大嫌いな漫画の悪役令嬢に転生したので、ヒロインの座を乗っ取ろうと思います!

月並

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▽手を取る相手は決まっている

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 ディアーナが、扉の向こうに広がる闇の中に消えていった。俺はそれを黙って見送ることしかできなかった。
 彼女が三日尻月の時、あれだけ言葉を送ったのに届いていなかったのだ。今の俺が何を言っても、彼女には届かない。

 俺のすぐ後ろで、アイテール・イェーゲルフェルトが短く息を吐く。そして周囲を見回して言った。

「パーティに水を差してすまなかった。さぁ、ここからは銘々楽しんでくれ」

 アイテール・イェーゲルフェルトが目で合図すると、壁際に控えていた音楽隊が曲を奏で始めた。その音につられてか、生徒たちはおずおずと踊り始める。
 俺はアイテール・イェーゲルフェルトに連れられて、会場の端にやってきた。彼は片膝をつき、俺を見上げて手を差し出した。

「タマヨリ、僕ともう一度踊ってくれないか?」

 返事なんてできなかった。喉に鉛でもつっかえているのかと思うぐらいだった。
 そこへ、オグマ・カウッピネンとプルートゥス・サンドストレームもやってきた。そしてアイテール・イェーゲルフェルトと同じポーズを取る。

「タマヨリ、俺と踊れ」
「いいえ、僕と踊ってください」

 口々にそう言われて、目の前がぐらりと揺れたような気がした。
 どうすればいいのか分からない。俺はこいつらの手を取る気はない。こいつらの手を取るべきなのはディアーナだったのに。
 俺はディアーナに幸せになってほしかった。それだけだった。だけどその道は閉ざされてしまった。

 動かない俺を見て何と思ったのか、アイテール・イェーゲルフェルトが慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

「どうした? お前の好きに選んでいいんだぞ。タマヨリは、こちらの都合でこの世界に召喚されてしまったんだ。この先どうするかを、自分で決める権利がある」
「……どうするかを、自分で」
「ああ。誰の手を取れば幸せになれるか、考えるんだ」

 そんなのは分かり切っている。彼女が俺を『ミタマ』と名付けた、あの時から。
 俺はディアーナが出て行った扉を見た。そして言った。

「ごめん、3人とも。私は……いや、俺の幸せは、あいつの傍にいることだ」

 返事を聞かず、俺は駆け出した。ヒール付きの靴は走りづらかったから脱いだ。ドレスも同様だったから、中にこっそり隠していた刀で裁ち切って短くした。
 そして走る。冷気が肌を刺すが、そんなものは全然気にならない。とにかく早く、ディアーナの元へ。


 匂いを辿ると、ディアーナはなぜか森の中に入っていた。もしディアーナの身に何か起きていたら、と想像してぞっとした。急いで中に入る。

 俺が彼女の元に着いた時、彼女の目の前には魔族がいた。彼女が無傷であることに、まずホッとした。
 魔族が彼女に向かってそっと手を差し伸べた。

「怯えないでください。私は貴方の味方です。私は全て見ていました。あなたが努力を重ねたにも関わらず、誰からも見向きをされなかったことを。私と共に来ませんか? 私ならあなたを幸せにできる。あなたの努力を肯定し、あなたの作る物語を、手放しで賞賛することができる」

 魔族の言葉に、俺はちょっとムッとした。ディアーナの努力を肯定し、彼女の物語を賞賛することなら俺だってできる。実際俺はずっとやってきた。

  普段の彼女なら、魔族の甘言には見向きもしなかっただろう。だけど今の彼女の目は虚ろだった。ゆっくりと腕を上げて、魔族の手を取ろうとする。
 俺はその場から飛び出した。そして伸ばされたディアーナの手を掴む。
 ディアーナも魔族も、突然現れた俺に驚いたような目を向けた。魔族のことは無視して、俺はディアーナの目を見た。

「ディアーナ、分かってるだろ、こいつが嘘をついてることぐらい。俺の知ってるディアーナ・サンドストレームなら、こんなやつの言葉なんて一笑に付していた! 三日尻月なら、『馬鹿なことを言わないでちょうだい』って手をはたいていた!」

 ぼんやりと俺を見ていたディアーナの目に、みるみるうちに光が戻ってくる。それは怒りだった。

「馬鹿なこと言ってるのはあなたよ! 私の何を知ってるっていうのよ!? むらくもかすみのファンであるあなたなんかが!」
「違う! 俺は三日尻月のファンだ! むらくもかすみを読んでいたのは、お前が読んでいたからだ! 俺はミタマだ! お前が発表する作品は全部買って読んだ! 誰がなんと言おうと、俺はお前の作品がいちばん好きだった!」
「……ミタマ?」

 ディアーナが目を見張る。その目に星がきらめいたかと思うと、ぼろぼろと涙が零れ始めた。

「ああ、思い出した。そうだ。私の漫画をずっと買って、感想を呟いてくれて、最期までファンレターをくれていた子がいたわ。私はその子にそう名前を付けた。なんで、なんで忘れてたのかしら」

 ディアーナは肩を震わせた。俺は彼女の手を握る力を、少しだけ強くした。

「俺のことを忘れていることには気付いていたよ。俺の言葉は全然届いていなかったんだって、悲しかった。だけど届いてないなら、届くまで言い続ければ良かったんだ。俺は三日尻月の作品が好きだって。俺はお前が大好きだって」

 ディアーナが嗚咽を漏らし始めた。彼女は俺に抱き着くと、胸に顔を押し付けて泣いた。その背中を、俺は優しく撫でる。
 その時、俺の背後から殺気を感じた。反射的に刀を抜いて、振る。

「ぐあっ!」

 そんな声と共に、魔族が青色の血を流して倒れた。魔族は息絶え絶えになりながらも俺を睨む。

「くそっ聖女め、よくも邪魔を……! 彼女が持つ濁った感情は、魔王様復活の魔力にふさわしいものだったのに……!」
「黙れ」

 首を断つと、魔族は黒い霧となって消えた。
 その間にディアーナは落ち着いたようで、俺から離れると涙を拭った。

「ごめんなさい、ミタマ。あなたのこと、それからあなたの言葉を忘れていたこと。私が間違ってた。心無い言葉を投げてくる人なんかよりも、私の作品を面白いって言ってくれる人のことを大事にしなきゃいけなかったのに。だから私には、あなたしかファンがいなかったのよね」

 俯くディアーナに、なんと言葉を掛けようか迷った。だけど彼女は、顔を上げると笑顔を見せた。

「でも、私分かった。あなたが私のファンでいてくれれば、他に何もいらないわ」

 鼻の奥がツンとした。だけど我慢した。ディアーナに泣き顔を晒したくなかった。だってかっこ悪い。
 その代わり、俺は思いついたことを彼女に提案した。

「なぁ、これから一緒に魔王を倒しにいかないか?」
「魔王を?」
「ああ。作中では2年後の復活に合わせて、もっと魔法を練習して、それから封印することになってるだろ? それを今やっちまうんだ、俺とお前で。封印なんかよりも、倒しちまった方が偉業になるだろ?」

 ディアーナはきょとんと目を丸くした後に、悪い笑みを浮かべた。

「それはいいわね。原作を壊すことができるわ。だけど、魔王なんかに勝てるの?」
「勝てる。今なら魔王はまだ復活してないからな。『青天の愛を受け止めて』の内容を知ってる俺とディアーナとなら、復活前の魔王の居場所が分かるだろ?」
「まだ弱ってるところを叩くってことね。ミタマもワルねぇ」
「お前ほどじゃないよ」
「どういうことかしら」

 ディアーナに頬をつねられた。痛い。けど嬉しい。

「さて、それじゃあ早速魔王の元へ行きましょうか。でもその前に……」

 ディアーナは俺の頭のてっぺんからつま先までをジロジロと凝視した後、尋ねた。

「なんであなた、女になってるの? サイン会で会った時は男だったわよね?」

 その質問に、俺は遠い目をするしかなかった。
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