クズだが強いし好き勝手やれる俺の話

じぇみにの片割れ

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アルベルト・バーンシュタインその5:アルベルト、7号を手に入れる

ガキンチョの価値

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「おーい、ガキンチョー! どこいったー!」
「大声で叫んだらバルチャーに見つかってしまうぞ!」

 洞窟の外、森の中を走りながら俺はユラを探す。
 呼びかけを2号に注意されたので声を潜める。

「マジでどこ行きやがったあいつ」

 森の中を黄土色の顎口を模した飛行生物──2号の子機が無数に飛び回る。獣の牙が羅列した口の内側で、眼球が忙しなく動き続ける。2号はこの子機の全てと視界を共有している。人探しにはもってこいだ。
 そして俺もそのうちの一つと視界を共有させている。だが、まだ見つからない。もしかしてやっぱり逃げ出しやがったのか?
 だとしたら許せねえ。見つけ出したらお尻百叩きの刑にしてやる。

「見つけたぞ!」

 2号が叫ぶと同時に視界を俺に送り込む。脳内に送られてきた映像には森の中にいるユラとバルチャーの姿。捕まってるじゃねえか!
 俺は大急ぎでその場所へと向かった。木々の間をすり抜けて、自分自身の視界に二人を捉える。

「アルベルトさん!」

 俺を見るなりユラが叫ぶ。俺も叫び返す。

「てめえこのクソガキが! なぁに勝手にどっか行ってやがる!! 挙げ句の果てに捕まってんじゃねえか!!」

 怒り心頭とはこのことだぜ。バルチャーにユラが捕まるという最悪な状況になっちまった。

「だからこの人は僕が目的なんですって!」
「まだ下らねえ妄想言ってんのかてめえは! こっちはマジなんだからそういうのやめ」
「いえ、事実ですよ」

 俺たちの言い合いにバルチャーの静かな声が割って入った。

「あぁ!?」
「確かに私の目的はこの子供を確保することです。なので、何も間違っていませんよ」
「なっ……」

 驚きのあまり俺の口が固まる。
 ならユラの言ったことは全部本当だったってことだ。

「だから……言ったじゃないですか。僕は人間じゃないって」

 ユラが俯きながら呟く。
 信じられねえ。あんな思春期特有の妄想みてえな話が事実だなんて。
 信じたくはないが、今となっちゃそんなことを気にしている場合じゃない。
 それよりも俺としては聞いておかなくてはならないことがある。

「おい、バルチャー。そいつは連れ戻された後、どうなるんだ」
「さて。私は連れ戻せとしか言われていませんので」

 妙に優雅な所作でバルチャーが首を振る。いちいちムカつく野郎だ。

「ただ、言ってしまえばモルモットのようなもの。大方、貴重な能力のために実験台になるか、能力量産のために繁殖させられるかのどちらかでしょうね」
「繁殖だぁ?」

 なるほど。確かにユラの完全な治癒能力が量産化されれば随分と儲けにはなりそうだ。
 世のため人のためにもなるだろう……というようなことを信じるほど俺も頭ん中がお花畑じゃねえ。こういうことをやる連中はどうせ自分たちだけでいい思いをしようとするだろう。
 何より! それじゃ俺の手元にガキンチョがいねえじゃねえか!
 こんなに役立つ道具をここで手放すわけにはいかねえ。絶対に取り戻す!

「そろそろ行ってもいいですか?」
「いや、ダメだ!」

 俺の宣言にもバルチャーは顔色一つ変えない。

「では、死んでいただきましょう」

 男の指先が俺へと向けられ、業火の奔流が放たれる。俺の周囲から1号の触手が現れて盾となり超熱量を防ぐ。
 だが炎の勢いに負けつつある。このままで十分と言わんばかりにバルチャーは攻撃を続行していた。

「やめてくださいアルベルトさん! この人と戦ったらアルベルトさんみたいな小悪党のチンピラなんてすぐにやられちゃいますよ!!」

 ユラがバルチャーに捕まったまま叫ぶ。事実以外のなんでもねえがはっきり言われるとムカつく。

「僕のことなんてほっといてください! どうせ僕なんて人間じゃない、ただの人形みたいな存在なんだから酷い目に遭ったっていいんです!!」

 豪炎から生じる突風に負けじとユラが叫び続ける。

「でもアルベルトさんは人間なんだから死んじゃダメなんです!! 僕なんてアルベルトさんが助ける価値なんてないんですから、もう逃げてください!!」
「うるせえ、黙れ!!」

 俺の声にユラが止まる。
 ──ここで「そんな悲しいこと言うなよ」的なことを言う人間じゃねえってことぐらい、もう分かるよな。

「てめえは宝くじのあたり券みたいなもんなんだぞ!! 折角、俺の言うこと聞いて金もそこそこ持っててお人好しで騙しやすくって貴重な治癒能力持ってるガキが目の前にやってきたんだ! こんなところで手放せるわけねえだろうがボケが!!」

 俺のありったけの熱い叫びにユラが口を閉じ、何かを言おうとして、そして──。
 ──そして、呆れたという視線を向けてきた。

「……普通、そんなに欲望まみれのこと、言います?」
「うるせえな、いいんだよ!」

 俺は魔導書を引っ掴んで開く。白紙のページの上で青白い魔法陣が展開。

「ユラといいてめえといい、どいつもこいつも俺のことを馬鹿にしやがって。俺がどれだけ凄いものを持ってるか見せてやるよ!!」

 両手で開いた魔導書を天高く掲げる。そして俺は叫んだ。

「出てこい6号っ!!」



「わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!」



 よく澄んだ少女の声が響き渡り──俺たちと、森と、街が、影の中へと沈んだ。
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