43 / 57
アルベルト・バーンシュタインその6:管理されて嬉しいのはあれだけ
しくじったって認めなければしくじりじゃない
しおりを挟む
適当な服屋に入って報酬金を叩きつけて身なりを整え、領主のバカでかい屋敷へと向かう。
大仰な門が俺を出迎える。門番が俺に頭を下げて、俺のために門を開き、俺に向かって「どうぞお通りください」と言ってくる。これが名声の力か! 感動しちまうぜ。
普段は門番どころか酒屋のただのウェイトレスにさえ蔑まれてるこの俺がよ。仕事1つでこれなんだから世の中ちょろいな。
出迎えはメイドがやってくれた。若いメイドを期待したんだが出てきたのはババアだった。多分、メイド長だろう。ちゃんと若い女で接待しろよな、なってねえな。
無駄に踏み心地のいい絨毯を歩き、無意味に装飾の多い通路を歩く。壁にかかってる絵とかなんか置いてある壺とか高いんだろうが、何がいいのかはさっぱりだ。
ババアが扉に辿り着いてそれを俺のために開く(二度目だ)。そして俺はその中に丁寧に入っていく。
「おお、君がアルベルト君かね」
目の前には執務机に座る太ったおっさん。こいつが領主だろう。
「はい。私のような貴族でもない人間をご招待いただけるとは恐悦至極にございます」
とりあえず仰々しい挨拶をして頭を下げておく。多分、間違ってねえだろ。何か間違えて相手が怒ったとしても花の花粉を叩き込んで洗脳すりゃいい。召喚できる連中のうち、花と4号は精神操作ができるからお気楽なもんだ。
「勇者になるとかいうのはどうしたのよ」
1号の言葉は無視。今回はむかつくからではなく、こいつらの声が基本的に俺以外には聞こえていないからだ。人前で迂闊に返事をすると独り言を言う変な奴だと思われる。普段は全く気にしないが今はまずい。
勧められるままに派手なソファに座る。かなりふかふかだ。普段こいつらはこんなもの使ってんのか。そりゃ領地にいる連中が税金に対して何かとうるせえわけだ。わかるわかる、むかつくよな。俺は払ったことねえが。
対面のソファの中央におっさんと、それを挟んで2人が座る。
1人はおっさんの女房。ドレスで着飾ってはいるが年増なので可能な限り視界に入れねえことにする。
もう1人が多分だが娘。若くて美人だ。飾り気のない白色のドレスに小さなネックレスとイヤリング。黄金色の髪を結って纏めている。表情にはやや緊張がみえた。客を出迎えるのは初めてなのかもしれねえ。
こいつは中々の獲物だ。きっと下半身に客を迎えたこともないんだろう。是非ともそっちの方も初めての相手になりたいところだな、へへへ。
「どうかなされましたかな?」
「あ! いえ、何でも」
やっべ。つい顔に欲望が出ちまってたようだ。普段、感情を出さずに表情を隠すって行いが地平線の彼方にしか見えねえぐらい距離があるせいで顔が作れてねえ。ここにきて計画がご破産になっちまったら大怪我した意味がない。気をつけねえと。
なるべくきりっとした顔をする。俺は今は勇者だ。異世界からやってきたとかいう頭おかしいことを平気で言う、あの自称勇者どもだ。あいつらのような顔を作ればいいだけだ。
……ふと思ったが、あの頭おかしい連中を想像してもまともな顔なんて作れねえんじゃねえか? だって頭おかしいだろ異世界とか。でもあいつら勇者っぽい面するのは上手いし……んん?
「アルベルト様?」
「あ、はい!」
やばい、2度も失敗したようだ。予想だがあと1回失敗したらだめなような気がする。
「まあまあそんな緊張なさらずに。わたくしどもは貴方様に御礼を申し上げるためにここにお呼び立てしただけですから」
「は、ありがとうございます」
前言撤回。こいつら楽勝だわ。
そこからは報酬やら勲章やらの話がとんとん拍子に進み、何もかもが成功していった。
しかも話がいい感じに盛り上がったおかげで夜になり、領主が家に泊めてくれることになった。
「これはつまりうちの娘をどうぞってことだよな」
案内された客室のベッドに寝っ転がりながら俺は言う。
「ええ……勇者はそういうことしないんじゃないの?」
「バカ、逆だろ。勇者が姫と結婚するのは定番じゃねえか」
頭の上、は乗れないので枕に乗ってる人差し指サイズの小さい触手に返事をしてやる。1号の小さいバージョンだ。
今の俺は別に勇者じゃねえし相手は姫じゃねえが、領地で頑張ったやつと領主の娘でそれぞれ格落ちしていい感じだとは思う。
とにかく俺は紳士なので据え膳は必ず食う。これが先方に対する礼儀ってやつだ。
……待て。俺はまだしくじってないぞ。しくじってないしこれからしくじる話なんかしねえぞ。
どう考えたって俺は正しい。1号も2号も花も4号も影も6号も全員が全員で止めてきたが俺は間違ってない。
しくじってねえぞ。しくじってないったらしくじってない。おいこら聞いてんのか、おい。
とにかく何も間違ってないし全部正しいしどこもしくじってないが──俺はその後鉱山送りになった。なんでだよ。
大仰な門が俺を出迎える。門番が俺に頭を下げて、俺のために門を開き、俺に向かって「どうぞお通りください」と言ってくる。これが名声の力か! 感動しちまうぜ。
普段は門番どころか酒屋のただのウェイトレスにさえ蔑まれてるこの俺がよ。仕事1つでこれなんだから世の中ちょろいな。
出迎えはメイドがやってくれた。若いメイドを期待したんだが出てきたのはババアだった。多分、メイド長だろう。ちゃんと若い女で接待しろよな、なってねえな。
無駄に踏み心地のいい絨毯を歩き、無意味に装飾の多い通路を歩く。壁にかかってる絵とかなんか置いてある壺とか高いんだろうが、何がいいのかはさっぱりだ。
ババアが扉に辿り着いてそれを俺のために開く(二度目だ)。そして俺はその中に丁寧に入っていく。
「おお、君がアルベルト君かね」
目の前には執務机に座る太ったおっさん。こいつが領主だろう。
「はい。私のような貴族でもない人間をご招待いただけるとは恐悦至極にございます」
とりあえず仰々しい挨拶をして頭を下げておく。多分、間違ってねえだろ。何か間違えて相手が怒ったとしても花の花粉を叩き込んで洗脳すりゃいい。召喚できる連中のうち、花と4号は精神操作ができるからお気楽なもんだ。
「勇者になるとかいうのはどうしたのよ」
1号の言葉は無視。今回はむかつくからではなく、こいつらの声が基本的に俺以外には聞こえていないからだ。人前で迂闊に返事をすると独り言を言う変な奴だと思われる。普段は全く気にしないが今はまずい。
勧められるままに派手なソファに座る。かなりふかふかだ。普段こいつらはこんなもの使ってんのか。そりゃ領地にいる連中が税金に対して何かとうるせえわけだ。わかるわかる、むかつくよな。俺は払ったことねえが。
対面のソファの中央におっさんと、それを挟んで2人が座る。
1人はおっさんの女房。ドレスで着飾ってはいるが年増なので可能な限り視界に入れねえことにする。
もう1人が多分だが娘。若くて美人だ。飾り気のない白色のドレスに小さなネックレスとイヤリング。黄金色の髪を結って纏めている。表情にはやや緊張がみえた。客を出迎えるのは初めてなのかもしれねえ。
こいつは中々の獲物だ。きっと下半身に客を迎えたこともないんだろう。是非ともそっちの方も初めての相手になりたいところだな、へへへ。
「どうかなされましたかな?」
「あ! いえ、何でも」
やっべ。つい顔に欲望が出ちまってたようだ。普段、感情を出さずに表情を隠すって行いが地平線の彼方にしか見えねえぐらい距離があるせいで顔が作れてねえ。ここにきて計画がご破産になっちまったら大怪我した意味がない。気をつけねえと。
なるべくきりっとした顔をする。俺は今は勇者だ。異世界からやってきたとかいう頭おかしいことを平気で言う、あの自称勇者どもだ。あいつらのような顔を作ればいいだけだ。
……ふと思ったが、あの頭おかしい連中を想像してもまともな顔なんて作れねえんじゃねえか? だって頭おかしいだろ異世界とか。でもあいつら勇者っぽい面するのは上手いし……んん?
「アルベルト様?」
「あ、はい!」
やばい、2度も失敗したようだ。予想だがあと1回失敗したらだめなような気がする。
「まあまあそんな緊張なさらずに。わたくしどもは貴方様に御礼を申し上げるためにここにお呼び立てしただけですから」
「は、ありがとうございます」
前言撤回。こいつら楽勝だわ。
そこからは報酬やら勲章やらの話がとんとん拍子に進み、何もかもが成功していった。
しかも話がいい感じに盛り上がったおかげで夜になり、領主が家に泊めてくれることになった。
「これはつまりうちの娘をどうぞってことだよな」
案内された客室のベッドに寝っ転がりながら俺は言う。
「ええ……勇者はそういうことしないんじゃないの?」
「バカ、逆だろ。勇者が姫と結婚するのは定番じゃねえか」
頭の上、は乗れないので枕に乗ってる人差し指サイズの小さい触手に返事をしてやる。1号の小さいバージョンだ。
今の俺は別に勇者じゃねえし相手は姫じゃねえが、領地で頑張ったやつと領主の娘でそれぞれ格落ちしていい感じだとは思う。
とにかく俺は紳士なので据え膳は必ず食う。これが先方に対する礼儀ってやつだ。
……待て。俺はまだしくじってないぞ。しくじってないしこれからしくじる話なんかしねえぞ。
どう考えたって俺は正しい。1号も2号も花も4号も影も6号も全員が全員で止めてきたが俺は間違ってない。
しくじってねえぞ。しくじってないったらしくじってない。おいこら聞いてんのか、おい。
とにかく何も間違ってないし全部正しいしどこもしくじってないが──俺はその後鉱山送りになった。なんでだよ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる