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アルベルト・バーンシュタイン
第2話 召喚獣色々
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「あー、金がねえなあ!」
苛立ちを言葉にしてぶちまける。独り言は周りの雑音にかき消されていった。
昼間の市場は混雑が著しい。ガキもいれば老人もいやがる。ガキかと思えば、成人でもガキにしか見えねえ類の亜人種だったりする。それとは真逆に、身長が二メートルを超える亜人種もいやがる。どいつもこいつも邪魔すぎる。
朝飯を探しに来たが、失敗だったかもしれねえ。一番、混雑する時間帯にぶつかっちまった。なんで昼間に朝飯なのかっていうと、さっき起きたからだ。顔を上げると見える時計塔の時刻は、午後一時を回っていた。
たまにガキが脚にぶつかってきやがる。イラついてしょうがねえ。が、イラつく最大の理由は財布の中身にあった。
「なんで働かねえと金がもらえねえんだよ。金と酒と女ぐらい無料配布しやがれってんだ」
資本主義とやらに文句をたれる。自分勝手すぎるって? 知らねえよ、ほっとけ。
「シホンシュギとかいうやつでしょ?」
頭の上から女の声が聞こえる。正確には頭の中に直接響いている。俺の頭には、指先ぐらいの大きさしかない黒い触手の、塊が乗っていた。
「その資本主義がうぜえって言ってんだよ。人生楽しむのにまず苦労しろとか意味がわかんねえ」
「マスターは大して苦労しとらんじゃろ」
今度は肩の上から別の女の声が聞こえる。頭部が口しかない手のひらサイズの犬が喋っていた。
「今、思いっきり苦労してるじゃねえか」
鼻で笑ってやる。逆に鼻で笑われた。
「それは自業自得というものでは? 昨日、大量に使ったから、ないんじゃないですか」
胸ポケットに挿した一輪の花が馬鹿にするような声で言いやがる。これも女の声だ。
「使わねえでどうすんだよ。金は使うためにあるんだろうが」
「だから、それでいつも苦労してるんじゃない」「学習せんのう」「マスターって馬鹿なんですか?」
俺の正論に屁理屈が返ってくる。むかつくから全部無視だ、無視。
俺の周りのやつらは俺が独り言をひたすら言っているように見えている。完全に頭がおかしい奴だと思われてるが、その部分は別に間違っちゃいない。
ただ、独り言をぶつぶつ言ってるっていう部分は間違いだ。俺は会話してる。“こいつら”の声が俺にしか聞こえてないってだけだ。
こいつらが何なのか、その説明は結構めんどくさい。簡単に言っちまえば召喚物だ。俺の腰のベルトに固定してある本に封印された、異形の怪物ども。それがこいつらの正体だ。
どいつもこいつも手のひらサイズで、何の役に立つんだって話だが、別にこれが本体ってわけじゃない。本体は本に封印してある。外で活動するための仮の姿がこれってだけだ。
人混みをかきわけて露店にたどり着く。硬貨を放り投げてサンドイッチを入手。口に放り込む。不味い。適当に選んだせいで何を挟んでるのかもよく分からねえが、何だか不味い。
「マスター、それはなんだ? 美味いのか?」
男の声。輪に囲まれた銀色の球体がふよふよと浮いている。これまた手のひらサイズだ。
「くそ不味い」
「なら、いらぬ」
「俺様がもらおう」
別の男の声。黒い小さな霧が現れて、俺のサンドイッチを包み込む。霧が動くと、サンドイッチが消えていた。俺の中で怒りが吹き上がる。
「てめえ、勝手に食ってんじゃねえよ!! 俺の朝飯がなくなっちまったじゃねえか!!」
「む、しかし不味いと言っていたではないか。俺様はマスターの不要な物を処理したまでだぞ」
「不味いとは言ったが要らねえとは言ってねえだろうが!!」
怒鳴り声をあげると、さすがに周りの奴らが不審な顔をするが、どうでもいいので無視。
「大体、てめえは何でも食えるだろうが。わざわざ俺の食い物を食うんじゃねえよ」
「そうは言うがな、マスター。あれは食うな、これは食うなとうるさいではないか」
この霧状のやつは何でも食える。生き物だったら何でも食えるし、なんだったら無機物でも食える。何でも分解できる。だから、そのへんの建物とか露店の柱とかを食うな、と前に教えたことがあるが、俺にとって都合が悪いことなので忘れた。
「とにかく、俺のものは食うんじゃねえよ、いいな」
「我儘なマスターだ。だから雌が寄ってこないのだ」
俺と霧状の召喚物が喧嘩していると、手のひらサイズの小さな竜が割って入ってきた。
「マスターには! あたしが! いれば! いいのっ!!」
若い女の声だった。小さな翼を羽ばたかせて、俺の頭に着地。四つ足を広げて寝そべっている、と思う。見えねえけど。多分、抱きかかえているつもりなんだろう。
「だから、種族が違うって何万回言わせりゃ気がすむんだよ、お前は」
「知らないもーん」
この竜は何やら俺を繁殖相手だと思っているらしい。ついでに、竜としちゃ若いんだとか。どうでも良すぎる。
以上、この六体が俺が所持している召喚物どもだ。どういうわけだか知らないが、全員、人語を喋る。
「あら、繁殖だったら私だって」「わっちも」「私も受粉したいです」「吾輩は繁殖はよく分からぬ」「貴様は分裂するではないか」「マスターにはあたしだけなの!」「お前は分裂しないのか?」「分裂する」「私からすればそっちが分からないわ」「私も」「受粉もよく分からんわ」「あーたーしー!」
うるせえ。
身体の周りと頭の中で六つも声がすると騒がしくてしょうがねえ。こういうときは、腰の本を軽く叩く。それが合図となって六体の化け物どもが本に吸い込まれていく。
これで静かになった。つっても、あんまり閉じ込めてると次に出したときに文句でうるせえが。
もう一度、露店でサンドイッチを手にいれる。ハムとレタスが挟んである。今度はまともな味がした。
とにかく、金を稼がなきゃならねえ。仕事でも探すか。クエストカウンターに行きゃ、何かあるだろ。
苛立ちを言葉にしてぶちまける。独り言は周りの雑音にかき消されていった。
昼間の市場は混雑が著しい。ガキもいれば老人もいやがる。ガキかと思えば、成人でもガキにしか見えねえ類の亜人種だったりする。それとは真逆に、身長が二メートルを超える亜人種もいやがる。どいつもこいつも邪魔すぎる。
朝飯を探しに来たが、失敗だったかもしれねえ。一番、混雑する時間帯にぶつかっちまった。なんで昼間に朝飯なのかっていうと、さっき起きたからだ。顔を上げると見える時計塔の時刻は、午後一時を回っていた。
たまにガキが脚にぶつかってきやがる。イラついてしょうがねえ。が、イラつく最大の理由は財布の中身にあった。
「なんで働かねえと金がもらえねえんだよ。金と酒と女ぐらい無料配布しやがれってんだ」
資本主義とやらに文句をたれる。自分勝手すぎるって? 知らねえよ、ほっとけ。
「シホンシュギとかいうやつでしょ?」
頭の上から女の声が聞こえる。正確には頭の中に直接響いている。俺の頭には、指先ぐらいの大きさしかない黒い触手の、塊が乗っていた。
「その資本主義がうぜえって言ってんだよ。人生楽しむのにまず苦労しろとか意味がわかんねえ」
「マスターは大して苦労しとらんじゃろ」
今度は肩の上から別の女の声が聞こえる。頭部が口しかない手のひらサイズの犬が喋っていた。
「今、思いっきり苦労してるじゃねえか」
鼻で笑ってやる。逆に鼻で笑われた。
「それは自業自得というものでは? 昨日、大量に使ったから、ないんじゃないですか」
胸ポケットに挿した一輪の花が馬鹿にするような声で言いやがる。これも女の声だ。
「使わねえでどうすんだよ。金は使うためにあるんだろうが」
「だから、それでいつも苦労してるんじゃない」「学習せんのう」「マスターって馬鹿なんですか?」
俺の正論に屁理屈が返ってくる。むかつくから全部無視だ、無視。
俺の周りのやつらは俺が独り言をひたすら言っているように見えている。完全に頭がおかしい奴だと思われてるが、その部分は別に間違っちゃいない。
ただ、独り言をぶつぶつ言ってるっていう部分は間違いだ。俺は会話してる。“こいつら”の声が俺にしか聞こえてないってだけだ。
こいつらが何なのか、その説明は結構めんどくさい。簡単に言っちまえば召喚物だ。俺の腰のベルトに固定してある本に封印された、異形の怪物ども。それがこいつらの正体だ。
どいつもこいつも手のひらサイズで、何の役に立つんだって話だが、別にこれが本体ってわけじゃない。本体は本に封印してある。外で活動するための仮の姿がこれってだけだ。
人混みをかきわけて露店にたどり着く。硬貨を放り投げてサンドイッチを入手。口に放り込む。不味い。適当に選んだせいで何を挟んでるのかもよく分からねえが、何だか不味い。
「マスター、それはなんだ? 美味いのか?」
男の声。輪に囲まれた銀色の球体がふよふよと浮いている。これまた手のひらサイズだ。
「くそ不味い」
「なら、いらぬ」
「俺様がもらおう」
別の男の声。黒い小さな霧が現れて、俺のサンドイッチを包み込む。霧が動くと、サンドイッチが消えていた。俺の中で怒りが吹き上がる。
「てめえ、勝手に食ってんじゃねえよ!! 俺の朝飯がなくなっちまったじゃねえか!!」
「む、しかし不味いと言っていたではないか。俺様はマスターの不要な物を処理したまでだぞ」
「不味いとは言ったが要らねえとは言ってねえだろうが!!」
怒鳴り声をあげると、さすがに周りの奴らが不審な顔をするが、どうでもいいので無視。
「大体、てめえは何でも食えるだろうが。わざわざ俺の食い物を食うんじゃねえよ」
「そうは言うがな、マスター。あれは食うな、これは食うなとうるさいではないか」
この霧状のやつは何でも食える。生き物だったら何でも食えるし、なんだったら無機物でも食える。何でも分解できる。だから、そのへんの建物とか露店の柱とかを食うな、と前に教えたことがあるが、俺にとって都合が悪いことなので忘れた。
「とにかく、俺のものは食うんじゃねえよ、いいな」
「我儘なマスターだ。だから雌が寄ってこないのだ」
俺と霧状の召喚物が喧嘩していると、手のひらサイズの小さな竜が割って入ってきた。
「マスターには! あたしが! いれば! いいのっ!!」
若い女の声だった。小さな翼を羽ばたかせて、俺の頭に着地。四つ足を広げて寝そべっている、と思う。見えねえけど。多分、抱きかかえているつもりなんだろう。
「だから、種族が違うって何万回言わせりゃ気がすむんだよ、お前は」
「知らないもーん」
この竜は何やら俺を繁殖相手だと思っているらしい。ついでに、竜としちゃ若いんだとか。どうでも良すぎる。
以上、この六体が俺が所持している召喚物どもだ。どういうわけだか知らないが、全員、人語を喋る。
「あら、繁殖だったら私だって」「わっちも」「私も受粉したいです」「吾輩は繁殖はよく分からぬ」「貴様は分裂するではないか」「マスターにはあたしだけなの!」「お前は分裂しないのか?」「分裂する」「私からすればそっちが分からないわ」「私も」「受粉もよく分からんわ」「あーたーしー!」
うるせえ。
身体の周りと頭の中で六つも声がすると騒がしくてしょうがねえ。こういうときは、腰の本を軽く叩く。それが合図となって六体の化け物どもが本に吸い込まれていく。
これで静かになった。つっても、あんまり閉じ込めてると次に出したときに文句でうるせえが。
もう一度、露店でサンドイッチを手にいれる。ハムとレタスが挟んである。今度はまともな味がした。
とにかく、金を稼がなきゃならねえ。仕事でも探すか。クエストカウンターに行きゃ、何かあるだろ。
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