1875

ジャメヴ

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12

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  俺は右手を軽く挙げて、ヨツバの部屋を出た。1階を見ると男性が居る。多分、さっき風呂で出会った男だと思う。当然、髪の毛は逆立っていないし、白のティーシャツとハーフパンツに着替えていて、誰だか分からない。彼はキッチンに入った。ふと左を見ると、マッチョのササキが階段を上って来ていた。
「ササキさん、風呂入らないんですか?」
「ああ、俺いつも風呂に入るのは遅いんだ。まあ、皆が入った後でゆっくり入るよ」
「そうなんですね。俺、ササキさんからローストビーフの話聞いたんで、お先にローストビーフ食べました」
「ハハハ。俺も今食べてきたよ。旨かったな」
「ですね。久々に旨い肉食べました」
「まあ、無人島生活は長いから堪能しようぜ」
「そうですね」
「じゃあ」
マッチョのササキは、俺に背を向けてから、右手を軽く振った。話し方に余裕があるし、俺より少し歳上なのかもしれない。だけど、顔はほとんど同じだ。少し彼の方が色黒ってだけだろう。マッチョのササキは振り返ること無く部屋に入った。あと話をしていないのはサングラスにマスクの男と、進行役の男の隣の部屋の人だけだ。部屋に行って無理やり話をしても良いけど・・・。もしかしたら食堂にいるかもしれないと思い、俺は食堂へ向かった。
  一応ノックをして食堂に入る。正面の時計が目に入った。午後8時半だ。食堂には誰もいない。俺は、今からすべき事を考えようと椅子に座った。1875の謎については既に諦めムードだ。西京大生2人が分からない問題を俺なんかが解ける訳も無い。しなければならないのは、別の角度からのアプローチ。今、1つ思い付いているのは、進行役の部屋へ話をしに行くという事。1日1回は回答を言えて、零時になるとリセットされると言っていたから、それを使わない手は無い。進行役と話が出来れば、何かヒントを得られるかもしれないし、ポロッと失言する可能性だってある。で、どうすればヒントを貰えるかを思い付いた。もし、自分が進行役だったらと置き換えてみて、全くトンチンカンな事を言うやつがいたら、どうせコイツなんて分からないだろうと、ポロッとヒントを言ってしまうかもしれない。それに賭けてみる価値はある。俺は食堂を出て進行役の部屋へ向かう。
  「F」。ファシリテーターか何か知らないけど、その紙の上からノックする。
コンコンコン
「どうぞ」
思ったより早く返事が帰って来た。
ガチャ
開いた。鍵は閉めて無かったんだなと思いながら部屋に入る。
「失礼します」
何か面接でも受けるような感覚だ。少し緊張してきた。部屋の中を見ると、進行役が机に向かいながら椅子に座っていて、椅子を少し回転させ、やや斜めにこちらを向いた。部屋の中なのに濃いサングラスと白いマスクを付けたままだ。顔を見られたらダメなんだろうか? 俺は進行役を見ながらドアを閉めた。
「答え分かった?」
軽い。友達か! と突っ込みたくなるような話し方だ。
「これかなぁってのが思い付いたんで来てみました。別に間違っても良いんですよね?」
  「良いよ。零時でリセットされるから、なんだったら明日も間違って大丈夫」
「良かったです。これってヒントとか無いんですか? 12時間毎に何か起こったり・・・」
「今のところ考えてないよ。絶対1億円渡さないとダメって話じゃ無いからね。誰も分からなかったらそのまま解散だね」
「そうなんですね・・・」
「で、答えは?」
俺は少しためてから話し出す。
「1875は、い・や・な・事。これから何か嫌な事が起こると思うんです。何かドッキリ的な・・・」
「・・・」
5秒程沈黙が流れた。そして、進行役の彼は、マスク越しでも分かるぐらいのため息をついた後、話す。
「全然違う。全くかすりもしてないよ」
「そうですか~」
俺は分かりやすくガッカリした態度を見せた。
「まあ、折角来てくれたからヒントぐらいあげるよ」
「ホントですか?」
「たいしてヒントになるとも思えないけどね。ヒントはジュウニ」
「12?」
「そう、12。他の人に言ってくれても良いし、別に言わなくても良い。まあ、最初に答えてくれたお礼だな」
「あ、あと、『F』ってヒントになってるんですか?」
「一応ヒントにはなってるけど、『F』から始まる文字なんて一杯あるからね。まあ、ヒントはこれぐらいにしとこう。じゃあ、また考えて来て」
「ありがとうございます。失礼します」
俺は2回礼をしてから部屋を出た。
  やった! 作戦通りだ。やっぱり、俺を馬鹿だと思って・・・まあ、実際、賢くは無いんだけど・・・。俺にはヨツバってブレーンがいるのも知らずに、2つもヒントをくれた。よし、早速ヨツバの部屋へ行こう。
  俺は階段を上り、ヨツバの部屋をノックする。
コンコンコン
「はい」
「双六です」
しばらくしてドアが開いた。
「どうぞ」
「お邪魔します」
俺がヨツバの部屋に入ろうとした時、ガチャっと、どこかのドアが開いた音がしたけど、気にせず部屋に入る。
「どうしたの?」
「今、進行役の人の部屋に行って来たんだ」
「へー、それで?」
ヨツバの目が輝いた。何かヒントっぽいものを聞いてきたんじゃないかという期待の眼差しだ。
「12だってさ」
「12?」
「それがヒントだって」
「12か・・・」
「あと、『F』もヒントだって言ってた」
「『F』も?! ・・・双六君凄いね。そんなに引き出せるなんて」
「まあね、俺も何か役にたたないと悪いから。問題の答えは出せそうに無いからね」
「1875、12、F・・・。水兵リーベ僕の船・・・フッ素は9番目ね。7曲・・・12番目はマグネシウムか・・・。考えるわ、ありがとう」
ヨツバは12と「F」を元素記号に関係があるかもしれないと思ったようだけど、どうも違うようだ。
「じゃあ、俺は部屋に戻るよ」
「うん」
俺はノブに手を掛けた後、ヨツバに手を振った。
「じゃあね」
ヨツバもニッコリ微笑んで手を振り返す。俺はヨツバの部屋を出て、自分の部屋に入って思う。可愛い!  ヨツバはヒントを貰って、明らかに好意的な顔になった。俺はベッドに横たわり、ニンマリしながら今後の行動を考える。
  取り敢えず、今日は早めに寝るかな。色々出来事があって疲れたしな。あっ!  部屋割りでも書いておこう。
  メモ帳を1枚破り、間取り図を書く。
  奥から、マッチョの佐々木、いや笹木か?  まあ、片仮名で良いか。次がサングラスにマスク・・・次が髪の毛逆立て・・・明日も逆立ててくれないと分からないな。まあ、別に分からなくても問題ないか。で、次が食堂・・・ヨツバ・・・俺・・・七音・・・トイレ・・・階段・・・トイレ・・・進行役・・・あっ! ここは結局何の部屋だ? 空室なのか? 「謎」にしとこう。で、キッチン・・・洗面・・・更衣室・・・風呂・・・玄関・・・。オッケー、出来た。よし、今日はもう寝るか。
  俺は歯磨きのセットをカバンから取り出し、部屋を出て鍵を閉めた。階段を下りて、進行役の隣の部屋の前に立ちノックする。一応、本当に空室かどうかの確認の為だ。
コンコンコン
・・・反応が無い。
ガチャガッ・・・
やっぱり開かない。まあ、謎のままで良いだろう。
  俺は歯を磨き、部屋に戻って鍵を閉め、テレビを付けた。特に何か見たいという訳では無く、時刻の確認だ。午後9時半を確認し、テレビと照明を消し、ベッドに入った。
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