1875

ジャメヴ

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白銀比

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  俺と七音は、頭と身体を洗い、浴槽に浸かった。銭湯程ではないけど、広い湯船だ。5人ぐらいなら並んで入れる。お湯は出しっぱなしになっている。3日間出しっぱなしなんだろうか? もしかして温泉か? 自分の家の事でも無いのに、何かもったいない気持ちがするのは、俺が貧乏性だからなんだろうか? 七音の方を見ると完全にくつろいでいる。七音は、ふーっと息を吐いた後、話す。
「双六は白銀比って知ってる?」
「白銀比?  黄金比なら聞いた事あるけど」
「まあ、似たようなもんだよ。黄金比は縦と横の比が1対2分の1+ルート5の長方形で、正方形を切り取ると、同じ比の長方形が出来るっていう美しい形。それに対して、白銀比は縦と横の比が1対ルート2の長方形で、半分に折った形が同じ比の長方形になるんだ。A3の紙を二つに折るとA4の紙と同じになるってやつ」
「なるほど。それで?」
「1875って数も何か似たような感じがあるんだ。まあ、白銀比程では無いけどね。俺は理系だから取り敢えず素因数分解をしてみたんだ。すると、3×5の4乗になる。625の2倍が1250で、足すと1875になる。625、1250、2500、5000、10000・・・。綺麗な数だろ? この並びは偶然とも思えない」
「なるほど・・・。じゃあ、七音は歴史的な問題では無くて、数学的な問題と睨んでるんだな」
「いや、歴史的な問題の可能性もあるけど、数学的な視点から攻めないと解けない問題だと思う」

  俺達は風呂から上がり、俺は身体を拭きながら考える。俺はヨツバにつくべきなのか、七音につくべきなのか・・・。どちらも、頭の良い西京大生で得意分野は歴史対数学。当然、賞金を貰える確率を上げるには、2人には黙って良いとこ取りをすれば良いけど、それは、あまりにズルい。根本と盛田の事を考えると、何がなんでも勝ちに行かないといけない気もするけど、ここは先にチームの約束をしたヨツバ側につこう。
  俺と七音が更衣室を出ると、洗面台には、髪の毛を少し逆立てた男性がいた。確かに俺によく似た顔だ。俺は軽く会釈すると、彼も会釈をした。話をしたいけど、今は、七音がいるので、七音の動向を確認する為に、黙って時間を潰す。試供品の化粧水がカバンに入ってあったので、普段は化粧水などつけないけど、鏡を見ながらつけてみる。
「えっ?!  兄弟?」
彼は俺と七音の顔を見て、驚いたように言った。普段なら俺が先に対応するけど、七音との会話が聞きたいと思い、黙って七音を見つめる。
「いや、兄弟じゃ無いんですけどね。昔からよく似ているって言われるんですよ」
「昔から?!  知り合い?」
「そうなんです。小学校の同級生で。卒業以来の再会なんですよ」
「へー。凄い偶然だな。あ、そう言えば、1875って何か分かった?」
「えーっと、1875年に福沢諭吉が『学問のすすめ』で・・・いや、分かっても言わないけどね!」
「ハハハ、ちっ!  惜しかったな」
「まあ、まだヒントが足りてないです」
「そうか。せめてスマホがあれば調べられるのにな」
「そうですね」
「まあ、何か分かったらヒントぐらい教えてくれよな」
「ハハハ、じゃあまた」
「ではでは」
男性は更衣室に入った。意外だった。七音がこんなに社交的だとは。確かに、小学生の頃は誰にでも話す、明るい性格だったけど、今でも変わらないとは・・・。
「じゃあ、俺、部屋に戻るよ」
七音は右手を挙げながら言った。
「あ、俺も。あっ!  アイス部屋で食べよう。タダだしな」
「じゃあ、俺は飲み物を」
俺はキッチンでアイスとオレンジジュースを取った。七音も何か飲み物を取り、部屋を出た。階段を上り切り、最初の部屋が気になったので、七音に聞く。
「ここって誰かの部屋?」
「いや、トイレ。で、次が俺の部屋」
俺は頷きながら七音の説明を聞く。
「で、次は双六の部屋?」
「そうそう」
「なるほど。で、次は女性の部屋」
もちろん、俺はヨツバの部屋だと知っているけど、取り敢えず知らない振りをした。七音は右手人差し指で示しながら続ける。
「で、次がさっき風呂で出会った人。その次が食堂。次がサングラスにマスクの人。で、次がマッチョな人」
「よく分かったよ、ありがとう」
「じゃあ、俺は1875の謎を部屋でゆっくり考えるよ」
「分かった。じゃあ、また後で」
七音が部屋に入るのを見て、俺は自分の部屋に入った。ベッドに腰掛け、アイスを食べながら考える。
  625、1250、2500、5000、10000・・・。なるほどねぇ、確かに意図的な感じはするな。まあ、七音が考えても分からないのに、俺が考えても分かる訳無いな。ヨツバに考えてもらおう。さて・・・ヨツバの部屋をノックするか? いや、ヨツバが来るのを待とう。俺から動いてヨツバの作戦の邪魔をしてもダメだしな。
  そんな事を考えながら、食べ終わったアイスをゴミ箱へ捨てた、その時。
コンコンコン
ドアをノックする音が聞こえた。ヨツバかもしれないと思い、急いでドアを開けた。ヨツバだ。
「入っても良い?」
「ああ・・・いや、ヨツバの部屋でも良いか?」
「ん?  ええ、良いわよ」
ヨツバは直ぐに俺の部屋を出た。俺はオレンジジュースを取り、部屋を出て鍵を閉める。ヨツバは自分の部屋の鍵を開けた。
「どうぞ」
ヨツバはドアを開いたまま、俺が先に入るよう促した。
「お邪魔します」
ヨツバの部屋をざっと見回す。・・・俺の部屋と同じような感じだ。
「ベッドにでも座って」
「ああ」
俺はベッドに腰掛ける。
「窓から話すのはやめた?」
「だって、もう夜だから虫が入ってきちゃうじゃない」
「あっ、そうか・・・」
「それより、双六君の部屋じゃダメだったの?」
「ああ、隣の部屋の男が小学生の頃の同級生なんだ。だから、俺の部屋に来ちゃう可能性もあるかなって・・・」
「えっ?  同級生?  中学校は違うの?」
「七音は私立中学に行く為に引っ越したんだ。あっ、横浜七音って言うんだけどね」
「へー、だからキッチンで仲良く喋ってたのね」
「ああ、一緒に風呂も入ってきたよ。それよりヨツバさんって西京大生なんだってね」
「えっ?  何で分かったの?」
「七音も西京大生なんだってさ。それで、ヨツバさんを西京大で見た事あるって言っていたよ」
「・・・そうなんだ」
その時、ヨツバは困ったような顔をした。西京大学生とバレるのが嫌だったのだろうか? それとも、今回の2泊3日が終わった後に俺達に会いたくないのだろうか?
「それより1875について、七音から情報を得たよ」
「えっ?!  凄いじゃない」
「まあ、ヒントになるかな?  ってレベルなんだけどね・・・」
「うんうん」
「ヨツバさんは白銀比って知ってる?」
「1対ルート2の長方形だよね?」
「そうそう、1875もそんな感じの数字なんだ。5の4乗が625で、1875から625を引くと1250になる。625の倍が1250でその倍が2500、5000、10000って感じ。綺麗に1万になるっておかしくない?」
「確かに・・・結び付け方がちょっと強引な感じはあるけど、何か数学的な匂いはするね」
「だろ?  ヨツバさんなら何か分かるかなって思って・・・」
「でも良いの?  同級生なんでしょ?」
「・・・確かにね。でも、先にヨツバさんとチーム組むって約束したからね。同級生がいたから同盟無しって言う方が変だと思ったんだ」
「なるほど・・・ありがとう」
「いやいや、俺の方こそ。俺なんて1人じゃ到底答えを導き出せ無いしね」
「じゃあ、期待に応えれるよう考えるわ」
「宜しく。あっ、それよりヨツバさん。風呂はどうする?」
「うーん、今日は汗を除菌シートで拭くだけにするわ。男性ばっかりみたいだし・・・。明日早めに入るようにする」
「そっか・・・」
「じゃあ・・・あんまり同じ部屋にいたら怪しまれるから・・・」
「分かった。じゃあ、1875の件宜しく。俺も他の角度から当たってみるよ」
「うん、頼りにしてるわ」
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