クズだが強いし好き勝手やれる俺の話

じぇみにの片割れ

文字の大きさ
50 / 57
アルベルト・バーンシュタインその7:地獄の1日

走馬灯って葬式とかのくるくる回ってるあれのことなんだってよ

しおりを挟む
 今にも泡吹いてぶっ倒れそうな俺の前に鎧姿の女が立ちはだかっている。俺を可哀想だと思わねえのかこの女は。慈悲ってやつはねえのかよ。
 未だに4号を貫いた無敵の矛の切っ先が俺の胸に向けられていた。物騒とかいうレベルじゃねえ。もしかしたら向けられてるだけで俺は死んでてとっくに幽霊になってるのに俺が気づいてないだけかもしれねえ。
 悪魔とか殺人を司る神みたいな冷酷無慈悲な目が俺を見ていやがった。こいつはきっと人じゃねえ。人を食うために生まれた化け物か何かなんだ!

「失敬な。人をなんだと思ってるんですか」

 やべえ。どこからどこまでかは知らねえが口に出てたらしい。殺人神の表情が絶対零度を突き抜けてマイナス1万4000度ぐらいになる。取り繕わねえと俺の命も落っこっちまう

「高次元生命体を破壊できるような武器振り回してる女がまともなわけねえだろうが!! そんなやつは化け物に決まってんだよっ!!」

 俺の口はまた俺の意思と真反対なことを言い出した。もしかしたら俺の口を操作してる神経系は俺以外の人間の脳に繋がってるかもしれねえ。いやきっとそうだ。言うことを聞かなさすぎる。言うことの言うことを聞かなさすぎる。
 神経系の深刻な異常か脳の病気か俺の性根が腐りきってるか、理由は知らねえが俺の立場はどんどんやばくなっていく一方だった。

「こう、じげん……? 何を言っているか分かりませんが、そんなに硬い物体ではなかったですよ」

 流石は神だ、言うことが違う。次元なんて概念を知らずとも、そんなものを余裕で超越して物体を破壊できるらしい。さぞ信奉者も多いことだろう。世界人口が80億だとしたら少なく見積もって200億人ぐらいかな?
 命の危機にあってもくだらねえことばかり考える俺の脳はやっぱり病気か何かなんだろう。もしもこれに生き残ったら病院へ行こう。教会に行ってお布施するのもいいかもしれねえ。
 そういえばユラと出会ったとき、命が助かったら毎日教会に寄付するって言ってたっけなあ。結局ぜんぜんやってねえわ。罰があたったのかもしれねえ。俺ってやつは昔っからそうなんだよ。ガキの頃だって……。

 おいこれ今走馬灯見えてねえか? 待て待て消えろ馬鹿。俺はまだ死にたくねえんだよ!!

「お願いですから命だけは助けてください!!」

 やっと口がまともなことを言いやがった。そうそう、俺はこれを言いたかったんだよ。
 殺人神様は「は?」みたいな顔をしている。自分を襲ったやつが返り討ちにあって命乞いをしてたら驚いた顔にも……。
 あ、ちげえ。これ驚いてるんじゃなくって怒ってる顔だ。そりゃそうか。自分を襲ってきたやつがやられたからって助けてくれって言い出したらそりゃあ怒るよなあ、よく考えたら典型的なやられる雑魚の台詞だったぜ、がはは!

 がははじゃねえ。笑ってる場合じゃねえが俺にはもう選択肢がない。押すしかねえんだ、目の前の運命の扉を!
 頼むから開いてくれ!!

「靴も舐めます御御足もマッサージします何回でも回ってわんわん言いまくりますですから命だけは助けてください!!」

 恥も外聞もなく俺はまくしたてた。殺人神様の反応はというと、怒りを通り越して凍てつく表情になっていた。
 どうやら運命の扉は引いて開くタイプだったらしい。俺の人生はここで終了のようだが念の為何か手はないか考える。4号を破壊するような物体を霧が食えるかは不明。2号は本体が出てくるのが実はのそのそしてるのでだめだ。1号の触手は最も早く出せるが4号が貫通した武器を止めるのは不可能。唯一拮抗しうるとしたら6号の爪だが召喚しようと魔法陣を出した瞬間に俺が先に貫かれて死ぬだろう。
 あ? 魔法陣出した瞬間に先に死ぬんじゃ召喚師の俺にできることなんかねえわ。終わったわ。

 殺人神様の口が開きかけ審判が下ろうとしたとき、転移魔術でローブを着たガキが現れた。
 俺は驚いた。転移魔術はかなり高位の魔術だ、使える奴なんざ数えられるほど。しかもガキは杖を持っていた。杖なんてのは時代遅れの代物だ。そんなの使ってるのは超絶大馬鹿か超絶魔術師かのどっちかだ。この場合の答えは自明。

「先生、どうしましたか?」
「いえ、遅かったので迎えに」

 女がガキに話しかけてガキがそれに答える。先生呼ばわりしてるからやっぱりただものじゃねえんだろうがそんなことはどうでも良かった。
 これはチャンスだ。この隙に逃げ出せばいい……と凡人は考えるだろうが俺は違う。
 俺の作戦はこうだ。何も言わずに泡吹いてぶっ倒れて白目向いて気絶するフリをすること。これだ、これが最適解だ。こいつは危険でもないただのアホだから相手するのも時間の無駄なので無視しよう、と相手に思わせることが重要だ。
 どうせ逃げようとしたって超絶魔術師ショタが超絶魔術で俺を超絶昇天させるだろうから超絶無駄だ。

 どうだこの完璧な作戦。冴えまくってるだろ。もっと褒めていいぞ。
 しかも凄いのはこの作戦はすでに決行されているってことだ。何故なら俺は凄まじい魔力を纏ったガキが現れた時点で泡吹いてぶっ倒れていたからだ。
 だがこれはフリだ。あくまでフリ。こいつらを騙すためにスマートな俺の作戦ってやつだ。白目向いてるのもフリだし意識を失いそうなのもフリなのでおやすみなさーい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...