュラ王国の歴史は300年。建国前に白鬼様が怪物を倒した云々の話があったから……ああもう、想像できない。少し寒くなってきた。
「私が死んだときのこと、覚えてる?」
 それだけ長い時を経たのなら、忘れているかもしれない。そう思って恐る恐る尋ねると、彼は珍しく顔を暗くした。
「あれはきつかった。あの時、お前の言葉を無視して、無理やりついていけば良かったって、何度思ったことか」
 私を抱く腕に、少し力が入ったのを感じる。その顔を見て、私は私の後悔を思い出した。
「あなたが嫌いなんて、嘘よ。ごめんなさい。本当は好きよ、大好き。お葬式から帰ったら、ちゃんと謝ろうと思ってたの。でもこんなに遅くなっちゃった。ごめんね」
「いいんだ。お前がいくら俺を嫌いになろうが、俺にどんな言葉をぶつけてこようが、俺はお前のこと、ずっと好きだから」
 あの時思った通りだ。彼は笑って許してくれた。
 止めようとしたのに、涙が勝手に溢れてきた。ダメだ。私に泣く資格なんてないのに。
「どうしてそんなこと言うのよ。私はワガママで、人間が大嫌いとか平気で言えて、ひどいこともいっぱいできる女よ。嫌われても憎まれても当然で、罰を受けて当然なのよ。あなたから、そんな言葉をもらっていい人間じゃないのよ」
 彼は足を止めた。
「お前は俺の名前を呼んでくれるから」
 呆けて、涙が止まる。
「名前……名前? シロ?」
「違う」
「ミタマ?」
「そう」
 紫色の目が細くなった。
「それは俺の本当の名前だ。お前だけが呼んでくれるんだ」
「……それだけ?」
「それだけ」
 ミタマの顔は真剣だった。だから呆れてしまった。
「あなたってバカなのね。とんだお人好しだわ」
「バカなのは否定せんが、お人好しではないぞ」
 そう言って彼は、いつのまにか目の前にあった、国を守るようにしてそびえたつ壁と、固く閉ざされた門を睨む。
「この先は、俺の記憶のままであれば誰も人は住んでない。獣はいる。が、俺の知っている獣じゃなくなってるかもしれん。つまり未知の領域だ。女王として育てられたお前にとっては、環境は最悪をさらに下回るだろう。これからお前は、そういうところで暮らすんだ。死ぬまでな」
 風が吹いた。白い髪が揺れる。やっぱり彼はお人好しだ。ちゃんと私に罰を与えてくれる。
「でもミタマも一緒なんでしょう? だったら大丈夫だわ。私、あなたがいるなら他に何もいらないもの」
「そんなこと言って、いざ暮らし始めたら、やれ寝床が固いだの、飯がまずいだの言い始めるぞ、お前は」
「言うわ。でも、それはあなたがいるからよ。あなたがいないならそんなワガママ言わない。言えない。真っ先に死んでやる」
 ふふんと鼻を鳴らすと、ミタマは呆れたように微笑んだ。
「じゃあ今度は、何と言われようがお前から離れないようにしねーとな」
「ええ、そうしなさい」
 同じ色の目を合わせて、笑いあった。そして私たちは、ゆっくりと開いた門をくぐって行った。
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みんなの感想(1件)

やなぎ
2022.02.05 やなぎ

ヘロデ大王みたいですね。赤目のヒロイン、大臣の娘だったりして。

そして実は親友がヒロインに転生していて•••とか。
いじめっ子が転生していたバージョンも面白そう。

続き楽しみにしています。

2022.02.06 月並

感想ありがとうございます!
ヘロデ大王を知りませんでしたので調べましたら、なるほど確かに部分的に似てますね。
がんばって続きを更新して参りたいと思います。よろしくお願いします!

解除

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