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第4部 アマランタイン
第3章 続く螺旋の詩 5
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何度か経験済みの独特の感触が体内を駆け巡るのに身を任せ、トリニティは自分の意識を城に居るはずのアレクシスへと集中させた。記憶の中の彼の姿を脳裏に強く思い描く。
その思いが強ければ強いほど。
寄り添い重なる心の度合いが深ければ深いほど、より高精度の確率で目的の人物の傍へと姿を現すことができるというのは、既に知っている。
トリニティが脳裏にアレクシスの姿を思い描くと、胸の内に焼け付く様に熱い感情の塊が湧き上がってきた。
その塊はただ一つのことを思うものではなく、さまざまな感情が潮のように渦巻いているのだった。
相手を激しく求める心。熱情のような感情も、情愛のような感情も混ざっていた。
傷が膿んで疼くような痛みも。痛みと同じだけの悲しみも交じっていた。
──自分で自分の最後の運命を切り開きたくて城の塔の扉から出て行ったあの日。
あの日。
まさかこのような形で城に戻ることになるなど、想像もしなかった。
永い放浪の旅の末に再び城に戻り──これは予感ではなくもはや確信だが──きっと、今日が最後の旅になるだろう。
……行き着く先にどんな結末が待っているのだろうか。
これが王権争いである以上、その結末は、どちらかが勝ちどちらかが負けるという図式でしかありえない。その図式の中で踊る当事者たちがどのような考えで、どのような気持ちを抱えているかなど問題ではないのだ。
ベルダ司祭やルイス達の指摘通り、どちらにとっても良い結末だった……などという、大団円などありえないことなのだった。
それはトリニティにも分かっている。分かってはいたが──それでも、そのような結末がどこかに転がっていないだろうかと探し求める自分は、皆や妹が言うように甘いのだろうか。
そして──。
自分は……。
昔から、こんなにも弱く甘い人間だったろうか……。
閉ざされた塔で過ごした八年間という月日があまりにも長く、あまりにも人を、世界を呪い続けてきたがゆえに、トリニティは幽閉される前までの自分がどのような性質だったか忘れてしまっていた。
少なくとも、塔にいる間と出てきてからしばらくの自分は、手負いの獣のようにイラついて攻撃的だったはずだ。
出会った誰もが嫌うはずの嫌な自分だった。自分自身でさえ、そんな自分に吐き気を催すほど嫌悪したものだ。──いや、それとも。うまくいかない事の何もかもを、すべて他人のせいにしてもなんの疑問も持たぬほど腐り果てた人間だったろうか。
そんな自分が今は都合の好いラストシーンがありはしないかと心の奥底で求めるような人間になってしまった。
世間を斜に見るルイスあたりなら──自分にではなく単なる知り合いになら──堕ちたものだな、と捨て台詞でも吐きそうな、そんな人間になってしまったのだ。
そんな非力な自分が情けなくもあったが、以前のような腐った果実のようだった自分よりはずっといいはずだとも思う。
いずれにせよ、後悔と迷いばかりが残ることに変わりはない。その時、その場面で。どんな判断をすればいいのか。最良の判断はどれなのか。いつも迷い続けていた。
この一件にどんな結末が待っていたとしても、それは一連の出来事のうちのたった一つが終わったに過ぎないのだ。そこから先にはさらに別の問題が、別の迫られる判断が待っている。
トリニティの脳裏に浮かぶ漆黒の男。
失われた王家の末裔だと知った……。
この出来事が終われば、きっと次に問題になるのはそれだ。トリニティの胸が疼くように痛んだ。つらく苦しい判断に迫られる問題だ。神はなぜ自分たち人間にこのような困難ばかり与えるのだろうか。
心の中だけで吐息のように息を吐きだし、トリニティは考えることを止めた。
──考えたってどうしようもない事を考えるのはやめよう。
くよくよと悩んでもどうしようもない問題なのだ。今は目の前の事ただそれだけに意識を集中して、今という瞬間の中だけに生きていよう。
その瞬間に全力で臨もう。
……それは来るべき問題から逃げ出すという事にはならないはずだ。その問題はその時が来た時に、また悩み、考えればいい──。
空間と空間をまたぐように潜り抜ける、一瞬を駆け抜けるような時間(とき)。
そのわずかな時間の間にそれだけの事を思い巡らせ、トリニティは閉じた瞼を開いた。
……体が元の感触を取り戻していく……。
毛先から、肩先から、魔法の虹彩が雫のように流れ落ちて消えていった。
きらめくそれらにしばし目をとめて──トリニティは顔をあげた。
目前には懐かしい景色が広がっていた。
光を受けた城の中庭。その外れにある流行おくれの古びた東屋。
トリニティの記憶の底に眠る、この場所の記憶が、泡が噴き出すように溢れ出て彼女を埋めた。
それら幸せだった頃の幼い記憶に軽い眩暈をおこし、トリニティはよろめきながら何度か瞬いた後、目を細めじっと目前の光景に目を凝らした。
「──あら」
懐かしい声がした。
弾かれるように顔をあげると、東屋の中におかれたテーブルセットの椅子に腰かけた妹の姿が目に飛び込んできた。
紙の様に白い肌。きらめくように流れる銀糸。いつ見ても儚げで可憐なその微笑み。光の中で何故かその肌はいつも以上に白く霞んで見えた。
「──セリス……!」
トリニティは絞り出すように妹の名を呼ぶと、二つ年下の妹は唇の端だけを持ち上げて張り付いたような笑みを見せた。
「ずいぶんごゆっくりでいらしたのね」
皮肉げにそう言って、他人にはけして見せることのない勝気な瞳で挑むように姉を見つめた。その視線が、勝ち誇るように少し離れた足元へと向けられた。トリニティの視線もつられる様に下へ動いた。
「──!!」
そこに見たものに激しい衝撃を受けて、トリニティは息を飲んだ。口を両手で押さえ込んで、わななく様にその場にへたり込んだ。あまりの衝撃に膝から一気に力が抜け、立っていられなくなったのだ。
姉のその無様な様子を見た妹は暗い喜びに浸るように満足そうな表情を見せた。
「──ア……ア……アレク──!!」
こみあげてくるものを無理やり押さえ込んで、何度も何度も言葉に詰まりながらトリニティはようやくその言葉を絞り出した。
城の外から大きな声が上がるのが、この城壁の中にまで聞こえてきた。──戦いは始まったのだ。自分たちの最後の戦いの火ぶたが切って落とされた。
その戦の、もっとも重要な邂逅が今ここでなされている。
……なされているというのに、その邂逅は異様なまでに静かで不気味なものだった。
城門で始まった戦闘の喧騒も此処まではまだ遠く、突然始まったその戦に、城内はようやく慌ただしさを見せ始めたばかりだ。普段でも静かなこの中庭はそれらの騒然とした空気とはまだ無縁の場所だった。
だが。
──ただ音だけが──静けさを守っていたというだけで、この場所ではもう、もっと前から戦いは始まっていたのだ。
アレクシスは居た。
セリス王女の足もとに──血の海の中に倒れこんでいた。
体の中心から流れ出した彼の血は大きな池を作りだし、アレクシスを飲み込んで黒く蠢きながら辺りに鉄の匂いを振り撒いていた。
蠢く──?
そう。
失血死を招くのではと危惧するほどの量の血が、地面に吸い込まれるでもなく池の様に溜まり、それは沸騰する湯さながらに激しく泡立っていた。目を凝らせばそれは泡立つというよりも、何かが蠢いているかのようにも見えた。
トリニティは一層口元を強く抑え込んだが、ついに耐えかねて咳込むように噎せた。セリス王女が一層愉快そうに目を細め辛辣な言葉を放った。
「仮にも王女が、そのような無様な様を晒すなど、はしたなくていらしてよ」
そう言って笑った。
──黒く蠢くそれは、小さな蟲達の背だった。
何百、何千という塊が、赤黒い血色のぬめりを放ちながら不気味に蠢いている。見る者に吐き気を催すようなその動きは、食い散らかされた内腑と赤く染まった肉片の海に心地よさそうに体を沈め、溢れんばかりだった。
今にも消えそうな幽かな息遣いが、途切れ途切れにトリニティの耳に届いた。
「地獄の虫」トリニティの後ろに立つマダム・ペリペが呟いた。「憐れだわ──いっそ、死ねる体なら楽だったでしょうに」
その言葉にぞっとしながらトリニティは振り返った。セリス王女もいま初めて気づいたというように姉の後ろに立つ天使と悪魔に目をやった。
「……それはどういう事ですの? 彼が何時までたっても死ぬ様子がないのと関係が?」
すでにそれだけの時が経っていたのか──だが、セリス王女はアレクシスのその惨状にも心を動かされもしないとでもいうような、氷のような瞳をマダムに向けた。
「おかしいと思っておりました。普通、この状態の人間はとうの昔に死んでもいいはずです。……それなのにアレク様は苦しむ様子ばかりで死ぬような素振りは一向に見られません。これ以上苦しませるのも可哀想ですし。どうしたものかと、思いあぐねていたところですわ」
「仕方があるまい」マダムの代わりに魔王が答えた。
「それはまだ子を成しておらぬ。代の変わらぬダンジョンマスターを死なせるわけにはいかないのでな──たとえどのような状態になろうとも」
魔王の最後の一言に目前のアレクシスの姿が重なって、トリニティはぞっとした。体の芯から、命の底から冷えた。
かつて──アレクシスと二人だけで過ごしたダンジョンの中の野営地で。トリニティはその事についてアレクシスに聞かなかったか……。
なんという悲しい運命(さだめ)だと思いながら聞かなかったか……。
いま、それを目前にして。トリニティはただふるえながらすすり泣くことしか出来なかった。
「ア……アレク……!!!」
慟哭のその声に答えるように、アレクシスの体が微かに動いた。
ダンジョンマスターの呪われた定めがそこにあった。
(続く)
今回は「裏」はお休みです。
その思いが強ければ強いほど。
寄り添い重なる心の度合いが深ければ深いほど、より高精度の確率で目的の人物の傍へと姿を現すことができるというのは、既に知っている。
トリニティが脳裏にアレクシスの姿を思い描くと、胸の内に焼け付く様に熱い感情の塊が湧き上がってきた。
その塊はただ一つのことを思うものではなく、さまざまな感情が潮のように渦巻いているのだった。
相手を激しく求める心。熱情のような感情も、情愛のような感情も混ざっていた。
傷が膿んで疼くような痛みも。痛みと同じだけの悲しみも交じっていた。
──自分で自分の最後の運命を切り開きたくて城の塔の扉から出て行ったあの日。
あの日。
まさかこのような形で城に戻ることになるなど、想像もしなかった。
永い放浪の旅の末に再び城に戻り──これは予感ではなくもはや確信だが──きっと、今日が最後の旅になるだろう。
……行き着く先にどんな結末が待っているのだろうか。
これが王権争いである以上、その結末は、どちらかが勝ちどちらかが負けるという図式でしかありえない。その図式の中で踊る当事者たちがどのような考えで、どのような気持ちを抱えているかなど問題ではないのだ。
ベルダ司祭やルイス達の指摘通り、どちらにとっても良い結末だった……などという、大団円などありえないことなのだった。
それはトリニティにも分かっている。分かってはいたが──それでも、そのような結末がどこかに転がっていないだろうかと探し求める自分は、皆や妹が言うように甘いのだろうか。
そして──。
自分は……。
昔から、こんなにも弱く甘い人間だったろうか……。
閉ざされた塔で過ごした八年間という月日があまりにも長く、あまりにも人を、世界を呪い続けてきたがゆえに、トリニティは幽閉される前までの自分がどのような性質だったか忘れてしまっていた。
少なくとも、塔にいる間と出てきてからしばらくの自分は、手負いの獣のようにイラついて攻撃的だったはずだ。
出会った誰もが嫌うはずの嫌な自分だった。自分自身でさえ、そんな自分に吐き気を催すほど嫌悪したものだ。──いや、それとも。うまくいかない事の何もかもを、すべて他人のせいにしてもなんの疑問も持たぬほど腐り果てた人間だったろうか。
そんな自分が今は都合の好いラストシーンがありはしないかと心の奥底で求めるような人間になってしまった。
世間を斜に見るルイスあたりなら──自分にではなく単なる知り合いになら──堕ちたものだな、と捨て台詞でも吐きそうな、そんな人間になってしまったのだ。
そんな非力な自分が情けなくもあったが、以前のような腐った果実のようだった自分よりはずっといいはずだとも思う。
いずれにせよ、後悔と迷いばかりが残ることに変わりはない。その時、その場面で。どんな判断をすればいいのか。最良の判断はどれなのか。いつも迷い続けていた。
この一件にどんな結末が待っていたとしても、それは一連の出来事のうちのたった一つが終わったに過ぎないのだ。そこから先にはさらに別の問題が、別の迫られる判断が待っている。
トリニティの脳裏に浮かぶ漆黒の男。
失われた王家の末裔だと知った……。
この出来事が終われば、きっと次に問題になるのはそれだ。トリニティの胸が疼くように痛んだ。つらく苦しい判断に迫られる問題だ。神はなぜ自分たち人間にこのような困難ばかり与えるのだろうか。
心の中だけで吐息のように息を吐きだし、トリニティは考えることを止めた。
──考えたってどうしようもない事を考えるのはやめよう。
くよくよと悩んでもどうしようもない問題なのだ。今は目の前の事ただそれだけに意識を集中して、今という瞬間の中だけに生きていよう。
その瞬間に全力で臨もう。
……それは来るべき問題から逃げ出すという事にはならないはずだ。その問題はその時が来た時に、また悩み、考えればいい──。
空間と空間をまたぐように潜り抜ける、一瞬を駆け抜けるような時間(とき)。
そのわずかな時間の間にそれだけの事を思い巡らせ、トリニティは閉じた瞼を開いた。
……体が元の感触を取り戻していく……。
毛先から、肩先から、魔法の虹彩が雫のように流れ落ちて消えていった。
きらめくそれらにしばし目をとめて──トリニティは顔をあげた。
目前には懐かしい景色が広がっていた。
光を受けた城の中庭。その外れにある流行おくれの古びた東屋。
トリニティの記憶の底に眠る、この場所の記憶が、泡が噴き出すように溢れ出て彼女を埋めた。
それら幸せだった頃の幼い記憶に軽い眩暈をおこし、トリニティはよろめきながら何度か瞬いた後、目を細めじっと目前の光景に目を凝らした。
「──あら」
懐かしい声がした。
弾かれるように顔をあげると、東屋の中におかれたテーブルセットの椅子に腰かけた妹の姿が目に飛び込んできた。
紙の様に白い肌。きらめくように流れる銀糸。いつ見ても儚げで可憐なその微笑み。光の中で何故かその肌はいつも以上に白く霞んで見えた。
「──セリス……!」
トリニティは絞り出すように妹の名を呼ぶと、二つ年下の妹は唇の端だけを持ち上げて張り付いたような笑みを見せた。
「ずいぶんごゆっくりでいらしたのね」
皮肉げにそう言って、他人にはけして見せることのない勝気な瞳で挑むように姉を見つめた。その視線が、勝ち誇るように少し離れた足元へと向けられた。トリニティの視線もつられる様に下へ動いた。
「──!!」
そこに見たものに激しい衝撃を受けて、トリニティは息を飲んだ。口を両手で押さえ込んで、わななく様にその場にへたり込んだ。あまりの衝撃に膝から一気に力が抜け、立っていられなくなったのだ。
姉のその無様な様子を見た妹は暗い喜びに浸るように満足そうな表情を見せた。
「──ア……ア……アレク──!!」
こみあげてくるものを無理やり押さえ込んで、何度も何度も言葉に詰まりながらトリニティはようやくその言葉を絞り出した。
城の外から大きな声が上がるのが、この城壁の中にまで聞こえてきた。──戦いは始まったのだ。自分たちの最後の戦いの火ぶたが切って落とされた。
その戦の、もっとも重要な邂逅が今ここでなされている。
……なされているというのに、その邂逅は異様なまでに静かで不気味なものだった。
城門で始まった戦闘の喧騒も此処まではまだ遠く、突然始まったその戦に、城内はようやく慌ただしさを見せ始めたばかりだ。普段でも静かなこの中庭はそれらの騒然とした空気とはまだ無縁の場所だった。
だが。
──ただ音だけが──静けさを守っていたというだけで、この場所ではもう、もっと前から戦いは始まっていたのだ。
アレクシスは居た。
セリス王女の足もとに──血の海の中に倒れこんでいた。
体の中心から流れ出した彼の血は大きな池を作りだし、アレクシスを飲み込んで黒く蠢きながら辺りに鉄の匂いを振り撒いていた。
蠢く──?
そう。
失血死を招くのではと危惧するほどの量の血が、地面に吸い込まれるでもなく池の様に溜まり、それは沸騰する湯さながらに激しく泡立っていた。目を凝らせばそれは泡立つというよりも、何かが蠢いているかのようにも見えた。
トリニティは一層口元を強く抑え込んだが、ついに耐えかねて咳込むように噎せた。セリス王女が一層愉快そうに目を細め辛辣な言葉を放った。
「仮にも王女が、そのような無様な様を晒すなど、はしたなくていらしてよ」
そう言って笑った。
──黒く蠢くそれは、小さな蟲達の背だった。
何百、何千という塊が、赤黒い血色のぬめりを放ちながら不気味に蠢いている。見る者に吐き気を催すようなその動きは、食い散らかされた内腑と赤く染まった肉片の海に心地よさそうに体を沈め、溢れんばかりだった。
今にも消えそうな幽かな息遣いが、途切れ途切れにトリニティの耳に届いた。
「地獄の虫」トリニティの後ろに立つマダム・ペリペが呟いた。「憐れだわ──いっそ、死ねる体なら楽だったでしょうに」
その言葉にぞっとしながらトリニティは振り返った。セリス王女もいま初めて気づいたというように姉の後ろに立つ天使と悪魔に目をやった。
「……それはどういう事ですの? 彼が何時までたっても死ぬ様子がないのと関係が?」
すでにそれだけの時が経っていたのか──だが、セリス王女はアレクシスのその惨状にも心を動かされもしないとでもいうような、氷のような瞳をマダムに向けた。
「おかしいと思っておりました。普通、この状態の人間はとうの昔に死んでもいいはずです。……それなのにアレク様は苦しむ様子ばかりで死ぬような素振りは一向に見られません。これ以上苦しませるのも可哀想ですし。どうしたものかと、思いあぐねていたところですわ」
「仕方があるまい」マダムの代わりに魔王が答えた。
「それはまだ子を成しておらぬ。代の変わらぬダンジョンマスターを死なせるわけにはいかないのでな──たとえどのような状態になろうとも」
魔王の最後の一言に目前のアレクシスの姿が重なって、トリニティはぞっとした。体の芯から、命の底から冷えた。
かつて──アレクシスと二人だけで過ごしたダンジョンの中の野営地で。トリニティはその事についてアレクシスに聞かなかったか……。
なんという悲しい運命(さだめ)だと思いながら聞かなかったか……。
いま、それを目前にして。トリニティはただふるえながらすすり泣くことしか出来なかった。
「ア……アレク……!!!」
慟哭のその声に答えるように、アレクシスの体が微かに動いた。
ダンジョンマスターの呪われた定めがそこにあった。
(続く)
今回は「裏」はお休みです。
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