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転換点
経済戦争
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なにやら最近、前よりも物の値段が上がって生活が苦しくなってきてる、と王都民たちが感じだしていた。
まだ許容範囲だけれど、徐々に不満が燻り始めている。
王都の商人ギルドは、原因はおそらくアレじゃないか?と思い当たりつつ、物価の安定を計る手を打つべきか一時的なものとして放置すべきか、今後の動向を見守りつつも静観をしていた。
一方で、一部の利に聡い商人たちには、それ自体に投機を始める者も出だしていた。
『車輪』と『車軸』━━━━。
物資の流通に欠かせない運搬用貨物馬車の重要なパーツが、いつ頃からか市場で品薄となり、価格が高騰している。
「さすがに全部の買い占めは出来ないぞ?」
車輪生産拠点の村々をチェックした書類を手に、フレンくんがわたしに忠告してきた。
「構わないわ。儲かるかもとなったら、他の人たちも買い込もうとする。そうしたら勝手に値段が釣り上がって、結果的にわたしの望んだ通りになるから」
わたしたちは資金をかき集め、手持ちの商隊を使って車輪の買い占めと高額転売を行ない、刹那的な荒稼ぎを始めていた。
車輪も車軸も消耗品だ。
商隊を動かそうとするなら、絶対に備えておかないといけない。多少高くとも、仕入れねばならない。
わたしたちがいくつかの生産拠点から流通までを堰き止めて市場を絞り、高額な値段を付けて市場に流した分は、全部がおもしろいほど飛ぶように売れた。
その価格高騰に便乗した転売目的の他の商人たちが、わたしたちの商隊の手から漏れた車輪車軸を買い集め、更に法外な値をつけて販売する。
こうなると、転売に手を染めない真っ当な商人たちですら、市場での枯渇を恐れ、必要以上に自社の倉庫に車輪を溜め込むようになった。
当然、これらの価格は高止まりする。
元々安くはないそれが、時には今までの三倍近くの値を付けることもあった。
地方から食糧や物資を運搬するのに、貨物馬車は必需品。
その馬車に必須の車輪と車軸が値上がりするとなると、当たり前に輸送コストが増える。
そのコスト増は市場に流れる商品価格に上乗せされ、消費者の手に届くときには、それまでよりかなり値上がりした価格で卸されるようになった。
「王都民にも迷惑かけてるなぁ」
「それでも許容範囲で済むはずよ。それに、王都の治安維持は王家、しいては宰相であるフェアネス侯爵家の仕事。任せておけばいいわ」
「ひでぇ…」
共犯者のアミーくんがちょっと引いてた。でもそんな心配するほどのことじゃないよ。次の手は打ってあるから。
車輪の転売は第一段階だ。
輸送コストの上がった商人たちは、商品の卸し価格に値上がり分を転嫁するとともに、それをなんとか抑えたいと考えるようになる。
商隊が動くと経費が多くかかってしまうのなら、なるべく動かさないようにしたい。
ラフネスの商隊は車輪の買い占めと併せて、各地の物資も仕入れるようになった。それを王都まで運び、以前の市場売価程度で“商人たちに”卸す。
当初は新参の商隊を訝しんでいた商人たちも、市場を荒らすわけでもなく、ひたすら物資の運搬のみを愚直に担うウチの商隊を、徐々にと受け入れ始めた。
増加する輸送コストと見比べれば、商人ギルドへ直接持ち込むウチから仕入れ、自分たちの利益分を上乗せして市場や担当貴族に販売する方がメリットあると気づいた。
わたしたちの息のかかった商隊は、物資を随時王都まで運搬してくる。
他の商人たちにとっては、増大した輸送コストと仕入れのタイムロス、在庫の保管料を削減出来る。人件費と輸送事故のリスクも回避できる。
物資の購入金額が多少原価より高くとも、それらを考慮すれば十分に儲けが出た。
この仕組みにより、王都の物価はわたしたちの商隊がコントロール出来るようになった。
まだ許容範囲だけれど、徐々に不満が燻り始めている。
王都の商人ギルドは、原因はおそらくアレじゃないか?と思い当たりつつ、物価の安定を計る手を打つべきか一時的なものとして放置すべきか、今後の動向を見守りつつも静観をしていた。
一方で、一部の利に聡い商人たちには、それ自体に投機を始める者も出だしていた。
『車輪』と『車軸』━━━━。
物資の流通に欠かせない運搬用貨物馬車の重要なパーツが、いつ頃からか市場で品薄となり、価格が高騰している。
「さすがに全部の買い占めは出来ないぞ?」
車輪生産拠点の村々をチェックした書類を手に、フレンくんがわたしに忠告してきた。
「構わないわ。儲かるかもとなったら、他の人たちも買い込もうとする。そうしたら勝手に値段が釣り上がって、結果的にわたしの望んだ通りになるから」
わたしたちは資金をかき集め、手持ちの商隊を使って車輪の買い占めと高額転売を行ない、刹那的な荒稼ぎを始めていた。
車輪も車軸も消耗品だ。
商隊を動かそうとするなら、絶対に備えておかないといけない。多少高くとも、仕入れねばならない。
わたしたちがいくつかの生産拠点から流通までを堰き止めて市場を絞り、高額な値段を付けて市場に流した分は、全部がおもしろいほど飛ぶように売れた。
その価格高騰に便乗した転売目的の他の商人たちが、わたしたちの商隊の手から漏れた車輪車軸を買い集め、更に法外な値をつけて販売する。
こうなると、転売に手を染めない真っ当な商人たちですら、市場での枯渇を恐れ、必要以上に自社の倉庫に車輪を溜め込むようになった。
当然、これらの価格は高止まりする。
元々安くはないそれが、時には今までの三倍近くの値を付けることもあった。
地方から食糧や物資を運搬するのに、貨物馬車は必需品。
その馬車に必須の車輪と車軸が値上がりするとなると、当たり前に輸送コストが増える。
そのコスト増は市場に流れる商品価格に上乗せされ、消費者の手に届くときには、それまでよりかなり値上がりした価格で卸されるようになった。
「王都民にも迷惑かけてるなぁ」
「それでも許容範囲で済むはずよ。それに、王都の治安維持は王家、しいては宰相であるフェアネス侯爵家の仕事。任せておけばいいわ」
「ひでぇ…」
共犯者のアミーくんがちょっと引いてた。でもそんな心配するほどのことじゃないよ。次の手は打ってあるから。
車輪の転売は第一段階だ。
輸送コストの上がった商人たちは、商品の卸し価格に値上がり分を転嫁するとともに、それをなんとか抑えたいと考えるようになる。
商隊が動くと経費が多くかかってしまうのなら、なるべく動かさないようにしたい。
ラフネスの商隊は車輪の買い占めと併せて、各地の物資も仕入れるようになった。それを王都まで運び、以前の市場売価程度で“商人たちに”卸す。
当初は新参の商隊を訝しんでいた商人たちも、市場を荒らすわけでもなく、ひたすら物資の運搬のみを愚直に担うウチの商隊を、徐々にと受け入れ始めた。
増加する輸送コストと見比べれば、商人ギルドへ直接持ち込むウチから仕入れ、自分たちの利益分を上乗せして市場や担当貴族に販売する方がメリットあると気づいた。
わたしたちの息のかかった商隊は、物資を随時王都まで運搬してくる。
他の商人たちにとっては、増大した輸送コストと仕入れのタイムロス、在庫の保管料を削減出来る。人件費と輸送事故のリスクも回避できる。
物資の購入金額が多少原価より高くとも、それらを考慮すれば十分に儲けが出た。
この仕組みにより、王都の物価はわたしたちの商隊がコントロール出来るようになった。
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