大嫌いな漫画の悪役令嬢に転生したので、ヒロインの座を乗っ取ろうと思います!

月並

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▼幕引き

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 数ヶ月後。私とミタマは王城へと足を運んでいた。
 見上げていると首が痛くなりそうなほど屋根の高い空間に、私たちは案内される。大きな両開きの扉からまっすぐに敷かれた赤絨毯の先には、背もたれの異様に高い玉座がある。そこには国王が座っていて、その両脇にある小ぶりだけど豪華な椅子には、それぞれ王妃とアイテール・イェーゲルフェルトが座っている。
 私とミタマは、その場に片膝をついて頭を下げた。

「よく来てくれた。聖女、タマヨリ・オオバヤシとディアーナ・サンドストレーム。顔を上げて楽にしてほしい」

 国王の言葉で、私たちは立ち上がった。

「よくぞ魔王を倒してくれた。封印のために聖女を召喚したが、まさか討伐してしまうとは正直驚いたが……これで我が国は、二度と魔王の脅威に怯えることはない。魔王が消え去ったことで、魔族も皆滅したしな」

 国王の言葉通り、私たちはあのダンスパーティの夜、本当に魔王を倒しに行った。もちろん服は着替えた。近くの町に立ち寄って、動きやすい古着を購入したのだ。
 ただ私は何もしていない。道中の邪魔をする魔族たちも、まだ復活していない魔王も全部ミタマが倒してしまった。魔法じゃなくて、腰につけた日本刀で。

 国王は私たちを少しばかり眺めた後、続けた。

「救世主となったお前たちに、何か褒美をやりたい。望むものはないか? どんなものでも叶えてやろう」

 私は少しばかり考えた。隣のミタマをちらりと見やる。彼は肩を小さく竦めた。多分、何も思いつかないのだろう。
 私は国王に向き直った。

「でしたら、私を平民にしてください」
「……は?」

 声をあげたのはアイテール・イェーゲルフェルトだった。開いた口が塞がらないといった間抜けなその顔に、噴き出しそうになるのを堪える。

「サンドストレーム家から私の籍を抜いてください。あとミタマも、聖女という肩書きをなくしてください」
「い、いいのかそんなことをして?」

 動揺が丸見えの国王に、私はしっかりと頷く。

「私たちは平民として、ふたりで静かに暮らしたいんです。それには公爵家という肩書きも、聖女という肩書きもどちらも邪魔です。それから私たちが魔王を倒したことは、伏せてください。そこのアイテール殿下の手柄にでもしてください」

 アイテール・イェーゲルフェルトが顔をしかめた。私の提案が彼の機嫌を損ねるだろうことは分かっていた。みんなの前で婚約破棄された意趣返しだとでも受け取ってほしい。
 国王がミタマを見た。

「聖女もそれでいいのか?」
「はい」

 ミタマは平然と頷いた。その平然さは傍から見たら、私とミタマが事前に打ち合わせしていたかのように見えるだろう。
 国王は難しい顔をして、しばらく考え込んでいた。やがて小さくため息をついた。

「……分かった、望みをなんでも叶えると言ったのは私だ。公爵家には私から伝えておこう。王命とあれば拒否もしまい」
「ありがとうございます」

 私は身に沁みついた綺麗なカーテシーをしてみせた。ミタマはお辞儀。


 こうして平民のディアーナとミタマになった私たちは、玉座の前から辞した。
 外へと続く長い廊下を歩いている時、後ろから走ってくる足音が聞こえた。振り向くと、アイテール・イェーゲルフェルトがいた。急いで追いかけてきたらしく、額に汗がにじみ息が上がっている。

「タマヨリ、本当にお前はそれでいいのか? 平民の暮らしは大変だぞ? 聖女として王城で暮らしていた方が、苦労はないぞ?」

 彼は私のことなど眼中にもない様子で、ミタマに声を掛けた。むっとしたけど、ミタマが「大丈夫だ」と言ったので黙っておいてあげた。

「ていうかお前ら、俺のこの姿を見て、よくもまだ『聖女』なんて言えるな」

 呆れたように言うミタマを、私は改めて眺めた。魔王を倒したら、ミタマは男の体に戻ったのだ。彼がなぜこの世界に召喚されて女の体になってしまったのかが分からないように、戻った理由も分からなかった。
 私としては、ミタマがミタマであれば男だろうが女だろうが、どちらでもよかったけれど。そして多分それは、ミタマの前で眉尻を下げている彼も同じ。
 アイテール・イェーゲルフェルトはミタマの手を握った。

「お前が男でも女でも、どちらでも僕の気持ちは変わらない。お前が好きだ。僕がお前を幸せにする。だから……」

 言葉の途中で、ミタマが首を横に振った。そして静かに手をほどく。

「俺はお前の気持ちに答えられない。俺が一緒にいたいのはディアーナだ。ディアーナの手を取ることが、俺の幸せだ」

 アイテール・イェーゲルフェルトの目に涙が滲んだ。それをミタマに見せたくないのか、彼はすぐに後ろを向いてしまった。

「……そうか、分かった。幸せになれよ」

 そのまま振り向かず、アイテール・イェーゲルフェルトは去っていった。その後姿を、ミタマは困ったような顔で見送っていた。
 その腕に、私は自分の腕を絡めた。

「いつまでもよそ見をしないでちょうだい。あなたは私のミタマなんだから」

 頬を膨らませて見せると、ミタマは目を細めた。

「ああ、そうだな」

 そのまま、私たちはお城を後にした。王都の繁華街に向かいながら、ミタマが言う。

「とにかく家を探さねーとだな。あとは仕事」

 私はミタマに絡めた腕の力を、少しだけ強くした。

「仕事なんだけど、私、この世界でも漫画家をしようと思うの。題材は決まってるの。王子の英雄譚。アイテール・イェーゲルフェルトがモデルの主人公が、いかに魔王を倒したかを虚構たっぷりに描くのよ」
「ははァ、そうやってまたアイテール・イェーゲルフェルトに嘘の英雄譚をくっつけようってのか。可哀想だな、あいつも」
「私を婚約破棄したんだから、当然の仕打ちよ」
「そうかなぁ」
「そうよ。できあがったらあなたに真っ先に見せるわ。でも、あのね、売れないかもしれない。漫画なんてない世界だから、読み方をレクチャーするところから始めないといけないし、そもそも受け入れてもらえないかもしれないし。そうしたらミタマに迷惑をかけるだけになるけど……」
「迷惑なんて、俺にならいくらでもかけてくれよ」

 私はミタマを見た。彼は私に向かって、愛おしそうに笑う。

「俺はディアーナが好きなんだ。お前の幸せが、俺の幸せなんだ。だからいくらでもワガママを言ってくれ」

 ミタマが眩しくて、視界がにじんだ。雲ひとつない青天が、私たちの頭上に広がっていた。
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