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アルベルト・バーンシュタインその6:管理されて嬉しいのはあれだけ
勇者になろう!
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よう、俺だ。アルベルトだ。今日はだな。
「サボってんじゃねえぞ新入り!!」
「はいっ!!」
親方に怒鳴られた俺は爆速で道具を持って移動。せっせと坑道を掘り始めた。
そう、今の俺はもうアルベルトじゃねえ。ただの鉱夫だ。
鉱夫だぞ鉱夫。男しかいねえ、死人が出て当たり前の超重労働の代表格。奴隷の別名。地獄の出張所。
女はいねえ。飯はまずい。くそ男どもで汗臭え。女はいねえ。女はいねえ。女はいねえ!!
こんな環境に放り込まれたら俺なんて淡水魚を海水に入れたみてえに死ぬと思うだろ? 俺もそう思うから多分もう俺は死んでるんだろうよ。
だから俺は鉱夫じゃなくて亡霊だ。
──は? んなわけねえだろ。
自分でも何言ってんだかさっぱりわかんねえ!!
俺みてえな超絶有能な人間がこんなゴミどもと一緒にされてるのには当然、理由があるってのはわかるよな?
どうせ何かしくじったんだろって思ったか? ぶっぶー、大外れだ。そもそも俺はしくじったことなんか1度もねえよボケ。
とにかくそこから話していくとするか──。
§§§§
ほんの数日前のことだ。奇跡のようなことが起こった。
俺はいつもどおり酒を飲んでいつもどおり支払いを後回しにしてもらって店を後にした。
追いかけてくる店主から逃げ回りながら、最近面白いことがねえなと思っていた。
それもこれも全部ユラのせいだ!
ユラってのはここ最近、俺が連れ回すようになった全自動人間治癒マシーンお小言つきエディションの名前なんだが、とにかくそいつの小言が酷くてどっちかっていうと全自動お小言マシーン治癒機能付きと化している。
ひょんなことから拾ったそいつは他人の怪我なら何でも一瞬で治せるっていうすげえ能力を持ってるガキで、お人好しで扱いやすいのはいいんだが、そいつがやれ「不特定多数の相手との性行為は危険」だとかやれ「節制しないと身体に悪い」とか言いやがるせいで俺は女は漁れねえし酒は浴びれねえしでストレスが溜まりすぎて急性ストレス症候群と女欠乏症の合併症で余命5秒ぐらいになっていた。
このままじゃ治癒能力持ったやつのせいで死んじまうってことで、今日はユラから逃げ出して酒を浴びてたってわけだ。
後ろから飛んでくる酒瓶を避けながら俺は考えた。そろそろ面白いことをしてえ、と。
そこで閃いた。なんかたまには人にちやほやされることでもするか、と。確かここは領主のいる街だから、手柄を立てれば表彰の1つでもしてくれるだろう。この閃きがさっき言った奇跡だ。
「ただの思いつきでしょ」
1号の言葉は無視。そうと決まれば善は急げだ。
俺はぼろぼろの軍服を着ている見るからにやべえ奴だったが、見てくれは誤魔化すとして。幸い、手柄を立てることは難しくなかった。
「1号!」
「はいはい」
逃亡を急停止して反転。俺の合図と共に腰に収納してある魔導書が光りだす。
正面に幾何学模様が描かれた魔法陣が垂直に現れ、そこから漆黒の触手が勢いよく飛び出してくる。
追いかけてきていた酒屋の店主は驚愕の表情。そのまま触手が叩きつけられて路地裏を吹っ飛び地面に激突。転がっていって完全に静止。気絶したようだった。
そう、俺にはこの魔導書から召喚できる便利な連中がいる。こいつを使えば手柄なんぞ赤子の手をひねるより楽勝に手に入るってもんよ。
そういうわけで俺は勇者だとか英雄だとか呼ばれそうな何かをすることに決めた。
「そんなに簡単に問題が転がっていたりするのかしら」
「おいおい、俺が生きてるような世の中だぞ。むしろ問題しかねえだろ」
1号の懸念を俺は光の速さで論破。
「しかし勇者じゃろ。簡単な問題では足りぬのでは?」
「まぁた余計なことしようとしてますねぇ、マスターはぁ」
「ゆーしゃとはなんだ?」
「俺様も知らん。食えるか?」
「お散歩行きたーい」
召喚物である2号、花、4号、霧、6号が俺の意見に賛同。満場一致でやることが決まった。
「いや決まってないわよ」「それより7号のところに戻った方がよいのでは?」「この間みたいに大怪我しても知りませんよぉ」「なぁ、ゆーしゃとはなんだ」「食えるのか?」「7ごーも一緒がいいよー!」
7号ってのはさっき話したユラってやつのことだがちょっと待ってろ。
「うるせええええええ!! 俺がやるっつったらやるんだよ!!」
俺は路地裏で怒鳴り声をあげた。こいつらは俺の召喚物で俺が主人でこいつらは従者だ。こいつらにそのことをきちんと教育しなくてはならない。
「俺が決めたから決まり! 7号は口うるせえから戻らねえし怪我もしねえし勇者ってのは強いやつのことで大体は人間だから食える散歩はしない以上おわり!!」
全力全開で叫び通して全員を黙らせてやった。
「そんなに叫んだら誰か来ちゃうわよ」「いやでも7号も心配じゃし」「マスターおっちょこちょいなんですから怪我しますよぉ」「なーんだただの人間か」「勇者は美味いのか?」「やだやだやだやだ!!」
「うるせえええええ!!」
二度目の絶叫。魔導書を拳でぶっ叩くと俺の身体や頭の上に乗っていた極小の異形たち6体が魔導書へと戻っていく。
こいつらと話しだすとすぐこれだから嫌んなるぜ。
とにもかくにも俺の天才的な計画は即座に実行され歴史に類を見ない早さで手柄へと繋がった。
ちょうどこの領土では誰が作ったんだかわからねえ巨大ゴーレムが暴れていたのでそいつを退治してやった。
その戦いで俺は全治1ヶ月程度の代償を支払って手柄を手に入れた。
「ほらぁ、怪我したじゃないですかぁ」
花の言うことは完全に無視。決して全身が痛くて反論する元気がないせいではない。断じて違う。
そういうわけでその功績をもって俺は領主に謁見する権限を得た。あとは準備して向かうだけだ。
「サボってんじゃねえぞ新入り!!」
「はいっ!!」
親方に怒鳴られた俺は爆速で道具を持って移動。せっせと坑道を掘り始めた。
そう、今の俺はもうアルベルトじゃねえ。ただの鉱夫だ。
鉱夫だぞ鉱夫。男しかいねえ、死人が出て当たり前の超重労働の代表格。奴隷の別名。地獄の出張所。
女はいねえ。飯はまずい。くそ男どもで汗臭え。女はいねえ。女はいねえ。女はいねえ!!
こんな環境に放り込まれたら俺なんて淡水魚を海水に入れたみてえに死ぬと思うだろ? 俺もそう思うから多分もう俺は死んでるんだろうよ。
だから俺は鉱夫じゃなくて亡霊だ。
──は? んなわけねえだろ。
自分でも何言ってんだかさっぱりわかんねえ!!
俺みてえな超絶有能な人間がこんなゴミどもと一緒にされてるのには当然、理由があるってのはわかるよな?
どうせ何かしくじったんだろって思ったか? ぶっぶー、大外れだ。そもそも俺はしくじったことなんか1度もねえよボケ。
とにかくそこから話していくとするか──。
§§§§
ほんの数日前のことだ。奇跡のようなことが起こった。
俺はいつもどおり酒を飲んでいつもどおり支払いを後回しにしてもらって店を後にした。
追いかけてくる店主から逃げ回りながら、最近面白いことがねえなと思っていた。
それもこれも全部ユラのせいだ!
ユラってのはここ最近、俺が連れ回すようになった全自動人間治癒マシーンお小言つきエディションの名前なんだが、とにかくそいつの小言が酷くてどっちかっていうと全自動お小言マシーン治癒機能付きと化している。
ひょんなことから拾ったそいつは他人の怪我なら何でも一瞬で治せるっていうすげえ能力を持ってるガキで、お人好しで扱いやすいのはいいんだが、そいつがやれ「不特定多数の相手との性行為は危険」だとかやれ「節制しないと身体に悪い」とか言いやがるせいで俺は女は漁れねえし酒は浴びれねえしでストレスが溜まりすぎて急性ストレス症候群と女欠乏症の合併症で余命5秒ぐらいになっていた。
このままじゃ治癒能力持ったやつのせいで死んじまうってことで、今日はユラから逃げ出して酒を浴びてたってわけだ。
後ろから飛んでくる酒瓶を避けながら俺は考えた。そろそろ面白いことをしてえ、と。
そこで閃いた。なんかたまには人にちやほやされることでもするか、と。確かここは領主のいる街だから、手柄を立てれば表彰の1つでもしてくれるだろう。この閃きがさっき言った奇跡だ。
「ただの思いつきでしょ」
1号の言葉は無視。そうと決まれば善は急げだ。
俺はぼろぼろの軍服を着ている見るからにやべえ奴だったが、見てくれは誤魔化すとして。幸い、手柄を立てることは難しくなかった。
「1号!」
「はいはい」
逃亡を急停止して反転。俺の合図と共に腰に収納してある魔導書が光りだす。
正面に幾何学模様が描かれた魔法陣が垂直に現れ、そこから漆黒の触手が勢いよく飛び出してくる。
追いかけてきていた酒屋の店主は驚愕の表情。そのまま触手が叩きつけられて路地裏を吹っ飛び地面に激突。転がっていって完全に静止。気絶したようだった。
そう、俺にはこの魔導書から召喚できる便利な連中がいる。こいつを使えば手柄なんぞ赤子の手をひねるより楽勝に手に入るってもんよ。
そういうわけで俺は勇者だとか英雄だとか呼ばれそうな何かをすることに決めた。
「そんなに簡単に問題が転がっていたりするのかしら」
「おいおい、俺が生きてるような世の中だぞ。むしろ問題しかねえだろ」
1号の懸念を俺は光の速さで論破。
「しかし勇者じゃろ。簡単な問題では足りぬのでは?」
「まぁた余計なことしようとしてますねぇ、マスターはぁ」
「ゆーしゃとはなんだ?」
「俺様も知らん。食えるか?」
「お散歩行きたーい」
召喚物である2号、花、4号、霧、6号が俺の意見に賛同。満場一致でやることが決まった。
「いや決まってないわよ」「それより7号のところに戻った方がよいのでは?」「この間みたいに大怪我しても知りませんよぉ」「なぁ、ゆーしゃとはなんだ」「食えるのか?」「7ごーも一緒がいいよー!」
7号ってのはさっき話したユラってやつのことだがちょっと待ってろ。
「うるせええええええ!! 俺がやるっつったらやるんだよ!!」
俺は路地裏で怒鳴り声をあげた。こいつらは俺の召喚物で俺が主人でこいつらは従者だ。こいつらにそのことをきちんと教育しなくてはならない。
「俺が決めたから決まり! 7号は口うるせえから戻らねえし怪我もしねえし勇者ってのは強いやつのことで大体は人間だから食える散歩はしない以上おわり!!」
全力全開で叫び通して全員を黙らせてやった。
「そんなに叫んだら誰か来ちゃうわよ」「いやでも7号も心配じゃし」「マスターおっちょこちょいなんですから怪我しますよぉ」「なーんだただの人間か」「勇者は美味いのか?」「やだやだやだやだ!!」
「うるせえええええ!!」
二度目の絶叫。魔導書を拳でぶっ叩くと俺の身体や頭の上に乗っていた極小の異形たち6体が魔導書へと戻っていく。
こいつらと話しだすとすぐこれだから嫌んなるぜ。
とにもかくにも俺の天才的な計画は即座に実行され歴史に類を見ない早さで手柄へと繋がった。
ちょうどこの領土では誰が作ったんだかわからねえ巨大ゴーレムが暴れていたのでそいつを退治してやった。
その戦いで俺は全治1ヶ月程度の代償を支払って手柄を手に入れた。
「ほらぁ、怪我したじゃないですかぁ」
花の言うことは完全に無視。決して全身が痛くて反論する元気がないせいではない。断じて違う。
そういうわけでその功績をもって俺は領主に謁見する権限を得た。あとは準備して向かうだけだ。
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