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アルベルト・バーンシュタイン
第8話 脱出と──
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「ふざけんなぁあああああ!!」
俺の中で理不尽さへの怒りが爆発。魔道書から黒い霧が発生してゴーレムの脚へと向かっていく。
ちょうどまたいでいる最中に脚に到達。霧が接触した箇所から石造りの柱が消失。脚を失い支えのなくなったゴーレムは重力に引かれて落とし穴へと落下──しなかった。
轟音と共に両腕が床と接触。落とし穴に落ちきることなく、ゴーレムは入り口で引っかかったのだった。
俺の作戦は大失敗だったが、ゴーレムが動けなくなったのは事実なので成功だとしておく。
「古代の石の味わいも中々だな」
戻ってきた霧が味の感想を言う。石の味なんてものは全く想像がつかない。
「ところで、ゴーレムの破壊は報酬に関わるのか?」
「当たり前だろ。見つかったら死ぬほど怒られるが、この際どうでもいい」
もはや遺跡探索は失敗と言っていいような状況だったが、どうせバレるまで時間がかかる。報酬もらって逃げれば問題ない、はず。多分。
俺のプランはがたがただった。溜息が出る。
「とっとと帰りてえぜ」
1号が女を床に降ろす。何か言いたげな顔をしていた。
「んだよ」
「……一応、礼を言っとく」
顔を背けながらだったが、女はそう言った。
「礼を言える気分ならよ、お前のこと運んでいいか? その方がお互いのためだろ」
俺の提案に女は黙って首肯。1号の触手が再び女を持ち上げた。やっと機嫌が直ったらしい。
「なんで、あたしのこと置いて逃げなかったんだ?」
俺が歩き始めると女が話しかけてきた。
「協力して脱出するっつっただろ。もう忘れたのか?」
「協力ってのは、お互いを利用するって意味だと思ってたよ」
女の意見は間違ってない。俺は首肯してやる。
「まだ俺は脱出できてない。お前が必要になりそうだからな」
「ふーん。まぁとにかく、助かったよ」
それから俺たちはそれなりに喋りながら遺跡を進んだ。なんでこの遺跡にやってきたのだとか、なんで冒険者みたいなことやってるのかとか、くだらない会話をした。花と4号の探査も完璧じゃないので、それを女の技術がたまに補ってくれた。おかげで、罠はそのほとんどを回避することができた。
「あんた、思ったより役に立つね」
「そりゃあどうも」
しばらく進んでいたら、女がそんなことを言ってきた。
「二人組ってのも悪くないんじゃない?」
「俺は気ままな一人旅が好きなんだよ。お前がいつでもヤらせてくれるんなら考えてやるよ」
俺の軽口に女は口を真っ直ぐに引き結んだ。が、次の瞬間には軽い笑みを浮かべた。
「その下衆な性格がなけりゃ、本当に良かったんだけどね」
「そう褒めるなよ」
「褒めてないよ」
そんな会話を続けているうちに上へと移動する階段をいくつか発見した。二つか三つぐらい登ったところで、見覚えのある通路に出た。いや、嘘だ。俺に見覚えなんかない。
「ここ、多分入り口の階層だ」
「ほんとか?」
女が俺に教えてきた。なので、そうらしい。
そこからは女の道案内に従って通路を進んだ。すると、ものの数分で明かりが差し込む箇所を見つけることができた。
「お、出口だ」
明かりの下へ行って見上げる。俺にも見覚えのある亀裂が入っていた。
「ロープか何かないと、登れないかな」
「任せろ」
1号の触手を亀裂に引っ掛けて、俺と女を持ち上げさせる。同じ要領で亀裂から地面へと降りる。
ついに外に出られた。ちょっとした感動もんだ。
「やっと出られたぜ」
「ほんとだね。苦労したよ」
1号が女を地面に降ろす。明かりが不要になったので、4号を魔道書へと戻した。
空の明るさに軽く目が眩む。手をかざして影を作る。
「あんたのおかげで助かったよ」
「気にすんなって。お礼はもうもらったしな」
女の声が背後からした。振り返らずに俺は返事をする。
次の瞬間に、俺は魔道書を開いて背後に向かって1号を呼び出す。触手が俺に向かってナイフを振りかざす姿勢の女に巻きついて固定した。女の表情には驚愕。
「な、なんで」
「馬鹿が。油断させようと媚を売るのが下手すぎなんだよ」
俺を油断させて殺そうという企みが失敗した女の双眸に憤怒と憎悪が宿る。反比例するように俺はほくそ笑んでいた。
「お前からしても、やっぱり脱出するためには俺が必要だったからな。遺跡の中で殺すわけにはいかなかったんだろ?」
「そうだ。でももう用済みになったから殺してやる!!」
動こうとするが触手が完全に締め上げていて全身が全く動かない。俺は余裕を持って続ける。
「まぁそうだよな。けどよ、逆も考えられるだろ?」
動けない女へと近づいていく。
「俺からしても、お前はもう用済みだ。お前が俺を殺すように、俺もお前を殺してもいい、ってな」
女の顔に理解の色。それと同時に恐怖が怒りと憎悪を上書きして、表情を染め上げていく。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「じゃあな。いい締まりだったから、今度はこっちが締め上げてやるよ」
女の口から苦鳴が漏れる。漆黒の触手が腕を、脚を、首を、腰を、圧倒的な膂力で締め上げていき、骨が軋む音を響かせて全身を圧し潰す。
生物が潰れる粘着質な音と共に血が地面に飛び散った。触手がするすると戻っていき、奇妙な形状になった女が崩れ落ちた。
「いやぁ、我儘な女を殺すのは気分がいいぜ」
「最低ね、マスター」
1号を魔道書へと引き戻して、魔道書をベルトに戻す。
あとは報酬もらって、今日は終わりだな。
俺の中で理不尽さへの怒りが爆発。魔道書から黒い霧が発生してゴーレムの脚へと向かっていく。
ちょうどまたいでいる最中に脚に到達。霧が接触した箇所から石造りの柱が消失。脚を失い支えのなくなったゴーレムは重力に引かれて落とし穴へと落下──しなかった。
轟音と共に両腕が床と接触。落とし穴に落ちきることなく、ゴーレムは入り口で引っかかったのだった。
俺の作戦は大失敗だったが、ゴーレムが動けなくなったのは事実なので成功だとしておく。
「古代の石の味わいも中々だな」
戻ってきた霧が味の感想を言う。石の味なんてものは全く想像がつかない。
「ところで、ゴーレムの破壊は報酬に関わるのか?」
「当たり前だろ。見つかったら死ぬほど怒られるが、この際どうでもいい」
もはや遺跡探索は失敗と言っていいような状況だったが、どうせバレるまで時間がかかる。報酬もらって逃げれば問題ない、はず。多分。
俺のプランはがたがただった。溜息が出る。
「とっとと帰りてえぜ」
1号が女を床に降ろす。何か言いたげな顔をしていた。
「んだよ」
「……一応、礼を言っとく」
顔を背けながらだったが、女はそう言った。
「礼を言える気分ならよ、お前のこと運んでいいか? その方がお互いのためだろ」
俺の提案に女は黙って首肯。1号の触手が再び女を持ち上げた。やっと機嫌が直ったらしい。
「なんで、あたしのこと置いて逃げなかったんだ?」
俺が歩き始めると女が話しかけてきた。
「協力して脱出するっつっただろ。もう忘れたのか?」
「協力ってのは、お互いを利用するって意味だと思ってたよ」
女の意見は間違ってない。俺は首肯してやる。
「まだ俺は脱出できてない。お前が必要になりそうだからな」
「ふーん。まぁとにかく、助かったよ」
それから俺たちはそれなりに喋りながら遺跡を進んだ。なんでこの遺跡にやってきたのだとか、なんで冒険者みたいなことやってるのかとか、くだらない会話をした。花と4号の探査も完璧じゃないので、それを女の技術がたまに補ってくれた。おかげで、罠はそのほとんどを回避することができた。
「あんた、思ったより役に立つね」
「そりゃあどうも」
しばらく進んでいたら、女がそんなことを言ってきた。
「二人組ってのも悪くないんじゃない?」
「俺は気ままな一人旅が好きなんだよ。お前がいつでもヤらせてくれるんなら考えてやるよ」
俺の軽口に女は口を真っ直ぐに引き結んだ。が、次の瞬間には軽い笑みを浮かべた。
「その下衆な性格がなけりゃ、本当に良かったんだけどね」
「そう褒めるなよ」
「褒めてないよ」
そんな会話を続けているうちに上へと移動する階段をいくつか発見した。二つか三つぐらい登ったところで、見覚えのある通路に出た。いや、嘘だ。俺に見覚えなんかない。
「ここ、多分入り口の階層だ」
「ほんとか?」
女が俺に教えてきた。なので、そうらしい。
そこからは女の道案内に従って通路を進んだ。すると、ものの数分で明かりが差し込む箇所を見つけることができた。
「お、出口だ」
明かりの下へ行って見上げる。俺にも見覚えのある亀裂が入っていた。
「ロープか何かないと、登れないかな」
「任せろ」
1号の触手を亀裂に引っ掛けて、俺と女を持ち上げさせる。同じ要領で亀裂から地面へと降りる。
ついに外に出られた。ちょっとした感動もんだ。
「やっと出られたぜ」
「ほんとだね。苦労したよ」
1号が女を地面に降ろす。明かりが不要になったので、4号を魔道書へと戻した。
空の明るさに軽く目が眩む。手をかざして影を作る。
「あんたのおかげで助かったよ」
「気にすんなって。お礼はもうもらったしな」
女の声が背後からした。振り返らずに俺は返事をする。
次の瞬間に、俺は魔道書を開いて背後に向かって1号を呼び出す。触手が俺に向かってナイフを振りかざす姿勢の女に巻きついて固定した。女の表情には驚愕。
「な、なんで」
「馬鹿が。油断させようと媚を売るのが下手すぎなんだよ」
俺を油断させて殺そうという企みが失敗した女の双眸に憤怒と憎悪が宿る。反比例するように俺はほくそ笑んでいた。
「お前からしても、やっぱり脱出するためには俺が必要だったからな。遺跡の中で殺すわけにはいかなかったんだろ?」
「そうだ。でももう用済みになったから殺してやる!!」
動こうとするが触手が完全に締め上げていて全身が全く動かない。俺は余裕を持って続ける。
「まぁそうだよな。けどよ、逆も考えられるだろ?」
動けない女へと近づいていく。
「俺からしても、お前はもう用済みだ。お前が俺を殺すように、俺もお前を殺してもいい、ってな」
女の顔に理解の色。それと同時に恐怖が怒りと憎悪を上書きして、表情を染め上げていく。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「じゃあな。いい締まりだったから、今度はこっちが締め上げてやるよ」
女の口から苦鳴が漏れる。漆黒の触手が腕を、脚を、首を、腰を、圧倒的な膂力で締め上げていき、骨が軋む音を響かせて全身を圧し潰す。
生物が潰れる粘着質な音と共に血が地面に飛び散った。触手がするすると戻っていき、奇妙な形状になった女が崩れ落ちた。
「いやぁ、我儘な女を殺すのは気分がいいぜ」
「最低ね、マスター」
1号を魔道書へと引き戻して、魔道書をベルトに戻す。
あとは報酬もらって、今日は終わりだな。
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