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▼聖女と対面した
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馬車を下りて、私は校門の前に立った。ここが私の通っている魔法学校である。
門を潜れば、思い思いに歩いていた生徒たちが私を見るなり、蜘蛛の子を散らすように去っていった。
小さくため息をつく。ディアーナ・サンドストレームは本当に嫌われているようだ。まあこんなのは、前世のSNSで私の作品を悪く言う人間たちに噛みついて散々炎上していた私にとっては日常茶飯事のようなものだ。
それにこれから、私の爆モテ人生が幕を開けるのである。よくある悪役令嬢転生もののように、今までの言動を反省してしおらしくするフリでもしておけば、周囲は勝手に「ディアーナ・サンドストレームは改心してから素晴らしい人間になった」と褒めそやすに違いない。
そのために昨夜練った作戦を頭の中で反芻していると、玄関でアイテール・イェーゲルフェルト……この国の王子であり、私の婚約者である男を発見した。ついでに言うと、こいつがのちにディアナ・サンドストレームを断罪する張本人だ。
私はにこりと笑顔を浮かべて、彼に挨拶した。
「おはようございます、アイテール様」
「ああ、おはよう」
アイテール・イェーゲルフェルトも笑顔を浮かべて挨拶を返してきた。しかしその目は全く笑っていない。
ふと彼の隣に、見慣れない女がいることに気付いた。深い紫色の目が、じろりと私を睨んでいる。白い髪はきれいに整えられて、肩の下あたりまで伸びていた。あと胸が大きい。女の私でも思わず見てしまうぐらい。
私の視線に気付いたのか、アイテール・イェーゲルフェルトが口を開いた。
「紹介しよう。彼女はタマヨリ・ミナミオオバヤシ。聖女だ」
聖女という言葉に、周囲がざわついた。私も息を飲む。彼女がこの漫画の主人公。つまり私の宿敵。名前も確かに、あの漫画の主人公のものだ。
だけどこんな容姿だったっけ? もっと頭の中がお花畑みたいな馬鹿みたいな顔をしていた気がするのだけれど。あと日本人らしく黒髪黒目だったような。
疑問に思いながら彼女を凝視していると、私と彼女の間にさっと割って入る人物がいた。聖女の護衛を任された、オグマ・カウッピネンだ。その緑色の目は私を明らかに敵視している。内心でため息をついた。
「聖女様に挨拶もさせてもらえないのかしら? 私、これでもアイテール様の婚約者なのだけれど」
「オグマ、下がりなさい」
アイテール・イェーゲルフェルトが言うと、オグマ・カウッピネンはその通りにした。
原作では、ここでディアーナ・サンドストレームは聖女を牽制してみせた。自分が公爵令嬢であることとアイテール・イェーゲルフェルトの婚約者であることを強調し、聖女だかなんだか知らないが調子に乗るなと脅すのだ。
しかし爆モテを目指す私はそんなことをしない。聖女に向けて、ていねいにカーテシーをして見せた。
「ディアーナ・サンドストレームよ。異世界から来られたと聞いているわ。何かと不便なこともあるでしょうから、どうぞ同性同士、私を頼ってちょうだいね」
聖女は目をぱちくりとさせた。それから、慌てたようにお辞儀をする。
「あ、はい! 南大林玉依です。よろしくお願いします!」
この純朴そうな態度は、間違いなく主人公のものだった。なぜ見た目が全然違うのかという疑問は、一旦横に置いておくことにした。カーテシーをしたときに気付いた、彼女が腰に刀を差していることも。
私は彼女に向けて笑顔を見せると、昨夜練った作戦を実行することにした。題して、『主人公と仲良くしよう大作戦』である。我ながら何のひねりもない。
「私のことは、気軽にディアーナと呼んでちょうだい。あなたのことも……」
私はここで、「タマヨリ」と彼女を呼ぼうと思っていた。名前で呼び合うことで周囲……主にアイテール・イェーゲルフェルトとオグマ・カウッピネンに、主人公と仲良くしたいと思っているアピールをしておこうと思ったのだ。
けれど彼女を見ているうちに、気が変わった。
「あなたのことは、ミタマと呼んでいいかしら?」
聖女の目が、みるみるうちに大きく見開かれた。肯定も否定もせず、私を穴が空くほどに見つめてくる。
私、何か変なことを言ったかしら? 名前じゃなくて、ニックネームにすればもっと仲良くしたいアピールができると思ったのだけれど。それに彼女には、南大林玉依なんて長ったらしくて覚えにくいダサい名前は似合わない。
彼女と私との間に広がる沈黙を見かねたのか、アイテール・イェーゲルフェルトが口を挟んできた。
「ディアーナ、妙な名前をつけるんじゃない」
その時、聖女が我に返った様子を見せた。慌てたように頭を振る。
「いやっ、いえ! 妙じゃありません! とっても素敵な名前です! ディアーナ様、どうぞ私のことはミタマと呼んでください!」
聖女……もといミタマは目を輝かせ、少しばかり頬を上気させながらそう言った。その様子に少し驚いたけど、悪い気はしなかった。むしろなんだか心がときめくような。
そこまで考えて、私は我に返った。いけない。私まで主人公にほだされてどうするのだ。急いで愛想笑いを作る。
「ではミタマ、よろしくね」
「はい!」
彼女が犬だったら、今間違いなく尻尾を激しく振っていそうだった。
門を潜れば、思い思いに歩いていた生徒たちが私を見るなり、蜘蛛の子を散らすように去っていった。
小さくため息をつく。ディアーナ・サンドストレームは本当に嫌われているようだ。まあこんなのは、前世のSNSで私の作品を悪く言う人間たちに噛みついて散々炎上していた私にとっては日常茶飯事のようなものだ。
それにこれから、私の爆モテ人生が幕を開けるのである。よくある悪役令嬢転生もののように、今までの言動を反省してしおらしくするフリでもしておけば、周囲は勝手に「ディアーナ・サンドストレームは改心してから素晴らしい人間になった」と褒めそやすに違いない。
そのために昨夜練った作戦を頭の中で反芻していると、玄関でアイテール・イェーゲルフェルト……この国の王子であり、私の婚約者である男を発見した。ついでに言うと、こいつがのちにディアナ・サンドストレームを断罪する張本人だ。
私はにこりと笑顔を浮かべて、彼に挨拶した。
「おはようございます、アイテール様」
「ああ、おはよう」
アイテール・イェーゲルフェルトも笑顔を浮かべて挨拶を返してきた。しかしその目は全く笑っていない。
ふと彼の隣に、見慣れない女がいることに気付いた。深い紫色の目が、じろりと私を睨んでいる。白い髪はきれいに整えられて、肩の下あたりまで伸びていた。あと胸が大きい。女の私でも思わず見てしまうぐらい。
私の視線に気付いたのか、アイテール・イェーゲルフェルトが口を開いた。
「紹介しよう。彼女はタマヨリ・ミナミオオバヤシ。聖女だ」
聖女という言葉に、周囲がざわついた。私も息を飲む。彼女がこの漫画の主人公。つまり私の宿敵。名前も確かに、あの漫画の主人公のものだ。
だけどこんな容姿だったっけ? もっと頭の中がお花畑みたいな馬鹿みたいな顔をしていた気がするのだけれど。あと日本人らしく黒髪黒目だったような。
疑問に思いながら彼女を凝視していると、私と彼女の間にさっと割って入る人物がいた。聖女の護衛を任された、オグマ・カウッピネンだ。その緑色の目は私を明らかに敵視している。内心でため息をついた。
「聖女様に挨拶もさせてもらえないのかしら? 私、これでもアイテール様の婚約者なのだけれど」
「オグマ、下がりなさい」
アイテール・イェーゲルフェルトが言うと、オグマ・カウッピネンはその通りにした。
原作では、ここでディアーナ・サンドストレームは聖女を牽制してみせた。自分が公爵令嬢であることとアイテール・イェーゲルフェルトの婚約者であることを強調し、聖女だかなんだか知らないが調子に乗るなと脅すのだ。
しかし爆モテを目指す私はそんなことをしない。聖女に向けて、ていねいにカーテシーをして見せた。
「ディアーナ・サンドストレームよ。異世界から来られたと聞いているわ。何かと不便なこともあるでしょうから、どうぞ同性同士、私を頼ってちょうだいね」
聖女は目をぱちくりとさせた。それから、慌てたようにお辞儀をする。
「あ、はい! 南大林玉依です。よろしくお願いします!」
この純朴そうな態度は、間違いなく主人公のものだった。なぜ見た目が全然違うのかという疑問は、一旦横に置いておくことにした。カーテシーをしたときに気付いた、彼女が腰に刀を差していることも。
私は彼女に向けて笑顔を見せると、昨夜練った作戦を実行することにした。題して、『主人公と仲良くしよう大作戦』である。我ながら何のひねりもない。
「私のことは、気軽にディアーナと呼んでちょうだい。あなたのことも……」
私はここで、「タマヨリ」と彼女を呼ぼうと思っていた。名前で呼び合うことで周囲……主にアイテール・イェーゲルフェルトとオグマ・カウッピネンに、主人公と仲良くしたいと思っているアピールをしておこうと思ったのだ。
けれど彼女を見ているうちに、気が変わった。
「あなたのことは、ミタマと呼んでいいかしら?」
聖女の目が、みるみるうちに大きく見開かれた。肯定も否定もせず、私を穴が空くほどに見つめてくる。
私、何か変なことを言ったかしら? 名前じゃなくて、ニックネームにすればもっと仲良くしたいアピールができると思ったのだけれど。それに彼女には、南大林玉依なんて長ったらしくて覚えにくいダサい名前は似合わない。
彼女と私との間に広がる沈黙を見かねたのか、アイテール・イェーゲルフェルトが口を挟んできた。
「ディアーナ、妙な名前をつけるんじゃない」
その時、聖女が我に返った様子を見せた。慌てたように頭を振る。
「いやっ、いえ! 妙じゃありません! とっても素敵な名前です! ディアーナ様、どうぞ私のことはミタマと呼んでください!」
聖女……もといミタマは目を輝かせ、少しばかり頬を上気させながらそう言った。その様子に少し驚いたけど、悪い気はしなかった。むしろなんだか心がときめくような。
そこまで考えて、私は我に返った。いけない。私まで主人公にほだされてどうするのだ。急いで愛想笑いを作る。
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彼女が犬だったら、今間違いなく尻尾を激しく振っていそうだった。
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