39 / 57
アルベルト・バーンシュタインその5:アルベルト、7号を手に入れる
ガキンチョの価値
しおりを挟む
「おーい、ガキンチョー! どこいったー!」
「大声で叫んだらバルチャーに見つかってしまうぞ!」
洞窟の外、森の中を走りながら俺はユラを探す。
呼びかけを2号に注意されたので声を潜める。
「マジでどこ行きやがったあいつ」
森の中を黄土色の顎口を模した飛行生物──2号の子機が無数に飛び回る。獣の牙が羅列した口の内側で、眼球が忙しなく動き続ける。2号はこの子機の全てと視界を共有している。人探しにはもってこいだ。
そして俺もそのうちの一つと視界を共有させている。だが、まだ見つからない。もしかしてやっぱり逃げ出しやがったのか?
だとしたら許せねえ。見つけ出したらお尻百叩きの刑にしてやる。
「見つけたぞ!」
2号が叫ぶと同時に視界を俺に送り込む。脳内に送られてきた映像には森の中にいるユラとバルチャーの姿。捕まってるじゃねえか!
俺は大急ぎでその場所へと向かった。木々の間をすり抜けて、自分自身の視界に二人を捉える。
「アルベルトさん!」
俺を見るなりユラが叫ぶ。俺も叫び返す。
「てめえこのクソガキが! なぁに勝手にどっか行ってやがる!! 挙げ句の果てに捕まってんじゃねえか!!」
怒り心頭とはこのことだぜ。バルチャーにユラが捕まるという最悪な状況になっちまった。
「だからこの人は僕が目的なんですって!」
「まだ下らねえ妄想言ってんのかてめえは! こっちはマジなんだからそういうのやめ」
「いえ、事実ですよ」
俺たちの言い合いにバルチャーの静かな声が割って入った。
「あぁ!?」
「確かに私の目的はこの子供を確保することです。なので、何も間違っていませんよ」
「なっ……」
驚きのあまり俺の口が固まる。
ならユラの言ったことは全部本当だったってことだ。
「だから……言ったじゃないですか。僕は人間じゃないって」
ユラが俯きながら呟く。
信じられねえ。あんな思春期特有の妄想みてえな話が事実だなんて。
信じたくはないが、今となっちゃそんなことを気にしている場合じゃない。
それよりも俺としては聞いておかなくてはならないことがある。
「おい、バルチャー。そいつは連れ戻された後、どうなるんだ」
「さて。私は連れ戻せとしか言われていませんので」
妙に優雅な所作でバルチャーが首を振る。いちいちムカつく野郎だ。
「ただ、言ってしまえばモルモットのようなもの。大方、貴重な能力のために実験台になるか、能力量産のために繁殖させられるかのどちらかでしょうね」
「繁殖だぁ?」
なるほど。確かにユラの完全な治癒能力が量産化されれば随分と儲けにはなりそうだ。
世のため人のためにもなるだろう……というようなことを信じるほど俺も頭ん中がお花畑じゃねえ。こういうことをやる連中はどうせ自分たちだけでいい思いをしようとするだろう。
何より! それじゃ俺の手元にガキンチョがいねえじゃねえか!
こんなに役立つ道具をここで手放すわけにはいかねえ。絶対に取り戻す!
「そろそろ行ってもいいですか?」
「いや、ダメだ!」
俺の宣言にもバルチャーは顔色一つ変えない。
「では、死んでいただきましょう」
男の指先が俺へと向けられ、業火の奔流が放たれる。俺の周囲から1号の触手が現れて盾となり超熱量を防ぐ。
だが炎の勢いに負けつつある。このままで十分と言わんばかりにバルチャーは攻撃を続行していた。
「やめてくださいアルベルトさん! この人と戦ったらアルベルトさんみたいな小悪党のチンピラなんてすぐにやられちゃいますよ!!」
ユラがバルチャーに捕まったまま叫ぶ。事実以外のなんでもねえがはっきり言われるとムカつく。
「僕のことなんてほっといてください! どうせ僕なんて人間じゃない、ただの人形みたいな存在なんだから酷い目に遭ったっていいんです!!」
豪炎から生じる突風に負けじとユラが叫び続ける。
「でもアルベルトさんは人間なんだから死んじゃダメなんです!! 僕なんてアルベルトさんが助ける価値なんてないんですから、もう逃げてください!!」
「うるせえ、黙れ!!」
俺の声にユラが止まる。
──ここで「そんな悲しいこと言うなよ」的なことを言う人間じゃねえってことぐらい、もう分かるよな。
「てめえは宝くじのあたり券みたいなもんなんだぞ!! 折角、俺の言うこと聞いて金もそこそこ持っててお人好しで騙しやすくって貴重な治癒能力持ってるガキが目の前にやってきたんだ! こんなところで手放せるわけねえだろうがボケが!!」
俺のありったけの熱い叫びにユラが口を閉じ、何かを言おうとして、そして──。
──そして、呆れたという視線を向けてきた。
「……普通、そんなに欲望まみれのこと、言います?」
「うるせえな、いいんだよ!」
俺は魔導書を引っ掴んで開く。白紙のページの上で青白い魔法陣が展開。
「ユラといいてめえといい、どいつもこいつも俺のことを馬鹿にしやがって。俺がどれだけ凄いものを持ってるか見せてやるよ!!」
両手で開いた魔導書を天高く掲げる。そして俺は叫んだ。
「出てこい6号っ!!」
「わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!」
よく澄んだ少女の声が響き渡り──俺たちと、森と、街が、影の中へと沈んだ。
「大声で叫んだらバルチャーに見つかってしまうぞ!」
洞窟の外、森の中を走りながら俺はユラを探す。
呼びかけを2号に注意されたので声を潜める。
「マジでどこ行きやがったあいつ」
森の中を黄土色の顎口を模した飛行生物──2号の子機が無数に飛び回る。獣の牙が羅列した口の内側で、眼球が忙しなく動き続ける。2号はこの子機の全てと視界を共有している。人探しにはもってこいだ。
そして俺もそのうちの一つと視界を共有させている。だが、まだ見つからない。もしかしてやっぱり逃げ出しやがったのか?
だとしたら許せねえ。見つけ出したらお尻百叩きの刑にしてやる。
「見つけたぞ!」
2号が叫ぶと同時に視界を俺に送り込む。脳内に送られてきた映像には森の中にいるユラとバルチャーの姿。捕まってるじゃねえか!
俺は大急ぎでその場所へと向かった。木々の間をすり抜けて、自分自身の視界に二人を捉える。
「アルベルトさん!」
俺を見るなりユラが叫ぶ。俺も叫び返す。
「てめえこのクソガキが! なぁに勝手にどっか行ってやがる!! 挙げ句の果てに捕まってんじゃねえか!!」
怒り心頭とはこのことだぜ。バルチャーにユラが捕まるという最悪な状況になっちまった。
「だからこの人は僕が目的なんですって!」
「まだ下らねえ妄想言ってんのかてめえは! こっちはマジなんだからそういうのやめ」
「いえ、事実ですよ」
俺たちの言い合いにバルチャーの静かな声が割って入った。
「あぁ!?」
「確かに私の目的はこの子供を確保することです。なので、何も間違っていませんよ」
「なっ……」
驚きのあまり俺の口が固まる。
ならユラの言ったことは全部本当だったってことだ。
「だから……言ったじゃないですか。僕は人間じゃないって」
ユラが俯きながら呟く。
信じられねえ。あんな思春期特有の妄想みてえな話が事実だなんて。
信じたくはないが、今となっちゃそんなことを気にしている場合じゃない。
それよりも俺としては聞いておかなくてはならないことがある。
「おい、バルチャー。そいつは連れ戻された後、どうなるんだ」
「さて。私は連れ戻せとしか言われていませんので」
妙に優雅な所作でバルチャーが首を振る。いちいちムカつく野郎だ。
「ただ、言ってしまえばモルモットのようなもの。大方、貴重な能力のために実験台になるか、能力量産のために繁殖させられるかのどちらかでしょうね」
「繁殖だぁ?」
なるほど。確かにユラの完全な治癒能力が量産化されれば随分と儲けにはなりそうだ。
世のため人のためにもなるだろう……というようなことを信じるほど俺も頭ん中がお花畑じゃねえ。こういうことをやる連中はどうせ自分たちだけでいい思いをしようとするだろう。
何より! それじゃ俺の手元にガキンチョがいねえじゃねえか!
こんなに役立つ道具をここで手放すわけにはいかねえ。絶対に取り戻す!
「そろそろ行ってもいいですか?」
「いや、ダメだ!」
俺の宣言にもバルチャーは顔色一つ変えない。
「では、死んでいただきましょう」
男の指先が俺へと向けられ、業火の奔流が放たれる。俺の周囲から1号の触手が現れて盾となり超熱量を防ぐ。
だが炎の勢いに負けつつある。このままで十分と言わんばかりにバルチャーは攻撃を続行していた。
「やめてくださいアルベルトさん! この人と戦ったらアルベルトさんみたいな小悪党のチンピラなんてすぐにやられちゃいますよ!!」
ユラがバルチャーに捕まったまま叫ぶ。事実以外のなんでもねえがはっきり言われるとムカつく。
「僕のことなんてほっといてください! どうせ僕なんて人間じゃない、ただの人形みたいな存在なんだから酷い目に遭ったっていいんです!!」
豪炎から生じる突風に負けじとユラが叫び続ける。
「でもアルベルトさんは人間なんだから死んじゃダメなんです!! 僕なんてアルベルトさんが助ける価値なんてないんですから、もう逃げてください!!」
「うるせえ、黙れ!!」
俺の声にユラが止まる。
──ここで「そんな悲しいこと言うなよ」的なことを言う人間じゃねえってことぐらい、もう分かるよな。
「てめえは宝くじのあたり券みたいなもんなんだぞ!! 折角、俺の言うこと聞いて金もそこそこ持っててお人好しで騙しやすくって貴重な治癒能力持ってるガキが目の前にやってきたんだ! こんなところで手放せるわけねえだろうがボケが!!」
俺のありったけの熱い叫びにユラが口を閉じ、何かを言おうとして、そして──。
──そして、呆れたという視線を向けてきた。
「……普通、そんなに欲望まみれのこと、言います?」
「うるせえな、いいんだよ!」
俺は魔導書を引っ掴んで開く。白紙のページの上で青白い魔法陣が展開。
「ユラといいてめえといい、どいつもこいつも俺のことを馬鹿にしやがって。俺がどれだけ凄いものを持ってるか見せてやるよ!!」
両手で開いた魔導書を天高く掲げる。そして俺は叫んだ。
「出てこい6号っ!!」
「わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!」
よく澄んだ少女の声が響き渡り──俺たちと、森と、街が、影の中へと沈んだ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる