5 / 11
5
しおりを挟む
熀雅は42歳。
子供は15歳男、13歳女。
歳の離れた腹違いの妹がいる。
趣味は動画撮影とジョギング。
犬を二匹と猫を一匹飼っている。
子供の頃の習い事はバイオリンと乗馬。
"おぼっちゃま?"
そんなことを知るようになり、お互いのプレイリストに同じ曲が溜まってきた頃には熀雅に対して気を使わず、自由に振る舞えるようになっていた。
"そんなところ"
紅丸には伝えなかったが、熀雅の父親は組織の上層部の人間で熀雅は随分と贅沢に甘やかされて育った。
"俺って役に立ってるの?"
音楽を聴いて、ご飯に行って、たまにホテルで音楽聴きながら寝てしまっても文句も言わない。何が楽しくて熀雅はこんなことをしているのだろう。
最初は早く解放されることを望んでいたが、今は熀雅からの連絡を待つ自分がいる。
"うん"
"わがまま言ってもいい?"
"いいよ"
"ハイ・シティに行きたい!"
"どこに行きたいの"
"『エン・ターファ』と『伍弍』には絶対行きたい!"
両方とも若者も憧れるショップだ。
"わかった"
"あともういっこ!学校までむかえにきて"
ハイ・シティは猥雑なロー・シティとは違い管理が徹底されたハイクラスな商業施設や高級住宅地などがある都の中心部だ。
紅丸は熀雅との約束の日を待ち遠しく思った。
「わ、ほんとにきた」
璃央が教室の窓から顔を出し、学校前に止められている高級車を見る。
「じゃあ、俺行くね」
紅丸は迎えにきてもらえ、ちょっと自慢気だ。
「はいはい。がんばってたらし込んで貢いでもらいなさい」
「そんなんじゃないってば」
「そんな格好して?」
「いいだろ、俺、似合ってっし」
「まーねー」
紅丸は私服の中学校でわざわざ有名私立の制服を着ている。
紺のブレザーにチェックのスカート、紺のハイソックス。
こんな女みたいな風貌の自分に紅丸はそれなりに自信があった。
何度か遊びで女装の男の子が好きな男性と遊びに行ったことがあり、その時にはお小遣いを貰えるし、何度も褒められまた会いたいと誘いを受けるからだ。
ちょっと熀雅の反応が見てみたかった。
「こんちわ‥」
「やあ」
熀雅は紅丸を見ると、似合うねと笑った。
助手席のシートに乗り込むとスカートから細くて白い脚が覗く。
「下着はどうしてるの」
熀雅の質問に紅丸は少しわくわくした。
「‥知りたい?」
「男性用のフリルのついたやつ?」
「知ってんじゃん」
軽口を交わしながらも、冗談なのか興味があるのか紅丸は熀雅の様子に変化はないかじっと気配を探っていた。
熀雅の態度はなんら普段と変わらず単なる一つの話題でしかないようだ。
男性用のショーツまで用意した自分を少し恥ずかしく思った。
二人は紅丸の希望したショップを巡りハイ・シティの美しい街並みを一緒に歩いた。
熀雅がおすすめの店で一息つこうと提案してきた。
ガラス細工のような高層ビルのエレベーターで52階まで上がる。シルバーの市松模様が華やかで印象的な抹茶の専門店に入った。
ガラス張りの店内からは街が一望出来、晴れ渡る青空とハイ・シティのさまざまな建物が遠くまでよく見渡せた。
熀雅の器を扱う手つきは丁寧で美しい。なんとなく目が離せなかった。
左手の薬指には指輪が嵌まっている。
熀雅は結婚してる。子供もいる。
ぼんやりとわかっている事実を改めて認識した。
視線に気づいた熀雅が不思議そうな顔をした。
「あー‥、時計、見てた。なんで腕時計なんてすんの?時間なんてスマホでわかるじゃん」
指輪や美しい手に見惚れていたことを話題にするのはなんとなく憚られて袖口から覗く腕時計に話を持っていった。
「この時計、気に入ってるんだ。それ以上特に理由はないよ」
確かにその腕時計は熀雅によく似合い、彼の魅力をさらに引き立てていた。
「似合ってる」
時計を見る振りをして指輪を再び眺め、自分は彼にとってどんな存在なのか考えた。
「俺たちってどういう関係に見えるかな」
落ち着きなさそうに指を遊ばせたあと、ぱちぱちまばたきをしてから、小さな声で問う。
「‥親子?」
熀雅は紅丸を顔を見ずに抹茶を愉しむ。
紅丸は答えに気を落とし、つまんなそうな顔をして窓を眺めた。
子供は15歳男、13歳女。
歳の離れた腹違いの妹がいる。
趣味は動画撮影とジョギング。
犬を二匹と猫を一匹飼っている。
子供の頃の習い事はバイオリンと乗馬。
"おぼっちゃま?"
そんなことを知るようになり、お互いのプレイリストに同じ曲が溜まってきた頃には熀雅に対して気を使わず、自由に振る舞えるようになっていた。
"そんなところ"
紅丸には伝えなかったが、熀雅の父親は組織の上層部の人間で熀雅は随分と贅沢に甘やかされて育った。
"俺って役に立ってるの?"
音楽を聴いて、ご飯に行って、たまにホテルで音楽聴きながら寝てしまっても文句も言わない。何が楽しくて熀雅はこんなことをしているのだろう。
最初は早く解放されることを望んでいたが、今は熀雅からの連絡を待つ自分がいる。
"うん"
"わがまま言ってもいい?"
"いいよ"
"ハイ・シティに行きたい!"
"どこに行きたいの"
"『エン・ターファ』と『伍弍』には絶対行きたい!"
両方とも若者も憧れるショップだ。
"わかった"
"あともういっこ!学校までむかえにきて"
ハイ・シティは猥雑なロー・シティとは違い管理が徹底されたハイクラスな商業施設や高級住宅地などがある都の中心部だ。
紅丸は熀雅との約束の日を待ち遠しく思った。
「わ、ほんとにきた」
璃央が教室の窓から顔を出し、学校前に止められている高級車を見る。
「じゃあ、俺行くね」
紅丸は迎えにきてもらえ、ちょっと自慢気だ。
「はいはい。がんばってたらし込んで貢いでもらいなさい」
「そんなんじゃないってば」
「そんな格好して?」
「いいだろ、俺、似合ってっし」
「まーねー」
紅丸は私服の中学校でわざわざ有名私立の制服を着ている。
紺のブレザーにチェックのスカート、紺のハイソックス。
こんな女みたいな風貌の自分に紅丸はそれなりに自信があった。
何度か遊びで女装の男の子が好きな男性と遊びに行ったことがあり、その時にはお小遣いを貰えるし、何度も褒められまた会いたいと誘いを受けるからだ。
ちょっと熀雅の反応が見てみたかった。
「こんちわ‥」
「やあ」
熀雅は紅丸を見ると、似合うねと笑った。
助手席のシートに乗り込むとスカートから細くて白い脚が覗く。
「下着はどうしてるの」
熀雅の質問に紅丸は少しわくわくした。
「‥知りたい?」
「男性用のフリルのついたやつ?」
「知ってんじゃん」
軽口を交わしながらも、冗談なのか興味があるのか紅丸は熀雅の様子に変化はないかじっと気配を探っていた。
熀雅の態度はなんら普段と変わらず単なる一つの話題でしかないようだ。
男性用のショーツまで用意した自分を少し恥ずかしく思った。
二人は紅丸の希望したショップを巡りハイ・シティの美しい街並みを一緒に歩いた。
熀雅がおすすめの店で一息つこうと提案してきた。
ガラス細工のような高層ビルのエレベーターで52階まで上がる。シルバーの市松模様が華やかで印象的な抹茶の専門店に入った。
ガラス張りの店内からは街が一望出来、晴れ渡る青空とハイ・シティのさまざまな建物が遠くまでよく見渡せた。
熀雅の器を扱う手つきは丁寧で美しい。なんとなく目が離せなかった。
左手の薬指には指輪が嵌まっている。
熀雅は結婚してる。子供もいる。
ぼんやりとわかっている事実を改めて認識した。
視線に気づいた熀雅が不思議そうな顔をした。
「あー‥、時計、見てた。なんで腕時計なんてすんの?時間なんてスマホでわかるじゃん」
指輪や美しい手に見惚れていたことを話題にするのはなんとなく憚られて袖口から覗く腕時計に話を持っていった。
「この時計、気に入ってるんだ。それ以上特に理由はないよ」
確かにその腕時計は熀雅によく似合い、彼の魅力をさらに引き立てていた。
「似合ってる」
時計を見る振りをして指輪を再び眺め、自分は彼にとってどんな存在なのか考えた。
「俺たちってどういう関係に見えるかな」
落ち着きなさそうに指を遊ばせたあと、ぱちぱちまばたきをしてから、小さな声で問う。
「‥親子?」
熀雅は紅丸を顔を見ずに抹茶を愉しむ。
紅丸は答えに気を落とし、つまんなそうな顔をして窓を眺めた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる