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アルベルト・バーンシュタインその6:管理されて嬉しいのはあれだけ
治せればいいってもんじゃない
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ユラの言うことを聞くのは癪だったがとりあえず俺は逃げだした。
今すぐにでも魔導書を取り戻したいところだったが、そっちはそっちで街の保管庫だかなんだかにあって妙に厳重な警備がされていた。採掘所の監視よりマシ、といっても1人で突っ込んだら蜂の巣かなます切りにあう。
ユラがよこしてきた魔石は多分、追跡用だろう。待っていればそのうちあいつが来るだろうから俺はのんびり街の外で待っていることにした。
そんでもってクソガキは無事に帰ってきた。今更だがあんなことしてよく戻ってこれたな、こいつ。
クソガキは俺の顔を見るなりほっとした表情をした。
「よかった。アルベルトさん1人で突撃してなくって」
「んなバカな真似するわけねえだろうが。俺を何だと思っていやがる」
「え……バカ……」
何当然のこと聞いてるんですか、と言わんばかりの表情。何故聞かれたのか分からない、と首まで傾げてやがる。その瞳には哀れみ。こいつ、俺をとことんバカにしてやがるな。
むかついたからげんこつを一発、食らわせておいた。ぎゃあぎゃあと抗議してきたが無視。
そんなことより俺は聞きたいことがあった。
「で、まずどうやって俺の場所がわかったんだ」
「街の人が言ってたんです。領主に取り入ろうとして失敗した罪人が鉱山送りになったって」
そういや俺は領土の問題を解決したから街では少しばかり有名人なんだった。忘れていた。納得。
「あの擲弾砲はなんなんだよ。俺ごと鉱夫を殲滅にきたのかお前」
最大の疑問をもう1度ぶつける。殺戮にきた、と言われた方がまだ納得がいく。
そんな俺の問いかけに対してユラは朗らかに笑っていた。
「あはは、そんなわけないじゃないですか。ちゃんとみんな治療して誰も死なせなかったですよ」
「……マジかよ」
俺は絶句した。当たり前だ。こいつがぶちこんでたのは弾丸じゃなくて擲弾だ。鉄をぶつけて殺傷する兵器じゃなく爆発で吹き飛ばす兵器だ。目の前に吹っ飛んできたら人間なんぞミンチになる。
こいつプロの傭兵だったのか?
「僕は治療能力を持たせられた人工生命体なので、弱っている人の位置がなんとなく分かるんです」
「……だから?」
「だから、鉱山で働いている人とか監視員の人たちに直接当たらないように撃ってたんですよ」
どや、と言いたげな顔をするユラ。
位置分かるからって普通そんなことできるか? 治癒能力以外のスペックも高いみてえだ。目も良いんですよ、と追加の自慢をかますユラに俺はもう1つ質問。
「でも鉱夫どもも死にかけてたぞ。お前的にそれはいいのか?」
正直、ここが一番の疑問だった。
何度も何度も、何度でも言うがこいつはお人好しの具現化だ。それこそ俺がうざがるほどに。そんなこいつが自分から、人を殺しはしないものの大怪我させるってのが納得いかなかった。その部分とこいつの今回の行動がどうしても結びつかなかった。
俺の超巨大なクエスチョンマークに対してユラはにこにこ笑いながら答えた。
「え、だってアルベルトさんが捕まってたじゃないですか」
「……? だからなんだよ」
クエスチョンマークは崩れない。まだ全く納得いっていない。
「だから、しょうがないじゃないですか」
「だから、になってねえよ。俺が捕まってるってことと鉱夫吹っ飛ばしていいことが繋がらねえ」
「え、だから……」
ユラが続ける。
「アルベルトさんを助けるためだったら、多少怪我させてもしょうがないじゃないですか」
「多少!?」
俺は素っ頓狂な声を出した。多少の怪我ってのは指をちょっと切ったり膝を擦りむいたりすることを言うのであって、片脚が吹き飛んだり瓦礫の破片で顔面に穴が空くことは言わねえはずだ。
だが問題はそこじゃなかった。俺は今度の今度こそ絶句するはめになった。
「大丈夫ですって。脚がなくなろうが腕がなくなろうが、なんだったら脳がなくなってても1秒でも生きててくれれば治せるんですから!」
──どうやら俺はこいつの評価を改めなきゃならねえようだ。こいつ、俺を助けるためだったら俺を吹き飛ばしてもいいと思ってたってわけか。っつうか脳がないのに生きてるって状態は存在するのか。
治せるから身体吹き飛ばしてもいいって、そりゃ拷問って別名がついてる気がするんだが俺の気のせいか?
「実際、誰も死なずにすみました」とユラは笑顔のままだ。俺はいつも他人を引かせる側だが、引く側になるのは初めてだった。
俺はやべえものを拾ったらしい。
「あ、もちろんアルベルトさんは絶対に怪我させないようにしましたよ。当然です」
その一言に俺はマジで心の底から安心した。いくら助けだそうとしていたからって身体を半分にされるのはまっぴらだ。
冷や汗を腕で拭う。この話は心臓に悪いっつうか精神に悪すぎる。だが俺はまた新しい疑問を見つけてしまった。
「お前の言ってることがやばすぎるのはさておいて、なんでそこまで俺を助けようとしたんだ?」
「え、だってアルベルトさんですし」
「だからなんでだよ。たまには一発で分かるように答えやがれ!」
俺の真っ当な怒りにもクソガキは分からねえって顔してやがる。
ユラが帽子の縁を両手で持ってぐっと下ろす。帽子で顔を隠そうとするのは恥ずかしいときとか怖いときとか、とにかくなんか感情が出てるときだ。
「アルベルトさん、僕を助けてくれましたから……」
唖然。そこは超重量級のお人好しが出てくるのか。こいつの精神バランスが全く理解できねえ。こいつを作った科学者は人格調整に失敗したのか? もう意味わかんねえからこいつのことを考えるのはここまでにした。とにかくこいつは俺を助けるためなら擲弾砲担いでそのへんを焼け野原にするらしい。それも俺は絶対に傷つけないように。
そう考えると俺に良いことばっかりだ。気にしてたのがバカらしくなってきた。
「よし、もういい。次は魔導書を取り戻すぞ」
「あ、それなら僕がやります。アルベルトさん失敗しそうですから」
平然と俺を小馬鹿にしながらの提案。こいつ俺を慕ってんのかバカにしてんのかどっちなんだ。
めんどくせえからこいつに任せることにした。頭は悪くねえから失敗しねえだろ多分。
今すぐにでも魔導書を取り戻したいところだったが、そっちはそっちで街の保管庫だかなんだかにあって妙に厳重な警備がされていた。採掘所の監視よりマシ、といっても1人で突っ込んだら蜂の巣かなます切りにあう。
ユラがよこしてきた魔石は多分、追跡用だろう。待っていればそのうちあいつが来るだろうから俺はのんびり街の外で待っていることにした。
そんでもってクソガキは無事に帰ってきた。今更だがあんなことしてよく戻ってこれたな、こいつ。
クソガキは俺の顔を見るなりほっとした表情をした。
「よかった。アルベルトさん1人で突撃してなくって」
「んなバカな真似するわけねえだろうが。俺を何だと思っていやがる」
「え……バカ……」
何当然のこと聞いてるんですか、と言わんばかりの表情。何故聞かれたのか分からない、と首まで傾げてやがる。その瞳には哀れみ。こいつ、俺をとことんバカにしてやがるな。
むかついたからげんこつを一発、食らわせておいた。ぎゃあぎゃあと抗議してきたが無視。
そんなことより俺は聞きたいことがあった。
「で、まずどうやって俺の場所がわかったんだ」
「街の人が言ってたんです。領主に取り入ろうとして失敗した罪人が鉱山送りになったって」
そういや俺は領土の問題を解決したから街では少しばかり有名人なんだった。忘れていた。納得。
「あの擲弾砲はなんなんだよ。俺ごと鉱夫を殲滅にきたのかお前」
最大の疑問をもう1度ぶつける。殺戮にきた、と言われた方がまだ納得がいく。
そんな俺の問いかけに対してユラは朗らかに笑っていた。
「あはは、そんなわけないじゃないですか。ちゃんとみんな治療して誰も死なせなかったですよ」
「……マジかよ」
俺は絶句した。当たり前だ。こいつがぶちこんでたのは弾丸じゃなくて擲弾だ。鉄をぶつけて殺傷する兵器じゃなく爆発で吹き飛ばす兵器だ。目の前に吹っ飛んできたら人間なんぞミンチになる。
こいつプロの傭兵だったのか?
「僕は治療能力を持たせられた人工生命体なので、弱っている人の位置がなんとなく分かるんです」
「……だから?」
「だから、鉱山で働いている人とか監視員の人たちに直接当たらないように撃ってたんですよ」
どや、と言いたげな顔をするユラ。
位置分かるからって普通そんなことできるか? 治癒能力以外のスペックも高いみてえだ。目も良いんですよ、と追加の自慢をかますユラに俺はもう1つ質問。
「でも鉱夫どもも死にかけてたぞ。お前的にそれはいいのか?」
正直、ここが一番の疑問だった。
何度も何度も、何度でも言うがこいつはお人好しの具現化だ。それこそ俺がうざがるほどに。そんなこいつが自分から、人を殺しはしないものの大怪我させるってのが納得いかなかった。その部分とこいつの今回の行動がどうしても結びつかなかった。
俺の超巨大なクエスチョンマークに対してユラはにこにこ笑いながら答えた。
「え、だってアルベルトさんが捕まってたじゃないですか」
「……? だからなんだよ」
クエスチョンマークは崩れない。まだ全く納得いっていない。
「だから、しょうがないじゃないですか」
「だから、になってねえよ。俺が捕まってるってことと鉱夫吹っ飛ばしていいことが繋がらねえ」
「え、だから……」
ユラが続ける。
「アルベルトさんを助けるためだったら、多少怪我させてもしょうがないじゃないですか」
「多少!?」
俺は素っ頓狂な声を出した。多少の怪我ってのは指をちょっと切ったり膝を擦りむいたりすることを言うのであって、片脚が吹き飛んだり瓦礫の破片で顔面に穴が空くことは言わねえはずだ。
だが問題はそこじゃなかった。俺は今度の今度こそ絶句するはめになった。
「大丈夫ですって。脚がなくなろうが腕がなくなろうが、なんだったら脳がなくなってても1秒でも生きててくれれば治せるんですから!」
──どうやら俺はこいつの評価を改めなきゃならねえようだ。こいつ、俺を助けるためだったら俺を吹き飛ばしてもいいと思ってたってわけか。っつうか脳がないのに生きてるって状態は存在するのか。
治せるから身体吹き飛ばしてもいいって、そりゃ拷問って別名がついてる気がするんだが俺の気のせいか?
「実際、誰も死なずにすみました」とユラは笑顔のままだ。俺はいつも他人を引かせる側だが、引く側になるのは初めてだった。
俺はやべえものを拾ったらしい。
「あ、もちろんアルベルトさんは絶対に怪我させないようにしましたよ。当然です」
その一言に俺はマジで心の底から安心した。いくら助けだそうとしていたからって身体を半分にされるのはまっぴらだ。
冷や汗を腕で拭う。この話は心臓に悪いっつうか精神に悪すぎる。だが俺はまた新しい疑問を見つけてしまった。
「お前の言ってることがやばすぎるのはさておいて、なんでそこまで俺を助けようとしたんだ?」
「え、だってアルベルトさんですし」
「だからなんでだよ。たまには一発で分かるように答えやがれ!」
俺の真っ当な怒りにもクソガキは分からねえって顔してやがる。
ユラが帽子の縁を両手で持ってぐっと下ろす。帽子で顔を隠そうとするのは恥ずかしいときとか怖いときとか、とにかくなんか感情が出てるときだ。
「アルベルトさん、僕を助けてくれましたから……」
唖然。そこは超重量級のお人好しが出てくるのか。こいつの精神バランスが全く理解できねえ。こいつを作った科学者は人格調整に失敗したのか? もう意味わかんねえからこいつのことを考えるのはここまでにした。とにかくこいつは俺を助けるためなら擲弾砲担いでそのへんを焼け野原にするらしい。それも俺は絶対に傷つけないように。
そう考えると俺に良いことばっかりだ。気にしてたのがバカらしくなってきた。
「よし、もういい。次は魔導書を取り戻すぞ」
「あ、それなら僕がやります。アルベルトさん失敗しそうですから」
平然と俺を小馬鹿にしながらの提案。こいつ俺を慕ってんのかバカにしてんのかどっちなんだ。
めんどくせえからこいつに任せることにした。頭は悪くねえから失敗しねえだろ多分。
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