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アルベルト・バーンシュタイン
第3話 仕事
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クエストカウンターってのは、仕事の斡旋所のことだ。
金と物のあるやつが自分の手間暇を惜しむために、他人に何かをやらせる。そういう仕事を紹介する場所ってわけだ。
仕事を手にいれるには、まずクエストカウンターの中に入る。壁に掲示されてる依頼を見て、良さそうなのがあったら受付に持っていって、やるって言や終わりだ。あとは、実際に仕事をして、また受付にいって金をもらう。
この世界じゃ普遍的な金稼ぎの手段だ。といっても、やるからには相応の実力が必要になってくるが。俺みたいな根無し草にはちょうどいい。
で、一刻も早く金がほしい俺は適当に仕事を選んだ。その結果、遺跡の調査をするはめになった。めんどくせえ。
この世界には遺跡の類が無数にある。なんでか? 俺が知るかよ。理由は知らねえがたくさんあるそれらを魔術師やら学者やらがやたらと調べたがる。そんでもって、何の役に立つかも分からないような研究発表を身内でやって、喜んでるってわけだ。発表の内容はどうでもいいが、遺跡には罠があったり、俺たち人間という人種に敵対している亜人種たちが同じように遺跡発掘をしたりしていて、結構危険だ。そこで、俺たちのようなやつらが先に危険はないか、調査をしたりする。
何が言いたいかっていうと、役立たずの遺跡も仕事にはなるってことだ。
ところが、こいつが意外とめんどくさい。まず、当然だが遺跡内部には一切、傷をつけてはいけない。何か金目のものがあっても横取りはダメ。行って、危険があるかどうかを調べて、速やかに帰ってくる。そういう契約を結ばされる。破ったら罰金か、酷いときには刑務所送りだ。
その上、罠も含めて何があるか分からないせいでリスクは大きい。死ぬことだってよくある話だ。
なので、依頼する側も報酬は多めに用意してることがほとんどだ。こんな危険な仕事、金でもなきゃやってられないからな。
以上が世間的な遺跡潜りの評価だ。俺にとっても、そんなに嬉しい仕事じゃない。金に困ってなけりゃ避けるね。
さて。今回の遺跡は街から徒歩で二十分程度。ちょっとしたピクニックの距離にあった。荒野の真っ只中でピクニックする趣味があるんならの話だが。
岩、赤茶色の土、土、土、砂、岩、枯れ木、獣の死骸、岩、土。遠方には微かに山脈。それ以外に遮蔽物はなし。だだっ広い荒野の中に、三角錐のような人工物が突き出ていた。黄土色のブロックで組み上げられたそれは、いかにも遺跡って感じだ。
三角錐の中頃に亀裂のようなものが走っている。入り口として使えそうだった。
ブロックの隙間に足をかけて、三角錐を登ろうとして足が外れる。落下。思いっきり地面を踏みしめる衝撃が走る。いてえ。
「映画みてえにはいかねえか。おい、1号」
本を腰から引き抜き、開く。亀裂に向けながらその名を呼んで魔法陣を展開。青く光り輝く幾何学模様の中心から、黒い触手が飛び出し、亀裂に引っかかる。そのまま魔法陣の中に戻ろうとする力を利用して、俺の身体が持ち上がり亀裂の高さまで移動。本を腰に戻す。
亀裂は思いの外大きく、俺の身長を余裕で超えていた。これなら入るのに不便はなさそうだ。
中を伺うと、当然だが遺跡は下に続いていた。正確には下の方に通路らしきものが見えていた。入るんなら戻ってくるためにロープか何か必要そうだったが、俺に限って言えばその必要はなかった。
登ったときと同じように亀裂に触手を引っ掛けて、ロープ代わりにして下層へとゆっくりと降りる。床に罠があるってのもよくある話なので、靴裏を床につけて慎重に体重をかけていく。罠はなし。完全に床に降り立ち、触手を魔道書へと戻す。
周囲に視線を走らせる。明かりの類が一切ないせいで暗い。
「4号、明かり」
「よしきた」
脳内で男の声が響き、俺の頭上に小さな銀色の球体が現れて発光。自動追尾の明かりとなる。
もう一度周囲を見る。左右は石壁が垂直に立ち、前後には石畳の道がある。床にも壁にも模様等の飾りはなし。学者様なら壁の形状とかで年代やら何やらを推察するんだろうが、俺は興味ないので無視。
一見すると何もなさそうに見える。が、床やら壁やらに罠が仕込んであったりして油断できない。それを見抜くのが遺跡潜りの腕の見せ所らしい。らしいってのは、つまり俺にはそんな腕はないし、必要ないってことだ。
「とりあえず、2号からだな」
「うむ。任せるのじゃ」
俺の周囲の空間が歪み、戻る。そこには黄土色の不気味な飛行物体が現れていた。大きさは手のひらぐらい。全体的な形状は獣の口の部分だ。鋭い牙が並び、隙間から口腔が覗く。しかし、鼻や目といった部位はなく、さらに顎より下も存在していない。牙の並んだ口が開くと、内部には眼球があり、忙しなく動き回り周囲を見回していた。生物として考えれば単独で存在するはずのないものが、空中に浮いていた。
その不気味な顎口は俺の周りに無数にいた。それぞれが単独で意思を持つように空中を自在に飛び回っていた。
「よし、行け」
俺の号令に合わせて黄土色の飛行物が群れを成して動く。高速で飛び回りながら前後の通路の先へと向かっていく。
これは俺の召喚物、正確には召喚物の一部だった。俺はこいつを2号の“子機”と呼んでいる。子機というからには親機があるってことだ。
どういう理屈かは知らないが、子機の口の中にある眼球の視神経は親機と繋がっていて、子機が見た風景は親機も見たことになる。そしてその情報は俺にも送られてくる。
つまり、俺は動かなくても2号の子機を飛ばすだけで周囲の情報を拾ってくることができるってわけだ。
「前の道の先には下への階段。後ろは分かれ道、か」
「おかしな匂いはせんのう」
2号が子機からの嗅覚情報を言葉で伝えてくる。匂いも分かるらしい。罠は無臭がほとんどだが、それでもないよりマシな情報だ。
さらに子機たちが奥へと飛んでいく。ある程度進んだところで、後ろの分かれ道を調べる一群が引き返して戻ってくる。子機の射程外だ。
「あれ以上、先は見れんぞ」
「うーん、後ろはよく分かんねえな」
分かれ道のそれぞれを調べさせたが、特に怪しいものはなかった。罠の有無を調べるには行ってくるしかないようだ。めんどくせえ。
というか、見た目に変化がなさすぎて2号で調べるのに無理がある。今更気がついちまった。困ったな。
「お」
どうしようか考えているところに、面白いものを見つけた。前方の通路の先、階段を降りて少し行ったところで女が倒れている。革製の冒険者の服装だったが、足に矢が刺さっていた。恐らく先に探索に来た冒険者で、罠を踏んだのだろう。
「よし、前から行くか」
俺は判断を即決した。人助けしなきゃな、ケケケ。
早速急行、といきたいところだったが、慌てて俺が罠を踏んだらかっこ悪い。救助者が要救助者になるなんてのは、間抜けにも程がある。
あまり有効射程は長くないが、周囲を調べる方法がある。
「4号。周りに何かあるか?」
「どれどれ」
俺の頭上で明かりとなっている銀色の球体が返事をする。しばらく沈黙。
「幸運だな。周りには何もないぞ」
調査結果を俺に教えてきた。4号は人間の耳には聞こえない高周波の音を放出して、その反射を感知することで周辺の構造を調べていたのだ。罠があれば、これで感知ができるというわけだ。
「よし」
これで安心して人命救助に勤しめる。意気揚々と俺は通路を走り出した。
通路の先にある階段を降りて、さらに直進。4号の明かりの中に、足から血を出して倒れ込んでいる女を見つけた。改めて顔を見るとそこそこ美人だ。こりゃ期待が持てる。
「おい、そこのお前。手を貸してやろうか?」
「マスター、待たれよ」
俺が女に声をかけるのと4号が俺に声をかけるのが同時だった。おかげで反応が遅れた。女の手前まで来たところで、足が沈む。何かを踏んだのだと見ないでも分かった。マズイ。
金と物のあるやつが自分の手間暇を惜しむために、他人に何かをやらせる。そういう仕事を紹介する場所ってわけだ。
仕事を手にいれるには、まずクエストカウンターの中に入る。壁に掲示されてる依頼を見て、良さそうなのがあったら受付に持っていって、やるって言や終わりだ。あとは、実際に仕事をして、また受付にいって金をもらう。
この世界じゃ普遍的な金稼ぎの手段だ。といっても、やるからには相応の実力が必要になってくるが。俺みたいな根無し草にはちょうどいい。
で、一刻も早く金がほしい俺は適当に仕事を選んだ。その結果、遺跡の調査をするはめになった。めんどくせえ。
この世界には遺跡の類が無数にある。なんでか? 俺が知るかよ。理由は知らねえがたくさんあるそれらを魔術師やら学者やらがやたらと調べたがる。そんでもって、何の役に立つかも分からないような研究発表を身内でやって、喜んでるってわけだ。発表の内容はどうでもいいが、遺跡には罠があったり、俺たち人間という人種に敵対している亜人種たちが同じように遺跡発掘をしたりしていて、結構危険だ。そこで、俺たちのようなやつらが先に危険はないか、調査をしたりする。
何が言いたいかっていうと、役立たずの遺跡も仕事にはなるってことだ。
ところが、こいつが意外とめんどくさい。まず、当然だが遺跡内部には一切、傷をつけてはいけない。何か金目のものがあっても横取りはダメ。行って、危険があるかどうかを調べて、速やかに帰ってくる。そういう契約を結ばされる。破ったら罰金か、酷いときには刑務所送りだ。
その上、罠も含めて何があるか分からないせいでリスクは大きい。死ぬことだってよくある話だ。
なので、依頼する側も報酬は多めに用意してることがほとんどだ。こんな危険な仕事、金でもなきゃやってられないからな。
以上が世間的な遺跡潜りの評価だ。俺にとっても、そんなに嬉しい仕事じゃない。金に困ってなけりゃ避けるね。
さて。今回の遺跡は街から徒歩で二十分程度。ちょっとしたピクニックの距離にあった。荒野の真っ只中でピクニックする趣味があるんならの話だが。
岩、赤茶色の土、土、土、砂、岩、枯れ木、獣の死骸、岩、土。遠方には微かに山脈。それ以外に遮蔽物はなし。だだっ広い荒野の中に、三角錐のような人工物が突き出ていた。黄土色のブロックで組み上げられたそれは、いかにも遺跡って感じだ。
三角錐の中頃に亀裂のようなものが走っている。入り口として使えそうだった。
ブロックの隙間に足をかけて、三角錐を登ろうとして足が外れる。落下。思いっきり地面を踏みしめる衝撃が走る。いてえ。
「映画みてえにはいかねえか。おい、1号」
本を腰から引き抜き、開く。亀裂に向けながらその名を呼んで魔法陣を展開。青く光り輝く幾何学模様の中心から、黒い触手が飛び出し、亀裂に引っかかる。そのまま魔法陣の中に戻ろうとする力を利用して、俺の身体が持ち上がり亀裂の高さまで移動。本を腰に戻す。
亀裂は思いの外大きく、俺の身長を余裕で超えていた。これなら入るのに不便はなさそうだ。
中を伺うと、当然だが遺跡は下に続いていた。正確には下の方に通路らしきものが見えていた。入るんなら戻ってくるためにロープか何か必要そうだったが、俺に限って言えばその必要はなかった。
登ったときと同じように亀裂に触手を引っ掛けて、ロープ代わりにして下層へとゆっくりと降りる。床に罠があるってのもよくある話なので、靴裏を床につけて慎重に体重をかけていく。罠はなし。完全に床に降り立ち、触手を魔道書へと戻す。
周囲に視線を走らせる。明かりの類が一切ないせいで暗い。
「4号、明かり」
「よしきた」
脳内で男の声が響き、俺の頭上に小さな銀色の球体が現れて発光。自動追尾の明かりとなる。
もう一度周囲を見る。左右は石壁が垂直に立ち、前後には石畳の道がある。床にも壁にも模様等の飾りはなし。学者様なら壁の形状とかで年代やら何やらを推察するんだろうが、俺は興味ないので無視。
一見すると何もなさそうに見える。が、床やら壁やらに罠が仕込んであったりして油断できない。それを見抜くのが遺跡潜りの腕の見せ所らしい。らしいってのは、つまり俺にはそんな腕はないし、必要ないってことだ。
「とりあえず、2号からだな」
「うむ。任せるのじゃ」
俺の周囲の空間が歪み、戻る。そこには黄土色の不気味な飛行物体が現れていた。大きさは手のひらぐらい。全体的な形状は獣の口の部分だ。鋭い牙が並び、隙間から口腔が覗く。しかし、鼻や目といった部位はなく、さらに顎より下も存在していない。牙の並んだ口が開くと、内部には眼球があり、忙しなく動き回り周囲を見回していた。生物として考えれば単独で存在するはずのないものが、空中に浮いていた。
その不気味な顎口は俺の周りに無数にいた。それぞれが単独で意思を持つように空中を自在に飛び回っていた。
「よし、行け」
俺の号令に合わせて黄土色の飛行物が群れを成して動く。高速で飛び回りながら前後の通路の先へと向かっていく。
これは俺の召喚物、正確には召喚物の一部だった。俺はこいつを2号の“子機”と呼んでいる。子機というからには親機があるってことだ。
どういう理屈かは知らないが、子機の口の中にある眼球の視神経は親機と繋がっていて、子機が見た風景は親機も見たことになる。そしてその情報は俺にも送られてくる。
つまり、俺は動かなくても2号の子機を飛ばすだけで周囲の情報を拾ってくることができるってわけだ。
「前の道の先には下への階段。後ろは分かれ道、か」
「おかしな匂いはせんのう」
2号が子機からの嗅覚情報を言葉で伝えてくる。匂いも分かるらしい。罠は無臭がほとんどだが、それでもないよりマシな情報だ。
さらに子機たちが奥へと飛んでいく。ある程度進んだところで、後ろの分かれ道を調べる一群が引き返して戻ってくる。子機の射程外だ。
「あれ以上、先は見れんぞ」
「うーん、後ろはよく分かんねえな」
分かれ道のそれぞれを調べさせたが、特に怪しいものはなかった。罠の有無を調べるには行ってくるしかないようだ。めんどくせえ。
というか、見た目に変化がなさすぎて2号で調べるのに無理がある。今更気がついちまった。困ったな。
「お」
どうしようか考えているところに、面白いものを見つけた。前方の通路の先、階段を降りて少し行ったところで女が倒れている。革製の冒険者の服装だったが、足に矢が刺さっていた。恐らく先に探索に来た冒険者で、罠を踏んだのだろう。
「よし、前から行くか」
俺は判断を即決した。人助けしなきゃな、ケケケ。
早速急行、といきたいところだったが、慌てて俺が罠を踏んだらかっこ悪い。救助者が要救助者になるなんてのは、間抜けにも程がある。
あまり有効射程は長くないが、周囲を調べる方法がある。
「4号。周りに何かあるか?」
「どれどれ」
俺の頭上で明かりとなっている銀色の球体が返事をする。しばらく沈黙。
「幸運だな。周りには何もないぞ」
調査結果を俺に教えてきた。4号は人間の耳には聞こえない高周波の音を放出して、その反射を感知することで周辺の構造を調べていたのだ。罠があれば、これで感知ができるというわけだ。
「よし」
これで安心して人命救助に勤しめる。意気揚々と俺は通路を走り出した。
通路の先にある階段を降りて、さらに直進。4号の明かりの中に、足から血を出して倒れ込んでいる女を見つけた。改めて顔を見るとそこそこ美人だ。こりゃ期待が持てる。
「おい、そこのお前。手を貸してやろうか?」
「マスター、待たれよ」
俺が女に声をかけるのと4号が俺に声をかけるのが同時だった。おかげで反応が遅れた。女の手前まで来たところで、足が沈む。何かを踏んだのだと見ないでも分かった。マズイ。
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