opposite-オポジット- と真夜中のミュージシャン

植戸優太

文字の大きさ
1 / 1
開花

1話 軋んだ声

しおりを挟む
自分が望んでたことなのに、どこか違くて受け入れられないことってあるだろ。

なんだかむず痒いあの気持ち。そういうことに限ってあと一歩が埋まらないんだ。

俺の話はそんな話。霧に包まれたような話だ。でも俺は必ず、めでたしで終わらせて見せる。


俺は歌手になりたかった。ギター一本持っていればどこでも歌えて、人がすぐ集まっちゃったりして。別にぎゅうぎゅうにされたって構わない。とにかく大スターになりたかったんだ。

「おーいそうまくーん 今日も音痴聴かせてくれるんだろ」
「そうそう今日も俺らに自信与えてくれるんだろ~」

これが現実だ。歌手を目指す専門学校のクラスメイトにそう言われながら肩を組まれる俺は北川走馬。走ってた方が良さそうだろ?

「来週の実技テスト、去年結構落第者多かったみたいだぜ。」
そう言ってくるのは渡邊一馬だ。数字の一なんかつけちゃって、俺より優等生みたいなのが名前だけで見せつけられてるみたいだ。新手の嫌がらせだ。

走馬は不貞腐れたように返す。
「俺みたいなのは一発退場確定してるぞって教えにきてくれたんだ、どうもね~。」

自慢げに一馬は返した。
「いやそれがさ、めっちゃうまくたってダメなこともあるらしいぜ。感情が乗ってないだか、歌詞の意味を汲み取れてないだか、最初から落とす前提で見られてるみたいに難癖つけてくるんだってさ。」

「それは先生の言ってることの方が正しいわけだから、それを課題として出されてる俺たちはできないと落とされるのも当然だろ。」

一馬は目を見開いた
「かあー始まったよいいこぶりっこめ。まぁ確かにお前は落第決定だからいいけどな!」

友人なんだかいじめ いじめられの関係なんだか、さっぱりだが言いたいことは言ってったみたいだ。

とはいえ黙ってられない。俺はいつも以上の猛特訓を始めた。

来る日も来る日もカラオケで自分の軋むような声と向かい合った。5日後、まだ声は軋んでた。

なぜこれで音楽の学校なんかに入れたのか。それはギターだ。歌うだけが音楽じゃない。何人かで組んで、ギター担当をやるのも立派な音楽だ。俺はギターの才能を認められて入学できたんだ。だからギターの面では心配してない。歌声が肝心だ。

なんでそんなにボーカルにこだわるのか?簡単さ。一番前に立ってたいんだ。サッカーじゃストライカー、バスケなんかじゃダンクしまくりのフォワード、野球じゃ速い球を投げる豪快なピッチャー。そんなところだ。

課題曲や何を担当するかなどは当日決めて良いから、落第を魔逃れるために当日ギターへ切り替えるのもありだ。これだからテストの日だけは馬鹿にされない。それで辛うじて人と繋がれているのだろうか。

そんな俺を何もかも良く見せてくれるギターには申し訳ないが、それでもボーカルにこだわりたい。

とはいえあと数日で歌声が良くなるなんて話でもない。

5日目のカラオケから帰ってきた日の夜中
「とりあえず今回もギターだな。」
そう独り言を吐き捨てて、音楽に浸ろうとイヤホンをつけて眠りについた。

次の日の朝、異変は学校に着いて気づいた。

昨日の深夜、とても歌がうまい無名の人の動画が話題になった。それは俺だった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

処理中です...